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株式投資 第七章 相手は国税

第七章 相手は国税:今年は利益を出さない、という戦略
六章までは税金は考慮せず、株の買い方、株の売り方、他人資本の利用、持ち株の値下がり損失の一部回避の方法などを考えてきました。しかし現実の世界では税金が大きな役割を果たします。あなたの資産形成にマイナス方向の役割です。
ですから税金を考慮しながら投資管理することで、財産を増やす効率が向上するのです。

株式投資などの金融収支に掛かる税金の基本は
① 単年度主義であること(例外的に損益繰り越し制度があるが、、、)
② 株式投資では、不動産投資の固定資産税のような保有税は課税されない。
③ 株価上昇による含み益には課税されず、換金した時点の売買収益が課税対象。
という基本三点に加えて、
④ 株式売買益は不動産売買益と同様に申告分離課税の選択肢があります。

株式投資で譲渡所得税を納めない方法
株式投資がある程度成功し、含み益が出た時にどうするのが良いか考えておきましょう。
冒頭でプロ野球選手が高額の所得税・住民税を納付するのに対して、個人資産を二兆円近く増やした大株主は、その資産増大を直接の根拠とした税金はかからない事を見てきました。
私たちはプロ野球選手でもないし、大富豪でもないですが(ですよね?)、国税や地方税に関してはプロ野球選手や大株主と同じ制度の下で生きています。

仮に、株式を買うけれども、決して売らないという投資家がいたらどうでしょうか?
この投資家は株式譲渡所得税を払うことはない。幾ら資産を増やしても無税です。
投資資金ができるたびに株式に投資し、その株式はどんなに値上がりしても売らない。
数ある保有銘柄の中で値下がりして「含み損銘柄」になったものを損切りするだけ。それを続けている限り彼は一円も株式譲渡所得税を払うことなく天寿を全うし、相続人が遺産相続税を払うことになるのです(笑)。

単年度主義で重要な事は、投資家が株式譲渡所得の発生タイミングを意図的にコントロールできることです。
つまり、投資銘柄が年内に値上がりした場合、売却すれば売買収益が当年度課税対象となり、特別復興税を含めて20.315%の株式譲渡所得税+住民税が当年度分として課税されますが、値上がりしても今年中に売却しなければ、今年の課税対象額はゼロです。今年の課税にするか来年度以降の課税にするかは、あなたがコントロールできるのです。
ファーストリテイリング社の創業社長で大富豪の柳井正様と同様に、持ち株を売らない限り課税所得は発生しません。

(Case Study-30) 現金が必要になった時、どの銘柄を換金処分するか。

投資元金70万円で含み益50万円の銘柄Aを現金化したら、50万円の収益に対する税金20%(約10万円程)を国税に納税し、手元に110万円が残る 。
銘柄Bを換金したなら売買収益30万円に対する課税なので、納税額は20.315%の6万円+程度に収まり手元に94万円近くが残る。

株式譲渡所得は銘柄毎に算出されるので、含み損を出している銘柄があれば、売却しても株式売買に対する所得税は発生しません。70万円投資した銘柄Cは値下がりして45万円にしかなりませんが、45万円分のC銘柄を換金すれば45万円全額が手元に残ります。

投資開始から何年か経ち、投資銘柄の将来性が無くなった(と思った)時、この銘柄をご自分のポートフォリオから除外するとしましょう。
そういう年(つまり売買益を出す年)には、できる限り投資が上手く行っていない銘柄も同年中に売却し、その含み損を合算することで当該年度の売買収益(=売買益+売買損)を少なくすることができます。

(Case Study-31)  含み益が30万円の銘柄Bの投資を終了したい場合、同じ年に含み損が25万円の銘柄Cを今年中に換金して損益を合算(相殺)することです。
そうすると銘柄Bの売買益30万円+銘柄Cの売買損25万円=売却益は5万円で、今年度の株式売買所得課税は売買益5万円の20%程度ですから、1万円程度で済みます。

