誤解してるかもしれない、インターポールの役割
インターポールというと、アニメの「ルパン三世」に登場する銭形警部を想像する人は少なくないかもしれません。しかしながら、手錠をもってルパンを追いかける「インターポール」の銭形警部の姿は、実際にはあり得ないのです。(注記:文末参照)
でも、「2022年に逮捕された当時ガーナにいた森川光という日本人詐欺師を逮捕するときに日本の警察が協力を得たのはインターポールでは?」と疑問に思われる方もおられるでしょう。
今回はインターポールって何をする機関なのか、ということについて解説したいと思います。
インターポールとは?
インターポール(INTERPOL)とは。国際刑事警察機構(こくさいけいじけいさつきこう、 International Criminal Police Organization、ICPO)のことです。
ICPOは国際犯罪の防止を目的として世界各国の警察機関により組織された国組織で、本部はフランスのリヨンにあります。インターポールには現在196の国々が加盟しています。(Wikipediaより)
インターポールの役割
では、インターポールは国際犯罪防止の目的としてどのような役割を果たしているのでしょうか。
情報交換の促進: インターポールは、各国の警察間での情報交換を促進し、国際犯罪の防止に貢献しています。具体的には、国際手配書の発行や、犯罪に関する情報のデータベース化を行っています。
捜査権限の不在: インターポール自体には捜査権限や逮捕権はありません。各国の法律に基づいて、情報の共有や協力を行うのみです。
政治的中立性: インターポールは政治的に中立であり、加盟国間の警察協力を促進するため、外交関係がない国同士でも協力を可能にしています。
日本の警察とインターポール
インターポール自体は逮捕権や捜査権を持ちません。ですから、アニメの銭形警部がICPOの捜査官としてルパンを追いかけるということはあり得ないのです。
それでは、日本の警察は、インターポール(国際刑事警察機構)を通じてどのような協力を得ているのでしょうか?
情報交換と捜査協力: 日本の警察は、インターポールを通じて他国の警察と情報を交換し、国際犯罪に対する捜査協力を行っています。これには、国外逃亡被疑者の所在確認や、犯罪に関する情報の収集と共有が含まれます。しかし直接的な捜査を行うのは現地の警察機関です。
国際手配: 犯人が国外に逃亡した場合、日本の警察はインターポールを通じて国際手配を行い、加盟国に犯人の情報を発信します。これにより、各国の警察が協力して犯人を追跡することが可能になります。
データベースの活用: インターポールは指紋、DNA、盗難車両、紛失・盗難旅券などのデータベースを運用しており、日本の警察もこれを活用して犯罪捜査を行っています。インターポールのデータベースはテロの防止のため、テロリストの入国を防ぐためにも活用されています。
国際会議やトレーニング: インターポールは国際会議の開催や各国の捜査能力向上のためのトレーニングを実施しており、日本の警察もこれに参加しています。
これらの協力により、日本の警察は国際的な犯罪に対処するための能力を得ています。
インターポールのサイバー犯罪対策
窃盗犯や殺人犯が国外逃亡といった従来からある犯罪に関するインターポールの役割はご理解いただけたかと思います。しかし国境のないサイバー空間における犯罪に関してはインターポールはどのような役割を果たしているのでしょうか。
サイバー犯罪対策拠点(IGCI): インターポールはシンガポールにサイバー犯罪対策拠点である「インターポール・グローバル・コンプレックス・フォー・イノベーション(IGCI)」を設置しています。この拠点では、世界中から集まった専門家がサイバー犯罪の分析と対策に取り組んでいます。
国際協力と情報共有: インターポールは、加盟国間でのサイバー犯罪に関する情報交換を促進し、国際的な捜査協力を行っています。これにより、サイバー犯罪が国境を越えて行われることを防ぎ、迅速な対応を可能にしています。
トレーニングと能力向上: インターポールは、加盟国の警察官や捜査官に対してサイバー犯罪に関するトレーニングを提供し、捜査能力の向上を支援しています。
民間企業との連携: インターポールは、NECやトレンドマイクロなどの民間企業と提携し、サイバーセキュリティ対策を強化しています。これにより、最新の技術を活用した犯罪者の特定や犯罪兆候の発見が可能になります。
これらの活動を通じて、インターポールはサイバー犯罪の防止と捜査において重要な役割を果たしています。
参考:
NEC、インターポールとサイバーセキュリティ対策で提携https://jpn.nec.com/press/201911/20191125_01.html
インターポールのオペレーション事例
インターポール(ICPO)のサイバー犯罪対策の成功事例をいくつかご紹介しましょう。
オペレーション HAECHI IV: 2023年
