ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(特別編)  2022/4/12(和訳)

ベルリンシャリテ 免疫学教授 カルメン・シェイベンボーゲン
ベルリンシャリテ 神経科 クリスティアーナ・フランケ
聞き手 ベーケ・シュールマン

多くの人にとっては、現時点でのSars-cov-2ウィルスによる脅威は許容範囲である、という印象を受けます。重症化に対するワクチンの効果は十分にあり、ワクチン接種者の入院リスクは減少しています。しかし、感染者にとっても、医療にとっても、落ち着いていた状態からは程遠い、と言わざる得ません。というのも、感染後に起こり得る後遺症が存在するからです。Long covid、もしくはPost covidと呼ばれるもので、多くの人が感染後に何らかの症状を感じていて、それが何ヶ月も続く場合も多いです。一応回復した、ということになっていますが、階段を数段登るだけで息が切れる。痛みが感じる。記憶障害、倦怠感に悩まされ、酷いケースになると仕事に復帰できなくなる場合もあります。これらがどのくらいの規模であるのか、ということはまだよくわかっていませんし、まだまだ明らかになっていない点も多いのです。この新しいシンドロームはゼロから研究されなければいけませんが、いまのところわかっていることは何なのか。特徴的な症状は。社会全体に与える影響とは。今日は、これらのテーマについて、二人の専門家にお伺いします。コロナ感染後に完全に完治しない患者数はこの数ヶ月間増え続けているとのことですが、まずは、ベルリンシャリテの免疫不全外来、免疫学教授、カルメン・シャイベンボーゲン先生、そして、同じくベルリンシャリテでご勤務の神経内科医、クリスティアーナ・フランケ先生、聞き手はベーケ・シュールマンです。

今日は、Long CovidとPost Covidの研究といままでの経験についてお伺いしたいと思っていますが、まずは、Long Covidというものがどのように注目されてきたのか、というところから質問させていただきます。まずはこのシンドロームは全く新しいものだったわけですよね?

クリスティアーナ・フランケ 全くその通りです。大変衝撃的でした。度合いとしては、2020年にコロナのパンデミックが始まったのと同じくらいの衝撃だったと思います。個人的には、集中治療病棟で急性Covid患者を神経内科医として治療したことが始まりです。当初はこれは呼吸器系の原発性疾患であって、神経内科には関係のない疾患だ、と言われていましたが、かなり初めの頃から、麻酔科と内科の同僚とそうではないのではないか、という疑いを持っていたのです。感染流行が始まって4、5ヶ月経ったくらいに、神経症状と髄液から検出された自己抗体に関する論文を発表したのですが、それがきっかけでCovid感染症の回復後に神経性の後遺症に悩みながらもどこに相談してよいかわからなかった患者の方々多数から連絡が来るようになりました。それがPost Covid 専用の精神科の外来を2020年の9月から始めたきっかけです。

現在は、急性の疾患の相談のほうが多いのでしょうか?それともLong Covidですか?

クリスティアーナ・フランケ 個人的には両方の診療をしていますが、勿論重点はPost Covidです。しかし、内科では急性のCovid-19患者も診ます。

シャイベンボーゲン先生、先生はどのようなきっかけで始められたのでしょうか?

カルメン・シャイベンボーゲン 私は臨床免疫学の教授ですが、私たちの研究所には感染症後遺症シンドロームの専門科があります。ここでは、感染後の慢性疲労症候群CFSに患っている方々の診療をもうかなり長く行なっています。2020年の6月にはすでに、Covid感染の回復後にも完治せずに疲労が続いているという患者が出ていました。痛みも伴う、というケースです。認識障害も出ていますから、これはCFSである、ということで、速攻でこれらの症状を調べるべく、試験を始めたのです。そのような研究を2年行なっていますが、治験者は私たちのところで入院していた患者ではなく、20代から50代の重度の慢性疲労症を患っている人たちで、運動耐容能低下にも苦しんでいるケースです。現在では治験者は200名以上にもなりましたので、かなりPost Covid症候群についてわかってきました。そのなかには、完全なCFSの症状、他の感染症でもみられる症状もありますが、多くは、多様であり、さまざまな異なる病態が若い世代ではみられることがわかっています。シャリテでは、Post Covidネットワークが発足され、様々な専門分野の専門医と協力しあいながらこのような患者の治療にあたっています。

SARS-CoV-2感染後のLong Covidの患者数に関しては異なるデータが出ていますが、いくつかの論文をまとめると、大体10%から40%の割合だ、と言われています。どのあたりが現実的な数値なのでしょうか?

カルメン・シャイベンボーゲン これは多くの人が知りたいデータだと思いますが、お答えするのも難しい問題です。多くの論文で出されたデータの多くは、基礎疾患を持つケースをベースとしたものですし、どのような診療、どのような臨床試験が行われたのか、というところで数値は変わってきます。最終的なデータは、国民全体のデータを集計しないと出すことができないと思いますが、そのような規模のものは今の所まだ大変数が少ないのです。しかし、あることにはあります。例えば、イギリスのOffice of National Statisticsが出したデータは、数十万人のCovid罹患者、PCRや抗体検査によって記録された患者を長期に渡って観察して集められたものです。かなり規模も大きく、よくまとめられていますが、そこでは40人に1人がLong Covidにかかっている、と。勿論、感染者には取りこぼしもありますから、それを配慮すると、大体10%、という割合になります。全体の10%がLong-Covidを患っている、というが比較的現実的な数なのではないか、と思われます。

誰が大きなLong Covidのリスクを持っている、といえるのでしょうか? ここでも様々な意見がありますが、、まずは、Covid-19で集中治療が必要であった場合には、ほとんど全員がLong Covidと闘うことになる、ということですが、先ほどおっしゃっていたように、このような患者は先生のところにはいない、ということでした。しかし、とりあえず、例外なくそうである、と言えるのでしょうか?集中治療病棟で治療された場合には、ほぼ確実にLong Covidの問題が起きていますか?

