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こんなひといたよ 第9話「勝ったらカツ丼ボクサー」
私の読んだマンガで出会った人たちの物語を紹介するシリーズ「こんなひといたよ」。
今回は、今回は「深夜食堂」から、カッちゃんというボクサーのお話。そのシーンを紹介する(原作のセリフを引用しながらテキストで再現)
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今晩も深夜食堂は営業中。店の中では、サラリーマン2人が「これからはモチベーションをあげめ、イノベーションを起こさなきゃ」というわけのわからん会話をしている。マスターは眉をひそめて「なんだこいつらは」という顔をしている。
そこに暖簾をくぐってボコボコの顔の男が顔を出した。男はニヤッと笑って「カツ丼!」と一言。常連客のようでマスターは「今日はどうだった?」と声をかけた。男は「8ラウンド32秒!」、「おめでとう!一杯おごるよ」とマスター。男は、最高の笑顔で両手の親指を立てて「やったぜ!」と一言。
ボクサーでカッちゃんと呼ばれている。マスターは彼のことが大好きなようだ。こめんどくさい男ではなく「勝つとカツ丼を頼む」そのわかりやすさ、いい笑顔が気に入っているみたい。
カッちゃんの隣には、一組の母娘。娘の名前はマユちゃん、二つ結びがかわいい保育園の年長くらいだろうか。母親のアケミさんは、明らかに夜のお店で働いている感じ。夜間保育に子ども迎えに行って家に帰る途中なのだろうか。
マユちゃんがカッちゃんの顔を見るなり「おじちゃんお顔どうしたの?」と心配そうな顔で話しかけた。「おじさんはボクシングやってんだ」とカッちゃん。「カッちゃんは試合に買った日にはウチにカツ丼食べに来るんだよな!」と言って、アツアツのカツ丼をカッちゃんの前に置いた。マユちゃんはボクシングのことはよくわからないけど、カッちゃんに興味をもったようだ。
後日…マユちゃんはカッちゃんのボクシングをテレビで見たようでそれからカッちゃんとカツ丼に夢中。カッちゃんも、マユちゃんとアケミさんを試合に招待したり、3人で一緒に遊ぶようになったんだって。カッちゃんは独身、アケミさんはシングルマザー…3人はいい感じになっていったみたい。
カッちゃんが今売り出し中の若手ボクサーに負けた日の夜のこと。この試合に買ったらアケミさんにプロポーズしようと思ってたんだって。カッちゃんはボコボコの顔で2人と一緒にカウンターに座って、マスターに「引退することに決めたよ」と告げた。マスターは「…ごくろうさん、カツ丼おごらせてくれよ」と笑顔で答えた。
カッちゃんは「いや親子丼にしてくれ」と一言。アケミさんはちょっと照れた顔、マユちゃんはうれしそうな顔をしてる。カッちゃんはボコボコな顔だけど、わかりやすいカッちゃんのこと、ニヤッと笑ってるだろうな。
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冒頭で2人のサラリーマンの「これからはモチベーションをあげめ、イノベーションを起こさなきゃ」という会話に、マスターが眉をひそめているシーンがある。わけがわからんが、面倒なやつらの会話の象徴だ。
それと対比する形で、わかりやすいカッちゃんの登場だ。誰もがカッちゃんの方を気持ちのいい男だと思いながらも、サラリーマン2人のような会話をしている。
一体これはどういうことなのか?たぶん勝ち負けのはっきりする世界で勝負することが怖いんだと思う。勝ちか負けかわからない、負けても誰のせいかわからない、そんな世界で生きている方が楽なのかもしれない。
ボクサーは、勝つか負けるかだけ。人のせいにもできない自分の拳一つ体一つの勝負、そんなシンプルな世界。世の中をシンプルな世界にできるかどうかは自分次第。やるかやらないかだけだ。