短歌を詠めば今日から「歌人」!? 素人4人の五七五七七、その出来栄えは?
初めての「吟行会」で、短歌を詠むこととなった4人の短歌素人たち。お題の「和菓子」をいただきながら、四者四様のスタイルで1首ずつ完成させていく。揃ったところで、これまた初めての「選評」だ。
果たして優勝賞品の「57577Tシャツ」をゲットするのは誰か!? なにより、短歌の出来映えやいかに?
持ち時間は20分、各々どんな短歌ができあがる?
短歌の鑑賞法、作り方、先生について……短時間でいろいろと吸収をしてきて、いよいよ自分たちが短歌を詠むターンとなった短歌素人の大人4人。この日、用意されたお題は色とりどりの「和菓子」。好きなものを選んで食し、吟行を行うことに。
「詠むのは、和菓子はもちろん、今日のこの場所や雰囲気、短歌講座のことも詠んでいいことにしましょう。食べながら思ったこと、教わりながら感じたこと、誰かの言葉や表情、今日ここで見たり感じたことを素材に、自由につくってください」
そんな言葉をかけながら優しく見守ってくれるのは、今回の講師である歌人の佐佐木頼綱先生。しばし、皆が無言で和菓子を食す時間が流れる。かつてこれほど真剣に、和菓子に向き合ったことがあっただろうか?
手書き? スマホ? PC? 五七五七七に使うツールは個人差アリ
それぞれに和菓子とお茶を楽しんだところで、頼綱先生から「ではそろそろ、短歌を詠みますか」と声がかかり、いよいよ短歌づくりが始まった。進行上、持ち時間は20分ということに。先生も一緒に短歌を詠むことになり、スマホやPCを開いてそれぞれのスタイルでチャレンジがスタートする。
しばらくすると、Oさんから「先生、質問です!」と助けを求める声が。
「先生、字余りは本当に気にしなくてもいいんですか?」(Oさん)
「そうですね。短歌では字余りは多少許容されていて、字足らずはあまりよくないとされています」(頼綱先生)
「何文字余ってもいい?」(Oさん)
「2文字くらいまで、かな。新しい言葉とか外来語の字余りは許容されやすいですね」(頼綱先生)
「例えば、五七五七七の全部の場所で字余りが起きても許されます?」(Oさん)
「う〜ん、今回は初めてですからね、あまり気にしなくてもいいでしょう。ただ通常は1句、2句ですね」(頼綱先生)
もしかしてこれって「初めての歌会」!?
歴史を遡ると、人々が集まって共通のお題で歌を詠み、それを披講する会は「歌会」と呼ばれ、「万葉集」にもその様子が描かれている。つまり、奈良時代から続く伝統的な催しだ。
そこから時代はくだり、2024年。素人たちが集まって、スマホ片手に歌をつくった。1首詠めば、その人はその日から歌人。僕らは脈々と連なる伝統文化継承者の一員になったのだ。
そんな、この日デビューしたての新人歌人4人による短歌はこちら。
ここまで読んでくださっている、あなた。ピンときた短歌があれば、心に留めて選評の結果へ。
ドキドキの挙手投票。もっとも多くの票を集めた短歌は……!
出揃った4首を、頼綱先生が1首ずつリズミカルに読み上げていく。
「皆さん、初めて作った短歌にしてはいいですね。20分でつくったとは思えない出来だと思います。さて、投票はカメラマンのIさんにも入ってもらって、全6票で。挙手制で好きな歌に投票していきましょう」(頼綱先生)
ドキドキの挙手の結果……3票を獲得したのは、「分厚いもち」から始まる①の歌。こちら、デザイナーのHさん作!
自分の短歌はこうしたら良くなる? プロの「選評」に嬉しいやら感心するやら
さて、ここからは先生による「選評」の時間。
「オヤジギャグに近いところもありますが、『餡』と『案』の掛詞を使った積極性を評価したいですし、読んでいておもしろかったです。Hさん、ご出身は?」(頼綱先生)
「生まれは鹿児島、育ちは新潟です」(Hさん)
「そうですか。作品からなんとなく関西圏の人かなと思いました。オチがついていて、共感性も高くて、楽しい。そんな魅力を感じた歌です」(頼綱先生)
「お題とお菓子の“お”の音の重なりと、わかりやすい言葉選びがいいですね。あとは、今日みんなが感じたことを表現していて、吟行会の空気感が描けています。臨場感と共感性と、ちょっとした音の良さ。短歌は昔『歌』だったとお話ししましたが、リズムや句切れを大事にしています。この作品の読みやすさ、愛唱性を評価したいです」(頼綱先生)
「“いまの何カロリー?”と終わるの、面白いですね」(頼綱先生)
「口の中に入れたら、すぐなくなっちゃうんだけど、カロリーはしっかりあるんだろうなーって思ったのを素直に書きました」(Oさん)
「このままでもいいんですけど、『老舗菓子』のところを具体的なお菓子、五文字の和菓子に置き換えると、もっといいかもしれません。実際に食べたものではなく、フィクションでもいいですよ」(頼綱先生)
「食べたのが菖蒲のお菓子だったので、花からの連想でつくりました。1本すっと伸びている花」(編集K)
「僕も菖蒲の花を想像しました。それが下の句にうまくつながっていて、花に自分の存在を重ねていく。整っていて、いい歌だなと思います」(頼綱先生)
この日発見したのは、自分でつくった作品をその場で先生や他の参加者に見てもらい、あれやこれや話す時間は、少し緊張するけどとっても楽しいということ。そして、見事優勝したHさんには、賞品の57577Tシャツを進呈!
今日から「歌人」? 新しい趣味を手に入れた!
「こうして4首並べてみると、4人とも違う視点で、全然違う作品をつくったのがよくわかりますよね。すると『あ、こういう角度もあったんだ!』『たしかにその感覚はあったけど、自分はうまく言語化できなかったな』といったことが見えてきます。共有した時間や事柄が多角的に表現されていくのをその場で味わえるのが、吟行会や歌会の醍醐味の一つです。集まって詠み、読むことで、それぞれの世界が広がるのではないでしょうか。これからもぜひ、短歌を続けてください」(頼綱先生)
指折り数えて詠む短歌。1人でもできるし、いつでも詠めるし、みんなでいっしょにもできる。Xにポストして、「いいね」がついたらグッとくるに違いない。そしたら勢いでZINEをつくって、文学フリマに……。これは、新しい趣味を手に入れたかも!?
では。今回の取材を終えて、最後に佐口から1首。
また、次の挑戦で!
(おわり)
クレジット
文:佐口賢作
編集:川口有紀
撮影:伊藤菜々子
校正:月鈴子
協力:光進堂
制作協力:富士珈機
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