カルメン・シャイベンボーゲン それは勿論、疾患の重度に関係します。人工呼吸がされたのかどうか。どのくらいの期間されたのか。しかし、私たちの病院で集中治療が必要だったケースの多くには、その後にも後遺症、重度の後遺症が出ています。これは想定内の結果であって、もうかなり前からわかっていることではあります。いわゆる、集中治療後症候群です。しかし、想定外だったのは、多くの若い世代、、そこまで重度の疾患経過がなく比較的軽症であったケース、肺炎もなかったのにも関わらず、長い間持続する後遺症、場合によっては重度の疾患が続くことがある、ということです。私たちは長い間、感染後症候群を診てきていますが、そのようなことが起こる、ということは想定していませんでした。そして、その症状の多様さと頻度も驚くべきものだった、と言えるでしょう。

頻度、という点で具体的な数値を出すことはできますか?若い世代で、無症状、もしくは軽症の疾患経過であった人の数はそこまで多くはありませんよね?まれ、というのはどのくらいの規模なのでしょうか?100人に1人、とかでしょうか?それとも、1万人に1人でしょうか? なんらかの数を出せますか?

カルメン・シャイベンボーゲン そうですね。大体、10%がLong Covidになる、という計算になりますが、割合的には集中治療病床の患者よりも若い世代のほうが多い、ということです。つまり、10%のLong Covid患者、というのは、ほとんどが若い世代である、と言えます。

そういうことなのですね。私は全体の10%、ということになると、集中治療病床にいる高齢者の割合が、無症状の若い人たちよりも多いのか、と思っていました。

カルメン・シャイベンボーゲン 高齢者では、集中治療患者の少なくとも3分の2がLong Covidになっています。しかし、全体の割合としてみてみるとずっと少ないです。若い世代では、、10%とみて良いと思います。ちなみに、ここでは無症状感染者は多くなくて、軽症、とは言われていてもかなりしっかりと症状が出ていた人たちがほとんどです。

インフルエンザ程度、ということですね。

カルメン・シャイベンボーゲン そうです。酷い風邪、インフルエンザくらいで、疾患経過も2週間、3週間、という感じです。

クリスティアーナ・フランケ ここで3つの点をはっきりさせることが重要だと思います。まず、軽症患者、そして、急性感染で入院が必要になるケース、さらに、集中治療、酸素供給であったり人工呼吸が必要になる場合です。集中治療患者に関しては、80%に後遺症が残る、というデータがでていますが、先ほど、シャイベンボーゲン先生も指摘されていたように、これは必ずしもCovidが原因、ということではありません。これをLong Covidだ、と断定するのは難しい問題だ、と私は思います。集中治療後症候群との共通点もあり、データが十分ではないのですが、たしかに多くの患者に神経症状がみられることも確かです。この点を試験のなかでは調査し、コロナでの集中治療の経過と、コロナ感染がない状態での集中治療ではどのような違いがあるのか。特に認知分野、つまり記憶や記憶障害での比較、そして、軽度のCovid-19疾患との比較もしました。これがまず第一で、第二には、10%というのは現実的な数である、ということです。これは、WHOもあげている数値であり、全体の10%がなんらかのPostCovid19症候群、といわれる後遺症を持っている、と。そして、3つ目には、Long Covid とPost Covidの定義です。ここでの混同がされる場合が多いように思います。純粋に定義を言うならば、まずは期間的な違いがあって、そこに去年の10月からWHOによって臨床的な症状が追加されました。最終的には、急性感染症から約4週間は症状が持続する可能性がありそこまでは急性感染の範囲に含まれますから、4週間以降もPCR検査が陽性であったり、症状がある場合にここからLong Covid、ということになります。Post Covidというのはもっと後、12週間経ってもまだ症状がある場合、つまり急性感染症から3ヶ月経っても症状が持続した状態を言います。私たちの内科医のPost Covidネットワークでは、、ここには循環器内科、呼吸器内科、心療内科、神経内科、そして小児科も含まれますが、多様な症状の診断は12週間後から後遺症、として判断することになっています。神経内科と免疫科、そして特に慢性疲労外来にここまでの数の患者がCovid疾患の後に記憶障害を中心とした症状で訪れることになるとは想定していませんでした。そして、先ほども言いましたが、その大多数が若い世代の患者です。私も自ら始めの100名を診療しましたが、そのうちの3分の2は女性、平均年齢は45歳、主な症状は集中障害でした。

ここでの既往歴、Long Covid やPost Covidのリスクというものはあるのでしょうか?フランケ先生?

クリスティアーナ・フランケ そうですね。その点での研究はまだ十分ではありません。私たちも、精神内科での診療の際にカテゴリー分けをしましたが、患者のなかに精神系、もしくは神経系の疾患の既往歴があった人はいませんでしたし、そのあたりを区別するのは大変困難です。例えば、例を出すならば、、患者のなかに、多発性硬化症を患っていてCovid-19に罹患した人がいましたが、倦怠感、集中障害、という後遺症がある、と。しかし、多発性硬化症でも倦怠感や集中障害、という症状がメインであります。これはこの疾患によって引き起こされている症状である可能性もありますし、どれが基礎疾患によるものなのか、どこからが SARS-CoV-2感染によって引き起こされた後遺症であるのか、という線引きは大変難しいのです。今の所、Post-Covid-19症状群のバイオマーカーがない、というのが現状です。

感染した時に高いウィルス量であったかどうか、という点はどのくらい重要なのでしょうか?シャイベンボーゲン先生?何かわかっていることはありますか?

