見出し画像

増田 俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(下)』(新潮文庫、2014年)を読みました。

これはかなり面白いノンフィクション。最強の柔道家木村政彦の強さの検証をしながら、プロレスラーとして身を持ち崩し、“巌流島決戦”で力道山に打ちのめされる。その後、南米や中米などでプロレスのドサ回り、自身のプロレス団体の破綻などを経て母校拓殖大学での柔道指導者としての柔道への復帰。37歳のときに力道山戦での惨敗で誇りを失いながら75歳で亡くなるまで屈辱の中で生き続けた最強の男のストーリーは何とも人間臭く魅力的でした。柔道から引退して10年間ほとんどトレーニングもしていなかったのにブラジルのマラカナンスタジアムでエリオ・グレイシーをいとも簡単に締め上げる(YouTubeで動画を見ましたが猛獣がか弱い動物を仕留めているかのように見えます。)木村政彦が全盛時にどれだけ強かったのか…事実は小説よりも奇なり。生きるとは人間とは何かと問いかける圧倒的なノンフィクションでした。日本プロレス史の資料としても貴重。

本書より…

《人々は地球の向こう側からやってきた柔道家の信じられない強さに愕然とし、同時に魅了された》(ブラジル紙「オグローボ」十月二十四日付)
-----
「はっきりいって私の体はもうボロボロだった。気持ちだけでもちこたえていた。奇跡が起きて技から逃れられればいいと思っていた。万が一、私があの技から逃れられたとしても次の技で仕留められていただろう。すべては第1Rから偉大なる王者の意のままに進められていたんだ」

いいなと思ったら応援しよう!