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巨乳好きは性差別主義者?
GIGAZINEが2013年に公開した以下の記事が、2022年現在にTwitterで話題となっているわ。
女性のバストサイズと男性の好みに関する研究はこれまで曖昧なところが多かったのですが、ウエストミンスター大学の研究によれば、ロンドンの白人男性が最も好むバストはミディアムサイズで、「大きい」や「ものすごく大きい」サイズのバストが好きだという人もかなりの人数を占めることが判明。さらに質問によって胸の大きな女性を好む男性は女性蔑視の考え方に肯定的であることがわかりました。
GIGAZINE『男性の好むバストサイズに関する新たな研究、胸の大きな女性を好む男性は女性蔑視の傾向があることが明らかに』
あらまあ。「胸の大きな女性を好む男性は女性蔑視の考え方に肯定的」とは、ゆっくりできないわね!
これに自信を持ったのが、Twitterのいつものフェミニストさん界隈。
「間違いない」「巨乳好き≒女性蔑視」と大はしゃぎしているわ。
めっちゃ巨乳好きそうな3人。 pic.twitter.com/J0tVjeI0z2
— フェミ松速報! (@femimatsu) March 15, 2022
とはいえ、私たちは軽率に飛びつく前にゆっくりして、論文の内容を確認していきましょう。
著者らがどういう研究をやったのか、簡単に説明させていただくわね。
当該研究の方法と結果について
当該研究の調査対象はイギリス系白人男性に完全に限定されているわ。もともとはロンドン在住者の440人を調査したのだけど、そこから「イギリス系白人男性ではない人」を52人除外してるわ(440-52=388人)。これは、著者らの過去の研究により、民族的アイデンティティによって胸の大きさへの好みが変わると分かっているからとのこと。
さらに、ゲイ(8人)、バイセクシュアル(12人)、性的志向を開示しなかった人(7人)も除外してるわ。つまり、残ったのは388-8-12-7=361人ね。
性的志向で除外するのはともかく、52人の除外操作はけっこう怪しげよ。「民族的アイデンティティによって、胸のサイズの好みが変わると分かってた」なら、なぜ調査を最初からイギリス系白人男性に限定しなかったのかしら?
たぶん、著者らは52人も含めて解析はしたんだけど、それじゃ有意な相関が出なかったか、何か出たけど都合の悪い結果だったんでしょうね。これ以外に後出しで除外条件を加える理由が無いわ。
まあ、一応「イギリス系白人男性」という選別自体は恣意的ではないから許すとしても、この論文の結論がどうあれ、「日本人でも同じ結論になるだろう」と推測することは出来ないわね。
……。
…………。
それなら、もう日本人的には解散じゃない?
少なくともこの論文から、日本について言えることは特に無い。
また後述するけれど、「女性蔑視の傾向」といっても、厳密には「"慈悲的な性差別(Benevolent Sexism)"の傾向」であって、性差別全般ではないのよね。
(「慈悲的な性差別」って何? と思ったあなた、正常よ。後半でちゃんと解説するわ。)
――ひとまず、研究内容の解説を続けましょう。
イギリス系白人男性の異性愛者に、まず次の3DCGを回転させながら(動画として)見せ、どれが好みかを聞いたわ。
その上で、次の4部から構成されたアンケートに回答してもらったわ。それぞれに複数の質問が含まれているわ。すぐ後に質問文も紹介するわね。
・女性に対する敵対性アンケート(Hostility toward women, Lonsway & Fitzgerald, 1995)
・女性に対する(差別的)態度アンケート(Attitude toward women, Spence, Helmreich, & Stapp, 1978)
・「慈悲的な性差別」性アンケート(Benevolent sexism, Glick & Fiske, 1996)
・女性のモノ化アンケート(Objectification of women, Frederickson, Roberts, Noll, Quinn, & Twenge, 1998を元に著者らが改変)
ただ、さすがに全アンケート全質問の翻訳は面倒くさいから、それぞれのアンケートにつき3つずつくらいの質問を取り出すわ。どうしても全質問が知りたい人は、リンク先から論文を入手してね。
どの質問も、「非常にそう思う」「そう思う」「わからない」「そうは思わない」「全くそうは思わない」などの5段階とか7段階で回答するものよ。
なお、著者らは、アンケートを解析する都合上、どれも「"非常にそう思う"など質問に対して賛成するほどプラスの値が出る(=より差別的である)」にように調整したとあったから、質問文の翻訳もそれに合わせてみたわ。
女性に対する敵対性アンケート
・一般的に、女性は信頼できないと感じる。
・私は男性よりも女性に対して怒りを覚えやすい。
・女性がそばにいるだけでも、時々うっとうしく感じる。
女性に対する(差別的)態度アンケート
・下品な冗談は、あくまでも男性的なものであるべきだ。
・女性は、良い妻・良い母であるために、自分の権利よりも他人の権利を心配するべきだ。
・娘よりも、息子のほうが大学進学を奨励されるべきだ。
慈悲的な性差別アンケート
・女性は男性に大切にされ、尊重されるべきだ。
・男性は、女性を経済的に養うために犠牲になるべきだ。
・災害時は、女性は男性より優先的に救助されるべきだ。
※慈悲的な性差別とは、要は「男性よりも女性が優遇されるべきだ」とするレディ・ファースト的な思想を指す。
女性のモノ化アンケート(著者ら改変版)
・女性の魅力を評価する際、体重が大事である。
・女性の魅力を評価する際、セックスアピールが大事である。
・女性の魅力を評価する際、知的能力は大事ではない。
・女性の魅力を評価する際、身体的な強さは大事ではない。
※女性の評価にあたって、体重やセックスアピール等の外見系の要素を重視するほど「モノ化しており、差別的」とし、知性や強さなど能力系の要素を重視するほど差別的でないと判定する。ここでは、質問文を肯定文・否定文に分けて表現した。
既に言いたいことが複数あるけれど、ともあれ結果にいきましょう。
まず、胸の大きさに対する好みは次のように分布したわ。
Swami et al. (2013)の図2を引用
そして、胸の大きさの好み(大きい方がプラス)と、それぞれのアンケート(差別的な方がプラス)との相関係数は次の通り。
大きい胸が好きであることと、「女性への敵対性」および「女性への差別的態度」はあまり相関しなかったみたいね。一方で「女性への慈悲的差別」とは強めに相関し、「女性のモノ化」にもやや相関がみられたとのこと。
つまり、特に「大きい胸が好き」と「女性への慈悲的差別」が正に相関していることが、最初の「巨乳好きには女性蔑視の傾向がある」の意味なのだわ。
研究内容の解説としては以上!
じゃ、私の見解を述べさせていただくわね。
「慈悲的な性差別」と「性的モノ化」アンケートの問題
大きい胸が好きであることと、もっとも強い相関がみられた「慈悲的な差別」だけど、質問内容を見る限り、「女性を男性より優遇しよう」と考えているほど差別的だという判定を食らうわ。
まあ優遇方向であっても差別は差別よね……でも、悪いことかしら?
(「災害時は男性より女性を優先して救助すべきだ」とか「デート代は男性が奢るべきだ」などと答えるのは、むしろフェミ騎士さん界隈の方っぽいわ。逆に、弱者男性論界隈は死んでも引っかからなさそう。勘だけど。)
「女性をエンパワーメントしよう」「女性のアファーマティブ・アクションを頑張ろう」などの考え方とも近いわよね。
何がダメなのかしら?
著者らは、「慈悲的な差別」の問題点を次のように述べているわ。
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