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サードアイⅡ・グラウンディング ep.7「見通す眼力」

 会が終了すると、案内してくれていた男を急いで探した。人ごみをかき分けてホールを出ると、受付付近で男の後ろ姿を見つけたので、息せき切って声をかけた。
「やはり、さっきのアレイっていう男が、俺の探しているやつだったんだ。ひき会わせてくれないか」
「あ、そうなのですね。いや、でも、私は直接の知り合いでもないですし」
「どうしても話す必要があるんだ。例えば、ゴージからでも繋がらないだろうか」
「うーん、どうでしょう。困ったなぁ」
「頼むよ。何とかしてくれ」
 男はしばらくどうしたものかと思いあぐねていたが、
「では、とりあえず、我々のオフィスまでいらっしゃいますか。そこでどなたかに改めてお尋ねされたらよろしいのかも」
と提案してくれた。
「ありがとう。恩に着るよ」
 再び彼に連れられて町を歩くことになった。あたりはすっかり暗くなっていて、通り一帯に屋台が立ち並んでいた。客も多く賑わっていて、通り全体が活気づいている。
「祭りとか何かイベントでもあるのかい?」
「いいえ、この一帯はいつもこんな感じですよ。開発でここらの地価が高騰してですね、飲食店やショップなんかを畳まざるをえなかった人たちが、こうして夜店を開いているのです」
 よく見ると、練り飴やファストフードなどを売る屋台のほかに、本格的なビストロ風の飲食店や手の込んだ雑貨や外国製の商品を扱う店もあり、多種多様の店構えとなっていた。通りは屋台特有のいろんな匂いが混ざり合い、混沌と喧騒の中で外国語も交えた威勢のいいやり取りが聞こえてきた。
 ふと、誰かに後をつけられている気配を感じて、俺は足を止めた。
「どうしましたか?」と男が尋ねてきたが、そのまま無視して後ろの気配を背中で探る。しばらくして、前へ進むと、俺の歩調に合わせて重なった足音があった。確かに、いる。
 俺は勢いよく駆け出したかと見せかけて、すかさず後ろを振り返った。すると、フェイントにあって面食らった見知らぬ男がいた。にじり寄り、「オレになんか用か」とすごむと、そいつは悪びれもせず、にこりと笑って両手をあげた。
「見つかっちゃった。さすが、ファイアーレッドアイだね」
 急に飛び出したファイアーレッドアイという言葉に驚いて、俺はその青年の目を見た。水晶玉のように澄んだ水色の瞳をしている。整った顔立ちは女のように繊細で、頬は上気して輝くようだった。俺は、慎重に言葉を選んで「あんたもあっちの住人なのか」と尋ねた。
「あっち?あっちってどっち?まぁ、ボクはこっから一度も出たことはない。ただ、感度がいいというか、幼い頃から、無自覚に何か宇宙的なものに繋がっちゃてたんだ。そこんどこを大将に見込まれちゃってね」
「大将?」
「うん。大将ってのは、アレイさんのことだよ。あなた、探してるんでしょ?さっき、廊下でお二人が話してるのを聞いたんだ。それで追いかけてきたんだよ」
 青年は意味ありげに、ふふっと笑った。
「なんで、オレがファイアーレッドアイだってわかったんだ」
「だから、言ったでしょ?見えるんだってば、色々とね。アレイさんに会ってから、ますますその能力が開いちゃってさ」
 そうとなったら、話が早い。
「オレはそいつにどうしても伝えたいことがあって此処までやってきたんだ。会わせてもらえないか」
 青年は口を尖らせて、考えるような風を装っていた。そして、俺のほうをちらっと見て、いたずらそうな笑みを浮かべた。
「オッケー、引き受けた。でも、まぁ、今日はもう無理だから、とりあえず、何かそこらへんで一杯飲んで、ボクのとこにでも泊まる?どうせ当てがないんでしょ?」
と言うと、今まで付き添ってくれていた男に向かって、
「君はもう帰っていいよ。あとはボクが面倒をみるから。はい、お疲れ様」
と素っ気なく告げた。
 そして、ついて来いと言わんばかりに、指輪のたくさんついた手をひらひらとさせて、ネオンの眩しい屋台の方に俺をいざなった。








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