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結局、稲盛和夫氏は何を変えたのか~じゃがりこ女子社員の体験記~

はじめまして。てるいと申します。私は、2007年から2017年までJALグループにいました。そして2010年1月、日本航空は事実上の経営破綻をしました。

私はこのnoteで、当時何が起きていたのか、その時何を感じていたのかを社員目線で体験記として書くと共に、これまで学んできた心理学、神経科学、マインドフルネス等を含めた人や組織のメカニズムをもとに、その過程の中で行われてきた取り組みがなぜ『再生した』と言われるような結果に繋がったのかを私なりの観点を交えて紐解いていきたいと思います。

と同時にこのnoteでは、破綻直後あれやこれやと新しい取り組みが始まる度に「なんで私がこんなことやらなきゃいけないの。経営理念で“全社員の物心両面の幸福”とか言ってるけど、とても私のソレに繋がると思えないんだけど。」と思って悶々としていた自分を思い出しつつ、それが繋がっちゃうんだなー!なんて当時の自分に声をかけつつ書きました。

結構ボリュームがあるnoteになったのですが、早い方でしたら30分もかからず読めるのではないかと思います。構成としては、『①破綻前から破綻後までの出来事と併せて、社員だった私がどう感じてきたのかというストーリー』と、『②その時々に起きていたことや会社の打ち手に対する私のなりの解説』という、”①ストーリー→②解説→①ストーリー…”という形式で書きました。どうでしょう、経営者視点で紐解いている書籍などはあっても、渦中にいた社員でこのような話をしている方はあまりいないかもしれません。結構赤裸々に描きました。経営者の耳には絶対に入らないであろう『社員同士でするぶっちゃけ話』のような口調で書いているところもあるので、すこしソワソワしています。

このnoteを最後まで読むと、会社が打ち手を打つと社員はどのように感じるのか、そして渦中にいた「愚痴ばかりの社員」が「チームで成果を出せる社員」になるまでのリアルストーリーと、その変化に欠かせなかった会社のある取り組みが分かります。そして、もし経営者・管理職以外のお勤めの方が何かしらの興味を持って読んでくださっているのでしたら、会社はどのような意図で様々な取り組みをしようとしているのかといった視点を得ることで、今の職場でもっと楽しく働くためのヒントにも繋がるような内容になっているかと思います。

当時、JALグループの一員として多大なるご迷惑をおかけしてしまった身としてこんなことを言うのは不謹慎かもしれませんが、破綻前から破綻後まで約10年勤めていた中で、稲盛さん(社員当時に呼ばせていただいていた呼び方で失礼します)に率いてもらった組織で素晴らしい方々と働くことが出来て本当に幸運だったなと思います。私の人生は間違いなく180度変わりました。仕事なんてどうでもいいと思ってた私が、仕事が楽しくてしょうがなくなりました。もっとチームで成果を出すには、と人生ではじめて心の底から”学びたい・探求したい”と思うようになり、人と組織のメカニズムに関する学びの探求を始めるようになりました。そして現在、JALグループを退職したのち、2社の現場経験を経て、これまでの様々な学びを統合した私なりの組織の在り方をベースに、『一人の強みを活かして今いるメンバーで成果が上がる組織づくり』の構築のお手伝いをしています。

この記事を読んでくださっている方にとっては釈迦に説法かもしれませんが、組織が今いるメンバーで成果を上げ続けていくためには、『自分なりのやり方』や『いつものパターン』だけでなく、人や組織のメカニズムの根本的な部分を理解していくことが必要です。人や組織のメカニズムを理解することは、社員一人一人の強みを活かしながらチームでビジョンを実現していくために必須の知識であると思っています。

このnoteは、当時本も滅多に読まなかった私が読んでも理解できるよう、専門用語は極力使わないように書いていますが、私にしか書けないとても濃い内容になっていると確信しています。このnoteはあくまでも社員としての私自身の体験とこれまでの学びをもとに言語化した内容ですので、この内容が稲盛さんの教えや経営哲学とイコールではないことをご承知おきください。

それでは、まいりましょう!


1.  破綻前、社員は会社をどのように見ていたのか


いきなりこんなことを書くのも気が引けるのですが、私は暇さえあれば、勤務中にじゃがりこをポリポリ食べながら手紙交換をしているような社員で、仕事なんでどうでもいい、プライベートさえ楽しければいいと思っていました。過去とはいえ、なんともやばい社員だったなと自分でも思います。

もちろん、入社当時からこうだったわけではありません。念願叶って入った会社でした。みんなが知っているJALグループ、そして物流に興味があったので貨物の会社に入りました。取り扱い物量も日本一。しかも、私が担当していたのは自社の国際線出発便。“ミスなく時間内に”が当たり前の世界ですから、相当なプレッシャーもありました。それでもその仕事を一便一便やり遂げることに、やりがいと誇りを持っていました。

ですが、日が経つにつれ仕事がなんだか嫌になっていきました。“ミスなく時間内に”という世界なので出来て当たり前で褒められることもなく、「あれやって」「これやって」とマニュアル通りな日々。ゆでガエルになっていくように、じわじわと日々が積み重なり虚無感が徐々に増していくとともに、仕事がつまらないと感じるようになりました。そして気づけばじゃがりこポリポリ…。とりあえず3年いればいいよね、が当時の口癖のようになっていました。

上司は絶対、ルールも絶対という社内の雰囲気は、表面上で仕方なく繋がっているような感覚がありました。会話も上司部下の双方向というより、トップダウン。それがいい悪いという話をしたい訳ではなく、当時はそんな感覚でしたし、一社員だった私には会社・組織が無機質に見えていました

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★解説:なぜ、若手社員は辞めるのか?

