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田貫湖のほとりで眠る

ある日の早朝。ふと思い立って、富士山を撮影しに田貫湖まで車を走らせた。メーターに表示される外気温は6度。12月の朝は当たり前だが寒い。

写真を撮りに行くと言っても気軽なもので、普段から天候やロケハンをして計算した最高な瞬間を撮りに行くわけではない。持っていくのはカメラと28mmと50mmのレンズだけ。これで撮れるくらいの写真が撮れたら、僕はそれでいい。

田貫湖に来るのはたぶん二度目。ぼんやりと「逆さ富士でも撮ってみようか」と考えていたくらいで、それが見える場所も把握していない。カーナビの言う通りの駐車場へ着くと、ちょうど良い具合に富士山が見えた。夏に納車したばかりのジムニーを富士山を背に撮る。

朝陽が山を赤く染める。この辺りの山々を見ていると気持ちが良いものだが、少し恐さも感じる。富士山も近づくほどに恐い。本能的なものだろうか。

キャンプサイトがあった。アウトドアにすこし興味が湧いているので調べてみたら3,500円くらいでテントを張れるらしい。こんな時間の過ごし方も楽しそうだ。まずはテントと寝袋を選ぶとこから始まるのだけども。

車を少し移動させて湖の周りを歩く。気温は3度。風もすこし吹いている。カメラを構える時以外はポケットに手を入れて歩くものの、指の感覚が鈍くなっていく。

なんとなく目についたものを撮っていく。正直なところ、何のために撮っているのかはわからない。しいて言うなら宛名の無い絵葉書のようなもの。でも、あなたが読んでくれた瞬間に意味が生まれるのかもしれないけれど。

思い立って撮りに来たのは、たぶん何か変化が欲しかったから。普段の行動範囲からはみだした場所で見えるものは景色だけではない。

写真を見ながら気づいたのだが、この日は雲の少ない良い天気だった。冷たい空気が気持ちいい。お日さまはほんのり暖かい。

撮影した時には気が付かなかった逆さ富士。セレクトしている時に「あれ?」となって気づいた。色々な条件が揃えば出会えるということがなんとなくわかった。でも、今の僕にはこれくらい撮れていればいい。

写真を撮ることが楽しかった頃の気持ちにはもう戻れない。なぜなら、撮るのは一瞬の出来事で、その後の時間の方が長いから。撮るという行為は過程でしかない。でも、撮らないことには写真は作れない。

1時間ほど撮り歩いて車へ戻り仮眠を取る。シートで横になりながら写真を軽くチェックする。特に何かすごい物が撮れたわけではない。「まあ、こんなものだな。」と思うくらいで、何のためにここまで来たのかと考えているうちに眠っていた。しかしながら、こうしてここに写真と文章を残すことが出来ただけ、実りある一歩なのかもしれない。

カメラ:Nikon Df
レンズ:AF Nikkor 50mm F1.4D
現像:Adobe Lightroom "MABATAKI" Preset

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