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サードアイⅡ・グラウンディング ep.16「夢から覚めたら」

 あまりにも深く遠いところから、徐々に意識が戻ってきた。長旅から帰ってきたような疲労感を覚えつつ、ベッドの天蓋の装飾をぼんやりと眺める。全てを覚えているわけではないが、夢か現か定かでない生々しい体験をしたようで、生きる上での大切な何かを学んだ気がしている。
 さて体を起こそうと、横向きになって驚いた。隣にガーデが寝ているではないか。
「おい、ガーデ、起きろ」
「うーん。おはよう」
「おはよう、じゃない!なんでこんなところにいるんだ」
「だって、オーエンってば、ちっとも起きないんだもん。待ちくたびれちゃったよ」
「は、はやく、そこをどいてくれ」
 俺の脇腹にしがみつくように丸まっているガーデがもそもそと起き出した。ひとつ大きなあくびをする。壁の時計を見て、驚いた顔をした。
「あなたが落ちてから、もう二時間近くになるよ。ふつう、催眠って、ぼんやりと意識は残っているもんなんだけど、今回は催眠じゃなくて睡眠になっちゃった」
「二時間も寝ていたのか」
「そう。深いところまで行っちゃったから、しばらく寝かせておこうって思って。でも、なかなか起きなくってさ、心配になって、側でエネルギーを送っていたんだ。そうしらた一緒に眠りこけちゃったってわけ」
 ガーデは立ち上がると水差しから一杯の水を汲んでくれた。
「ありがとう」
 喉が無性に乾いていたので一気に飲み干す。寝汗もかいていた。
「オレは昨晩、熟睡したはずなのに」
「ふふ、それはね、人間の三大欲求ってあるでしょ?」
「食欲、性欲、睡眠欲、だろ?」
「そうそう。それら全部、さっき満たされてたでしょ。だから赤ちゃんみたいになっちゃったんだと思うよ」
 確かに、赤子のように安心しきって眠りについた感じだった。
「って、食事と睡眠は十分とったけど、性欲は別だろう」
「うっそー。だって、オーエン、ボクのこと、何度もいやらしい目でみてたじゃない」
「は?そんなことは断じてない!」
「いやいや、ボク、身の危険を感じちゃったもんね」と、小悪魔的な笑みを浮かべる。
「冗談、だろ?」
「さあ、どうだか。まあ、多かれ少なかれ、それがセラピストとしてのボクの役目でもあるからね。ところで、頭、ぼーとしてない?少し横になって休んだらいいよ。よかったらシャワーも使ってね」
 そういうと、ガーデは猫のように静かに部屋を出ていった。

 しばらくベッドに横たわって、見ていた夢を思い返してみる。
 豊かで平和な光の国。そこに侵略してくる他国の軍勢。おそらく随分と昔の記憶なんだろうが、今もなお世界中で行われている熾烈なエネルギー争奪戦をみると、なるほどヒノエの言う通り、人類はちっとも進歩していないといえる。この星が異次元上昇するには、奪ったり虐げたりのない世界となる必要があるっていうのに、そんな日が果たしてやって来るのだろうか。
 俺はヒノエのオレンジ色の瞳を思い出していた。惑うようなその瞳は、この地球の未来を憂いながらも、それでも何とかよりよい方向へと導かんとする強い決意に燃えていたのだった。

 


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