見出し画像

ニュース記事解説:著名人かたるSNS投資詐欺、口座売却した名義人に賠償命令相次ぐ…「犯行に加担した」と認定も

元記事:読売新聞オンライン 2024/08/19 15:00


報道内容の確認

ニュースのポイント:

口座売却の名義人への賠償命令: 生活苦などから口座を売却した名義人が、詐欺に加担したとして賠償を命じられる判決が相次いでいます。
口座売買の横行: SNS上では、口座の売買やレンタルを呼びかける投稿が大量に見られ、不正な資金の流れが後を絶ちません。
被害拡大と対策の必要性: 詐欺被害は深刻化しており、被害金回収は困難を極めるケースが多いです。口座売買の監視強化や、被害者への適切な支援体制の構築が求められています。

著名人かたるSNS投資詐欺、口座売却した名義人に賠償命令相次ぐ…「犯行に加担した」と認定も : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

送金口座の名義人への返金要求の正当性

 詐欺被害者が口座名義人に対して返金を要求することは、法的に一定の根拠があります。特に、口座が詐欺行為の中継点として利用された場合、口座名義人はその口座を詐欺に利用させたことで、「詐欺行為を助長した」と認定されることが多いのです。詐欺行為が成立するためには、振込先の口座が不可欠であり、その口座がなければ被害は発生しなかった可能性が高いため、名義人の責任が問われます。

 東京第一弁護士会の国際ロマンス詐欺・投資詐欺に関するFAQによると、詐欺被害者が「弁護士会照会(23条照会)」や訴訟・民事調停での調査嘱託等で送金先口座の名義人を突き止めて、被害回復を図ることはできる場合があるそうです。(弁護士会照会とは、弁護士会が、官公庁や企業などの団体に対して必要事項を調査・照会する制度)

 犯罪による収益の移転や銀行口座の譲渡は禁止されていることです。したがって口座名義人が逮捕されたり訴えられたりすることはあり得ます。但し口座名義人はほとんどの場合加害者本人ではありません。詐欺だと知らずお金を自分の口座から詐欺師による指定先に何らかの詐欺師の足がつかない方法で送っている場合が多いでしょう。この口座名義人のことをお金の運び屋、「マネーミュール」といいます。マネーミュールについては別の記事もご参照ください。

送金口座の名義人は誰?

このニュース記事によると、投資詐欺に遭った被害者は10の指定口座に4500万円余りを振り込んでおり、弁護士法に基づく弁護士会照会などで、口座名義人の名前や住所などの特定を進めつつ、昨年末、10口座の名義人らに計4500万円超の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたとのこと。では口座名義人とはいったい誰なのでしょうか。

口座を売却した生活困窮者や、副業詐欺の被害者

この読売新聞オンラインで報じられている訴訟で、約40万円を送金した口座の名義人のが答弁書を提出しており、「生活に困って見知らぬ人に口座を売ってしまった」「不眠症やうつ病を患って生活保護を受給している」「詐欺に関与はしていない」と釈明したそうです。そして6月の地裁判決は、この名義人について「口座売却によって詐欺の実現を容易にした」として、約40万円の範囲で賠償が命じられています。

XやLINEなどのSNSで、家で手軽にできる副業バイト(実は闇バイト)で募っているものの一つが犯罪収益の移転(バイトをする本人は犯罪とは知らない)です。生活困窮者や学生が手軽にできて良い収入になると言われ、自分の口座に振り込まれたお金を暗号資産などにして別のところへ移します。

国際ロマンス詐欺などの詐欺被害者

詐欺グループがターゲットとする国の口座貸を協力する業者とのつながりがない場合、自前のマネーミュールを使います。マネーミュールにされる詐欺被害者は既に大金を詐欺師に支払っており、詐欺師との間の信頼関係ができています。詐欺師に受け取ったお金からどれくらいを送金するかを指示されれば、その通りにおこなうのがマネーミュールです。

ここで別の事件で逮捕されたマネーミュールの女性に関する記事から解説しましょう。

朝日新聞デジタルの解説記事によると、被告の女性(50歳)は既婚で夫と娘一人の3人家族。言語交換アプリで知り合ったマイクを名乗る人物らに1千万円近くだまし取られました。その後別の人物(ジャック)とアプリ上で知り合い、2022年7月より自分の銀行口座に振り込まれた金で暗号資産を買って別の人物に送金するというアルバイトを始めたそうです。

つまりはお金の流れは図1のようになります。この被告人はマークに騙されてお金を1000万円失った後、失った金額をとりもどすためのばいととしてジャックを名乗る詐欺師からもちかけられたのが、口座に振り込まれるお金で暗号資産を購入し、別のところに送るというものでした。もちろん振り込んでくる相手が他の詐欺被害者であることは被告人は知るはずもありませんでした。

図1:土居恭子(2024.06).1千万円だまされ、気づけば詐欺の協力者 恋心を利用された女の後悔. 
朝日新聞デジタル 2024年6月16日 https://digital.asahi.com/articles/ASS6H1PZDS6HPLXB00BM.html
の記事内容をもとに当方で作成。

