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【読書】急に具合が悪くなる

最近通勤時間を使って本を読んでいるんですが、ずっと前に購入したけど読めずにいた「急に具合が悪くなる」(晶文社)を読み終わりました。この本は乳がんを患っている宮野さん(哲学者)が、学会で知り合った磯野さん(人類学者)との間で「急に具合が悪くなる」ことについて往復書簡を通して行った議論をまとめたものになります。

実際に読んでみて、今まで読んできたどの一般書・学術書よりも僕に衝撃を与えてくれました。

この本を読んで感じたことを3つの視点からまとめたいと思います。1つは哲学者と人類学者という著者らの背景による学術的な説明の面白さ、2つ目はテンポの良いスマートな対話を読んでいることの気持ちよさ、そして最後は往復書簡といいうリアルタイム性がもたらす衝撃です。

①学術的な説明の面白さ

この本の著者である宮野さんと磯野さんは、それぞれ哲学者、(医療)人類学者という肩書があります。そのため、この書簡の中で語れる物事に対してそれぞれが専門とする学術的な視点から解釈を提供してくれています。新しいことを知ることが純粋に好きな僕にとっては、この本の中で出てくる様々な知識がとても学びになりましたし、教科書的に情報だけを提示されるのではなく、「〇〇っていうのは△△の〜っていう視点から捉えると面白いよね」のように、その知識を提示する目的を伴って記されているため、非常にすんなりと頭に入れることができました。実際にこの本の中で出てきたトピックの一部を挙げると下記のようなものになります。


 ・アーサー・クラインマン『病の語り』から「ヘルス・ケア・システム」を構成する3つのセクターについて
 ・九鬼修造『偶然性の問題』から偶然性について
 ・文化人類学者 E・E・エヴァンズ=プリチャード『アザンデ人の世界』から、社会において妖術が担っている役割について
 ・文化人類学者ティム・インゴルド『ラインズ』から奇跡と連結器について
 ・文化人類学者グリフォード・ギアツから「意味の網の目」について

…上記の羅列だけでは文脈もなく、何もわからないと思います。ぜひ本文を読んでこれらの知識がどのように使われ、解釈をもたらし、議論されていたかを確認してみてください。

②テンポの良いスマートな対話を読んでいることの気持ちよさ

これは非常に感覚的な感想になってしまうのですが、2人のやり取りを読んで「頭のいい人同士の対話」の気持ちよさを感じました(ややスノビズムっぽい感性かもしれません)。具体的には宮野さんが自分の経験で感じたことを伝えたことに対して、磯野さんは医療人類学の言葉を借りて宮野さんが感じたことに視点を提示します。そしてそれを受けた宮野さんは磯野さんが説明した言葉を引用しながらそれに対する答えを自分の言葉で、時には自分が専門とする哲学の言葉を借りながら返していきます。
この「相手が言った内容を引用しながらそれを解釈し、自分なりに返答する」というのは、相手の説明内容を理解する力や幅広い知識、そしてそれに返答する言葉を紡ぎ出す言語力が要求されます。自分がなかなかできないことを、本を通して間接的に体験することに僕は快感を感じていたのかもしれません。

③往復書簡といいうリアルタイム性がもたらす衝撃

冒頭でもお伝えした通り、この本は著者らの往復書簡というスタイルで構成されています。加えて著者のうち一方(宮野さん)は死と隣り合わせの生活を送っていた方でした。そのため、時間の経過とともに体調が変化していることが文章を追っていくごとにリアルに感じられました。そしてそんな経過を過ごしている宮野さんに対して、磯野さんが直球な言葉を投げかけ始める。そんな場面が後半に何度かあります。一読者としてこの時間経過とともに変化する2人のやりとりは読んでいて宮野さんの体調の変化をより現実感を持って感じさせてくれました。また、そう感じるからこそ、宮野さんに対する磯野さんの一言一言に凄みを感じ、何度か泣きそうにもなりました。
著者のあとがきなどから、この本の企画は宮野さんの急変による中止という可能性を伴いながらも進められたことを知りました。こんな素晴らしい本を種々のリスクを抱えながらも出版まで整えてくださった編集者の方には感謝しかないです。

以上、3つの視点から僕がこの本を読んで感じたことをまとめてみました。文章としてまとまりきっていない部分もあると思いますが、まずは読み終わった後に感じたことを忘れない間に素直に書いてみました。
みなさんがこの本を読む1つのきっかけになれば幸いです。

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