「せっかく採用したのに、なかなか若手社員が定着しない」という相談をいただくことがありますが、また若手が辞めてしまったと悩んでいる方も少なくないのではないかと思います。副業時代も相まって、一社にずっと勤め続けるという時代ではなくなってきているのも事実ですが、採用しては辞めるといった状況が続けば、会社としては勘弁してくれよ、と思いますよね。

事実、厚労省の調べによると、令和2年3月に卒業した新規学卒就職者の離職状況は約3割なのだそうです。

【新規学卒就職者の離職状況(厚生労働省)】
・高卒離職率: 37.0% (前年より +1.1ポイント)
・大学卒離職率: 32.3% (前年より +0.8ポイント)

※就職後3年以内のデータ/令和2年3月卒業者対象

出典:厚生労働省HPより

やっぱりそのくらいいるのか、と思う一方で実際結構多いんだなという印象を持ちます。せっかく入った会社なのになぜ辞めてしまうのでしょうか。

当時の私も「とりあえず3年いればいいや」とよく話していたのを記憶していますが、入社前は少なからずともワクワクキラキラしていた気持ちはあったはずなのに、何がそうさせるのでしょうか。人それぞれ理由はあると思いますが、その理由の共通項があるのではないかと思います。それは、『ポジティブな未来が想像できない』ということ。

レンガ積み職人の話をご存じでしょうか。旅人が、建築現場でレンガを積んでいる職人に「何をしているの?」と聞くと、それぞれ以下のように答えたそうです。

1人目は、「見れば分かるでしょ。仕方なくレンガを積んでいるんだよ。」と答え、2人目は「家族を養うために、レンガ積みの仕事をしているんだよ。」と答え、3人目は「歴史に残る大聖堂をつくっているんだよ。」と答えたそうです。1人目は目の前の仕事を淡々と続ける単純作業として、2人目はお金を稼ぎ生活を支えるため、3人目は、後世の人々の心のよりどころとなる大聖堂を建てるため。同じ作業をしているにもかかわらず、答えた内容も働いている様子もまるで違ったというのです。

仕事をし続けた先の「ビジョン」や、そもそもなぜその仕事をしているのかといった「目的」が見えているか否かによって、日々の感じ方は違ってきます。 上司としては、仕事にはすべて意味があって、一つ一つの仕事がどんな価値提供に繋がっていくかイメージ出来ることは当たり前に思うかもしれません。ですが、特に新入社員は目先のことで精いっぱいになり、入社当初思い描いていた入社目的と自分がやっていることがどう繋がっているのか、会社やお客様にとって目の前の仕事をすることで何がどうなっていくのかを見失いやすくもあります。レンガ積み職人の話のように、常にビジョンや目的目標を伝え続ける、確認するということが大切です。
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2.  破綻直後、社員は何を感じていたのか



そしてあの日。いつも通り起きてテレビをつけると、頭が真っ白になりました。JALが事実上の経営破綻をしたと。…はい?私社員ですけど何も聞いてませんよ、と。直接言われているわけじゃないから本当か分からないし、でもテレビで言ってるってことは本当のことなのかな。会社に行っても会社ってあるのかな、え、今日って会社に行っていいのかな。ん、破綻って会社がなくなるってことだよね?この先どうなっちゃうの…。そんなことがぐるぐると頭を巡りながら、職場に向かいました。会社に着き、制服を着て職場に入ると昨日と何も変わらない光景が。いつもの人が、いつも通りの仕事をして、飛行機もいつも通り飛んでいる…。何が何だか分からなくなり、不安が増していきました。と同時に、「なんで私がこんな目に合わなきゃいけないの頑張って入った会社なのに…私の人生どうしてくれるの!」と、怒りすら感じていました。

今思えばですけど、なんで私がこんな目になんて思っていましたが、そもそもこういう社員がいたから破綻したんだよなと思います。じゃがりこを食べながら手紙交換していてもだれも怒らない、仕事なんて言われたことを最低限やればいい、自分がミスをしても心のどこかで誰かのせい、会社のせい。お客様がいて、飛行機が飛んで、仕事が出来る環境があって当たり前。備品はジャンジャン使えて、給料や有給を貰えて当たり前。当時の私は、日々ある「あたりまえ」に完全に胡坐をかいていたなと思います。その瞬間にある環境への感謝なんて一ミリもなかったかもしれません。今こうして思うのは、当時グループ3万何千人いたと記憶していますが、そういう社員一人一人の「あたりまえ」が破綻への大きな影響を与えていたのではないかと思います。

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★解説:社員が『受け身』になる理由

一般的には、入社当初は知らない・知識がないことが多いので、まずは学ぶという受け身からスタートします。徐々に経験と知識を得て、ある程度まで出来るようになってきた段階で、自主性を徐々に発揮してほしいと思うのが自然かと思います。ですが、実際は受け身の姿勢からなかなか抜け出せず、自分で何か考えて行動するようにまで至らないということが起こりがちです。受け身の社員に頭を悩ませている経営者も多いのではないでしょうか。

では、なぜ受け身の社員はなかなか変わらないのでしょうか

よく起きているのはこのようなケースです。まず言われたとおりにやってみてと言われ、用意された環境で言われたことを言われたとおりにやってみる。このような状況がしばらく続くと、与えられたことをするという受け身のスタイルで仕事をすることが当たり前になっていきます。その状況で、自分で考える機会がなければ、結果的に受け身社員になっていきます。

と、ここまで読んで、「そうそう、だから自分で考えてやってみてと言ってるんだよ。でも変わらないんだよな」と思った方もいるかもしれません。実際、私が関わらせていただいている経営者の方からもよくお聞きするお悩みです。なぜ自分で考える機会を与えているのに、受け身のままになってしまうのでしょうか。よく現場で起きているのは、やってみろと言ってやらせるも、結局「このやり方のほうがいいんじゃないか」と、やり方や考え方を否定してしまう。そして上司のやり方に戻る、ということです。そうすれば「自分で考えてやってみても、結局何か言われるなら考えてやっても無駄じゃん。上司が言う通りやればいいんでしょ。」となり、受け身に戻ってしまいます

