「アントルメをお持ちします」 ワインと美術の探究室 [準備室/été]
2022年から始まることになる、「ワインと美術の探究室」。そのきっかけとなったのが、2021年の夏にふいに開催されることになったこのアペロ会でした。数回続いたのち、これはもうテーマを掘ってサロン開催にするしかないと決心するまでの、いくつかの夜を順不同で残していきます。
2021.8.28
夏の夕方。サンセットタイムならロゼ・ダンジュに。
ロワール好きの彼女とのアペロになにがいいかと、思案した結果でした。
彼女とは、美術・音楽・芸術文化に明るい、フランス語講師の美しいお姉さま。第一コロナ渦の真っ最中、彼女のフランス語講座に参加したことで知り合った。
出会いから一年以上経った頃、ふとしたことで彼女と、ホームアペロ(@デザインスタジオ Pencake works)をすることとなったのです。
聡明な彼女を迎えるにあたり、なにを準備したらいいか。ワイン会や食事会を主催される方々はきっとこういうことに楽しく悩むのだろうと初めて気づきました。考え巡らせていた時、彼女から届いたメッセージ。
「二人用のちいさなアントルメをお持ちします」。
Entremets! その甘美な単語が自分に向けられたのは初めてだったので、私はちょっと慌てて、アントルメってケーキのことだよね、と調べる始末。(これが「ガトー」だったら、メニューが違ったかもしれない)
とにかく、この単語は確実にこの会のクオリティをひとつ引き上げました。
Vins
・ロワール地方が好き(ワイン産地とは無関係に。フランソワ二世とレオナルド・ダ・ヴィンチの関係を語る方ですから)
・夕陽時刻のアペロ
このふたつをキーに、最初の1本をロゼ・ダンジュ(フランス3大ロゼワインのひとつである、ロワール地方のワイン) にするのはすぐに決まりました。
では、メインの一本はどうするか。
ロワールならば、繊細で瑞々しい、大好きな白ワインがたくさんある。
しかしこの時思い浮かんだのが、フランス印象派時代のひとり、ギュスターヴ・カイユボットの「床削り」という作品。
これは彼女の講座で取り上げられたものでもあり、以前 “名画のワインリスト” というブログを書いていた際、作品内にたたずむワインはロワールのカベルネ・フラン (黒ぶどう品種) ではないかという推測をしたことがあったのを思い出す。
これしかないと2本目は、透明感があって夏の夜に心地いい赤ワインに。
これで決まったとほっとしていたのですが、私は直近でもう一歩欲を出すことになりました。
Homege to Lecture de l’après-midi
彼女がナビゲートしている、"Lecture de l’après-midi"「昼下がりの朗読会」というラジオがあります。そこで彼女のパートナーとなっているフランス人ムッシュゥがサヴォワ出身だということを記憶していた私はどうしても抑えきれず、E'toile というジュラ地方のワインまで欲張ることに。
ジュラとサヴォワは東フランスにある隣接した地方です。A.O.C (農産品に使われる原産地呼称)は別々のものですが、地方としては「ジュラ・サヴォワ」とまとめられることが多いのです。
Appetizers
共通点がフランスアートである自分たちのために、アペロを楽しむフィンガーフードやディッシュを組み立てたものがここれら。
・セザンヌのりんごサラダ
・マネの温製アスパラガス
・ブラックとピカソのフレッシュぶどう
・きのこのハーブグリル、オープンサンド
ここに、シェーブル、コンテ、ジャンボンブラン、バゲットと、まるで求めていた隙間を埋めるように小さなフランスを味わい尽くし、夜空を見ながら話す時間。夏の夜はどこまでも寛大です。
Desserts
この夜のもうひとつの主役は、特注してくださったアントルメ。
桃のタルトでした。淡く繊細なピンク色、どこまでも薄くレースのような桃に散らされた小花。絶妙なサイズ感。息を飲むとはこのことです。
四谷はオテル・ド・ミクニのシェフパティシエを務める方が作られる、cafe MIKUNI's のスペシャルデザートです。あんまり美しいので描かずにイラレなかった、忘れられない夏のタルト。
A Midsummer Rose Night's Dream
夢のように夏の夜は過ぎるも、ロゼ色の余韻はいつまでも残り、しばらくぼーっとしてしまう。光に満ち溢れたアペロ会。
ワインは、ひとを近づけ、つなげます。それは間違いないけれど、その後の関係を深く、あるいは広くしてくれるのは、最終的にはその人の持つ世界です。ワインは強力なメディア、そこには深く感謝しながら、いかに自身に深みと新鮮さを持っていられるかが、ワインがつなげてくれたその縁の、その後の新しい世界の広がりへのパスポートなのだと感じました。