カルメン・シャイベンボーゲン 先ほどのリスク因子にも関係しますが、いくつかの研究があります。例えば、大規模な試験から、急性感染時のSARS-CoV-2のウィルス量がPost-Covid症候群のリスク因子となる、というデータが出ています。興味深いのは、EBVの再活性時、つまり、EBVウィルスが患者の一部で、、

エプスタイン・バール・ウィルスですね。慢性活動性EBウイルス感染症を引き起こす、、

カルメン・シャイベンボーゲン そうです。そのエプスタイン・バール・ウィルスが患者の一部で発見されました。このウィルスはほとんどの人が持っているウィルス、ヘルペスウィルスのひとつですが、通常時は身体のなかに潜在し疾患症状などはないものの、感染症の際に活性化することがあるのです。それが、この患者たちでは、急性疾患時にEBVウィルスが増加してPost-Covid症候群に移行しただけではなく、抗体検査からもEBV が活性化された、ということが確認できています。ここでもう一度、メカニズムの関連性をみていったほうが良いかと思うのですが、実際にEBVの再活性化が何を意味するのか、というところです。さらなるリスク因子としては、、私たちの研究のなかでみてきた患者は罹患前には健康体であり基礎疾患はなかったケースがほとんどでした。そこで免疫的な因子をみることにしたのですが、これは免疫システムが感染の経過に大変重要であるからです。検査の結果、患者の一部に免疫欠陥がある、ということがわかりました。興味深いのは、そのうちのほとんどが、補体因子、マンノース結合レクチンの欠乏だったことです。この補体因子は、新しい病原体が体内に侵入した際に必要となるもので、これが速攻で中和を促します。そこの欠乏があれば、ウィルス感染時に対応できないリスクが高まることになりますが、Post-Covid症候群の患者の25%にこの欠乏がみられました。これに関してはチューリッヒの論文がありますが、免疫グロブリンが低い場合、、ここではIgMとIgG3があげられていて、これは免疫グロブリン、抗体の種類ですが、、これが少ない場合にはPost-Covid症候群になるリスクが高い。ここでも勿論明らかになっているのは、男性よりも女性のほうがはるかに多い、ということ。大体男性の倍です。これも免疫機能の関連性があり、女性の免疫機能の活性度が高い、ということは承知の事実ですが、この活性度が高い免疫機能が感染が原因でその後にも通常時のバランスのとれた免疫機能に戻ることができなくなる。この高活性免疫が炎症を長引かせる、もしくは自己免疫反応に繋がる、と考えられます。

ウィルスの変異体によって Long Covidの頻度も変わるのでしょうか?オミクロン株は多くの場合には軽症ですが、Long Covidのリスクも低い、ということはありますか?フランケ先生?

クリスティアーナ・フランケ 今の所、変異株での違いについての十分なデータが出ていません。私たちのネットワークでは、パンデミックにおいての様々な感染波、異なる変異株による感染疾患のケースを診てきていますが、そのなかでは「この変異株ではこのような症状がでる」などという傾向はみられません。オミクロンに関して言えることは、今、急性感染疾患を患う人たちはワクチン接種をしている場合が多いですので、今、ワクチンを接種していない患者が罹患した場合に、症状の違いはあるのか。Post-Covid-19症候群との関連性に関するデータを集めているところです。

カルメン・シャイベンボーゲン 追加しますが、ドイツには、ドイツLong Covid、という患者団体があり、そこでもデータが集められています。そこからの情報では、今現在でも引き続きCovid 感染後の後遺症のケースはあり、オミクロンでも同じようにLong Covidになる可能性がある、というのは確かです。ワクチン接種者では、そこまで頻度は高くない、というデータが出ているものの、それに関してはこれから説明しますが、、ワクチンの接種後にも、Long-Covid、Post-Covid症候群が発生する可能性はあります。

ワクチンに関しては少し後でもう一度詳しく伺いたく思うのですが、再感染時にLong Covidのリスクは上がるのでしょうか?このポッドキャストでも、チーゼック先生とドロステン先生から伺ったように、今後、数ヶ月後、数年後の間の感染は避けて通ることはできない、ということで、もうすでに2回目、3回目の感染をしている人も増えてきています。リスクは上がっていくのでしょうか?それとも下がるのでしょうか?

クリスティアーナ・フランケ 上手く答えられると良いのですが、、たしかに、まだデータが十分ではない、というところもありますし、全てを明らかにするには科学的にも基礎がまだしっかりとしていない、と言っておかなければいけません。しかし、言えることは、一番始めの感染後にPost-Covid-19症候群になり、その後でもう一度感染した場合には症状が悪化したケースがある、ということです。その一方で、Post-Covid-19症候群の症状の度合いには波があり、改善と悪化を繰り返す、という特徴も WHOの定義のなかにも含まれていますから、再度の感染が常に原因である、ということは言えないかもしれません。Post-Covid-19症候群があり、ワクチン接種を行なった場合も同様です。ここでは、症状の改善がみられた患者もいるようです。とはいっても、個人的には、そのようなケースを診ていません。患者全員に確認していることですが、私の患者のなかにはワクチン接種後に症状が改善された、という人はいません。しかし、同じように、悪化した、という人もいません。

少し付け加えますが、、子供と青少年は成人よりも確率が低いようですが、全くリスクがない、ということはありません。先生方は成人の患者を中心に診療していらっしゃる、ということですので今日は子供については取り上げませんが、次に症状についてお聞きしたいと思います。フランケ先生が先ほど、LongとPost Covidの違いをあげてくださいましたが、症状でもLongとPost Covidの区別はされるのでしょうか?それとも、期間だけの違いですか?先ほどご説明はしていただいたのですが、もう一度していただけると幸いです。