これまで経営者の方から「受け身の社員が多くて困っている」というような悩みを相談していただくことも多かったのですが、よくよく話を聴いていくと上記のような構造になっていることが多く、受け身の社員になっているのは本人の問題だけではない場合のほうが実際多いなと感じます。
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3.  破綻後、社員がはじめに感じた会社の変化



破綻を知った後、JALの経営者が変わると知りました。正直、「へー」くらいにしか思っていませんでした。というのも、これまで自社の社長でさえ直接話した記憶なんてありませんし、紙面上のお堅いよくわからない文章でしか“社長”に触れることがなかったからです。なんだか遠い存在で、私に何の影響もないと思っていました。そしてじわりじわりと、今までやったことがないような取り組みが始まりました。

①フィロソフィが降りてきた

だいぶ細かいステップが計画的に実行されていたと思いますが、一社員だった私が一番初めに感じた変化は『経営理念やフィロソフィが出来た』ということでした。もうここまで読んでいただいた方でしたら推察できるかと思うのですが、それもまた「へー」という感じでした。経営理念って何?フィロソフィってカタカナでよくわからないけど?と、そもそもその言葉の意味が分からないという状態です。当時の私が理解できるように経営理念とフィロソフィを言葉にすると、経営理念「会社の使命、存在意義」でありフィロソフィは「みんなが日々大事にすること」という感じでしょうか。

この経営理念やフィロソフィが出来ると、徐々に取り組むことが増えてきました。取り組む、といっても何をどう?と思う方もいるかもしれません。いろんな取り組みがありましたが、一言でいうと「フィロソフィを軸に自分で考えて行動につなげるための取り組み」です。それがまた面倒くさいわけです。目の前の業務だけでも大変で精いっぱいなのに、なんでそんな余計なことやらなきゃいけなきゃいけないの、こんなことしなくても給料もらっていたのに。追加でやっても給料変わらないんでしょ、と思っていました。

しかも、です。書いてあることって“そりゃそうだよね””それって大事だよね”という人としての在り方や考え方が書いているわけです。「正直これって、きれいごとだよね」と思っていました。なんと言いますか、道徳の教科書に書いてあるような言葉で、額縁に入れられて自分が行くことがない社長室に飾られてあるようなつるっとしたもののように感じていました。自分には全く関係のないもののように感じていたものを、自分とつなげていくような「フィロソフィを軸に自分で考えて行動につなげるための取り組み」をしなければならず、しんどいなと思っていました。

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解説:何故、ビジョンミッションバリューが必要なのか

社員としては、出来た当初は「だからなに?」という感じでしたが、結果として思うのは、経営理念やフィロソフィがなければ「再生した」と言われるような変化はあり得なかったのではないか、ということです。それはなぜなのか、ここで一人一人の強みを最大限に活かすチームビルディングに必要な3つの視点『人材力・組織力・関係力』をもとに解説したいと思います。この3つの視点は、私がチームビルディングを学び続けているコーチングファームジャパンの石見幸三氏が提唱しているもので、3つの視点の頭文字をとってSSR理論(人材力(強み):Strengths、組織力(構造):Structure、関係力(関係):Relation)と呼ばれています。

SSR理論:コーチングファームジャパン 石見幸三氏提唱

【チームビルディングに必要な3つの視点】
①人材力(強み/Strength)
メンバーの強みや思考・行動の特徴を踏まえて、どんな配置が必要か、あるいは今どんな人材が必要か考える力
②組織力(構造/Structure)
チームの目的や目標と、個人の目的目標との接点をしっかり作ったうえで、メンバー一人一人が主体的に動き、かつチーム全体が一丸となって相乗効果を生み出せるようにする力
③関係力(関係/Relation)
メンバーが互いにコミュニケーションによってやる気と能力を引き出し、チームを活性化させる力

コーチングファームジャパン石見幸三氏 提唱

一人一人違う人が集まった一つの組織で成果を出すためには、同じ価値観や判断軸をもって進まなけれなりません。もし共通したものがなければ、個々人が持つ目には見えない判断軸で判断するので、意見がぶつかり、まとまらず、結局声の大きい人の意見や、過去の慣習に従った意思決定がされやすくなります。それではチームとして機能しませんし、当然、望む目的地には着かず成果も出ません。

つまり、人は違うということが大前提である以上、違う人たちが集うチームで一つの目的地にたどり着くためには、まずSSR理論の人材力にあたる部分「人と人は違う」をベースに、SSR理論の組織力にあたる会社のビジョンミッションバリューを明確にする必要があります。このビジョンミッションバリューは組織力の最上位にあるもので、このビジョンミッションバリューからチームの目的目標が降りてくるものですので、逆説的に言うとビジョンミッションバリューがなければ、目的や目標は本来つくれないものですし、もしつくったとしても適切なものではなくなり、社員としても「毎回言ってることが違う。目指しているところが違うように感じる。」となり、目的や目標をつくったとしても混乱を招きかねません。
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②アメーバができた

そして何度かのチーム編成を経て、事業部内でアメーバという最小集団ができ、部門別採算制が始まりました。そのチームを一つの会社と見立てて、日時採算表をもとに日々の収支をみていくことになりました。と、当時の私は日時採算表と言ってもピンとこないと思うので、私なりの言葉で表現すると「この会社黒字?とみんなが毎日確認するツール」という感じでしょうか。最小集団の一つひとつが黒字で全部の集団が黒字だったら、その最小集団が集う会社は黒字だよね、という考え方です。

