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サードアイ ep3 額に指

 公園のベンチまで男と連れ立ってきた。緊張からか、息が切れてしまい、変な汗をかいていた。できるだけ平静を装って男に声をかける。
「とにかく、ここに座ってください」
 男は怪訝そうな顔をしながらも、どすんと腰かけた。ボクが男を見おろす形となる。
「なんなんだよ、急にこんなところまで引っ張ってきやがって」
「すみません。ただ、ちょっと、そのおでこの傷が気になって」
「はぁ?でこの傷?」
「ええ、何だかちょっと不思議な感じがして。どうされたのかなって思って。す、すみません、いらないお世話ですよね」
 男は黙って、じっとボクの顔を見つめた。その目は相手を威嚇するものではなく、何かを見定めるような深い光を放っていた。男は組んでいた腕をほどき、わかったとばかりに手をひらひらっとさせて、話しはじめた。
「オレはよ、喧嘩して深手を負っても、案外、早く傷が治っちまうんだ。ただ、こいつに関しては、いつまでも、ぐちゅぐちゅと膿んでやがる」
 迷惑そうに言い放つと、その額に手を当てて公園の木々を見まわした。そして、かざした手を放してから、また首をかしげる。
「なんだか、目もおかしくなっちまってよ。まぁ、たいがい、頭突きのしすぎだろうけどな」
 そういうと、こちらを見上げて弾けたように笑った。愛嬌のある小猿のような笑顔だ。思わずボクも微笑む。
 ボクは額の傷について聞いてみたいことがあった。男の機嫌を損ないやしないかと、恐る恐る口を開く。
「その傷、誰かが、触ったりなにかしましたか?」
 男は驚いたように目を見開いて、
「おう、そうなんだ。妙なじじいに会ってよ。そいつがこれに、シールみたいなものを貼っつけやがって。油断してたとはいえ、うかつだったぜ」
 やはり、そうか。ボクはカバンの中からごそごそとウエットティッシュを取り出した。男の目をみないように、傷だけを凝視する。
「ちょっと、血が出ているので、ふかせてください。すぐすみますから。あっ、動かないで」 
 ボクは静かに丁寧に傷の周りの血を拭った。間近に傷を見る。かなり炎症をおこしているようで、奥の方から脈動が感じられた。何かがうごめいているようにも見える。ボクは、そこにむかって、すっと人差し指を突っ込んだ。男の叫ぶ声が聞こえる。そのまま、男の頭を押さえながら、中指も入れた。血と膿がどくどくと流れるに任せて、ボクは静かに、指を傷の中にうずめていった。


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