クリスティアーナ・フランケ 勿論です。症状の面ではLong CovidとPost Covidでの違いはありません。違いは純粋に期間の違いです。去年の10月にWHOからPost-Covid-19の定義として症状のリストがまとめられていますが、主要な症状としては、疲労、負荷下による呼吸困難、集中障害などがあげられますが、その他にも様々な症状、そのなかには循環器系、例えば動機であったり、不整脈であったりそのようなものもあれば、皮膚の異変、関節の痛み、頭痛、毛髪の異常、ここから脱毛に至ることもあります。そのような症状が定義に含まれますが、先ほども言ったように、Post Covidの定義としては感染から3ヶ月、もしくは、残留的に少なくとも2ヶ月、つまり、度合い的に強かったり弱かったりする状態が続く、というのが定義部分です。

疲労、というものはどのようなものなのでしょうか? 倦怠感との区別は難しいですよね。

カルメン・シャイベンボーゲン 疲労とは、「私は疲労なんです」と患者自身が言うものではなくて、倦怠感があったり、疲れがとれない状態、負荷がかけれない状態の総称です。疲労とはかなり複雑な症候群で、なかなか測ることができないのと同時に様々な疾患で起こる現象です。ですから、分類するのも困難ですし、これはもう一度言っておくべきことだと思うのですが、、Longと Post Covidの主要症状は慢性疲労ですが、WHOはさらに、Post-Covid症候群では、日常生活において大きな障害が発生していることを定義として追加しています。これも疲労の範囲の広さからわかるように、仕事をするのが困難になるレベル、ということです。そして、どのような疲労であるか、という点をみることも重要で、他の疾患との関係性はあるのか、睡眠障害はあるのかどうか。Post-Covid症候群に患っている人の多くはこれには当てはまりません。多くの場合には記憶障害、酷いケースだとブレインフォグなど、集中するのが困難になったり、思い出せなくなったり、言葉がぱっと出なくなったりします。それと同時に起こり得ることは、運動耐容能低下です。この症状自体は特定するのが容易ではありませんので、日常生活のレベルでみていく必要があります。多くの場合が、簡単な日常生活でのこと、例えば、買い物に行くとか、子供の世話をするとか、そのような作業ができなくなる。スポーツをすることが不可能になる人も多いです。運動耐容能低下は、労作後倦怠感PEMに繋がる場合が多いですが、これも定義が難しい疾患ではあります。日常生活をするなかで、労作後に症状が悪化する、というものですが、これによって疲労感も悪化しますし、痛みや記憶障害も同様です。場合によっては、クラッシュが起こって数日間動けなくなることもあります。酷い場合には、何日も暗くした部屋に閉じこもって外部からの刺激を遮断しなければいけないこともあります。これらの重度の倦怠感、運動耐容能低下を伴うPEMは、比較的典型的な慢性疲労症候群CFS、もしくは筋痛性脳脊髄炎MEの症状でもあります。実際にこのようなものは多くの患者にみられますし、来院するなかの約半数は、慢性疲労と運動耐容能低下のコンビネーション、そして感染後慢性疲労症候群の病像を持っています。さらに、痛みなどの症状が追加される場合に多いですし、循環障害などもあります。これらのことは、理解をする上で重要な点だと思うのですが、患者が、「前のようには動けない」「倦怠感がある」と訴えた場合に、まずは、どれだけ動けるのか。少し負担をかけたほうが効果的であるのかどうか。という点での区別をするべきで、倦怠感には様々なかたちがありますから、運動などで身体を動かしたほうが良い場合もあれば、その反対でそれによって症状の悪化に繋がる場合もあるからです。

疲労はどのくらいの割合ででるのでしょうか?

カルメン・シャイベンボーゲン 大きな研究データをみてみると、半数から3分の2、とあり、Post Covidの一番多い症状です。しかし、全員が重度、というわけではありません。私が診た患者のなかでも、多くの場合が疲労の症状がありますが、その半数が慢性疲労症候群の病像、もう半分が運動耐容能低下を含む様々な症状、痛みや記憶障害があるものの、筋痛性脳脊髄炎MEや慢性疲労症候群の診断カテゴリーには当てはまらないケースです。

クリスティアーナ・フランケ 補足させていただくと、、診療する場合には、勿論それぞれのバイアスがあると思うのです。疲労や慢性疲労症候群や運動耐容能低下を患っている患者の場合には、神経系のもの、例えば集中障害であったり、頭痛という症状も平行してあるかもしれませんが、それがメインではない場合もあります。つまり、多くの患者で疲労といっているケースのなかには、先ほど出ていたような、クラッシュ、運動耐容能低下のような重度ではない場合もあるわけですが、どれと同時に集中障害のような症状があって仕事に支障が出ている場合などは勿論神経内科で診療されることになります。

ここからも、Long Covid、Post Covidというの大変大きな領域である、ということがわかります。病態から、以前可能であった作業をすることができなくなったり、何時間も睡眠が必要になってしまうケースはわかりますが、例えば、「匂いがわからなくなった」などというものとはもう少し区別をしたほうが良いのではないでしょうか?特に重度のLong Covid、Post Covidのケースでは重要になるような気がします。