これもまた今にして思うとすごいことを思ってたなと思うのですが、「なんで私たちが見なきゃいけないの?会社の経理とか経営企画室とか社長ってそういうのを仕事にしてるんでしょ。それで給料もらってる人がやってよ。こっちは通常業務で忙しくてそれどころじゃないんですけど。」と思っていました。…ぶっちゃけすぎでしょうか笑 もちろん、採算表を見れるようになるための勉強会などもありましたが、何がどこに書いてあるかなんて覚えられる気もしないし、しばらくは私が分からなくてもわかる人がやってくれるでしょ、と思っていました。

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解説:数値目標を立てると社員は考えるようになる

「人は数字を追う」というようなことを稲盛さんも仰っていましたが、実際にそうだったなと思います。日時で採算を追っているので、例えばその数字が減っていればなぜそうなったのかを考えましたし、増えていてもそれは同じでした。数字を追うと社員一人一人の行動が数字、つまり成果や経営に直結していることを体感しました。“一人ひとりがJAL”というフィロソフィもありましたが、まさにそうだなと感じました。また、この数値目標は最終的に自分たちで考えるようになっていきました。「やれ」と言われた数字ではなく自分たちで目標を決めていたことから、コミットメントも強くなっていったように思います。

と、このお話を聞いて「自社でも数値目標を社員で立てさせているのに、その先の行動に繋がらないんだよな」と思った方もいるかもしれませんが、ただ数値目標を立てさせたらいいというわけではないんです。「こういう目標にしたいと思っている」と一人一人が考えた(人材力)あと、その立てた目標について上司と対等の立場で話し合う(組織力と関係力)というプロセスを重ねていくことが重要です。この“人材力x組織力x関係力”の一つひとつを強化していくプロセスを丁寧に行っていくことで、自分で目標を立てても結果として他人事になるのではなく自分事になっていきます。そして、この“人材力x組織力x関係力”のサイクルを回すことそのものがSSR理論になります。
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4.  「愚痴ばかりの社員」が変わり始めたきっかけ

そうこうしているうちに、なぜか品質向上施策のリーダーに任命されました。振り返って思えば、このリーダーになったこと、つまり「役割と責任を与えられたこと」が自分が変わり始めた一つのきっかけになっていたと思います。ですが当初はやはり、「なんで私?めんどくさい。」と思っていました。余計な仕事が増えるのが嫌というのもありましたが、チームメンバーにプライベートでも仲の良い同年代の友人がいたので、その人と嫌な関係になりたくないという気持ちが一番強くありました。

組織ですから、任命されたらやらざるを得ません。品質向上チームのリーダーとして、自分たちのアメーバで担当していた自社便国際線の品質向上に取り組むことになりました。リーダーなんて初めてだし、ましてや人間関係を拗らせたくないのに、たいして話したこともない協力会社の人や、言語が違う着地スタッフと協働しないと成果が出ない、成功しない。そもそも大前提として、出発便担当で常にタイムリミットがあり、定刻に間に合わせるためにヒーヒーしていたのに、それに加えて品質向上への取り組みをするなんて…。どう考えても、みんなが同じ方向を見て成果を出すなんてイメージできず、無理だ…と思っていました。

が、やるしかないので、とにかく我流で考え、コミュニケーションを取り続けました。やってみたら意外とうまくいくじゃん!…なんていうドラマのような結末は待っておらず、案の定、悲しいことにメンバーから避けられるようになりました。話しに行こうと近づくと、サーっと私の周りから人がいなくなる。ミーティングで目を見て話しても目が合わない。本当に泣きたくなる日が続きました。そもそも、会社からやれって言われてるからやっているだけで、私がやりたくてやってるわけじゃないのに、なんで私がこんな目に合わなきゃいけないの、他の人やってよと、嫌で嫌で仕方がありませんでした。

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解説:役割と責任を与えると、他責から自責になり動きはじめる

正直、役割と責任を与えられた当初は本当に嫌でしたが、もし役割と責任が明確に与えられていなければ私が動くことはなかったと思います。というのも、上司にチーム全体で取り組むから「何か自分で考えてやってみろ」と漠然と言われたとしても前述の通り忙しいのでそれどころではないですし、誰もやっていない中で自分が何かをすることで人間関係に波風を立てたくなかったからです。そして、「誰かやってくれ、自分はやりたくない」という思考が常に頭の中にありました。

これも、SSR理論でいうところの組織力にあたります。人は違う中で一つの目的や目標に向かってチームで進んでいく際に、役割や責任が不明確だと、人は「自分がやらなくても誰かがやってくれるだろう」「この仕事だったらあの人がやってくれるだろう」という考えが浮かび、実際はみんな同じことを思っていることが多いので、誰もやらないという状況になりがちです。

そんな中、役割と責任を与えられ、やらざるを得ない状況になりました。そして、徐々に自分で考えてやってみる→成果が出るという小さい成功体験を積み重ねていきました。当初はこの役割と責任が嫌で仕方ありませんでしたが、役割と責任を与えてくれたおかげで「どんどんアイデアをだしてもいい」という自分がやってみたいことをやってみる、力を発揮してもいいステージを与えられているような感覚になっていきました。
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5.  もう限界、と思った時に救ってくれたフィロソフィ

悩んで悩んでもう限界…と思っていた時、ふと目に留まったのがフィロソフィでした。当時はフィロソフィの取り組みもかなり進んでいて、日常業務をしている中で一日に必ず一回はフィロソフィが書かれたフィロソフィ手帳という小冊子を手に取るようになっていました。これまでは、フィロソフィをもとに何かを考えたりすることはあったのですが、その時初めて『悩んでいる時の立ち返れる場所』でもあることを知りました。当初、書かれていることはきれいごとだと思っていたのに、痛みを伴っていたその時見た言葉はすーっと心に染みていきました。あぁ、書いていることと真逆の事をやっていたからうまくいかなかったんだ、ということは書いていることを大事すればいいのかと。

