【Rules vol.1】Column「my little underground vol.1 少年キッズボウイの世界観」(小野肇久)
2020年春からフリーランスとなり、おまけに例の感染症の影響で予想以上に在宅仕事が常だったため今まで以上に家で音楽を聴く機会が増えたのですが、そんな中、一番印象に残っているのが予備知識なしで聴いた新人バンド「少年キッズボウイ」でした。
彼らはまだ結成して1年ほどの東京で活動する6人組で、昨年10月に3曲入り初作品「EP」を自主制作し発売。各種音楽ストリーミング・サービスに加えて、HOLIDAY! RECORDSやタワレコ数店舗でも取り扱いされているので、すでに知っている方もいるかもしれません。
また、同月には世界デビューを勝ち取る『COLOR RED CHALLENGE ワールド デビュー オーディション』の決勝ラウンドへ進出し、審査を兼ねた生ライヴも配信されていました。
先に断っておくと、このバンドは上手いバンドの類ではありません。しかしそれを補ってなお余りあるほどのセンスとポテンシャルを持ち合わせているのです。基本的にはオルタナティヴ・ロックを基調とし、BEACH BOYSなどの60年代ポップスやニュー・ウェイヴ、ローファイ、渋谷系、シティ・ポップ、ヒップホップなど洋/邦楽及び年代を問わず様々な楽曲からインスピレーションを受け、しかも1曲の中にそれらを数ヵ所に反映させる手法をとっており、そのマッシュアップというかミックス感が絶妙なのです。
わかりやすいところでは前述のEPに収録されている「告別式では泣かない」を聴くと、T.REXやa-ha、CHUCK BERRYらのあの名曲が頭をよぎることでしょう。そういった雑多さとユーモアな姿勢からはポスト・パンクの精神性を感じることもでき、個人的にも好みです。
さて、僕が彼らから最もセンスを感じるのは、歌詞とその世界観なのです。
それらはバンド名が物語っているように(少年もキッズもボウイもすべて同じ意味)、思春期特有な心情や葛藤、ピュアさなどをテーマに扱うことが多く、登場人物の心理や情景、設定や状況の描出が白眉で言葉のチョイスもこれまた絶妙。EPで聴ける「海を見に行く」では<星条旗掲げ飛び込んだワームホール>、<誰も彼も浮かれたバヨネット>という歌詞があるのですが(ワームホールとは離れた時空構造を結びつけるワープ・トンネルのことで、バヨネットは銃剣を意味する)、こういった意想外なメタファーは松本隆にも通じるセンスを感じさせてくれます。
曲によってはディストピアやSFなどの漫画や映画の一場面を彷彿とさせる描写もあり、とりわけ<最後の曲はスロウなダンス/手を取って踊る26時半>で始まる「野生の動物の日々」や、<秘密基地にあった/古いポルノ雑誌のページめくってさ/色褪せたルージュと地球の裏側/覗き込むのさ>と歌われる「ハーバリウム」の世界観がシュールなので、ぜひ(ググって)全歌詞を一読いただければと。
さらに言葉とメロディーの組み合せにも意識的で、彼らのオフィシャルHPにも書かれているのだけど「音楽にあまり興味のない女の子の友達がリップクリームを探しているときの鼻歌が完全にBEACH BOYSの‘Wendy’だったんです」という体験から、鼻歌で口ずさめる自然でキャッチーなメロディーラインを心掛けているとか。
とくに曲の歌い出しにそれが顕著で「海を見に行く」の<シャ~ンディガフ>や「野生の動物の日々」の<最後の曲はス~ロウなダンス>、「飛行船18号」の<午後~六時の鐘~>など、一聴しただけで記憶に残るようなパンチラインが散見されます。もしかしたら、それはスキップレートを意識した音楽ストリーミング時代の作曲方法をも考慮しているのかもしれません(考えすぎか)。
現在、彼らは新しい女性ヴォーカルを迎えて新曲のレコーディング中。まだこの新メンバーが歌う楽曲を聴いたことがないので、どのように少年キッズボウイの世界観とマッチするのかも含めて、今からとても楽しみでしかたがない。
Writer:小野肇久(DREAMWAVES)