サードアイⅡ・グラウンディング ep.4「もう一人の自分」
腹ごしらえもすんだところで、いざゴージとの再会の場に向かった。来た道を引き返して再び大通りに出る。そこからモノレールに乗って二つ先の駅で降りると、目の前には巨大なドーム状のホールが建っていた。ここが会場だと言われて面食らう。貸会議室のようなところでやる小規模な集会だと勝手に思いこんでいたので、規模の大きさにあっけにとられたのだ。
ドーム会場の中に入るとすぐに受付があって、まだ時間が早いのか、さほど混雑していない様子だった。入場料のことを失念していたので、先ほどの男に尋ねると、この集会は無料だという。タダより高いものはないと、この手の集会には普段近づかないのだが、この際仕方がない。ゴージの姿を探すも見当たらないので、とりあえず受付を済ませて男のほうに戻る。
「たぶん控室にいるので呼んできます」と言って、男は足早にたち去っていった。
しばらくすると、男に連れられてゴージがやってきた。実際にその姿を見ると、何だか、亡霊にでも出くわしたかのような、あるいは、幽体離脱でもしたかのような奇妙な感覚に陥った。俺は数年前まであの肉体で間違いなく生きていたのだ。双子であれば、互いにこんな感じで相手を見ているのかもしれない。思わず、今の自分の手を見る。俺の知るゴージの手と違って傷跡ひとつない。
「ゴージさん、こちらが弟さんのお知り合いのオーエンさんです」というと、男はぺこりと頭を下げてその場を離れていった。
俺は、ゴージを見つめた。何から話せばいいものかと戸惑っていると、
「お前、俺の弟の何なんだ?」と睨まれた。タケルもこんな調子だったなと思い出しながら、
「タケルに伝言を頼まれたんだ。帰ってきてほしいって」と答えた。
ゴージは訝しんでこちらを見ている。俺は慎重に話を続けた。
「にいちゃんが一年前にマフィア風の男に連れられて、それきり戻ってこないって。にいちゃんを見つけて救い出してくれって言われてな。連れ戻してやるって約束したら、嬉しそうにして、その場でくるくる回り出してたよ」
それを聞いてようやく警戒を解いたようだった。ゴージは昔を振り返るような顔つきで、
「そうか。もう一年になるのか。タケルは元気か?」と少し照れくさそうにたずねてきた。
「ああ、ぴょんぴょんと飛び上がっていたさ。でも、兄貴がいなくてさみしそうだったぞ。何も言わずに出ていったんだろ?近いうちに一度、顔見せに戻ってやってはどうだ」
「それは難しいな。今は、大勢の迷える人々を救うべく、命をかけてやってるんだ。家族のことにかまけている暇などない」
「でも、本当におまえさんのこと、心配しているんだぜ、タケルは」
「あいつももうガキじゃないんだし、いつまでもかまってやれないさ。あいつはあいつで生きていくほかないんだ」
「おいおい、自分の家族一人を救えないで、いったい、その他大勢をどうやって救おうっていうんだ。ちょっくら戻って、顔を見せて安心させてやるだけの話だろ?」
「俺が今戻ったところで、タケルの状況は変わらないさ。あいつはキレると全く手がつけられねえし」
それは俺だって知っている。そして、普段は誰よりも素直で可愛い弟だってことも。俺は、タケルの屈託のない笑顔を思い出して胸が詰まった。勢いあまって啖呵をきる。
「お前がそんな薄情なら、オレがタケルをさらっていくぜ。いいのか?」
「はっ?何言ってやがる!」
今にも飛び掛かってきそうなゴージに応戦できるよう身構える。場が緊迫し、一触即発の睨み合いとなった。そこへ、ずかずかと団体客が受付前にやってきて騒ぎ出したので、張り詰めた緊張の糸が切れた。
「とにかく、帰って顔見せてやれよ。な」
もう一度頼むのだが、すげなく、
「他人のお前にとやかく言われる筋合いはねぇよ」と吐き捨てて、ゴージは廊下の奥へと消えていった。