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『新版 シマ ヌ ジュウリ』(奄美の食べものと料理法)

表紙・裏表紙ともに大島紬の柄で、1980年、いまから45年前に出た本です。

著者の藤井つゆさんは、奄美大島の最北部笠利(かさり)町屋仁(やに)のご出身で、大正6(1917)年にお生まれになりました。

ワッ! 「ハブの姿造り」、ハブが上等のお皿の上でとぐろを巻いている。
「ハブのカラ揚げ」や「ハブのスープ」は、言われなければハブとは気づかない? 鶏に似た味のようです。

豚の料理、海の恵みの料理、海藻の料理、野菜の料理、お菓子・餅・飲物等々、100以上の料理が掲載されている。調理法や味付けは、わりとシンプルです。料理ごとに、素材の扱い方やおいしく食べる工夫などの小さい解説がある。つゆさんがそばで調理の仕方を教えてくれているようです。

お正月の「三献(サンゴン)、祝い膳に始まり、行事の料理はそれぞれのいわれを大事にします。海・山・田畑の神様と共にあるような食べ方です。

自然発酵の飲物のミキ、そてつなどは、奄美独特ですね。パパイヤは生で食べたり、肉と炒めたり、酢の物にしたり、漬物にしたり、手軽な食材のようです。
酢や味噌がわりと多く使われている。風土に合っていて、しかも理にかなっている。
離島ゆえの制約があり、島内でまかなえる食材は限られている。知恵と工夫でおいしく食べる技をもったスーパーお母さんがたくさんいらしたのでしょう。

イチ押しは黒砂糖、「黒砂糖のできるまで」も載っています。
そして炒め物に使う油・ラード、黒糖酢、石灰、マシュタキ(塩造り)、センジュなど、調味料も自家製です。センジュは化学調味料などは足もとにも及ばない風味抜群の天然の調味料だそうです。

奄美在来系の豚を飼育されている広田哲宏氏は「豚のはなし」で、豚の解体の一部始終を書いておられる。豚は「ウァ」、豚をツブすことを「ウァクッシ」といいます。少し前の時代には家ごとに飼っていた豚を暮れに正月用にツブしたそうです。少し前というと戦後の昭和20年代あたり?

数人の男たちが、運び出した豚を押さえ込むところから解体が始まります。ドキドキ、コワイもの見たさ、リアルすぎて、ふー。

「ウァクッシ」は子どもたちにとっても楽しみの行事だったと。一番緊張する場面で女の子は「かわいそう!」を連発するが、男の子はかたずをのんで見入っていると広田氏は書かれている。
男の子は、いつか自分もあの役割をすると覚悟(?)するのでしょう。なんと強烈な食育であることよ。

ウァクッシが始まると、主婦たちは解体をした男たちにふるまう御馳走の準備を始めます。お母さんたちの技あっての御馳走ですね。男子諸君、酒と料理に手をつける前に、まずお母さんたちに感謝しましょう。

解体した豚はすぐに食べる分以外は塩漬け・味噌漬けにして保存します。耳、脚、顔、臓物、すべて余さずいただきます。
(1980年時点で屠殺の専門センターがあり、自家屠殺は行われていない)

つゆさんは9人兄弟の長女。8歳年下の弟さんが書かれた「姉の想い出」も掲載されています。
笠利町屋仁部落は奄美の中では比較的豊かな耕地と自然条件に恵まれていたようです。つゆさんは母親を助けながら弟・妹の面倒をみるなどしっかり姉さんだったこと。また、食材をいろいろ工夫しながら弟・妹がお腹をすかさないようにいつも努力をしてくれていたと、感謝の気持ちが書かれています。

山下欣一氏は巻頭の<新版によせて>で、「この本は、奄美で暮らした女性の生活の知恵の集大成であり、日々の生活での記録」であると書かれている。父母のふるさと(徳之島)につながる大切な一冊です。

『新版 シマ ヌ ジュウリ』(奄美の食べものと料理法)
          藤井つゆ 南方新社 1999年8月15日


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