国際ロマンス詐欺ー詐欺師から脅しを受けたらどうすべきですか?
国際ロマンス詐欺の被害者の方から、「詐欺師から脅しを受けた」とか、「脅しを受ける心配がある」とご相談をいただくことがあります。
想定される脅しには、
警察に届け出たり、第三者に起きた事柄について伝えるなら危害を加える
家族や友人に危害を加える
写真やメッセージ内容を家族や友人、職場や公共の場に晒す
などです。最初の2件は、殆ど恐れるに足りません。なぜなら多くの場合海外にいる可能性の高い犯行グループが被害者の方の家や職場までやってくるということは殆どないからです。
問題は3つ目の写真などを家族や友人などに晒すという脅しでしょう。本当にそれが実行されたら、家族や友人、職場などでの信頼を失ってしまうかもしれません。
今回は詐欺師から脅しを受けたときにどう対応すべきかということについて解説してゆきます。
セクストーションとは?
セクストーションは、SEX(性)とExtortion(ゆすり)を併せた造語です。つまり、「性的脅迫」という意味です。
若者を狙ったセクストーション
セクストーションというと、若者がネットで知り合った相手にそそのかされて性的な画像を送ってしまい、脅しを受けるという話が報道されていたことをご存知の方もおられると思います。
ニュース記事などで報告されているのはこのような筋書きです。
インターネットで知り合った異性との交流をすすめてゆくと、相手からきわどい写真や動画が送られてくる。「あなたも同じにして」と相手に言われる。躊躇すると「私が恥ずかしい姿を見せたのに」と泣かれる。そのようなやり取りで被害者が屈してしまうと、急に画面が変わり、今の静止画像や動画をインターネットで拡散されたくなければお金を払えと言われる。
国際ロマンス詐欺とセクストーションに関してはオーストラリアのCassandra Cross博士が研究をされています。この研究論文によると、このようなセクストーション被害者は若年層で男性で、被害金はロマンス詐欺のそれに比べるとはるかに小さい額で、犯行グループは金銭を目的としない画像取得が主な目的であることが多いということです。
Cross, C., Holt, K., & Holt, T. J. (2023). To pay or not to pay: An exploratory analysis of sextortion in the context of romance fraud. Criminology & Criminal Justice, 0(0). https://doi.org/10.1177/17488958221149581
国際ロマンス詐欺におけるセクストーション
一方、被害者の多くが40代から50代といわれる国際ロマンス詐欺で起きるセクストーションは、画像収集目的とは異なり、金銭的脅しが目的となっています。Cross博士の論文によると、経済的困難に直面している人や慢性疾患を持つ人は、セクストーション犯に金銭を支払う可能性が高く、これらの人々が詐欺に対してより脆弱である可能性が示されています。実際、写真を晒すと脅されるのは、私共の被害者の方々のご相談をお受けした経験においても、被害者の方が既に大金を送金した後で起きていました。
このセクストーションは国際ロマンス詐欺の定番テクニックではなく、すべての騙しの手口にセクストーションが含まれるわけではありません。Monica Whitty博士の論文によると、金銭的セクストーションは稀なケースで、ロマンス詐欺の基本的なフローの枠外に位置付けられています。いくつかのケースにおいて被害者がもうお金がないと明かした後、被害者は関係における性的関係を誇張し、服を脱いでウェブカメラの前で自慰行為をするようにと詐欺師に求められました。そして詐欺師はその様子を録画しており、後に録画したビデオを被害者の職場や家族に送ると脅してきました。この段階に入った被害者は、自分の行為を非常に恥ずかしく思い、恥じており、決してサイバーセックスが好きだとか、性的に冒険的なタイプではないということです。
脅しにどう対応すべきか
では、国際ロマンス詐欺で詐欺師から写真や動画を拡散すると脅されている場合、どう対応すべきでしょうか。
私たちの回答は「詐欺師を相手にせずブロックする」「脅しに乗らない」ということです。しかし、そう申し上げると、「写真が晒されてしまったらどうするのでしょうか」と非常に心配される方々がおられます。写真や動画が確実にさらされないという保証は実際にはありませんが、どうするかによるリスクを比較するならば、どうすることが一番リスクが低いか、ダメージが少ないかということを考えることができます。
このような状況を考えてみましょう。国際ロマンス詐欺師が「200万円を支払わなければ、あなたの際どい写真や動画を家族や友人、職場の人々にばらまく」と脅してきます。このピンチをどう乗り越えるか、その答えはあなたの次の行動にかかっています。4つの道があります。「応じる」「応じない」その人物との繋がりを「続ける」か「断つ」かを4つの象限で表すとこの図のようになります。どの選択があなたを安全へと導くのでしょうか?