加えて、値下がりして、損切りしてしまった銘柄Cですが、今後も投資銘柄としてリスクオンしておきたい銘柄であれば、売却後にその売却株価に近い株価で買い戻しておけば銘柄Cをリスクオンし続けたと同様の投資効果を期待できます。実質的にリスクオンを継続しながら、今年度の売買所得税の圧縮に利用できるわけです。

また大きく含み益が乗っている銘柄は一時的な値下りが予想されても売却してはいけない。なぜならば売却すると含み益が「含み」ではなくなり、譲渡所得税が課税されるからです。
値下りが予想されても売却ではなく、第五章でみてきた「現物保有+つなぎ売り」で一時的なリスクオフを実施して資産防衛をしましょう。

(Case Study-32)  昔一株1,000円で買った株が今5,000円になっていますが、目先10%下落すると考えるとき、この株をリスクオフするにはどうしたらよいか?
売却すると(5,000円-1,000円)×株数が売却益として課税対象になり、4,000×20.315%=800円強、つまり800円×株数の譲渡所得税が課税されます。
一方、下落する前にこの株をつなぎ売りしておき、4,500円に下がった時点で買埋する場合では、利益は一株500円で、20%課税ですから、一株当たりの税額は100円。現物を売ってリスク回避した場合と比較すると1/8の課税で済むことになります。

他の所得との関連で税率を選択する方法
国税・地方税を考えるときには、他の所得(給与所得や雑所得など)との関連を考えることが重要です。
貴方がまだ現役のビジネスマンで給与所得があり、含み益のある株式の換金・現金化をする場合なら、給与収入から各種の控除をした後の課税所得が 6,949,000円以上あれば(R5年の基準です)所得税率が23%に足を踏み入れる ので、これを避けるために確定申告で給与所得と株式譲渡所得を分離する方法があります。申告分離課税と言い、この方法を選べば、株式譲渡所得に対する税率は給与所得等に関する税率と関係なく20%+復興特別税になり、給与所得の税率に比例して税率が上がることを回避できます。

逆に給与所得+雑所得(年金など)に株式譲渡所得を加算しても課税所得金額が6,949,000円以内に収まる場合には、総合課税を選択して確定申告をすれば、株式譲渡所得に関する税率も20%以内に収まります。この場合にかぎって(つまり総合課税にかぎって)配当金に関する配当控除を受けることもできます。
配当金は企業収益に従い納税した後に残った利益剰余金から支払われるものですから、すでに納税後の金額が株主に配当されるわけで、こういう性格の配当金に課税するのは不当な二重課税と考えられており、確定申告で配当控除を申請することで二重課税が回避されるものです。

いずれにせよ、当該年度に株式投資で株式売買収益をプラスにした場合には、当該年度の所得税の問題が生じますが、大富豪と同様に売買収益を出さずに保有したまま含み益を増やしつづけるなら所得税+住民税の心配は不要になります。


政府の少額投資非課税制度(NISA)を活用する方法
富国強兵時代の勤倹貯蓄奨励の流れを汲んでいたのか、それとは別の思想があったのか知りませんが、昭和の時代には「マル優」と呼ばれた少額貯蓄非課税制度 や「郵貯マル優 」とよばれた制度があって、合計で700万円ほどの貯蓄(からの利子)には課税しない制度でした。

ところが銀行預金も郵便貯金も金利は年0.001%のデフレ時代が長く続き、上限700万円の預貯金の金利は合計しても年間70円。そこに課税される約20%の税金は約14円!!
年間14円の税金を非課税にしてもらうために面倒くさいマル優枠の申請をする人はおらず、銀行も郵便局もそんなことに事務の手数をかけたくない。ということでこの制度は廃れてしまいました。(現在では税制というより福祉として「各種障害者手帳の交付者、各種障害年金受給者、各種遺族年金受給者、寡婦・寡夫年金受給者、児童扶養手当受給者1人」を対象に制度は残っているみたいです)

