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二つの自給率向上が生き残りの鍵(4) -分散型エネルギーの推進-

不安定性が増す国際情勢の下、国民の暮らしを守るために食料、エネルギーの自給率向上は優先課題である。生産活動や日々の生活において化石燃料の使用を大幅に減らすような革命的な変化を実現しない限り、我が国でエネルギー自給率を100%とするのは困難であろう。しかし、様々な工夫によりエネルギー自給率を向上させることは可能である。


エネルギー問題は混沌や変革の契機となる


本シリーズ1回目(「二つの自給率向上が生き残りの鍵(1)-食料とエネルギー-」2023年2月10日)に書いたように、日々の暮らしに欠かせない一次エネルギー(図1の注1参照)の我が国の自給率はかなり低い。不測の事態に備えて、自給率向上が望まれる。
2020年の我が国の一次エネルギー自給率は11.3%。1990~2000年代に20%前後の水準となった時期があったが、2011年の東日本大震災を契機に原発が停止され、その後は10%を割り込み、数年前からようやく10%前後の水準となっている(前述のレポート掲載の図2参照)。
第二次世界大戦において日本側の開戦決断の大きな要因が石油問題であったことは本シリーズ1回目でも書いたが、我が国では遷都もエネルギー問題が契機だったのではないかとの見方もある。竹村公太郎氏(『日本史の謎は「地形」で解ける』(PHP文庫)シリーズなど)は、エネルギー問題が我が国の遷都のインフラ面での誘因と指摘している。石炭が利用されるようになるまでは暮らしの熱エネルギーのほとんどは木材に依存していたが、都周辺の木材を伐採しつくしてしまったことが都を移すインフラ面での要因の一つであったとしている。
桓武天皇による平安京への遷都は、平城京があった奈良盆地の木材資源枯渇が一因としている。また、豊臣秀吉による関東移封を徳川家康が受け入れた要因の一つは、利根川流域の未開拓の木材資源に着目したからとの説を展開している。竹村公太郎氏によると、歌川広重「東海道五十三次」は幕末の禿山化しつつある日本を描いており、幕末の日本はエネルギー危機寸前だったとしている。黒船到来は石炭利用の道を拓き、エネルギー面からみれば日本にとって僥倖だったと言える。

石油は偏在


石炭は世界レベルで相対的に遍在しているが、石油は偏在している。近年の原油確認埋蔵量の半分は中東諸国である。中東諸国で大油田が発見される以前は、北米、ロシア/ソ連、インドネシアなどが主要産地であった。こうした石油の偏在が第二次世界大戦や中東での度重なる紛争の契機の一つとなってきた。
石油がなければ飛行機は飛ばせない、船や車は動かせない。なお、我が国では軍艦や飛行機などの動力源としては戦前に石炭から石油へ移行していたが、産業や暮らしの全般で石炭中心から石油中心に転換したのは1960年代頃である。
近年の技術進歩と原油価格高騰により、シェールオイルが経済的に利用可能となり、世界レベルで見た原油の中東依存度は緩和しつつある。しかしながら、我が国の石油の輸入依存度が高いことは変わりない。

一次エネルギー供給、最終消費エネルギーに占める石油比率は高い


我が国の一次エネルギー供給において石油の占める比率は高い。石油が供給熱量ベースで50%を切ったのは2000年度で、直近の2021年度は36%まで低下しているが、依然、主要一次エネルギーの中で1位である。
供給熱量が多いのは、次いで石炭、天然ガス・都市ガスの順である。図示している期間では、原子力は2010年度までは概ね4位であったが、2011年の東日本大震災以降は低迷したままだ。近年伸びているのは再生可能エネルギー(水力除く)(図1の注2参照)である。ただし、一次エネルギー供給に占める比率は2021年度で7%である。

図1:一次エネルギー国内供給


出所:経済産業省資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」より筆者作成(図の注を文末に記載)。

エネルギー源別の最終エネルギー消費(図2の注参照)は、図示した期間を通して石油が最も多く次いで電力となっている。石油は「運輸部門」での消費が最も多く、次いで「化学工業(含石油石炭製品)」、「業務他(第三次産業)」、「家庭」という順になっている。ガソリンや軽油などの形で動力源としての活用が多いと推測される。電力の消費については、「業務他(第三次産業)」、「家庭」、「機械」、「鉄鋼」という順である(いずれも2021年度。経済産業省資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の「エネルギーバランス表」より)。
なお、経済活動の変動によりエネルギー需給は変動するが、エネルギー使用効率の向上、ライフスタイルの変化、人口増減によってもエネルギー需給は変化する。我が国の一次エネルギー供給(図1)、最終エネルギー消費(図2)は2000年代半ば頃をピークに減少基調に入っているように思われる。

図2:最終エネルギー消費(エネルギー源別)


出所:経済産業省資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」より筆者作成(図の注を文末に記載)。