カルメン・シャイベンボーゲン このあたりは整理はしなければいけないと思います。後遺症のメカニズムを理解する上で、症状から大きな定義、Post-Covid症候群、というものを定義する必要があります。いまのところ、比較的良く定義されているのは、先ほどの慢性疲労症候群が重度のPost-Covid症候群である可能性が高い、というところです。同じように比較的良くわかっているのは、臓器診断の領域での病像です。若い世代でも、例えば、慢性肺疾患であったり、心筋炎に発展することもありますし、フランケ先生からもご説明いただけるかとは思うのですが、神経性の疾患であったり、自己免疫疾患も含まれます。しかし、肺、心臓などの臓器に目立った障害が見当たらなかった場合には症状の併合具合からサブグループ分けをしていく、ということが必要になってきます。さらなるサブグループとしては、体位性頻脈症候群POTSという循環機能の障害があげられます。この問題を抱える場合には、心拍や血圧を維持することが困難になり、心拍数が速すぎたり血圧の急激な低下などの症状が出ますが、これは別の感染症の後遺症としても認識されることです。体位性頻脈症候群や立ち上がった際に急激に血圧が下がる起立性低血圧です。このようにサブグループをつくり定義する利点としては、より明確な疾患メカニズムを原因の追求ができること、そして効果的に治療のコンセプトをたてることが可能になる、ということがあげられると思います。

クリスティアーナ・フランケ その通りです。私たちのところにはかなりの数の患者は来ますが、メインの担当をするのはかかりつけ医です。かかりつけ医から専門科へ、という流れになりますから、どの患者が専門科での診療が必要になるのか。その点でも、重度と症状によるカテゴリー分けは重要なポイントとなります。ですから、かかりつけ医が専門科での治療を要するケースの見極めるを正確にすることができるためにも、このカテゴリーの明確な定義をする掲示することは必然だと思います。

症状の多様性という面でも診断は容易ではなさそうですね。そして、初期に感染した場合には今のように検査が広範囲でされていなかったために、Covid-19感染を検証できていないケースも多くあるのではないでしょうか。今現在、Longと、Post Covidの診断はどのように行われているのでしょうか?

カルメン・シャイベンボーゲン 勿論、感染はいつだったのか、という質問はしますし、いつPCRの陽性がでたのか、という確認はします。もし、PCR検査がされていなかった場合には、抗体検査で感染を後からでも確認することはできますし、現在では抗体がワクチンによってできたものであるか、それとも自然感染によるものなのか、という区別をすることができます。ウィルスの核酸タンパク質の検証で行い、そこから症状別に診断を出していきます。勿論、その前の既往歴をみることも重要です。フランケ先生も仰っていたように、多発性硬化症の患者の場合などは、症状がその持病によるものである可能性も高く、Covidによって悪化していることもありますが、治療によって基礎疾患の症状も改善されるチャンスもあるでしょう。とはいっても、まだPost Covid症候群の明確な診断カテゴリーは確定されていませんし、状況との関連性でみていくしかない部分もあります。この2年に渡るパンデミックにおいては、精神的な負担によるものも多いと考えられますし、倦怠感や集中障害、不眠などには別の原因が隠れている可能性もあります。ケースによっては、ウィルス感染が原因となるものではない場合もありますので、大きな研究のデータなどを参考にしながら判断していく必要もでてきます。実際に、このような症状が出ているケースでもパンデミックの状況から引き起こされている場合も、それと同時に勿論、重度の疾患の原因が(ウィルス感染であると)明確であるケースもあるのです。そして、軽度の障害が出ていて、臨床的な併合症状からその疑いがある、というケースも存在します。ですから、これからバイオマーカーを開発していくことは大変重要なのです。そこから、何が起こっているのか。症状の原因はなにか。という診断を明確にすることが可能になります。症状の原因がわかれば、それを治療することができるからです。

つまり、認識するマーカーがない、と。ということは、他の疾患のように血液検査をして検査をする、というようなことはできないわけですね。

カルメン・シャイベンボーゲン もうすでにいくつかマーカーはあります。多様な臨床病像と同様に、様々なマーカーがありますが、Post Covid症候群自体が統一された疾患ではなく、とても多様なものですから必然的にそうなります。しかし、現時点でまだ欠けているものは、ラボでの検査の結果から明確に、「これはPost Covid症候群である」という決定的に特定する術です。しかし、それに関しては、今大変集中的に研究がされていますし、もう少しで診断に使える決定的なバイオマーカーが出てくることでしょう。

クリスティアーナ・フランケ もうすでに、病態生理学的なメカニズムに関しては様々なことがわかっています。まず、ウィルス自体が、持続する炎症を引き起こし様々な症状の原因となっているのではないか、ということ。これは細胞特有のものであったり、灌流の低下、つまり、血の巡りですね、それとも、自己免疫的なもの、つまりウィルスがトリガーとなって抗体が形成されて症状が引き起こされているのか。いくつかありますがこのような現象は別の疾患でも起こります。例としては、単純ヘルペス脳炎といった、ウィルス疾患です。多分、病態生理学的には1つしか鍵がない、ということではないでしょうし、先ほど、シャイベンボーゲン先生も仰っていた通りに、研究はされている真っ最中です。もし、そのようなマーカーができれば、勿論診断もルーチン化できますし、患者的にも予測や症状の持続期間の推測も可能になるだけではなく、治療の見通しもつくわけです。多分、もう一つ付け加えるべきであると思われることは、先ほどから言っているように、症状的には大変多様で広範囲であり、様々な医学における専門分野に渡るものですから、ネットワークと専門科間の連携が大変重要になってきます。これに関しては、現時点でもかなりよく機能していると思います。臨床的な分類の重要性は、先ほども言った通りですが、イギリスの統計局がまとめたデータでも、Covidに罹患していない人にも似たような症状が出るケースが多くみられ、フランスの論文でも、Covidに罹患せずに似たような症状が出たケースが報告されています。まず、PCRでの検査結果が出ていることが前提で、その後で抗体の検出、SとN抗原を確認してから、ワクチンの接種済みなのか自然感染をSARS-CoV-2ウィルスでしたのか。PCRで陽性反応が出ていて、感染も確認できても全く抗体ができていない、というケースも存在しますので、この点も難しいところです。

