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サードアイⅡ・グラウンディング ep.17 「風のように自由に」

 リビングに戻ると、ガーデはPCで何やら作業をしていた。「仕事かい?」とたずねると、画面に向かったまま「ううん、頼まれ事だよ」と答えた。
「ボクはね、事には仕えない。ただ、人の依頼に応えるのさ」
 彼独自の仕事の解釈らしい。でも、そんなふうに考えれば、なるほど、主体的にやりがいがもてそうだ。
 依頼といえば、さっきのセッション代を払わないといけないと思い、ガーデにたずねると、
「あーあれはいいんだよ。みんなお金は置いていかない。代わりにって、何かボクの助けになる事をしてくれようとするんだ。お金持ちは色々と、そうでない人はそれなりの何かをね」
「そうはいっても、君にも生活があるだろうに」
「心配には及ばないよ。お金は、基本ボク、そんなに要らないんだ。こうやって住むところもあるし、身に着けるものもほとんど貰い物だし。食事は朝食をしっかり取れば、あとは美味しいコーヒーとおやつがあればいいしね」
 衣食住は十分に足りているというわけだ。
「君はずっと一人暮らしなのかい?」
「数年前からだよ。父に別の家庭ができて、それで離れて暮らしているんだ。母はね、ボクが七歳のときに亡くなってね。本当は、ボクが死ぬはずだったんだろうけど、おそらく身代わってくれたんだと思う。ボクは過去世で何度も夭逝してるからね。あと何回か生まれ変わったら、本当に妖精になるのかも」
 実際のところ、彼の淡い輪郭は今にも消え入りそうで、俺は柄にもなく、おせっかいな気分になった。
「君は一人で、寂しくはないのかい?その、友達も大勢いるし、大丈夫そうではあるんだけど」
 ガーデは驚いたように目を丸くしたが、すぐに、ふふっと笑顔を見せた。
「ありがとう、オーエン。実のところ、ボクは孤独は上等だって思っているんだ。どれだけ独りを味わい尽くせるかで、人生の深みが変わってくるからね。でも、ありがたいことに、色々と周りが関わってきてくれて、なかなか一人になれないっていうのが本音のところ。まあ、社交も人生の味わいの一部だから、それはそれでオッケーなんだけどね」
 ガーデは純真なのか達観しているのか、ときに本質的なことをさらりと言ってのける。とにかく、彼の人生哲学には芯が通っていて、年齢よりも随分しっかりしていて、軸をぶらさずに生きている気がした。
 突然、ガーデは何かを思い出したように、あっと驚いた表情を浮かべた。
「そうそう、さっき隣で寝ていて、あなたの秘密を知ってしまったんだった」
「何だ?秘密って」
 ガーデは人差し指を唇に当てて、いたずらそうな顔をした。
「そのうちわかるよ。きっと頭のチャクラが完全に開いたら、ね」
「君は何でもキャッチするんだな。オレがファイアーレッドアイってことも、どうしてわかったんだい?」
「それはね、ボクにはオーラの輝きが見えるんだ。そこをじっと見ていると、その人のイメージが脳内に映像で流れてくるんだよ。で、それを話したら大将がすごいって、まるでファイアーレッドアイのようだって言うから、それ何?って聞いたら、燃えるような瞳をもつ特殊能力の人がいるんだってね。あなたも赤い目だから、きっとそうだろうなって。それにサードアイがバッチリ開いてたし」
「サードアイ?」
「そう、サードアイ。眉間のあたりのチャクラが開くと物事の本質を見極めることができるんだよ。あぁ、でも、あれか。まだ使いこなせてないのかも。だって、あんな男の人についてっちゃってたからな」
「誰のことだ?」
「ボクがあなたの後をつけてたとき、一緒にいた人だよ。ああいうタイプは一見、親切なようだけど、最終的には自分の都合しか考えないんだ」
「そんな感じには見えなかったが」
「どうだか。のらりくらりとはぐらかされて、そのうち何か吹き込まれて、最後はお仲間に入れられちゃってたかもよ」
 そうなのだろうか。だとしたら、とうていアリフに辿りつくことはなかっただろう。
「宗教はね、必要な人には必要だから、あってもいいんだけどさ。こうじゃないといけないっていう縛りがどうも苦手でね。ボクは自分の中のココロと対話していれば十分なんだ。自由な魂で。そう。あなたのように、風のようにね」
 彼の意味深な淡い瞳は涼やかなそよ風のように揺れていた。





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