日本政府が「貯蓄から投資へ」の流れに沿って2014年に新設されたのが、少額投資非課税制度 (貯蓄の文字が投資に入れ変わっている!)で、当初は年間限度額100万円までの投資から生じる収益を非課税とする制度でした。

名称は、英国の個人預金口座(Individual Saving Account、略称ISA)に倣った日本版ISAということで、Nippon ISAだからNISAという面倒くさい通称になっています。
まずAccountが口座と訳されていますが、オリジナルは勘定です。
つまり、銀行に何億ポンドもの紙幣があったとして、そのうちの100ポンドはA氏の勘定、300ポンドはB嬢の勘定という具合に勘定を分けて管理するからAccountなんですね。

そして、Saving Accountの対義語はChecking Accountですから、小切手を振り出すために使う当座預金勘定に対し、こちらはカネを貯める目的で預ける勘定で金利が付きます。
また、ISAはIndividual、すなわちCorporationではないのですから、宗教法人世界平和統一家庭連合や学校法人加計学園などの法人はこの口座を持てず、あくまで個人が持つことができる口座という意味になります。だからIndividual Saving Account。

NISAという略号の名前ではなく、日本版個人預金口座を短縮し、日個預口座(愛称:ニチコヨ)にしたら、名前もかわゆいので、人気になったのではないかと思うけどねぇ。

そのNISAですが、2024年からバージョンアップされて、ますます「貯蓄から投資へ」の国策を後押しすることになります。
免税対象の金額上限が引き上げられ、かつ「積み立て投資枠」と「成長投資枠(アドホックな株式投資等)」の両方を併用可能にし、累積総額1800万円までの投資元本がもたらす収益には課税しないということで、ゼロ金利時代に無力化してしまったマル優よりもかなり強力になります。

金融庁HP NISA特設Webサイトより

かいつまんで言うと、毎月10万円ずつ投資信託を買い続け、それとは別枠で年間240万円までのアドホックな株式投資をして、年間で合計360万円の投資を5年間つづけて、累積投資額が1,800万円になるまでは、その投資からの収益(income gainとcapital gainの両方)に対して日本政府は、ビタ一文課税しません!ってことです。

このバージョンアップNISAを上手に使って投資の収益を100%自分のモノにしたいです。投資の損失は100%自分に降りかかるのですから、、。

NISAで株式を購入する場合は、現物株式の購入に伴う手数料がかかりますので、証券大手三社の現物株式売買の手数料を整理しておきました。


(Case Study-33) 証券三社の現物株売買注文手数料


 
具体的な金額で比較表を作ってみると、大手の証券会社がどれだけ競争していないのか気づきますよねwww.
同じ90万円の株を買うのに手数料が880円、1,048円、3,420円の違いって、すごい!!
日本は自由経済だとは言え、ガソリンの値段がスタンドによって4倍違うとか、タクシー料金が会社によって4倍違うとか、在り得ないでしょう?

まあ、この業界にはその昔、サラリーマンレベルの庶民を「どぶ板」と呼んで相手にしなかった黒歴史もあるようですから、皆さんが証券会社を選ぶときには「一般ユーザー」に対するスタンスもよく確認して証券会社を選定されると良いと思います。

<第七章のまとめ>
○(不動産とは異なり)保有株式には課税されず。含み益にも課税されず。
○投資銘柄が値上がりしても、非課税の状態でできるだけ長く働いてもらう。
○含み益の大きい銘柄が下がると思ったらつなぎ売りでリスクオフする。
○売却益を出すときには同時に他銘柄で売却損を出し、当該年度の売買収益を少なくする。
○売買損は積極的に出して納税額を減らしながら、自己保有株式の含み益を最大化する。
○2024会計年度からはNISAで年間最大360万円まで投資し、非課税の収益を狙う。
○現物株の手数料は証券会社ごとに大きく違うので、取引コストの差もチェックしましょう。

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