カルメン・シャイベンボーゲン 今現在どのような方向でマーカーの研究が進められているのか、という例を2つ、3つあげたく思うのですが、それに関する論文もいくつも発表されています。これは免疫システムと関係がある、というところでは全て一致していて、このような感染においては免疫システムは高いレベルまで引き上げられ、数週間続く場合がありますので、若年層でも免疫システムが活性化した状態でずっと持続していることがあります。免疫が働いている時には大体において疲労感が伴う、というはご存知の通りです。このあたりの試験をする際には、常にきちんとした比較グループを用意することが重要で、それは同じタイミングでCovidに罹患して問題なく完治した人たちである必要があります。Post-Covid症候群がある人たちは、場合によっては感染から半年後にもいまだに炎症因子が高いレベルで持続していることが確認されています。これは、例えば、インターフェロンαであったり、これもウィルス感染への反応の一つです。その他にも、免疫細胞、いわゆるT細胞が引き続き活性していたままであったりするのも観察されていて、この細胞はウィルスを撃退するための細胞なのですが、これらも炎症因子です。単球でも、持続して活性化されていることがわかっています。これは私たちの研究でも明らかになったことですが、Post-Covid症候群の患者の約半数の血液中でこのような炎症因子がみつかっています。ウィルスに関しては、まだ完全に明らかになっているわけではなくて、長期間体内に残留したウィルスが引き続き細胞に感染して増殖し続けることができるのかどうか、という検証はまだされていません。検証されたウィルスはどちらかといえば、小さなタンパク質の破片、もしくは単球の状態で、これも免疫システムが活性化している、ということを裏付けするものです。また、重要なデータとしては、血管機能障害があげられると思います。これは若年層にもみられるものですが、SARS-CoV-2ウィルスというものは、様々な細胞に感染することが可能なウィルスであるために血管にも感染します。そして血管は比較的回復が遅い部位でもありダメージが持続しますから、特に細い血管の完治には時間がかかるのです。この度合いは超音波で測ることができますが、多くの若年層の患者ではこの細い血管の血流がよくないことが認められ、それが原因で臓器に酸素が十分に送られない、ということが起きる。例えば、筋肉とかもですね。勿論、ここからも倦怠感の説明がつきます。そして、体内の炎症の原因としても考えられますし、可能性としては血管内の問題であることも考えられます。それに関するデータも出てきていますし、特に、この筋肉への酸素の供給が不足する、という現象は、倦怠感は自ら感じる体感だけではなく、実際に計測することが可能ですから腕力の低下として現れたりもします。ここからも、最終的にどのようにPost-Covid症候群を治療していけば良いのか、という方向性、免疫機能を調整するような治療薬、もしくは血行を調整するような治療薬を使う、ということも考えられると思います。

Long と Post Covidの原因をとりあげてきましたが、血管での仮説もでてきました。もういちど、神経性の症状についてお伺いしたく思うのですが、診断の際にどのような方法があるのでしょうか?それを使う背景とメカニズムは何でしょうか?

クリスティアーナ・フランケ 患者が初めて診療に来た際には、まずはかなりの検査が行われます。そこから患者と一緒にいままでの治療の進行状況などを配慮しつつ、どのような診断がさらに必要であるのか、というのを決めていきますが、ここにはガイドラインがありますので、私たちはドイツ神経内科協会のガイドラインをつかって、症状ごとに診断と治療を進めていきます。例をあげると、40歳の女性の患者がいたとして、集中障害と記憶障害があったとします。その場合には、まず記憶テストによって客観的な判断、さらに既往歴から記憶障害に繋がる疾患の有無を確認します。鬱などからも記憶障害が出る可能性もありますので、気分の浮き沈みも重要なポイントです。そこから、画像撮影による検査、頭のMRT検査などをするかどうか。それによって組織的な変化を有無を確認します。診療の中で重要だと思うことは、常に平行して別の疾患の可能性をみながら消去していく、ということです。時期的なCovid-19疾患との関連性だけではなく、診断をもって他に原因がないことを明確にしていかなければいけません。場合によっては髄液の検査をしますが、神経内科的にはこれも大変重要な検査方法です。脳脊髄液は脳と神経につながるところですので、大変有益な情報を持っています。血液と同じように、髄液では特定の神経変性マーカーを検出することが可能です。持続する集中障害や記憶障害が、神経心理的な検査によって診断された患者のなかで、実際に自己抗体が髄液中に検出される人はいます。約30%ですから、少なくはありません。このように、自己抗体の検出や細胞数の増加などによって免疫が関係している、ということを確認できたり、髄液中の白血球値が上がっていたような場合には、免疫を調整する治療をすることが好ましいです。具体的な治療にしていく、ということです。例えば、慢性の酷い頭痛を持っている患者の場合には、ガイドラインの他にも頭痛の治療、予防も必要でしょうし、さらなる診断もしていかなければいけません。痛みを伴う足の裏や手の過敏反応、というものを持つケースも同様です。ここでは、電気生理学的な検査や、血液検査を持って別の疾患の可能性がないことを確認していきます。

画像的な診断、MRTなども重要になるのでしょうか?

