あの日、おばあちゃんと食べたドーナツ
もう10年以上も前の話である。
入院中のおばあちゃんのお見舞いに行った。手土産はミスタードーナツ。
そのときに自分が何を食べたのかはまったく覚えていないのだけど、おばあちゃんが食べたものはハッキリと覚えている。『とうふドーナツ 金ごま』だった。
なぜそこだけ鮮明に覚えているのかというと、おばあちゃんがそれはそれはおいしそうに食べていたからだ。
「おいしいなぁ」と何度も口にしながら、いままで見たことのないような幸せそうな笑顔で、ドーナツをたいらげた。
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ドーナツを食べながら、わたしたちは他愛のない会話をした。
その年はちょうど、おばあちゃんが88歳を迎える年で、
「88の祝いをせなあかんなぁ」
というのが当時の口癖だった。
誰を呼ぶか?御膳はどうするか?
お祝いの宴のことを話すおばあちゃんは、とても楽しそうだった。
お祝いといえば、わたしも近々、結婚することが決まっており、
「結婚式、呼んでな」
というのも口癖だった。
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その後、おばあちゃんの容体が急激に悪化した。お見舞いに行っても、ほとんど寝ていて、話をできない日の方が多くなった。
院長先生は回診のたびに、
「がんばってますね」
を繰り返し、それ以上は何も言わなかった。
いま、この瞬間を生きていることが、奇跡のような感じだった。
結局、米寿のお祝いも結婚式への参列も叶わぬまま、おばあちゃんは旅立ってしまった。
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いまから思うと、あの日がわたしたちふたりの“最後の晩餐”になってしまった。
冒頭でも書いたが、ドーナツを食べるおばあちゃんが本当に幸せそうで、あの時間はわたしにとっての“最高の晩餐”でもある。
これまで、ミスドのドーナツは数え切れないくらい、たくさん食べてきたけれど、『とうふドーナツ 金ごま』は決して忘れることのできない特別な存在。
残念ながら、いまは販売していないけれど、これを機に復活してくれることをちょっぴり期待している。
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