こんなひといたよ 第4話「床屋のオヤジと不器用な息子」
私の読んだマンガに登場するキャラと印象的なシーンについて書くシリーズ「こんなひといたよ」。
今回は藤子不二雄Aのブラックユーモア短編集の1巻の第1話「不器用な理髪師」を取り上げる。藤子不二雄Aと言えば、「笑うセールスマン」に代表されるように、人間の闇を扱ったブラックジョークのマンガが多い。今回扱うのは、1話完結のお話、ある理髪師の親子とそのお客の奇妙な話だ。
まずはそのシーンを紹介する(原作のセリフを引用しながらテキストで再現)
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東京の某駅の近くにある理髪店に入るセールスマンの男が入っていった。ビシッときめた高そうなスーツにアタッシュケースを持っている。できる男風だ。
理髪店の中にいたのが、親子と思われる男が2人。オヤジとまだ見習い中の息子という感じの若い男。こ息子は暇そうに、本来お客が座るはずの鏡の前の椅子に座って足を投げ出している。
男が中に入ってくるとびっくりしたように立ち上がり「マスター、お客さんですよ、お客さん」とオヤジに声をかけた。やはり息子は、見習いでまだお客さんへのサービスは行わないようだ。
男は「頭はいいのでヒゲだけあたってくれ」とオヤジに伝え、二人は楽しげに何か話をしている。
そこに息子が蒸しタオルを持ってきて、セールスマンの顔にのせた。セールスマンは「あちーっ!!」と飛び上がった。オヤジは「このドジ」と若い男をどやし。男に「まことに申し訳ありません」と平謝り。やはり息子はまだ見習い中の見習いのようだ。
気を取り直し、オヤジは男のヒゲを剃りはじめた。じきに男は眠ってしまった。オヤジが息子に「客が寝ちまったぜ…おまえカミソリつかってみろ」と言った。
息子は「えっ!またかい。オレ自信ないなぁ」と謂いながら、しぶしぶカミソリを握り、男の顎にカミソリをあてた。
オヤジは「ばっかやろう!!そんなに刃を立てちゃいけねぇーもっと寝せろ」「よし、今度はマユゲの下をそってみろ!」と言った。
息子がマユゲの下にカミソリを当てたところ「ザクッ」と肌を切ってしまった。男は「ぎゃー!」と叫び声をあげた。「オヤジこれどうしてくれるんだ」と男はすごい剣幕。息子はうろたえるだけ。
オヤジが「まことに申し訳ありません!地を拭きましょう」とタオルを男の顔に当てた…
するとすぐに男は動かなくなった…
オヤジはタオルごしに男の顔を強くつかんだように見えた。あれだけ騒いでいた男がスッと力が抜けたように動かなくなったのだ。
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藤子不二雄Aのお話には、この息子のように気の弱い男がよく出てくる。その気の弱さゆえに生きづらさを感じているタイプだ。自伝マンガの「まんが道」を見る限り、このタイプの男はA先生自身を映しているのかもしれない。
そしてこの気の弱い男が何か失敗をし、とがめられたり、怒られたりするが、最後は何らかの復讐を遂げるのだ。この作品はまさにその象徴的なもののように感じた。ブラックユーモア短編集の第1巻の第1話にふさわしいお話だ。