クリスティアーナ・フランケ MRTは重要です。頭部の画像診断は、数週間に渡る頭痛や集中力低下の場合には不可欠ですし、組織的な変化が脳に起こっていないかどうか、という点でも検査は重要ですが、そのようなケースはいまのところ私たちのところの患者では出ていません。つまり、Covid-19急性感染症の軽度の疾患経過があった場合には、脳細胞の組織的変化はみられません。勿論、集中治療を行ったケースはまた別です。その場合には、脳細胞部の微小脳出血があったりもしますが、これは集中医療的な施術によるものだと思われます。例えば、ECMOの使用時には強い抗血小板薬なども使いますし、他の集中医療も施されます。

数ヶ月前に、ウィルスが脳まで届く、と話題になりましたが。

クリスティアーナ・フランケ それは確かです。病理的な検査において、急性疾患で重度の疾患経過により死亡した患者の脳からウィルスは検出されていますし、神経病理においてもウィルスはみつかっています。しかし、このような場合にはどのような患者のケースなのか、というところも重要になってくると思います。重症患者で死亡したケースなのか。集中治療はされたのか。集中治療をはじめとする様々な治療方法によって、軽度の急性感染の場合には全く辿り着かないところにウィルスがたどり着くこともあります。しかし、軽度でも、鼻から嗅神経まではウィルスが検出されることがあります。その場合には、小膠細胞活性化、つまり、炎症マーカーによって、嗅細胞と脳幹で確認されます。

シャイベンボーゲン先生、先生はどのように疲労外来をされているのでしょうか?

カルメン・シャイベンボーゲン 私たちのところに来るのは、重度の疲労により、日常生活に大きな支障が出ているケースが多いです。アンケートから、どのようなものであるのか。日常生活でできることは何か。という点での把握もしますが、客観的にも測ります。これは比較的簡単な方法で、握力測定によって計測が可能です。多くの患者には握力の低下がみられ、それと同時に重度の疲労もあります。疲労との関連がある症状は多くありますが、それもアンケートの質問に答えてもらうことによって、記憶障害はどの程度なのか。痛みの度合いはどのくらいか。さらに重要なのは、疲労の原因をラボの診断で解明することです。頻繁にある原因としては、欠乏症があげられ、鉄欠乏症であったり、ビタミンB欠乏症、ビタミンD欠乏症です。甲状腺の異常も比較的頻度が高い原因の一つです。Post-Covid症候群の約10%に甲状腺の炎症がみられますが、これはいわゆる橋本病、と呼ばれる疾患で、診断される頻度は高いです。さらに甲状腺機能の低下からも疲労が引き起こされます。他には、炎症マーカーで血中に炎症はあるのかどうか。ここでも患者のなかには、インターロイキン8、これは炎症因子ですが、この血管で起きる炎症値が大変高くなっている場合があります。さらに、自己抗体です。患者の4分の1に自己抗体の増加がみられ、これは別の自己免疫疾患でも起こることですが、抗核抗体や、抗リン脂質抗体が甲状腺に対してつくられます。さらに、慢性疲労症候群との関連で知られる自己抗体も調べます。この自己抗体は、例えば、ストレス受容体に対するものであったり、例えば、アドレナリンなど無意識の体の機能、呼吸であったり、心拍であったり、、を調節するものです。このような自己抗体が変化してしまっているケースがあります。この自己抗体の増加が重度の症状と相互関係にある、というのはわかっていますし、ここも研究の重点となっていてより効果のある治療薬の開発につなげていこう、というものです。方向性としては、まず第一に、、これはもうすでに発表されたものですが、、BC-007というものがあり、自己抗体を中和することができる治療薬です。そのほかの治療方法としては、、こちらのほうはもう少しで治験を開始することになっていますが、、免疫吸着という方法で、それによって自己抗体を体外に排出することが可能です。

ということは、慢性疲労症候群、というものは、自己免疫の問題である、ということでしょうか。つまり、免疫応答が常に高いレベルで持続し、ウィルスがいなくなった後にもそのまま下がらない。

カルメン・シャイベンボーゲン 私たちはもう長い間、慢性疲労症候群の研究をしていますが、これはEBV感染や、インフルエンザ感染の後にも起こり得ることです。これが、自己免疫疾患であり、自己抗体によって引き起こされる、ということはだんだんと明確になってきています。特に、ストレス受容体に対する自己抗体の研究を今かなり集中的にしているところで、ここから疾患病像からも説明がつきます。慢性疲労症候群では常にこのストレス調整機能、いわゆる自律神経、心臓の動き、循環機能、身体中に血を運ぶ機能が乱れているのです。例えば、走る際には筋肉の使用量が増えます。何かに集中する時には脳はより多くの血液を必要としますが、これらの部分が慢性疲労症候群では全てぐちゃぐちゃになってしまいます。この原因は、受容体の調整の乱れだと思われますが、この自己抗体、、これは健康な状態でも調整機能を請け負っているものですが、、その機能が混乱してしまうのです。

自己免疫の仮説、血管の仮説と神経性症状の原因を取り上げました。ほかにも、Long Covidと Post Covidの原因としての可能性があるものはあるのでしょうか?

クリスティアーナ・フランケ  先ほど、炎症については少しお話ししました。私たちもケルン大学病院と協力して集中力の低下を訴える患者の髄液内のSARS-CoV-2抗体価を調べましたが、そこでの増加はみられず、原因として特定することはできませんでした。これは、多分、これではない、という検証ができた、とも言えると思います。同じようなものとしては、こちらはどちらかといえば神経性の症状ですが、急性感染時にニューロフィラメント、、これは神経損傷のマーカーで、つまり脳の神経細胞のダメージということですが、、それが増加していることがわかりました。しかし、フォローアップ検査の際にはそれは検証されません。ということは、幸いなことに、神経細胞のダメージがPost Covid-19の集中障害の原因ではない、ということです。単純にこのマーカー、ニューロフィラメントの増加がみられないからです。

