「クラフトビール=ラーメン」!? ビールについて教えてもらったら意外なことだらけだった
近年、目にすることがぐっと多くなった「クラフトビール」。
飲食店でも飲めることが増えたし、日本でも新たな醸造所(ブルワリー)が続々誕生しているとも聞く。気軽にいろいろなビールを楽しめる機会が増えて、ビール愛好家としてはうれしい限り。
その一方で、内心困ってもいる。
「どれを選べばいいの? というか『クラフトビール』ってそもそもなに??」
クラフトビールは味に幅がある。いや、ありすぎる。だから飲んでみて「思ってたんと違う……」と感じた経験がある人は、私だけじゃないはず!
クラフトビールについて知り、味の違いがわかるようになれば、気分やシーンに合ったビールをチョイスできるのでは? そして周りに一目置かれるのでは?
そんな邪な感情を抱きつつ、まずはクラフトビールのプロに話をうかがうことにした。
ビールの種類は180以上! あなたはいくつ言えますか?
うかがったのは東京・駒込にある「日ノモトブルーイング」。ここで醸造所としてクラフトビールをつくりながら併設のタップルーム(ビアバー)も営んでいる田村大介さんが迎えてくれた。
お店に到着するやいなや、田村さんが出してくれたのが4種類のクラフトビールが注がれたグラス。まずは、この4種から話はスタート。
──どれも色が全然違いますね。
田村さん:左から、ビアスタイル……いわゆる“ビールの種類”で言うと「ファームハウスエール」「ヘイジーIPA」「ESB(イングリッシュエール)」「スタウト」です。見た目はもちろん、香りや味わいなどもまったく違いますよ。
──エールとスタウトは聞いたことがあるけれど、ほかは初耳です。というか、そもそも「ビール」についてよく知らないかもしれません……!
田村さん:ビールは、麦芽・ホップ・酵母・水を使って発酵させてつくるお酒です。酵母の種類や発酵の方法、素材の選択によってビールの仕上がりが変わります。大きく種類をわけると、「エール(上面発酵ビール)」と「ラガー(下面発酵ビール)」の2つ。エールは酵母の華やかな香りと豊かな味わいが出ますし、対してラガーはスッキリとしてのど越しの良い仕上がりになります。今挙げた4種はすべて「エール」ですね。
──原料はシンプルだけど、発酵で味わいが変わってくるんですね。
田村さん:その他にも、フルーツやスパイスなどを使用することもあります。一言でビールと言っても、原材料や製法、色や味わいなどで分類した「ビアスタイル」は、180種類以上あるんです。いま話に出てきた種類以外にも、「ヴァイツェン」や「ピルスナー」などの種類を耳にしたことがある人も多いと思います。さらに、エールの中でも「ホワイトエール」や「ペールエール」など、ビアスタイルは細かく分かれます。そして今も、世界のどこかで新たなスタイルがどんどん誕生しています。
「ビール=ラーメン」ってどういうこと!?
想像以上に奥深そうなビールの世界。違いがわかるようになるなんて無理じゃん! と思っていたら、田村さんから驚きの一言が。
田村さん:ビールはね、ラーメンなんですよ。
──ラーメン……ですか?
田村さん:ラーメンって、基本的な製造法や原材料はある程度決まっていても、いろいろな種類がありますよね。塩、味噌、醬油だけでなくすごく素朴なラーメンもあれば、具材を盛りまくっていたり、何日もかけてダシをとった濃厚なスープを使っていたり。ビールも同じです。基本のつくり方があって、原材料もシンプル。どのくらいホップを使うか、発酵の時間をどうするか、プラスで何を加えるかなどをチューニングすることで、ビールのスタイルが変わっていくんです。さっきの4種類をざっくりラーメンに喩えてみると、ファームハウスエールは創作淡麗塩ラーメン、ヘイジーIPAは二郎系、ESB(イングリッシュエール)は滋味深醬油ラーメン、スタウトは味噌ラーメンって感じですかね。
──「二郎系のビール」ってどういうことですか!?
田村さん:ESBは、モルトの風味や酵母由来の香りを紅茶のようにじっくり味わう地味なビール。対してヘイジーIPAは大量のホップを使っているので風味が豊か。タンパクが多めで、独特の口当たりとガッツリした飲みごたえが特徴です。そして何よりヘイジーIPAは今、クラフトビールの中でもとても人気が高いんですよ。
──なるほど、だからガッツリ盛るしインスパイア系のお店も多い「二郎系」! なんだかビールの種類がグッと身近に感じられるようになってきました。
田村さん:すべてのビアスタイルを知る必要はないし、そう難しく捉えなくても大丈夫ですよ。
──ちなみに、私たちが普段飲んでいる日本の大手メーカーのビアスタイルは何ですか?
田村さん:チェコ発祥のラガービール「ピルスナー」です。日本で大手ビールメーカー各社が出しているビールはほとんどがピルスナーですね。ピルスナーの特徴は、爽やかな苦味とキレのあるのど越し。ゴクゴク飲める爽快なピルスナーは万人受けしますし、世界で最も飲まれているビールなんですよ。原材料はシンプルながら各社こだわりの醸造方法があり、黄金色に澄んだ見た目は、まさに「引き算のビール」。ラーメンに喩えるならシンプルな中華そば、ですね。
クラフトビールって、普通のビールと何が違うの?
田村さんの「ビール=ラーメン説」で、なんとなくビールについてわかってきた気がする。では、「クラフトビール」って普通のビールとどこが違うんだろう?
──そもそも、「クラフトビール」の定義ってなんですか?
田村さん:よく聞かれるのですが、じつはクラフトビールって明確な定義はなくて、なかなか答えるのが難しいんです。クラフトビール先進国のアメリカでは「小規模」「独立している」といった定義があり、製造量によって線引きもあるのですが、日本では特に規定もなく、そのまま置き換えるのは無理があったりして。大手メーカーからも「クラフトビール」をうたった製品が発売されてますしね。
──日本では、はっきりと決まっていないんですね。田村さんの見解としては?
田村さん:小規模の醸造所でつくられる個性的なビールって感じかな。先ほどお話ししたように、使用する原材料の種類や量、発酵時間などを変えることでビール職人たちの個性が出てくるわけです。飲んでいただければ、はっきりと違いを感じていただけると思います。職人がつくるこだわりの手作り感を楽しんでもらいたいですね。
「クラフトビール」、じつは日本でも結構前からあるんです
──どうしてクラフトビールが今注目されているんでしょうか?
田村さん:2010年あたりから本格的に盛り上がってきていますね。アメリカを中心に新しいビアスタイルがどんどん生まれ、「クラフトビール」という言葉が日本で浸透してきたのが大きいかなと思います。今では、うちのように都内の住宅街の一角でビアバーに小さな醸造所を併設するケースも増えてきました。ビールは保存時の温度管理など品質管理も重要ですし、ベストな時期に出荷したものを一番おいしい状態で味わえるのが醸造所併設のメリット。機会があれば、ぜひこういった醸造所併設のビアバーで「クラフトビールの“生”」を味わってみてください!
確かに店内から見える併設の醸造所はとても存在感があり、ここで今飲んでいるビールが生まれていると思うと、それだけでビールがおいしく感じられそう。とはいえ、これだけの設備を整えるのも大変だし、ビール職人になるのってめちゃくちゃ大変なのでは?
次回、ビール職人になる方法や気になるお金のこともあれこれ聞いちゃいます!
(つづく)
クレジット
文:大浦綾子
編集:川口有紀
撮影:和田咲子
校正:月鈴子
取材協力:日ノモトブルーイング
制作協力:富士珈機
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