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サードアイ ep 6 特殊任務

 人々が平和で安寧に暮らせる世界を私は心から望んでいる。春のうららかな太陽が寒さに凍える命を温めるように、人々の不安を溶かして活力を与えたい。そして、全ての人が夢に向かって輝いていけるのなら、火花を散らして突然落ちる線香花火がごとく、我が命を燃やし尽くしても構わないとも本気で思っている。
 しかし、多くの人は夢を語るどころか、うだうだと文句をいい、できない理由を並べ立て、あげくに邪念に惑ったりする。己の命の使いみちを考えたことなどないのだろう。そういう奴らには仕置きの鉄槌と灼熱の業火を与えんと、やたらと正義の血がたぎるのだ。
 そんな私の高潔さゆえか、或いは、混沌とした内面を見透かされてか、権力者たちは私に近づいては調子のいいことをいい、利用するだけして、用が済めば使い捨てていった。逆に、こちらの血気が萎えるような理不尽な言いがかりや妨害を受けたことも何度もあった。いっそ岩戸に引きこもって能力を閉ざすほうが生きやすかろう。
 いつしか、恐れを知らない真っ直ぐな光に、やるせない諦めが混じりこみ、それが屈折した不機嫌となり、ぶっきらぼうな態度となる。
 エゴイスティック。陰でそう囁かれているのも知っている。あやつらは曇った色眼鏡でしか物を見ない。一見パワフルで華やかな私の表層から、こうに違いないと決めつけて、好き勝手にレッテルを貼るのだ。私は決して我が身可愛さの保身のため、ましてや私利私欲のためになど生きてはいないのに。
 人なんて信じられぬ。信じてなるものか。これは確固たる信念となって今の私の克己心を培っている。
 こうして、私は人類を救うことのできる、しかし、直接には人と深く関わる必要のない今の仕事を選んだ。

 任務を終えて帰還した足で、そのまま研究室に向かうと、見たことのない男がブルーノたちに取り囲まれてベッドに座っていた。男は眩しそうにこちらを見ている。
(ほう、見えるのか)
「おかえりでやんす。いかがでしたか、下界は」
 ブルーノが嬉しそうに近づいてくる。こやつくらいだ、私のことを偏見なしで受け止められる者は。
「ええ、まずまずの首尾だわ。一応、最悪の事態は免れたようよ」
「それはそれは、ご大儀さまでありやんした」
「あれが、例の身元不明の男?」
「さようでやんす。名付けて、オーエンでさぁ」
「そう。で、覚醒はしたの?」
「いやぁ、まだ記憶も能力も不安定なもんで、封印しておきやした」
「封印、ねぇ」
 私は真っすぐに男のもとに向かう。男は眩しそうに自分の手を額にあてがってこちらを見ている。
「ごきげんよう。アタシは太陽の笑み、ヒノエ。この星の防衛軍特殊任務部隊長。よろしく」
 男は、差し出した手を握ろうともせず、呆然とこちらを見ている。仕方がない。少し輝きを調整したほうがよいだろう。
「お、おう。ようやく姿が見えたぜ。あれ?部隊トップって、女なのか」
 ブルーノが男に向き直って、身振り手振りを交えて答える。
「正真正銘のレディーでさぁ。ただ、そんじょそこいらのレディーとはわけがちがいまっせ。腕っぷしも強く、頭脳明晰、即断即決、口答えは許さない」
 男は私の目をじっとみつめて、なにやら腑に落ちたような顔で、
「ファイアーレッドアイ同士ってことか」と、小さくつぶやいた。
 人は見たいようにしか物事を認識しない。救世主ファイアーレッドアイだとかなんとか言われて、うっかりそう信じ込んだのだろう。
「自分が何をどう見たかは知らないけど、アタシから見たら、あなたはファイアーレッドアイとはいえない、薄茶の瞳のお猿さんといったところね」
 しかしながら、ファイアーレッドアイが真実の姿を見抜くといった点においては、この男は私の光を感知した。したがって、多かれ少なかれ、レッドアイの素質は持っているのだろう。
「任務ってのは、下界で、なんかするのか?そもそも下界ってなんだ?」
 男が、私に向かってぞんざいな口調で質問してきた。わたしの顔がひきつったのを見て、ステファンが間に入って男をたしなめた。
「オーエン、こちらは、とても偉い人だから、もう少し丁重な姿勢で話してほしいんだ。あのね、下界っていうのはね、ボクたちが出会ったところ、すなわち、三次元の世界のことを指すんだ。そこでは、オーエンも知っているように、競争やら戦争やらが世界のあちらこちらで起こっていて、ひょっとすると最終兵器を使って三次元世界を消滅させかねない。なので、ヒノエをはじめとする特殊部隊がそうならないように任務を遂行しているんだ」
「はぁ?じゃあ、ここはいったい、何次元の世界だっていうんだ?」
 この男は頭の悪そうな質問ばかりを連発する。本当にこやつがファイアーレッドアイだっていうのか。もう少しまともな受け答えができないものだろうか。
 私はかみ砕いて説明してやった。
「ここは、四次元の世界よ。魂と肉体を同時に所有していて、分離もできる世界。レッドアイの持ち主は時空を超えた瞬間移動を比較的何度もできる能力があるけれど、ステファンのような一般の研究員たちは頻繁には行き来できないの。魂だけ飛ばすっていうのはなかなかハードな仕事なのよ。そして、我々レッドアイは下界で大惨事がおきないように、施政者たちに魂レベルで平和を訴えかけるの。いわゆる遠隔操作的なことを短期集中で行っているってわけ」
「ということは、あっちの世界を救ってるってことか」
 この男は、単純に質問をしかけてきて、端的に呑み込む。物事のエッセンスだけを巧妙にくみ取る能力に長けているようだ。
 どうやら少しは見込みはありそうだと、じっと男の目をみる。おそらく、ホルモンバランスのいかんによっては、この目がレッドアイと化すのであろう。
「三次元が壊れてしまえば、私たちの次元上昇もおぼつかなくなるから、これは重要な任務なのよ。いずれ、あなたにも手伝ってもらうことになりそうね。ブルーノ、この人を下界に連れてっても構わないわよね」
「いやいや、すぐには無理でやんすよ。それに身元もわかっていないし」
「かまやしないわ。ここの星の者じゃなかったら、よけい能力をチェックしておきたいし。それに、この人、もうすでに開きかけてるわよ」
「何が、でやんすか?」
「もちろん、サードアイよ」


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