インターポールが実施した「HAECHI IV作戦」は、2023年7月から12月までの半年間にわたって行われた国際的なサイバー犯罪捜査で、この作戦で音声フィッシング、ロマンス詐欺、オンラインセクストーション、投資詐欺、違法オンラインギャンブル、ビジネスメール詐欺、電子商取引詐欺など、7種類のオンライン詐欺が対象となりました。韓国の資金援助を受け、韓国、フィリピン、日本、英国、米国など、合計34か国が参加しました。この作戦の結果、3億米ドルが押収され、3,500人の容疑者が逮捕されました。参加国の捜査当局は協力して疑わしいオンライン詐欺を特定し、関連する銀行口座や暗号資産交換業者の口座を凍結しました。インターポールの国際決済迅速介入(I-GRIP)を活用し、82,112件の口座が凍結され、1億9900万米ドルの国際通貨と1億100万米ドル相当の暗号資産が押収されました。また、作戦中には新たな投資詐欺行為についても警告が発行されました。特に、韓国で発見されたNFTを利用した「ラグプル」詐欺や、AIやディープフェイク技術を用いた詐欺の可能性に対する警告が出されました。
オペレーション HAECHI III: 2022年
この国際作戦は、オンライン詐欺を対象とし、約1,000人の容疑者を逮捕し、約1億3,000万ドルの仮想資産を押収しました。この作戦は、音声フィッシング、ロマンス詐欺、セクストーション、投資詐欺、違法オンラインギャンブルに関連するマネーロンダリングを標的とし、30カ国が参加しました。この結果、1,600件以上の事件が解決され、2,800以上の銀行口座と仮想資産アカウントが凍結されました。
オペレーション Goldfish Alpha: 2022年
東南アジアで実施されたこの作戦は、MikroTikルーターの脆弱性を悪用したグローバルなクリプトジャッキングキャンペーンを対象としました。20,000台以上のハッキングされたルーターが特定され、被害者に通知し、デバイスを修正することで、感染数を78%削減しました。
オペレーション Night Fury:2020年
この作戦では、eコマースサイトを感染させて支払いカード情報や個人データを盗むマルウェアが特定されました。インターポールは、サイバー活動報告を影響を受けた国々に発行し、インドネシアで3人のサイバー犯罪者を逮捕するのに貢献しました。
これらの成功事例は、インターポールが国際的な協力を通じてサイバー犯罪に対抗する能力を示しています。各国の警察機関や民間企業と連携し、情報共有や捜査の調整を行うことで、効果的なサイバー犯罪対策を実現しています。近年、日本国内においても、国際ロマンス詐欺や投資詐欺のニュースや逮捕事例が出てきている背景には、各国の警察とインターポールのICGI、そしてトレンドマイクロやNECなどの民間企業の連携によるものがあると言えるでしょう。
よくある質問への解説
(1)2022年にガーナにいた日本人の国際ロマンス詐欺師、森川光が逮捕されていますが、これはインターポールが捜査して逮捕したのではないのでしょうか?
2022年8月に森川光という日本人の詐欺師が潜伏先のガーナで逮捕されました。この逮捕劇はどのように起きたのでしょうか。
インターポールは直接的な捜査や逮捕を行うことはありません。日本の警察が追っている犯人の潜伏先で逮捕するのは現地の法執行機関によって行われます。インターポールは必要に応じて情報を提供し、国際手配書を発行することで各国の警察を支援します。
国際ロマンス詐欺などの詐欺事件に対して捜査していた大阪府警が、一連の詐欺事件で暴力団組長の男など15人を摘発し、その過程で指示役とみられる森川容疑者の存在が浮上。その森川の潜伏先がガーナであることを突き止め、インターポールを通して公開手配。ガーナ当局がそれに協力し、森川を逮捕し身柄を日本の警察に引き渡しました。
(2) 日本の警察が投資詐欺や国際ロマンス詐欺に関して動いてくれないのでインターポールに捜査を依頼するにはどうすればいいですか?
インターポールは一般市民からの捜査依頼を直接受け付けることはありません。捜査依頼は各国の警察を通じて行われ、必要に応じてインターポールが関与します。詐欺被害に遭った場合は、まず地元の警察に相談し、彼らが必要と判断した場合にインターポールを通じた国際協力が行われます。インターポールは、国際犯罪の防止と各国警察の協力を支援する重要な組織ですが、直接的な捜査機関ではないことを理解することが重要です。
インターポールのホームページに、助けが必要な場合の手段について説明されているので日本語訳をこちらに掲載します。
最後に
インターポールは、各国の警察が国際犯罪に対処するための情報交換や協力を促進する重要な組織です。インターポールの主導で各国の捜査当局が動いて、近年の国際ロマンス詐欺や投資詐欺などの犯行グループの逮捕の増加などがみられています。
日本の警察がインターポールの「サイバー犯罪対策拠点(IGCI)のオペレーションに参加して捜査をするように動かすのが、被害者の皆さんからの被害の届け出です。「相談扱い」になってもいいのです。警察に認知されることで、「これだけの日本国民が被害に遭っている」と警察が認識でき、結果として警察の時間や予算を割いてIGCIのオペレーションに参加して国境をまたいだ共同捜査が可能となってくるのです。
ですから、「お金が戻る」見込みがなくても、この種の犯罪をなくしたいという願いがあるのであれば、CHARMSでは国際オンライン詐欺の被害を受けた皆さんには警察に相談することをお勧めしています。
(文章:武部理花)
注記: 「ルパン三世」は1967年から1969年に漫画家のモンキーパンチさんが大人向け漫画として描いたものですが、1977年以降日本テレビが対象年齢層を下げたアニメーションを放送し、広い年齢層に支持されるようになりました。そのため、ここではあえて「大人向け漫画」じゃなくてご家族でも楽しめる「アニメ」の「ルパン三世」の「銭形警部」に言及させていただきます。