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スタグフレーションの日本経済!
2/5日本の10年物国債利回りが、1.29%と14年ぶりの高水準となったことで、東京市場で円高が進行し、株価も一時大幅に下落した。一方、民間エコノミストの予想では、17日発表予定の昨年の実質GDPは、0.2%減で4年ぶりのマイナス成長が予想されている。日本経済は、デフレ経済からスタグフレーション経済(物価高と景気低迷が併存する経済)に移行した状況と言える。今後の金融政策とドル円相場を予測する。
1.利上げと緊縮財政がもたらすスタグフレーション
昨年、日本銀行(日銀)の利上げと石破政権による緊縮財政政策が、需給ギャップを18四半期連続マイナスにしている。その一方、足元ではガソリン価格への補助金を縮小し始めたことで、ガソリン価格が上昇傾向に入り、12月全国消費者物価指数は、総合で3.0%の上昇となった。
2.景気減速を気にしない植田日銀総裁
植田総裁は、「金融政策を、物価動向に基づいて決め、景気動向は考慮しない」と発言している。その一方、景気支援を請け負うはずの石破政権は、減税に後ろ向きな姿勢を崩していない。植田日銀は、利上げを実施しても円安に歯止めをかけることができず、物価高の抑制に成功していない。追加利上げは、景気を冷やし、日経平均株価を押し下げる要因となることが懸念される。
3.内憂外患の日本経済
マイナス成長の主因は、個人消費が0.6%減となると見込まれていることにある。実質賃金の3年連続マイナスが続く中、米や生鮮食料品価格が高騰したことによる消費者の節約志向の高まりが背景にある。
加えて、外需も0.2%減少が見込まれている。理由としては、中国経済の低迷もあり、円安にもかかわらず、輸出数量が増加せず、基調としての貿易赤字体質から脱却できていないことが挙げられる。今後、トランプ政権の誕生により米中対立が激化すると、経済安全保障の観点から、半導体などの最先端技術を伴う製品の中国輸出が難しくなることに加え、トランプ政権による対米貿易黒字削減要求に応じて、米国からのエネルギー輸入を増加させれば、今年の貿易赤字は更に拡大し、外需の減少幅が大きくなると予想される。
4.スタグフレーションから脱却する方策は何か
一番手っとり早い施策は、利上げではなく、国民民主党が与党と合意したはずのガソリンの暫定税率の廃止である。ガソリン価格が低下すれば、物流コストが低下するだけでなく、経済の活性化に繋がり、一石二鳥でスタグフレーションの解消に繋がる。加えて、個人消費の活性化には、増大する税収を財源にした所得控除額引き上げによる所得減税も重要な需要喚起策になる。
5.今後のドル円相場の行方
所得減税やガソリン減税に消極的な石破政権が続く限り、現在のスタグフレーション経済からは脱却できない。物価高を抑制するために無理に利上げを継続しても、円安是正に繋がらないばかりか、景気の落ち込みを大きくするだけであろう。
逆に、来年度本予算案審議を通じて、与野党の対立が激化し、減税に前向きな新政権の誕生に繋がれば、国内の需給ギャップが改善することで、日銀の金融正常化を早めることができよう。需要拡大を背景にした健全な利上げであれば、日経平均株価のマイナス要因にはならず、賃金と物価の好循環に繋がることで、ドル円相場の安定にも寄与しよう。
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2025年2月5日執筆 チーフストラテジスト 林 哲久