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サードアイⅡ・グラウンディング ep.3「裏通りでの聞き込み」

 街で声をかけてきた男のローブの襞を追って路地に入っていく。メインストリートを外れると、とたんに道も悪くなっていて、でこぼことした石畳が続く。古い建物のいくつかは人の住んでいる気配もなく昔の寂れた様相を呈していた。通りは薄汚い屋台や胡散臭い雑貨屋などが点在していて、中にいる主人はみな暗い顔つきで、眼光だけが野良猫のように鋭く光っている。
 男はしばらく道なりに進むと、再び角を曲がって間口の狭い店に入っていった。すぐに、顔だけ出して手招きをしてきたので、俺も後に続いて店に入る。
「早い時間で良かったです。ここはすぐに満席になってしまいますから」
 席について周りを見ると、ほとんどが肉体労働者風の体格のいい男たちで、アルコール片手に骨付き肉をほおばっている。どうやらメニューもないようなので、男に注文を任せた。
 しばらくして出てきたのは、うまそうな肉のフライと、つぶした豆のスープ、そしてスパイシーな香りのする雑穀サラダだった。薄い肉を重ね合わせたものをカリっと香ばしく揚げた肉料理は言うまでもなく旨かったが、それを上回る豆スープの滋味深さに乾ききった胃腸が喜ぶ。思わず「どれもうまいな」と呟いた。
「お口にあって良かったです。最近ではここいらは何だか洒落た店ばかりになってしまって、今やこうした庶民の店はとても希少なんですよ」
「この町が様変わりしていて驚いた。つい数年前は、ここら辺は危なくて近寄れなかったからな。一体、いつからこんな風になったんだ?」
「開発が進んだのはここ三年くらいですかね。何やら、この寂れたエリアが芸術活動の特別区域に指定されて、一挙に再開発プロジェクトが進んだんです。今後まだまだ拡大される予定みたいで」
「なるほど。で、おまえさんは、この団体にはいつからいるんだい?」
先ほど受け取ったチラシを指さして尋ねた。
「もうかれこれ五年になりますね」
「ゴージの奴は」
「ゴージさんは三年前の年次祭にゲストで参加されて、それから定例会にも来るようになって。で、ここ半年ほどで幹部入りとなったんですから、大出世ですよ」
「おまえさんところと再開発プロジェクトは、何か関係があるのか?」
「さあ、そこら辺のことは、私ら下っ端にはわからない話でして。むしろ、若手のゴージさんのほうが詳しいんじゃないでしょうか」
「そうか。ところで、この団体には、その、アリフっていう名前の、マフィアみたいな風貌の男がいないかい?おそらく上層部のほうだと思う」
「アリフ、ですか。聞いたことがないですね。改名している人も多いので、なんとも。マフィアみたいな人っていうのも、ちょっと思い浮かばないです」
 マフィアというのは、あくまでもタケルの印象なので、表現を変えたほうがよさそうだ。
「じゃあ、中年男性の中で、リーダー格で、やたらと人望があるような人物はいるか?」
「それでしたら、一人、心当たりがあります。あ、でも、彼は中年というよりも初老といったところですかね」
 こっちの時間と四次元世界のそれとは進み具合が違うって話だったから、年齢では判断はできないだろう。
「そうか。じゃあ、その人物にはどうやったら会えるだろうか」
「彼は今日のパネリストの一人ですよ。ここに写真が載っています」
 指された写真を見ると、白いひげをたくわえた、人の好さそうな男がにこやかに笑っていた。これは結構うまい具合にことが進みそうだ。
「ゴージと話がしたいから、少し早めに会場に着きたいんだが」
「では、そろそろ行きましょうか」
 会計を済ませて店を出ようとすると、向こうの席から誰かが近づいてくる。見ると、恰幅のいい男で、全身に刺青が入っていた。
「見慣れへん顔やなぁ、新入りか?」と、連れの男に向かって尋ねる。
「いえ、こちらは今日の大祭のお客様ですよ」
「いい体つきだ。すぐにでも働けそうやな。どうや、俺の組にきいひんか?建設ラッシュで男手が足りひんねん」と、やけに白い歯をた。こちらも笑ってやり過ごそうとしたところ、そいつは俺の腕を掴みかけてきた。すかさずそれを払い封じる。
「ほう、武術の習いもあるんかい?」と驚いた顔をして、俺をなめるようにして見た。そして、男に向かって、「おい、そいつにゃ、十分気をつけろよ」と言うと、手を振りながら、奥の方のテーブルに去っていった。
「すいません、手荒な連中が多くて」と、連れの男は頭を下げながら恐縮していた。

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