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国際ロマンス詐欺被害者の犯罪:なぜ詐欺に加担? 不正のダイヤモンド

2023年に12月懲戒処分となった大阪府警西成警察署元巡査の大谷裕璃菜被告25歳。カナダ人男性医師になりすまし現金をだましとるなど、国際ロマンス詐欺に加担した罪で起訴されていますが、2024年1月23日の報道によると彼女自身も国際ロマンス詐欺被害者だったことが明らかになりました。


ニュースの報道内容

犯行の背景には、大谷被告が以前に詐欺被害に遭っており、アメリカ在住の韓国人男性を名乗る人物に70万円を送金し、その金額をだまし取られたことがあります。その後、被害金を取り戻すことを目的として、詐欺グループの犯行に加わることになりました。この点において、大谷被告は被害者であると同時に加害者となったわけですが、その動機は「報酬ほしさ」であり、「金に目がくらんでやめられなかった」と述べています。

大谷被告は、警察官としての立場を利用しながらも、経済的な困難や以前の詐欺被害による心理的な影響から、犯罪に手を染めるという道を選んでしまいました。こうした状況は、一見すると単なる犯罪行為に見えますが、実際には個人の心理的、経済的脆弱性が深く関わっていることを示しています。
法廷では、検察側が大谷被告に対し懲役3年を求刑しましたが、弁護側は被告がグループ内で従属的な立場にあったこと、また社会的な制裁を受けていることを理由に執行猶予を求めています。このように、大谷被告の事件は単純な犯罪ではなく、個人の脆弱性と社会的な要因が複雑に絡み合った結果であると言えるでしょう。

大谷被告のケースは、ロマンス詐欺がいかに巧妙で、個人を深く巻き込むことができるかを示す一例です。このような詐欺は、感情や信頼を悪用するため、被害者が犯罪に加担することさえあるという点で、社会にとって大きな警鐘となります。

不正のダイヤモンドで解説する大谷被告の犯行要因

不正のダイヤモンド(Fraud Diamond)とは

不正のダイヤモンドは企業や個人が不正行為を犯す際の4つの要因を示すもので,Wolfe, D.T. and Hermanson, D.Rという学者が提唱したものです。(1)

これらは機会(Opportunity)、動機(Incentive)、正当化(Rationalization)、能力(Capability)の4つです。大谷被告の犯行をこのフレームワークに当てはめて分析すると、以下のようになります。

機会(Opportunity)

大谷被告は警察官という職に就いていたため、一般の人々よりも犯罪に関する情報に強く、また疑われにくい立場にあったと言えます。また、SNSという匿名性が保たれるプラットフォームを利用することで、詐欺行為を行う「機会」が生まれました。

動機(Incentive)

大谷被告が詐欺行為に加担した動機は、以前に自身が詐欺の被害者となり、その被害金を取り戻すことにありました。加えて、「報酬ほしさ」という経済的な動機があり、これが彼女を不正行為へと駆り立てました。

正当化(Rationalization)

大谷被告は自身の行為を何らかの形で正当化していた可能性があります。たとえば、「自分は被害者だった」「被害を取り戻すためだけの行為だ」といった思考を通じて、不正行為を内心で許容していたのかもしれません。また、詐欺グループに加担することで自身の経済的な困難を解決できると考え、その点での正当化があったかもしれません。

能力(Capability)

大谷被告は警察官としての知識と技能を持っていました。この職業的な能力と、詐欺行為を行ううえで必要な操縦や説得の技術を併せ持っていたことが、彼女が詐欺グループの一員として機能する「能力」を持っていたことを示しています。加えて、自身が以前に詐欺の被害者となった経験は、詐欺の手口を理解し、それを模倣する能力をもたらした可能性があります。

このフレームワークにより、大谷被告が詐欺行為に至った経緯を、単なる犯罪者の行動としてではなく、特定の状況と心理的な要因が組み合わさった結果として理解することができます。不正のダイヤモンドは、個々の要因を超えた複合的な視点から不正行為を分析するための有用なフレームワークです。

(1) Wolfe, D.T. and Hermanson, D.R (2004): The Fraud Diamond: Considering the four Elements of Fraud. The CPA Journal, 74(12) 38-42

報道記事:


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