そして、半信半疑ながらもフィロソフィを念頭に考え方やコミュニケーションの取り方を変え始めました。すると、私からの一方通行だったコミュニケーションが徐々に双方向になっていき、メンバーのアイデアが形になり成果も出るようになっていきました。仕事が徐々に楽しくなりました。少しずつ出来ることが増えていくと、不思議なもので新たな目標を立てたくなりました。目標が明確になると、現状とのギャップも明確になっていきます。そのギャップが打ち手となりやる事が明確になっていくわけですので、前進している感覚を感じ益々仕事が楽しくなりました。

この経験を通じて、どんな新しい取り組みをするにしても、チームで成果を出すための一番のボトルネックはリーダーである自分自身にあると気付きました。自分がバージョンアップしないと、チームの成果も頭打ちになるんだなと。自分の考え方や物の見方を変えて器を広げていくこと、学んで行動し続けていくことの重要性を感じるようになっていました。

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解説:ビジョンミッションバリューを判断軸にする、ということ

「ビジョンミッションバリューの唱和を続けているのに、全然浸透しない」「ビジョンミッションバリューを作ってみたが、もしくはすでにあるがなかなか活かせていない。」という相談をいただくことも多くあります。

そもそも浸透ってどんな状態のこと?という疑問は置いておいて、「みんなの判断軸として使いたい」という理由で作ったのに、難しい言葉ばかり羅列していて社員が理解しづらいものになっていたり、唱和するだけになっていたり、作ってそのままになっていたりと、先ほどのような相談をされる経営者のお話しを聞くと、みんながビジョンミッションバリューを活かせるようになるための仕組み(SSR理論の組織力)が整っていないケースが多いと感じています。

たとえば、判断したいと思った時にすぐ見れる形になっているでしょうか。社長室や会議室に額縁にいれて掲げただけ、HPに書いただけになっていないでしょうか。それではさすがに日々思い出すことは難しいですし、そもそもビジョンミッションバリューがどんなものか、あるいは自社にビジョンミッションバリューがあるかどうかも知らない人も出てくるかもしれません。本当に判断軸にしたいのであれば、当時の私がJALフィロソフィ手帳を制服のポケットに入れて持ち歩いていたように、いつでもどこでも手に取れる、見ることが出来る形にするなど、判断軸にできる環境づくりから始める必要があります。そしてもちろん、それだけだではなく、冒頭でも書かせていただいたような「フィロソフィを軸に自分で考えて行動につなげるための取り組み」を続けていくことが重要です。
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仕事が楽しくなり、自己投資をして「学ぶ」ように

成果が少しずつ出はじめ、仕事が楽しいと感じるようになるとプライベートの時間も楽しくなっていきました。探求心に火がついた、という表現がしっくりくるかもしれません。これまで自分から何かを学んでみたい、探求してみたいと思ったことはありませんでしたが、「どうやったらもっとうまくチームで成果を出せるんだろう?」と、成果を出すのも出さないのもつまるところ人次第だよな、という考えから人と組織のメカニズムが気になって気になってしょうがなくなりました。もっと良くなるためにはどうしたらいいのか。それは自分を探求する、ということでもありました。

そして自分自身でも少しずつ内側の自分の変化を感じ始めていた時、偶然にも尊敬する友人がとある勉強会に誘ってくれました。当時成田に住んでいたのですが、わざわざ休みの申請を出して渋谷まで勉強会に行く日がくるなんて思ってもみませんでした。その友人やそこでの人との出会いや学びがきっかけとなり、心理学を学び始めました。フィロソフィを念頭に実践してその結果を日時採算表でみて、足りない所を学びで補って…そしてまたフィロソフィを念頭に実践して…と繰り返していくと、時に壁に感じるような難しく面倒くさいと思うこともありましたが、チームでの成果に繋がりどんどん楽しくなっていきました。

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解説:社員に教育が必要な理由
目標達成に向けて困難なことなど乗り越えなければならない課題が出てきたとき、その課題を解決するための知識がないとその先に進めない、もしくは同じ結果やミスを繰り返してしまうということが起きやすくなります。

ここで、人が何か日常的に出来るようになり、その先で継続的に成果を出せるようになるまでのステップをご紹介したいと思います。

ファーストステップは「知らない→知っている」ですが、経営者や組織にいる方に色々とお話を伺っていると、このステップを踏むために必要な知識がないということが往々にしてあるなと感じています。

ここで経営者の方であれば、「そんなこと言わなくてもわかるだろう」「必要なものがあれば自分で学んでほしい」と思うかもしれません。ですが、当時の私もそうでしたが、そもそも社員は「何が自分にとって必要な知識なのか分からない」もっと言うと、「分からないことが分からない」ことがほとんどのように感じています。このことから、成果を出すために必要な知識は研修等でインプットする場として提供する必要があります。

「うちも結構研修に力を入れているんだけどなぁ。手ごたえないんだよな。」と思った方もいるかもしれません。こういった方のお話をお聞きしていると、どんな研修にするか考える際、「一般的にこれ学ぶよね、社会人だし」という考えや「今この研修がホットだよね」と言ったように、世間的に必要だと言われているから、ですとか、今みんなこの研修やっているからという理由で研修内容を決めているという方が多いなと感じています。そして、このような理由で選んだ内容について研修しても、うまくいかず、やってもやっても手ごたえなく終わるというケースが往々にしてあります。

研修に限らず、ですが、このような組織の打ち手を考える時は、あくまでも組織が目指している目標達成に必要な組織の状態、そこに照らし合わせたときに、その理想と現状のギャップに当たる部分にあるものが研修内容の選択肢となり、それを学ぶという考え方が必要であることは是非押さえていただいたいポイントです。
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◆心と数字の両輪ってこういうことか 

