なりたいものになれる時代
男は女になりたい。
そして、わたしどもの世代では、「女になりたい」男は、とんでもなく高額な会費の必要な・秘密クラブに入り、こっそりと女装をしたものでした。
今、やうやく、なりたいものになれる時代が来ました。
わたしどもの世代は、宿命を背負ひ、運命を受け入れて、泣き言を言はずに(誰もゐない場所で独りになった時にむせび泣きながら)与へられた義務を果たすのが男だと教へられました。
少しでも「親の恩、社会の恩、国の恩」に報ひませうと働きました。
今は、学校で先生から「きみの夢は何だ?」「君は何になりたいんだ?」と質問されます。答へられなかったら、あるいは、「親が〇〇だから、ぼくも」と答へると、その〇〇が「映画監督」「評論家」「医者」「弁護士」「俳優」「サッカー選手」「作家」「ジャーナリスト」「絵本作家」「バイオリニスト」「YouTuber」「インテリ・グラドル」「インテリ・AV女優」「インテリ・コメディアン」などといった・世間の人たちが「ああ、あれは夢を叶えた人たちだ」と称賛する仕事でないと、先生たちは悲しそうな顔をします。
「女になりたい」と言ふ男の子には、きっと心から賛同してくれて、その夢を叶えるには具体的にどうすればいいかを親切に教へてくれると思ひます。
そんな時代が来たのです。
かうあるべきだといふ決めつけがもっともいけない、さういふ時代になったのです。
女になりたい男は、その気持ちを恥ぢる必要などありません。
かつては、女装してゐることは絶対の秘密でした。職場に知られたらクビ、奥さんに知られたら離婚、世間に知られたらすでに斬られたクビをくくるしかないほどの恥辱でした。島崎藤村『破戒』の世界でした。
かつて女装をしてゐた人は、今は老人となってゐるのですが、この先、先端医療で若返ったら、先ずは、精神科に行ってください。
そこで、性同一性障害の診断書をゲットしませう。
精神科では、例えば、あなたが「わたしはPTSDです」と言へば、精神科医は聴診器をあなたの頭に当てたり、頭のレントゲンを撮ったり、頭の毛(まだあるなら)を抜いて体内ミネラル成分のバランスを調べたり、頭にヘッドフォンみたいなものを着けさせてメタトロンにかけたり、さういったことは一切しません。
問診だけ。
精神科の病気(障害)に関しては、どの質問にどう答へたら、自分の欲しい診断書を出してもらへるかは、マニュアルにできます。
(わたしは自分の作ったマニュアルの性能を試してみたことが何度かあります)
実際、性同一性障害の診断書をもらふためのマニュアルはあるみたいですよ。
なんで診断書など必要なのでせう?
「こころは女」、精神の問題なのに。
必要です。
これがあれば、ホルモンによって女装できます。
ほんものの乳房。
かうなると、もう、女装などと、言はせない。
そして、診断書があれば、社会生活も円滑にゆきます。
もし、職場の上司から「仕事のときに化粧をするのはやめろ」とか、或いはなんでもいいから、あなたにとって気に入らないことを言はれたら、また精神科医のところに行って、「ひどいことを言はれて死にたい」と訴へて、鬱病の診断書も書いてもらいませう。
その診断書と性同一性障害の診断書の二枚を持って、そして、上司とのやりとりを録音録画した媒体を忘れずに鞄に入れ、弁護士事務所に行けば、どんな問題も解決します。弁護士は決して穏便な話し合ひなどはさせず、裁判に持ち込んでくれますので、慰謝料も取れます。
なりたいものになれる時代。
やっとそんな時代になったのです。
老人のみなさん、死んでる場合ではありません。
なにがなんでも生き延びて、共に、若返る日を迎へませうね。
その頃には、死も無くなってゐるのです。
永遠に美しく。