未完小説:西部劇
在庫処分その4。
性懲りもなく、また未完成小説の供養です。
書いたのは、10年近く前。
これとは別にもう一本、西部劇を書いてあるがそっちはこれよりももっと短い。音楽ネタを使って、西部劇を書けないかと思って、あれこれ考えてた時期があって、それがこういった話になっています。ちなみにもう一本のほうは、映画の「ワイルドバンチ」を元ネタに4人組のおっさんを主役にしようとして、詰まった作品です。そっちもそっちで書いてみたくはあるんですけども、いろいろ話の方も膨らんではいたし。
で、こっちはもっと単純にモチーフはド定番の「復讐劇」をやろうとして、書き出したもの。主役の名前が書いた所までだと出てきてないけど、こっちも音楽ネタです。それが分かれば、どういう内容かも見えるかもしれない。
まあ、ともかく。いつかちゃんとまとめたいとは思っています。
One Shot,One Kill
涸れた大地に砂埃の舞う、風の強い日だった。
街の寂れた酒場。荒くれ者どもの吹き溜まりだ。その晩もろくでなしどもがやって来ていた。酒をくらい、賭けに興じる。
そこへ若い男の怒号が響く。
「決闘だ!」
男は拳を叩き付け、テーブルを揺らした。その上で酒瓶とグラスもがたりと音を立てる。何が起こったのかと、酒場に居合わせた連中の視線が一点に集まった。その視線の先では一人の流れ者が、晩酌に来ていた保安官を睨みつけている。男は今にも暴発しそうな表情で、打ち震えていた。一方、保安官は泰然とした様子で酒を注ぐと、ぐいと一飲みした。
「で?」
大きくげっぷを吐き、痩せぎすの禿げ頭はグラスを置く。そしておもむろにテーブルに両足を乗せて、ふんぞり返った。目の前に立つよそ者が睨んでいる。彼の眼は流れ者を捉えたが、また酒瓶へと移った。グラスに酒を注ぐと、保安官は落ち着き払った声を出す。
「分かってるんだろうな? 俺に喧嘩売るってことは、ブタ箱に放り込まれても文句は言えねえって事をよ」
星型のバッヂをちらつかせて、保安官はせせら笑った。相手の神経を逆撫でするような下卑た表情と嗄れ声で男を囃し立てた。すると周りの連中もどこぞの馬鹿が素っ頓狂なことを言い出しやがったと、嘲笑した。
「黙れ」
流れ者は銃を抜き、天井に向けて引き鉄を引く。銃声と共に酒場は静まり返った。保安官の笑い声もまた止まる。焼き焦げた香りが漂い、おが屑がこぼれ落ちてきた。煙が消え去るのを待つことなく、男は銃口を保安官に突きつけた。
「さっきから聞いてりゃ、調子に乗りやがって……なあおい。今すぐこいつで、てめえを地獄に送ってやったっていいんだぞ?」
眉間に標準を合わせ、カチリ、と撃鉄を起こす音が鳴る。そして、指を引き鉄に添えた。力を込めて握れば、銃弾が額を簡単に貫くだろう。それを想像したのか、保安官は息を呑んだ。
「ま、まあ待てや。何処のどいつだか知らねえけどよ、何の恨みがあって俺にこんなことを……」
「ロジャー・バレット」
保安官の言葉を遮って、流れ者の口から出た名。重々しく、怒りをぶつけるような声で、男は銃身をさらに保安官の額に近づけた。
「知ってるだろ……まさか忘れたとは言わせないぞ、ビリー・マンディ」
また別の名を男が口にする。すると周りがざわめき始め、彼らの視線が一点に集中した。それは視線の先にいた、保安官の名である。彼はそれまで表情を一変させ、眼光鋭く流れ者を睨んだ。
「てめえ、何者だ。俺の名はともかく、どうしてヤツの名を知ってやがる」
「簡単なことだ」
男はほくそ笑んで、銃身を額から保安官の顎下へ移し、突き上げた。
「ヤツの息子だからさ」
顎を銃でぐりっとなぞり、椅子の背もたれを追いやった。その間も、男の眼がビリーを睨みつけて、離さない。蛇に睨まれた蛙の如く、身動きが取れないでいる。
「ロジャーは死んだぜ、ビリー」
流れ者はしたり顔で保安官、ビリーを嘲笑った。
「そうか」
重々しく、ビリーは答えた。すると彼の肩は小刻みに震えて、悲しみに暮れているかに見えた。だが、すぐにそれは間違いだと判明する。
「……ついにくたばったか、あの野郎!」
堪え切れなくなったのか、天を突き破るようなビリーの大笑いが酒場に響き渡る。
「長いこと、音沙汰がねえと思ったら……こんなに目出度えことはねえ!」
男の押し殺した笑みが止まらない。それどころか、周りのごろつきどもにに笑え笑えと煽り立てた。
次第に嘲笑が店中にこだまする。
流れ者はそれを黙って見ていた。ひきつけを起こしながら笑う保安官を、周りの野郎どもを。何もかもが気に食わなかった。
銃声が再び響く。柱に血の花が咲いた。それが始まりの狼煙。
次の瞬間、その場にいた取り巻きどもが色めき立って、銃を抜いた。 弾の嵐が酒場に降り注ぐ。テーブルと椅子は砕け、破片が舞い上がった。流れ弾がグラスとビンを割り、撒き散らされた酒が床に落ちる。
標的にされた流れ者はまったく微動だにしなかった。それどころか目にも止まらぬ早さで、六連発のリボルバーを打ち放つ。一瞬だった。銃声が途絶え、肉体の崩れ落ちる音がする。ある者は額を、ある者は眉間を、またある者は心の蔵を見事に打ち抜かれていた。
どいつもこいつも致命傷だった。
「言わんこっちゃねえ」
立ち尽くしたよそ者は肩を落として、ため息をつく。