アメーバ経営はフィロソフィと部門別採算制の両輪が大事だ、とよく言われていましたが実践していくにつれてその意味が理解できるようになっていきました。言い換えるとフィロソフィは心部門別採算は数字ともいえるかと思いますが、フィロソフィだけだったら心の中、頭の中だけで大事にしたいことを思い願っているだけなので、ともすれば出来ている気になり、なかなか行動に繋がらない。もちろん成果にもなかなか繋がらない。

一方で、部門別採算で数字だけ見ていても、ひとりひとり考え方も大事にしていることも違うのでよりよい成果を出そうとしても足並みがそろわず意見が衝突してしまいうまくいかない。

だからこそ、みんなで大事にしたいフィロソフィという共通した考え方・在り方をベースに、それを体現した結果を部門別採算の数字で結果を見ていく。そこからさらに数字を良くしようと思った時に起点となるのがまたフィロソフィ、という具合で繋げていく。どちらかだけでなく心と数字のどちらも一緒にぐるぐると回していくということが大事なんだと、自分の体験を通してようやく腑に落ちていきました。


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「成果がなかなか出ない」という悩みを持つ企業で、よくある2つのケースがあります。

◆成果がなかなか出ない2つのパターン
①ビジョンミッションバリューを作って日々大事にしたい価値観や判断軸はあるが、事業を遂行していくための段階的な目標が設定されていない
②目標はあるが、それに向かうための判断軸となるビジョンミッションバリューがない

成果がなかなか出ないという場合、この①②どちらかだけをやっているという状況にある会社が多いと感じています。繰り返しになりますが、稲盛さんがアメーバ経営は「フィロソフィと部門別採算の両輪を回していくことが大事だ」とよく仰っていましたが、本当にその通りだと感じます。どちらかだけでなく、フィロソフィを起点に考え目標を立て、その結果を目標に対する結果を追っていく。その結果をもっと良くしたいと思った時に立ち返る場所がフィロソフィ、という具合です。
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結果、チームで前年比約150%品質向上

このような取り組みを始めて、お客様や同グループの社員から感謝の声をいただいたくことも徐々に増え、気づけば国内外の協力会社と一緒に取り組んだ品質向上施策は前年比150%という成果に繋がっていきました。

そしてありがたいことに、私個人としては、JALグループのHPや採用動画に部門代表として起用してもらったり、業界紙向けの広告に載せてもらったり、盛和塾世界大会のサポートメンバーに選んでもらったりと、入社当時の自分からは想像もつかない経験もさせていただきました。このような成果が結果として出たのはもちろんうれしかったのですが、一番うれしかったのは、メンバーが素晴らしいアイデアを出し実際にお客様から感謝の声をいただいていたり、成果を出したことでした。分断された、どこか無機質に感じていた職場で「仕事なんてどうでもいい、プライベートさえよければいいと」とつまらなかった日々を、メンバーと喜びを分かち合いながら楽しく仕事をさせてもらい感謝しかありません。

6.  結局、稲盛和夫氏は何を変えたのか?

~「愚痴ばかりの社員」が「チームで成果を出せる社員」への重要なキー

そんな取り組みの成果が徐々に実り始めていた時、外部で参加していた勉強会等の自己紹介でJALグループでの自分の体験を簡単に話すという機会も増えていきました。と同時に、「元々そんな感じだったのに、なんでそんなに変わったの?」とも聞かれるようになりました。もちろん、経営者が稲盛さんになり、アメーバ経営が始まったことが一番初めの大きなきっかけになると思うのですが、自分でもその問いをもらうたびにもっと具体的に「何が私を変えてくれたんだろう」「結局、稲盛さんは何を変えてくれたのだろう?」と考えるようになりました。

そして、在籍時からこれまで探求してきた人と組織のメカニズムに関する学びの中で、心理学、行動経済学、神経科学、マインドフルネス等…様々な角度から、そしてその問いの答えにあたる「これだ!」というものがようやく見出すことが出来ました。なぜ、「愚痴ばかりの社員」が「チームで成果を出せる社員」になったのか。結局、何が私を変えてくれたのか。

その重要なキーは【上司との対話と、その中での適切な目標設定】にありました。破綻前、上司と話す機会と言えば一方通行の指示命令に近いようなもので自分が何か考えを話すということはほとんどありませんでしたが、破綻後徐々に上司と話す機会が増え、会話だけでなく対話(お互いの相互理解を深めながら行う双方向のコミュニケーション)の時間が増えていきました。

以前の一方通行の指示命令を受けるだけの時は、自分の話を聞いてくれたという記憶があまりなく、それ以前にそもそも自分の意見を聞かれることもなかったように思います。ですが、対話を通じて自分の考えを聞いてくれ、何か自分のアイデアがある時もそのアイデアを尊重し、やってみようと背中を押してくれました。そして“常に上司が見方でいてくれる”ような心理的安全性もでき、対話の場だけではなく、日常のコミュニケーションでも自分の考えを自分から話したり、サポートをしてもらいながら行動に移せるようになっていきました。

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解説:なぜ【上司との対話と、その中での適切な目標設定】が重要なのか~企業で1on1が次々と導入されている訳

私が退社する頃、つまり破綻から7年後にはすでに当時「再生した」と言われるようになっていましたが、2-3年ですぐ変わったわけではなく、私の感覚では、私や現場が変わってきたなと感じたのは5年くらい経ってからでした。このnoteを読んでくださっている方の中にも、「そうなんだよ、打ち手を打ってもそんなにすぐ組織って変わらないんだよな」と悶々とした日々を過ごしてる人もいるかもしれません。そしてどこか諦めかけている人もいるかもしれません。ですが、結果から見ると、長い年月はかかりましたが、日々何かを変えて行動し続けたから変わったというのは紛れもない事実です。

