濃い霧の日に
ある朝目が覚め、窓を開けると外は濃い霧で覆われていた。やがて晴れるだろうと思い朝食を済ませ、コーヒーを入れて再び窓の外を眺めていたが、一向に晴れる気配はない。午後から人に会う予定があったので、どうしたものかと思い電話をかけた。
「もしもし」
「もしもし、小熊です。おはようございます、羽鳥さん。」
「おはよう、小熊さん。君は外を見たかい?」
「外ですか…。濃い霧が出ていますね。」
「今朝からかれこれ5時間くらいはこんな感じさ。」
「え?そんなに長い時間この状態なんですか!」
「もしかして君、今起きたばかりだろう。」
「えへへ、実は電話が鳴る5分くらい前に起きました。」
なるほど、だから少し声が掠れているのか。
「それならまた後でかけ直すよ。」
「いえ、お水飲みますから平気ですよ。それにしても、すごい霧ですね。お出かけできるかな。」
「そのことで君に連絡したんだ。」
私としては今日は無理に出かける必要もないと思うが、彼女は言う。
「今日でお祭りは終わってしまいます。」
こんな日にお祭りも何もないだろうに。
「祭りは中止じゃないかな、このような天気だし。」
「私、今日を楽しみにしていたんです。昨日はワクワクしてなかなか眠れなくて、今日は起きるのが遅くなりました。」
まるで遠足前の子供のようだと思いながらも、彼女らしいなと思った。
「お祭りが中止なら、一緒に霧の中を散歩しませんか?」
「こんな霧の中を?」
「こんな霧の中だからです。」
「約束は13時からですよね。いつもの公園で待ち合わせしましょう。」
「いや、それなら君の家に迎えに行くよ。こんな霧の中じゃ何かあると危ないし。」
「羽鳥さんのお迎えお待ちしてますね。」
私は「朝ごはんを食べます」と言い、それは朝ごはんというより昼ごはんでは?と心の中で突っ込みながら電話を終えた。
玄関の鍵がかかっているのを確認し、私は濃い霧の中を歩き始めた。いつも通っている道が良く見えないだけでこれほど歩きにくいとは。なんだか別の世界に来たみたいだ。彼女の家は、お互いの家の真ん中にある公園を挟んで向かい側にある。黄色い郵便受けが目に入る。彼女の家に着くと、玄関で座って待っていたらしく、すぐに出てきた。
「羽鳥さん、こんにちは。」
「こんにちは、小熊さん。」
彼女は家を出て、二人で町の神社に向かった。