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育てて。

わたしが小学生の頃、たまごっちという玩具が流行っていました。それがどんな玩具なのか、恐らくは詳しく言わなくても分かると思います。平たく言えば「育成ゲーム」です。たまご型のデバイスを使ってキャラクターを育てるというものです。

もちろん、キャラクターは世話をしてあげないと死んでしまいます。でも、学校に行くとなると育てることができません。だから、ランドセルにこっそりと忍び込ませて学校に持っていき、休み時間にデバイスを操作するなんてことがよくありました。

当時はたまごっちがだいぶ人気だったので、わたし以外の子もそういうことをしていました。

でも、ある日先生にたまごっちを没収されてしまいました。返ってくるのにも時間がかかって、やっとの思いで返却された頃には育てていたキャラクターは死んでいました。

わたしはひどく悲しんだし、先生に対する怒りの感情を強く抱いていました。家では虚しくなって、あんなに好きだったたまごっちに関する話題を自らシャットアウトするようになっていきました。

ですが、そんなことがあっても時間は流れていきます。気がついた頃には、わたしはたまごっちの存在を忘れていました。そして中学、高校、大学と進学していき、今は一児の母になっています。息子もすくすくと育って、問題なく幼稚園に通っています。

そんなある日、家の整理をしました。

要らないものは捨てなきゃ、と思って家のクローゼットの中を漁っていたら、たまごっちを見つけました。わたしは「懐かしいなあ」とか「いつぶりだろうなあ」とか考えながらそれを見ていました。そうしたら息子が近づいてきて、「これなに?」と言ってきました。わたしは息子にたまごっちのことを教えようとしたんですが、よく見ると息子の様子がおかしくて。

顔は真っ青だし、これまでに見たこともないような表情をしていました。まるで怒りと悲しみと虚しさが混ざったような表情でした。

そして、口角を釣り上げてこういったんです。

「今度はちゃんと育ててね?」

わたしは怖くなって、たまごっちを捨てました。それ以降、息子はおかしな様子を見せていません。一体、あれはなんだったのでしょうか。

まさか、かつて死なせてしまったキャラクターの魂が巡り巡って息子に宿ったのでしょうか?

分からないのですが、分からないなりにそう考えてしまいます。

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