動力源として活用している石油については、日本列島の埋蔵量は近代産業を支えるには不十分で、国内産増加という形での自給率向上はほぼ望めないであろう。海外の油田の権益取得などで安定的な供給確保を図ることは重要であり、引き続き権益拡大を図るべきであろう。ただし、本稿は海外から物理的に入手困難な状況を想定しているので、海外油田の権益取得は二次的な話の位置づけである。
電気自動車や水素自動車など石油由来以外のエネルギーの利用比率を高めて、石油の消費量を減らす形での自給率向上という方向となろう。電気自動車は技術的にはかなり実用化してきているが、まだまだガソリン車の利便性からみると劣後する部分が多く、充電スタンドなどのインフラ整備も緒に就いたばかりである。また電気そのものの国産度、蓄電池原料の国産度などの課題もある。水素エネルギーについても技術的には目途がつきつつあるようだが、一般に普及させるにはまだ道のりが遠そうだ。引き続きこれらの動力源利用の具現化に期待したい。

安定的な電力の確保


我が国の一般供給用の発電は明治時代に石炭火力発電で始まった。水力発電所も明治時代半ばには運転を開始していたが、石炭価格高騰を受けて水力発電施設の建設が進み、明治末から大正期に水力発電の出力が火力発電を上回るようになった。我が国は降水量が潤沢で急峻な地形が多いので、水力発電に向いている。しかし、大規模水力発電を行う場合はダム建設などが必要になるので、火力発電所より整備に時間がかかる。戦後は電力へのニーズが急増し、相対的に短期間で建設できる火力発電所が増え、1960年代には再び火力発電が水力発電を上回るようになった。また、火力発電の燃料は石炭から重油、原油が主体となった。
原子力については、戦前の日本の研究はトップクラスの一翼をなしていたが、敗戦により戦勝国に大幅に後れを取ることを余儀なくされた。戦後の様々な交渉等により、アメリカやイギリスからのノウハウ導入という形で、1960年代から日本でも原子力発電の営業運転が開始された。
図示している期間では、発電量は天然ガスが1位、次いで石炭となっている。石油等は図示している期間の前半は3位であったが、2018年度以降は水力の順位を下回っている。さらに2020年度には太陽光が水力を上回った。直近2021年度は、天然ガス、石炭、太陽光、水力、石油等、原子力、バイオマス、風力、地熱の順である。天然ガス、石炭、石油等が火力発電ということになるが、天然ガスは火力発電の中では相対的にクリーンな原料とされており、近年の我が国の発電は天然ガスが中心となっている。
本稿のテーマである自給率という観点では、火力発電の原料はほぼ輸入依存である。再生可能エネルギーはほぼ国産であり、特に水力は100%国産である。なお、原子力の燃料であるウラン等は輸入しているはずだが、原子力発電という観点では経済産業省資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」では100%国産扱いである。つまり、図3のうち「ゼロエミッション電源」(図3の注参照)がほぼ国産と考えてよいと思われ、電源構成におけるゼロエミッション電源の比率向上が自給率向上に等しいともいえよう。
東日本大震災後、原発が停止した影響でゼロエミッション電源は減少したが、太陽光、風力は増加し続け、2012年度以降はゼロエミッション電源全体としては増加基調である。原子力の多少の回復も相俟って、2021年度のゼロエミッション電源の比率は27.1%であった。つまり発電量については、自給率3割弱 とみなせるであろう。

図3:電源構成(発電量)


出所:経済産業省資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」より筆者作成(図の注を文末に記載)。

地産地消の分散型電源を


かつて電力関係者に聞いた話であるが、世界最大規模の滝である南米のイグアスの滝を全て発電に利用することができたとすると、理論的には全世界の電力需要を賄うだけの発電量を確保できるそうである。そもそもイグアスの滝の水力を全て発電に利用するというのが非現実的ではあるが、仮に発電を実現できたとしても、それを消費地まで運ぶ手段がない。
超長距離の送電線をひくことができたとしても、距離が長いほど送電ロスが大きくなるであろう。蓄電池はそれを消費地まで運ぶための輸送システムを新たに構築しなければならないし、やはりロスは生じるであろう。蓄電技術は約200年前のボルタの発明以降、送電技術は約100年前のテスラの発明以降、原理的な進歩はほとんどないそうである。もちろん、素材その他の進歩により彼らの時代よりは容量等は爆発的に増えているが、基本原理は同じであるそうだ。
戦後の日本の電力システムは、大規模発電所から高圧で遠距離を送電し、途中変電しながら、最終消費者に配電するという形で構築されてきた。主力発電所と消費地は遠距離である形態である。
送電ロスや送電設備の維持コストなどを考えると、人口減少社会となっている日本では、今後は小規模発電施設を地産地消するような形で再配置する方向が良いのではないだろうか。発電施設と消費地が近ければ、送電ロスを抑えられるし、大規模な送電網構築も必要なくなる。人口減少の影響で一定地域内の人口規模が小さくなれば、小規模発電施設で地域内の電力需要の相当部分をカバーできるであろう。小規模発電施設としては、中小水力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーが向いており、これらを積極的に推進していくのが望ましく、自給率向上にも資するであろう。小規模な村落に、近隣の山中の小川に設置した数基の小水力発電施設、地域のゴミ処理場や間伐材処理場に設置したバイオマス発電施設、などから電力を供給するイメージである。さらに屋上設置型ソーラーパネルなどのオンサイト電源を組み合わせれば、地産地消で完結できる可能性もある。