選択肢の評価
以下の4象限に基づいて、それぞれのリスクを評価してみましょう。
脅しに応じる・コンタクトを断たない
脅しに応じる・コンタクトを断つ
脅しに応じない・コンタクトを断たない
脅しに応じない・コンタクトを断つ
1. 脅しに応じる・コンタクトを断たない
リスク: 犯人に対して弱みを見せることになり、さらなる要求が続く可能性があります。結果的に、詐欺師のゲームの中で完全に敗れることとなります。これを勝ち負けで表すとこうなります。
A. お金 ⇒ 200万円を失いさらに要求がエスカレートしてゆく = 負け
B. 脅し ⇒ コンタクトが続くので脅しを受け続ける =負け
2. 脅しに応じる・コンタクトを断つ
リスク: 一時的に脅迫を止めることができるかもしれませんが、支払いをすることで脅しに屈する人物と認識されます。したがって一時的な脅しを遮断することができても、脅迫者が他の手段(別の人物を装ったアプローチなど)で再び接触を試みる可能性があります。
お金⇒失う
脅し⇒別のアプローチで再び脅しを受ける可能性がある
3. 脅しに応じない・コンタクトを断たない
リスク: 脅迫者がさらに強硬な手段に出る可能性があります。ただし、脅しに応じないことで、脅迫者が利益を得られないと判断し、諦める可能性もあります。
お金⇒失わない
脅し⇒利益を得られないと諦める可能性もあるが、コンタクトが続くため強硬な手段に出る可能性も否定できない。
4. 脅しに応じない・コンタクトを断つ
リスク: 脅迫に応じず、コンタクトを断つことで、被害者が脅迫に対して無反応であることを示し、脅迫者にとって無益なターゲットであることを伝える効果があります。もちろん、詐欺師は偽のアイデンティティを使っており、別のアカウントを作って別の人物としてコンタクトを試みることは可能です。しかし詐欺師の究極の目的はお金であり、利益の得られない獲物に執着はしません。脅迫者は利益を得られないと判断し、ターゲットを変える可能性が高いです。
お金⇒失わない
脅し⇒無益なターゲットと認識され脅しを受けない
結論:最善の選択は?
理性的に考えるなら、脅しに応じないでコンタクトを断つことが最もリスクが低い選択肢と言えるでしょう。お金を失うこともなく、脅しに屈しないために脅迫者に対して無益であることを示すことができ、さらなる脅迫を防ぐ可能性が高いからです。
まとめ
国際ロマンス詐欺において、被害者の方々の中にはビデオチャットなどで詐欺師に恥ずかしい姿を晒してしまったという方々もおられます。その時は相手との愛情表現のようなつもりだったかもしれませんが、後で写真や動画を晒すといってお金が要求されることがあります。もっともこの種の手口は国際ロマンス詐欺の手口としては稀なものです。
本当に恥ずかしい写真を送ってしまっり撮影されてしまった、或いはごく普通の写真を加工した恥ずかしい写真を作られてしまった場合どうすればよいのでしょうか? 答えは一つです。「脅しに応じない、コンタクトを断つ。」 この方法により、脅しに屈しないという意思表示をして利益につながらないことを相手に知らしめることができます。
ここで一つ強調しておきたいのは、「国際ロマンス詐欺」におけるセクストーションというのはお金が目的です。これ以上お金をとれそうもないと判断した場合、詐欺師は時間を無駄にしません。
詐欺師とコミュニケーションを続ける限り詐欺師の側にコントロールがあります。ブロックして無視することで恥ずかしい写真がばらまかれることを防ぐことが出来ます。
筆者も役員を務めるアメリカの団体SCARS Institute によると、過去27年間において詐欺師による写真などをばらまくという脅しが現実になったということはありません。無視してブロックして交流を断つことで脅しによる脅威は避けることが出来ます。絶対に降伏しないこと。簡単に屈してしまう相手だと詐欺師側に判断されれば、脅しを受けます。
(文章:武部理花)