では、何故その道のりを歩み続けることが出来たのでしょうか。
それは短期的によくなることがなければ、社員も続けられなかったはずです。では短期的に少しずつよくなっていくには、何があったから続けてこれたのか。それは適切な目標を立て続けたからに他なりません。高すぎる目標を立ててしまえば、現実味がなくそこまでのステップが想像できず、社員の行動に繋がらない。低すぎる目標を立てれば、現状の延長線でも達成できるでしょ、と思い行動をしない。高すぎず、低すぎず、ちょっと頑張れば達成できるかもと言った、ストレッチ目標を立てて、クリアして、そしてまたストレッチ目標を立てるといったことを繰り返していったことで、結果として「再生した」と言われるようになるまで業績を回復させることが出来たのだと思います。

そして「適切な目標」を立て、実行を繰り返していく中で必要なのが「上司との対話」です。私自身、今でも上司との対話のシーンが情景として浮かんできますが、この時間がなければ私のモチベーションが続くこともなければ、やってみたいことを実際にいろんな会社や国外の着地メンバーを巻き込んだ取り組みに移すこともできなかったと思います。フィロソフィをベースにした上司との対話を重ね、その中で自分がやりたいことと組織のミッションを繋げ、適切な目標を立てていく。そして実行した後、一歩立ち止まって振り返る場を対話を通じて行う。

会社を取り巻く外部環境の変化が早く、より複雑化している現代において、現場での気づきは組織の成長には欠かせない成長の種と言えます。その種を拾う、つまり部下の気づきやアイデアを聞き、これまでの慣習だけに従わず今本当に役に立つか分からない過去の成功パターンだけを繰り返さない、ということが組織としても変化成長していくポイントになるのだと思います。『業績=戦略x実行』とも言われていますが、このような対話の場を増やしメンバー一人一人の気づきやアイデアを拾い、強みを活かし、全員で取り組んでいくことが実行力を向上させることに繋がっていくのだと、それが結果的にJALが『再生した』と言われる大きな要因になったのではないかと感じています。そして、昨今様々な会社で『上司と部下との対話の場』のとして1on1が導入されている事を耳にしますが、その理由に合点がいきます。
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7.  社員が変わるカギ、そのファーストステップとは?

対話と言うとハードルが高いように感じ、イメージがなかなかつかないかもしれませんが、当時の職場ではまず上司が私の話を聴いてくれる機会が徐々に増えていきました。もしかすると、うちもよく聞く機会持ってるよという方もいるかもしれませんが、聞くでもなく、訊くでもなく、「聴く」ことをしてもらっていたなと思います。え?それどういうこと?と当時の私が疑問を持ちそうなので、聞く、訊く、聴くの違いを例を交えて書いてみたいと思います。

まず、事例を2つお話したいと思います。とある部下が「部長ー!聞いてください!この前クライアントからこんなお言葉をいただけて…今まで頑張ってきてよかったです!」と、こんな話を上司にしたとします。その時、上司がパソコンに向かって忙しそうに作業しながら「おーそうかー!」と言われたらどうでしょう?聞いてもらってる感じはしますでしょうか?聞くの漢字を見てもお分かりかと思いますが、「耳」だけで音として「聞く」と表現します。

次の例です。部下が先ほどのような話を上司にしたとします。その時上司が、「うんうん」と作業していた手を止めて聴いているかと思いきや上司の頭の中では(いやこの前頼んでた仕事期限過ぎてるのにその話じゃなくてこれ?)なんて言うことを考えながら訊く。そして話の途中で「そうなんだー。ていうかさ、この前のあの件どうなったのよ。いつも期限過ぎるけど、期限内にやってくれないと困るんだよね。」と会話泥棒をして気になることを話しちゃう。部下の話を聞きながら上司の頭の中では、部下に何を「言」おうか考えている。この状態を「訊く」と表現します。

聞くと訊くの例を挙げさせていただきましたが、破綻前の職場ではまさにこの2パターンでした。耳だけで聞かれてもそもそも聞いてくれている感じがしないし、無視されているようにも感じる。もしくは、上司に話しに行くと何かしら言われる…そんなことが続けば、わざわざ言いに行くのが億劫になります。これが続いた結果として、上司からの一方通行のコミュニケーションになっていたように思います。

じゃあ聴くって何なの?というところですが、それは一言で言うと「興味関心を持って、最後まで聴く」ということです。破綻前の職場では、私が話しても“本当に最後まで”聴いてくれる人はほとんどいなかったように思います。例えばこの聴くってどういう感じかと言うと、しっかりと正対して、うなずきや相づちをしながら自分が言いたいことはいったん手放して、相手が今何を言おうとしているのか表情や言葉のトーンなども含め、言葉の背景まで考えながら、相手の話をしっかり聴く。これが、「聴く」です。

当時の上司との対話のシーンが今でも映像として浮かび上がってきますが、まさにこんな聴き方をしてくださっていたなと思います。こういった聴き方をされると、心理的安全性が高まり「あ、私の思っていることを今話していいんだ」と心がオープンになり、本当に思っていることを話しやすくなりましたし、人と人でコミュニケーションをとっている感覚、なんと言いますか無機質なコミュニケーションではなく血が通った温度感のあるコミュニケーションになりました。私はここにいてもいいんだ、と認めてもらっているような気がして嬉しくなりました。

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解説:ドラッカー氏「聞け、話すな」という名言にある背景

マネジメントで有名なドラッカー氏の言葉で「聞け、話すな」という名言がありますが、実は部下の話をじっくり聴く方が、命令や指示をするより難しいと言われています。経験や知識が部下よりも多い上司は、部下よりも成功パターンを持っていることが多く、様々な情報に触れていることから、見えている範囲や深さも違います。

