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悪影響論と規制論の基礎:香川県ネット・ゲーム依存症対策条例に寄せて

ゆっくりしていってね!

今から3年前の話だけど、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例が通過したわね(2020年)。

特に「ゲームは1日60分」という根拠不明のナゾ定数が置かれている点が物議をかもしたわ。

ともあれ、内容を見てみましょう。

第18条 保護者は、子どもにスマートフォン等を使用させるに当たっては、子どもの年齢、各家庭の実情等を考慮の上、その使用に伴う危険性及び過度の使用による弊害等について、子どもと話し合い、使用に関するルールづくり及びその見直しを行うものとする
2 保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの使用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。)に当たっては、義務教育終了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければならない。

香川県ネット・ゲーム依存症対策条例
※強調太字は引用者による。


その違憲性を争う裁判も行われたけれど、原告の高校生の方が敗訴。条例は合憲と判示されたわ(2022年)

そして2023年4月、この条例の成立過程の不審点や裁判の詳細を追った本『ルポ ゲーム条例;なぜゲームが狙われるのか』が、ジャーナリストの山下洋平さんから出版されていて大きな話題を呼んでいるわ。


ただ、基本的にゲーム・アニメ・マンガ等の悪影響が主張されると、そういうのが大好きな私たちは、ひとまず「否定」に走るのだけど、その時に擁護の仕方を間違えると悪手になりがちなのよ。

よって、そもそも「〇〇による悪影響がある。だから規制が必要だ。」という論への対応方法を整理しておいた方が良い気がするのよね。

というわけで、今回はそういう基礎的なお話から始めていきましょう。


悪影響はある。但し、何でも良ければ。

「ゲーム・アニメ・マンガの悪影響」と言われると、つい反射的に「悪影響の存在は科学的に実証されていない」と返してしまう人は多いわよね。


けれど、それは実はあんまり良くないのだわ。
文字通りに解釈するならウソになっちゃうし。

「悪影響」の中身がどのようなものでも良いなら、そりゃ何かの悪影響がある程度は存在するわよ。

例えば、

「ビデオゲームをプレイしたり、スマホを利用したりする時間が長い人は、そうでない人よりも、ドライアイになりやすい。」(Al-Mohtaseb et al., 2022)

と言われたら、「うん……それは、そうでしょうね。」としか答えられないわ。

また、どのようなゲームであっても、毎日16時間とかプレイするなら、色々な健康被害が生じると考えられるわね。腱鞘炎になるとか腰を痛めるとか、下手すりゃ血管が詰まるとか。実際、ゲームのやりすぎで死んだ人もいたわね。

もちろん、現状では「暴力的なゲームをすると、暴力的な性格になる」という仮説は支持されていないけれど(Drummond et al., 2020)、例えば「ゲームの内容にムカついてコントローラーをぶん投げる」のような感情の昂ぶりとそれによる攻撃的行動まで「ゲームによる悪影響」に含めるのであれば、「ある」と言えるでしょう。(調べてみるまでもないわね。)

まあ、ごく日常的な動作である「歩く」ですら、毎日16時間もやったらたぶん膝の一つや二つは壊すから、別にゲームだけで起きる事象じゃないんだけど。


悪影響論と規制論を分別する

次のことは原則として覚えておいてほしいわ。

「何らかの悪影響の存在」が指摘できない行動や表現物は存在しない。

でも、これはただちに規制論に結び付かないのよ。インドアな遊びであるネット・ゲームとは対置されがちなアウトドアな遊びやスポーツにだって「悪影響」はある。

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