国産100%の水力発電は増加の余地あり


前述の竹村公太郎氏は『水力発電が日本を救う』(東洋経済新報社、2016年)で既存ダムの運用変更と嵩上げだけで発電量を約350億kWh増やせると試算している。これは2021年度の発電量全体の3.4%に相当する。また開発可能地点の試算によって異なるが中小水力発電で少なくとも1,000億kWh増やせると見込んでいる。これらを合わせて約1350億kWhで、2021年度の発電量全体の13.1%に相当する。こうして増加した水力発電を火力発電と置き換えれば、発電量の自給率は4割強になる計算だ。
電力の最終エネルギー消費に占める比率は3割弱なので、これらが実現してもエネルギー全体での自給率向上効果は4%弱であるが、やらないよりやった方が良い。人口減少により家計部門の最終エネルギー消費量は基本的には減少見込みであるから自給率はこの計算よりもう少し向上するであろう。

今後の技術開発や普及促進に期待


前述の動力源としての電気や水素の活用が進めば、さらなるエネルギー自給率向上も見込める。さらに超電導、核融合などの開発途上の技術、メタンハイドレートの実用化も引き続き注力すべきである。
電気を減衰させずに貯蔵できる超電導電力貯蔵装置は実証化段階に入っており、産業化できれば太陽光や風力など発電が天候に左右される電力を貯蔵でき、自給率向上に資するであろう。核融合はまだ科学的・技術的実現性の確立を目指す段階であるが、資源が海水中に豊富にある、二酸化炭素を排出しないといった特徴からエネルギー自給率向上への貢献に対する期待は大きい。メタンハイドレートは日本近海に大量に存在していることが確認されている。メタンハイドレートを取り出したり、存在場所を探すためには新しい技術・高度な技術が必要であるが、その技術開発は日本が世界の最先端を走っている。コスト面も含めた商業化への道筋が早期につくよう期待している。

まとめ -食料は大規模化、エネルギーは分散型-


本稿まで4回にわたって食料とエネルギーの二つの自給率向上について書いてきた。キャッチフレーズ的にまとめると、「『食料は大規模化、エネルギーは分散型』で自給率向上を!」といった感じになろうか。
食料とエネルギーの自給率向上を実現するのに貢献し得る産業は幅広い。ただし、食料生産やエネルギー生産に直接的に関わる製品やサービスを提供しているかは個別企業を見る必要がある。いずれ、その辺りの話も情報発信していく予定である。


図1の注
注1:一次エネルギーは、石油、天然ガス、石炭、原子力、太陽光、風力などのエネルギーのもともとの形態。
注2:再生可能エネルギーは、太陽光、風力、地熱、中小水力、バイオマスなど。
注3:PJ(ペタ・ジュール)はエネルギー量の単位で、千兆(10の15乗)ジュール、1 ジュール≒0.239 カロリー。経済産業省資源エネルギー庁「令和2年度エネルギー消費統計結果概要」によると、「4人家族の家庭が1年間に使用するエネルギーが、全国平均で43GJ(ギガ・ジュール)=43,000,000,000J」とのことである。

図2の注
最終エネルギー消費は、工場、オフィス、公共交通機関、一般家庭などで実際に消費されたエネルギー。発電所、ガス製造所、石油精製工場など加工・転換の過程で消費されたエネルギーは含まない。

図3の注
ゼロエミッション電源は、「発電時にCO₂を排出しない原子力発電を含めた太陽光発電、風力発電、地熱発電、水力発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギー由来の電源」、ゼロエミッションは、「あらゆる廃棄物を原材料などとして有効活用することにより、廃棄物を出さない資源循環型の社会システム」(一般社団法人エネルギー情報センター「新電力ネット」サイト「用語集」の「ゼロエミッション電源 (Zero-emission energy source)」より)。
図中の「ゼロエミッション電源」=原子力+水力+太陽光+バイオマス+風力+地熱。


20230306 執筆 主席アナリスト 中里幸聖


前回レポート:
二つの自給率向上が生き残りの鍵(3)-農業の企業組織化・大規模化-」(2023年2月22日)


「二つの自給率向上が生き残りの鍵」シリーズ:
二つの自給率向上が生き残りの鍵(1)-食料とエネルギー-
二つの自給率向上が生き残りの鍵(2)-輸入頼りの三大栄養素-
二つの自給率向上が生き残りの鍵(3)-農業の企業組織化・大規模化-
二つの自給率向上が生き残りの鍵(4)-分散型エネルギーの推進-





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