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『Ryuichi Sakamoto | Playing the Orchestra 2014 』 坂本龍一

年末に、坂本龍一の人生最後の日々を映像にした「Last Days」を観た流れで、

『Ryuichi Sakamoto | Playing the Orchestra 2014 』を鑑賞してきた。

上映期間は、1月13日(明日)までだったから、今日を見逃す訳にはいかなかった。

小倉から高速バスで博多まで、中洲を抜けてキャナルシティにある映画館に向かう。
ここは、50歳過ぎの大人には程んど行く用事のない若者とインバウンドの人達で賑わう商業施設だが、大きな映画館はここにしかない。

劇場はほとんど貸切状態で、後方の席は中央近くに僕と2人組の男性の3人だけだった。

映画館でコンサートを観るのは初めての体験だ。

一緒で幕が開いたようにスクリーンに舞台が現れた。

荘厳な大ホールの中央で、東京ヒィルハーモニーの楽団が楽器とともに扇形に広がっている。

ステージの袖から坂本龍一が悠然と中央に歩いてきて、コンサートマスターの三浦彰宏さんとしっかり握手する。

もはやコンサートホールにいるような感覚になっていた。

教授の指揮で、オーケストラの楽曲が始まる。

バイオリン、オーボエ、フルート、打楽器、ウインドチャイム、そして指揮をする坂も龍一(教授)

曲の流れに合わせて、それぞれの楽器を演奏する姿が絶妙なタイミングで映し出される。

教授のバーンと手を前に振り出す姿、コンサートマスターの威厳ある表情、オーボエを吹く演奏者の実直さ

その一瞬一一瞬のシーンがあまりにも美しい!

オーケストラの音と一体化する映像も、まさに音楽とともにあるアートだ!

この劇場鑑賞は、荘厳なサントリーホールで生で音楽を聴くのとは別の、映像としてコンサートを鑑賞することのできる人の特権だ。

『美貌の空』のイントロに心が沸き立つ

2010年頃、何もかもがパッとしない人生に淋しさを感じていた時、
大貫妙子が歌を入れた『UTAU』のアルバムの中の曲『美貌の空』を、冬枯れの公園を歩きながらよく聴いていた。

これまで指揮をしていた教授が、この曲のイントロをピアノで弾きはじめた
それだけでグッと胸にせまる

ピアノに他の楽器が加わり、音が重厚感をましていく

教授が立ち上がり、優雅な手振りで指揮をとる

「君の可憐な喉笛から・・・・」

歌でいうこところのこのサビの箇所で、オーケストラのシンフォニーが極まり、
あまりの美しさに涙が流れる

オーケストラの『美貌の空』は、どこまでも表現が拡張されていく
格調高く 優雅に 自由に

後半に入り、それぞれの楽器が自由に弾きだして、全体の音が不協和音のように聞こえてきた

形あるものが、いつかは無くなるように
秩序あったものが、開放されていくように
この世界は、カオスに向かっていくことを表現しているようでもあった

コンサートマスターのいるバイオリン奏者達がアップされた
不協和音の中でも、バイオリンの和音がしっかりと保たれているメロディーが聞こえてくる

大きな渦の中で、また再びそれぞれの音が協調しあいシンフォニーとなっていく

教授が手を振り上げ、オーケストラが無音に吸い込まれ、曲が終わった

ああー ああー なんという美しさであろうか 流れる涙を手で拭う

Last Daysの映像に出ていた人生最後の教授ではなくて、今まさに目の前で指揮を取る2014年の坂本龍一の姿は、ほんとに元気だ、溌剌としている。

オーケストラと演奏することが、音楽をすることが、こんなにも嬉しいというような眼差しで表情で指揮をしている。

そして、一つ一つの所作がとにかく美しい 上品な紺色のスーツも決まっている

教授は、職業人として音楽家として生きて、沢山の楽曲を生み出し、音楽を自ら楽しみ、全精力をかけて世界を日本を周り。こうして我々に音楽を楽しませてきた。

指揮をする姿とLast Daysの映像を重ねて、坂本龍一という人の生きた奇跡を想像する。

曲の間のMCで、東北の子供達を集めてオーケストラを結成している話をしてくれた。教授はここに意気揚々と音楽の希望を見ていた。

この2014年のコーンサートから9年後、Last Daysの映像では、東北のオーケストラを見ながら、嬉しそうにベッドの上で指揮をする教授の姿があった。

「音楽は、上手いとか下手とかではない、音楽をしようとする心情が大切なんだ。」というMCでの教授の言葉が、美しくて泣けた。


最後の曲は、『戦場のメリークリスマスMr Lawrence』


ピアノに手を置く姿がアップされ
あのキラキラとした雪のようなイントロが始まる

最初の音だけで、聴く人の心を沸き立たせる
世界中の人達が、この曲に感動してきた

坂本龍一が、遺してくれた skamotocommon としての名曲

『戦場のメリークリスマス』は、20世紀と21世紀を音楽家として生きた坂本龍一が、未来の人類に遺してくれた最も美しい楽曲ではないか

ピアノに座って演奏が始まろうとした時、遠くの客席から英語らしい言葉で声援が投げかけられた
教授がそれに手を挙げて、一言応えてピアノを弾き始めたのは、映画のワンシーンのようだった

曲のクライマックスのところで、オーケストラの音が不況和音のように聞こえてきた。その中でも、このカオスを乗り越えようとする力強い和音が響いている

戦場とも思えるようなこの世界の中で、必死に調和の世界を見いだそうとしているイメージが広がってきた

教授を中心とするオーケストラ全体の映像が上から写しだされる

https://www.wowow.co.jp/film/ryuichi-sakamoto/


指揮をする教授が、まるで神を演じているようにも見えた

神もこの世界の中で、カオスの中でともに生きて、必死にもがいて、素晴らしい世界を創造しようとしている

力強い調和の和音は、神も人もすべてが混然と一体となって一緒に創っていくんだ。その先の光に向かって

そんなメッセージが、このオーケストラの曲に込められているのではないか。
『戦場のメリークリスマス』という楽曲の中に、壮大なテーマを感じて、心が打ち震えた。

いよいよ最後の旋律で、打楽器が鳴り、音が一つの方向にまとまっていく

教授の右手が高く振り上がり、曲が終わった

天に高く上がった右手の人差しが映し出された

拍手喝采がサントリーホールに鳴り響き、オーケストラと聴衆が一つになった


この後の演奏について、もはや何かを書くことが出来ない。

アンコールの中で鳴り止まない拍手が何度も続き、それに応える坂本龍一とオーケストラの姿があまりにも美しかった。

『Ryuichi Sakamoto | Playing the Orchestra 2014 』が終わった。

男3人が並んだ劇場が明るくなり、僕だけハンカチがなかったことが恥ずかしかった。

坂本龍一がこの世を去ってから、こうして彼の遺してくれた作品を、その音楽家として生きた道を、そこに花がないことが、こんなにも美しいと花だと思わせるように、空の姿を儚んでいる。
Flower is not Flower


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terustar
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