そうするとついつい、自分のものさしと照らし合わせて「こっちの方がうまくいく」と思い、つい指示命令に近い「いや、こうして」などと言いたくなることは、ある意味必然かもしれません。実際にその方がうまくいくこともあるかもしれませんが、一人の成功パターンを繰り返すだけでは組織の持続的な進歩発展は見込めません。外部環境の変化のスピードが速く、複雑な問題が次々と起こる現代にスピーディーにより的確に対応していくためには、現場にいる一人一人の力を総動員して最大限に活かすことが重要です。

こういった背景からも聴くことの重要性が増し、多くの企業でも目標達成のための「聴く」場の一つとして「1on1」が導入されています。この「聴く」があるからこそ、双方向のコミュニケーションが可能となり、部下が得た現場での貴重な気づきや本音を吸い上げることが出来、生の情報を活かした本来の経営が出来るのだと思います。
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8.  今日から始められる、超具体的な部下への質問例

ここまで話してきましたが、当時の私だったら「じゃあ、聴くって具体的に何について聴けばいいの?」という大きなクエスチョンマークが頭に浮かんでいるような気もしています。そして、もしかすると同じように思った方もいるかもしれません。

実際、私がコーチングやコンサルティングで関わらせていただいている経営者の方からも、「聴くことが大事と話す場を設けてみたけど、うまくいってる気がしない」「1on1を始めようと、本を読んだけどハードルが高いように感じる」「無言の時間が耐えられなくて社員と話す場をやめようかと思っている」等といった悩みをいただくことも少なくありません。

と、ここまでnoteを書いていく中で、そういったお悩みを持つ方に何かお役に立てないかなと思いまして……というわけで、これまでのJALグループでの体験とこれまでの学びで見えてきた、上司と部下の対話の場で「必ず押さえておきたい質問」をぎゅぎゅっとまとめてみました。ここまで読んでくださった方にお礼の気持ちを込めて、プレゼントさせてください。と、質問内容を文字で羅列したものをプレゼントする…というのもなんだか味気ないので、今多くの企業が目標達成のための「聴く場」の一つとして導入している「1on1」を今すぐゲーム感覚で楽しく始められる「1on1面談カード」を含め、以下のようなものを用意してみました。

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◆動画
 ③1on1面談の概要動画
 ④1on1面談カード使い方解説動画

◆資料
 ⑤「1on1面談カード」使い方資料(PDF)
 ⑥1on1面談カード取扱説明書(PDF)

「愚痴ばかりの社員」がいる組織を「チームで成果を出せる社員」に育てていきたい、今いるメンバーでさらなる成果をだしてビジョンを実現したい方に是非受け取っていただきたいプレゼントになっています。「1on1を始めたいけど、ハードルが高いように感じる」「1on1をやってみたけど、うまくいってる気がしない」という実際のよくいただくお悩みから、私の知識をぎゅっと濃縮した上でのこの内容になったので、とても実用的な内容になっているかと思います。是非、こちらから受け取ってくださいね。

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9.  さいごに 忙しい経営者こそ「本当に叶えたい夢や目標」の実現を!

ここまで約2万字にわたって、破綻前から破綻後に至るまでの自分の体験と、これまで学び続けてきた中で私なりに見えてきたそれぞれの組織の打ち手の背景や意味を紐解いて書いてきました。読んでくださっている方の中には、破綻前当時のような渦中にいる方もいれば、変革期の渦中にいる方もいるかもしれません。もしくは、どこか似たような道のりをすでに歩んできた方もいるかもしれません。事実上の経営破綻という一般的にはあまりないような出来事の中での体験談だったかもしれませんが、ここで出てくる事象やそれに対する組織の打ち手は、全く同じではないにせよ多かれ少なかれ組織を運営する企業にとっては必ずと言っていいほど起きていることなのではないかと思っています。

事実上の経営破綻の渦中で、愚痴ばかりの社員がチームで成果を出せる社員になった体験談と、これまでの学びから見えてきた私なりの組織づくりの要点が、そんな自走する組織づくりをしたいと願う全ての方の何かしらのお役に立てていただけるのであれば、私としてもこれ以上幸せなことはありません。

このnoteが忙しく過ごす経営者の本当に叶えたい夢や目標の実現に向けた、なにかプラスのきっかけとなっていたらうれしいです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


◆自己紹介

◆自己紹介
照井春奈(Haruna Terui)

エグゼクティブコーチ / チームビルディングコンサルタント 
IMA認定MBSR(マインドフルネスストレス低減法)認定講師


米国NLP協会認定NLPプラクティショナー
マインドフルネスNLP®認定プラクティショナー
DAE認定well-being coordinator

航空物流会社に入社し、航空貨物取扱業に10年間従事する。輸出事業部において、海外地区を含む他空港、お客様や営業部門などとの調整業務を経験。品質改善向上のチームリーダーを担当し、海外地区と協働した品質改善施策などを考案・実行。その中で「働く人の幸せ」に強く関心を持ち、人材育成、組織開発の道に進むことを決める。その後人材サービス会社へ入社し、官公庁プロジェクトにおいて中小企業の「人」にまつわる問題課題解決の支援に従事。同時期に出会ったマインドフルネスの実践と学びを続けていく中で、『being(在り方)』と『doing(やり方)』を両輪で調えていくことの重要性を実感。その後、コンサルティング会社での経験を経て、temiru(てみる)として独立。現在、経営者向けエグゼクティブコーチングや企業研修、組織開発コンサルティング事業やMBSR(マインドフルネスストレス低減法)8週間プログラムや瞑想指導を行っており、これまでの受講者は延べ2000名超、経営者向けエグゼクティブコーチングは450時間を超える。「まず、やってみる!」をモット―に、個(マインドフルネス・コーチング)とチーム(チームビルディング)の2つの側面から人と組織の可能性照らし、ビジョンを実現するサポートを行っている。



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