マネーミュールへの道のり
1.夫が忙しい仕事人間で、寂しさから2022年に英会話をはじめようと言語交換アプリに登録。そこで「マイク」と知り合い、マイクに約970万円をだまし取られた。
2.同様のアプリで「ジャック」と知り合い、マイクの件で相談に乗ってくれたジャックを信用するようになった。
3.ローワーを名乗る弁護士、そしてサニーという繊維関係のビジネスの人物も紹介された。ジャックに「君の助けになりたい」と言われて、暗号資産を購入し指定のアドレスに送るというアルバイトを始めた。

土居恭子(2024.06).1千万円だまされ、気づけば詐欺の協力者 恋心を利用された女の後悔. 
朝日新聞デジタル 2024年6月16日 https://digital.asahi.com/articles/ASS6H1PZDS6HPLXB00BM.html

このマネーミュールにされた国際ロマンス詐欺被害者のケースの解説は動画でもご覧いただけます。


同様のケースは海外でも報道されており、上記の動画でも解説しています。
ABC News オーストラリア 2023年2月22日
国際ロマンス詐欺に関係する40万ドル以上のマネーロンダリングの疑いでElizabeth Ruth Mak(70歳)が逮捕され、2年半の禁固刑と3年間の執行猶予を言い渡された。 

KRCG TV 2021年11月5日
カークウッド(ミズーリ州)の81歳の女がマネーミュールの容疑を認める。

真の悪は誰だ!

CHARMSは被害者支援を主な活動としており、法的な専門家ではありませんので、口座名義人に対する酌量についての意見を述べるべきではないと認識しています。

しかし、詐欺被害者が口座名義人について理解を深めることは有益だと考えます。

詐欺被害者が口座名義人を訴えることは法的に可能で権利はあります。また、SNS型の詐欺において唯一身元が明らかになる可能性が大きいのが口座名義人であるマネーミュールであり、詐欺被害者はお金を取り戻せる希望と期待されるかもしれません。

しかし一方で、訴えられたマネーミュール(詐欺被害者や生活困窮者)は借金をして詐欺被害者に振り込んだ金額を返済する結果になるかもしれない。生活保護者であれば借金も難しい可能性もあります。結果としてマネーミュールは経済的に困窮することになります。但し知らなかったとはいえ口座貸やマネーロンダリングは違反行為ですので、ここでお読みくださっている皆さんがマネーミュールに同情をする必要はありません。マネーミュールに同情を示して精神的回復を助けるのは犯罪被害者を支援するプロフェッショナルの役割です。

しかし、一方で実際の加害者である詐欺師は既に騙し取ったお金を手にして安全な場所、おそらくは外国にいます。マネーミュールは自分の口座に振り込まれたお金をすぐに指定された方法で別のところ(詐欺師)に送ってしまっています。そうすると、マネーミュールが逮捕されたり、詐欺被害者から賠償金を要求されたとしても、詐欺グループには全く影響がありません。詐欺グループは既に次のターゲットを狙って、その中から別のマネーミュールも見出します。したがってマネーミュールを訴えて賠償命令を裁判所から出してもらっても、SNS型投資詐欺や国際ロマンス詐欺などの社会問題を解決する結果にはならないのです。

日本でのマネーミュールに対する賠償命令は、「詐欺を可能にした」という明白な事実に基づいています。被害者、マネーミュール、そして実際の加害者の状況を考えると、この記事をお読みの皆さんはどのような見解をお持ちですか?

銀行口座売買の闇

読売新聞オンラインの記事にもあるように、銀行口座の売買問題が注目されています。銀行口座の売買や譲渡は犯罪収益移転防止法により禁止されており、違反すると最大1年の懲役または100万円以下の罰金が課されます。それにもかかわらず、SNS上では口座売買を促す投稿が絶えません。

情報セキュリティ会社「カウリス」の報告によると、Xでの口座売買に関連する投稿は2024年5月に約6万件確認され、取引価格は1万円から数十万円とされています。また、不正な出入金を行うために自分の口座を貸し出す「口座レンタル」の提案も見られます。

カウリスの島津敦好社長は、「経済的に困っている人々や若者が軽率に口座を売ったり貸したりしており、口座の不正利用に対する監視と罰則の強化が必要だ」と述べています。

まとめ

詐欺被害者が口座名義人を訴えて口座名義人が詐欺を可能にしたとして賠償を命じる判決が言い渡されました。国際ロマンス詐欺やSNS型投資詐欺の被害者が、振込先に返金を求めるのは法的に正当な行為です。しかし、振込先の銀行口座の名義人も副業詐欺や国際ロマンス詐欺の被害者や生活困窮者であり、要求された金額を支払う能力がないことが少なくありません。そして詐欺師は、銀行口座が凍結されたり、名義人が逮捕されても影響を受けないのが現状で、口座名義人を訴えても社会課題の解決には至りません。口座の名義貸しや売買は違法ですが、インターネット上では実際に行われているというのが現状です。

CHARMSはカウンセリングを通じて被害者を支援する団体であり、行政に圧力をかける団体ではありません。そのため、このような状況を防ぐために国や警察に対して何か行動を起こすことはできません。しかし、このような記事を通じて、皆さんの理解を深めるお手伝いをすることは続けていきたいと考えています。

(文章:武部理花)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?