カルメン・シャイベンボーゲン 凝固機能も研究分野の一つです。Post-Covid症候群でもいまだに血液凝固が起こっている、とする論文がいつくかあります。急性感染の際には、明確な凝固活動の増加がみられますから、血栓症になる患者も多いです。私たちの患者でみてみると、1年以上前に感染した場合に血液凝固の異常がみられるケースは稀です。たまに、いわゆるDダイマーの軽い増加がみられる場合もありますが、これは血栓の残骸がまだ認められる、ということですが、ほとんどの患者では、そのようなものも検出されることはありませんので、凝固障害や血栓症が持続する問題だ、ということはないと思われます。ドイツでもかなり行われている治療方法は、HELPアフェレーシス療法と呼ばれるものです。これは、小さな血栓を血液から除去する、というものですが、まだ臨床試験からのデータがありませんので今の時点では判断することは困難です。患者のなかには、この治療によって症状が改善されたケースもありますので、これは今後も注目していくべきところだと思います。どちらにしてもよくわかるマーカーとしては、血管内の血行が十分ではない、というところです。これは、酸素供給の度合いをみるマーカーですが、例えばエンドセリンなどです。これは1年経った時点でも多くの人でいまだに高い値になっていますから、血行を改善できるような治療法をつくっていく必要性はあります。それをアフェレーシス療法でするのか、それとも酸素高圧療法のほうが良いのか。そのような治療法を行なっている外来はあり、効果があがっている、という報告も聞きます。もしくは、治療薬のほうが血行の改善には適しているかもしれませんので、その点を研究でシステム化して調べていくことも大変重要です。Post-Covid症候群の病態が大変多様であるために、どの患者をどの研究の対象にするのか、ということも重要なポイントになってきます。ある患者にとっては大変有効な治療法でも、別の患者には全く効かない、ということもあり得るからです。ここに治療法の臨床試験を重点的にやっていく必然性を感じますし、どの患者がどのようんい治療され、どのような効果がみられたのか。どのバイオマーカーで計測できたのか。そのような臨床試験を行うことは大変手間がかかり難しいですし、またEUからも新しい臨床試験に関する規定も出されました。しかし、それをしない、という選択肢はありませんし、治療薬を承認まで持っていくことも、それを使って患者を治療することも試験なしにはできないのです。これまで行われてきた治療法は、、ここではまだそれに関してはお話ししていませんが、、それは症状に対処していく治療であって、多くのケースでは効果が十分に得られていません。

急性の疾患経過の後、しばらくの間調子が良くても、突然症状が出てくる、というケースがあることを聞きました。それはどうしてなのでしょうか?どのようなメカニズムが背景にありますか?

カルメン・シャイベンボーゲン 職場に復帰したり、家事をまたフルタイムでしたり、というタイミングで起こることが多いようです。他のウィルス性疾患でも、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群ME/CFSが急性感染後に一旦落ち着いて、数ヶ月後に悪化する、ということはよくみられることです。別の原因として考えられることは、再度の感染です。もう一度Covid、もしくは別の感染が起こった、ということですが、もう一度感染することによって、さらに重度の疾患になることもあります。回復したようにみせかけて慢性化する。これも、Post-Covid症候群にはあることです。

クリスティアーナ・フランケ 実際に感染後にもう一度悪化するケースの場合には、急性感染から3ヶ月、4ヶ月後に発生していることが多いようです。これは別の自己免疫系疾患でみられることです。そのような患者が診療に来た場合には、本当にこれが時間をおいての悪化であるのかどうか、特に、自己免疫的なもの、免疫的な伝達要因がないかどうか注意深く見るようにしています。

ここでワクチンについて取り上げたく思います。ランセットに掲載された、ZOE論文がありますが、ここでは、ワクチンを完全に接種した場合には、急性感染が重症化することに対する保護効果があるだけではなく、Long Covidや Post Covidのような後遺症も防ぐ効果がある、としています。実際の診療ではどのようなことが観察されますか?ワクチン非接種者の割合のほうが多いのでしょうか?シャイベンボーゲン先生?

カルメン・シャイベンボーゲン 勿論、初期の頃は全員ワクチンを打ってはいなかったわけなのですが、、ワクチンを接種していても罹患するひとはいます。しかし、やはり大規模に行われた比較試験のデータをみたほうが、診療所の個人的な印象だけで決めるよりも良いでしょう。特にこのイスラエルからの論文からは、ワクチンがLong Covidに対する効果がある、と言えると思います。勿論、他にも異なるデータがでている研究はある、ということを言っておくべきだと思います。なかには、ワクチンの2回接種後だけのデータもありますし、Long Covidへのリスクの削減は50%だ、とするデータもあります。それと同時に、ほぼ100%の保護効果がある、という研究もあるのです。しかし、これらの研究はデルタでのもので、そこでは確かにワクチンによるLong Covid症候群への保護効果はありました。それがオミクロンでも引き続きそうであるか、どうか。ワクチンを接種していても、オミクロンに罹患する人は大勢いますし、かかれば1週間、2週間は病気になるわけで、オミクロンではどうなのか、ということはいまのところまだはっきりしません。

関連性はあるのでしょうか?ワクチンがLong CovidやPost Covidを阻止するのは、重症化を阻止するからなのでしょうか?重度の疾患経過の後に起こることが多い、ということですが、それともワクチンは何か別のメカニズムで直接Long CovidやPost Covidに効く、ということなのでしょうか?

カルメン・シャイベンボーゲン ワクチンは感染自体を軽症化し、疾患期間を削減する効果がある、と思われます。主な問題点として、Covidが2週間、3週間と長引くことによって、免疫が過度に活性化し、重度の混乱が引き起こされる。それによって、また落ち着いた平常状態に戻るまでにかなりかかる、ということです。免疫活動をある時点で終了させる役割も免疫機能がしているわけですから、ワクチンによって発動された免疫によって次の感染もそこまで長引かない。というのも、ワクチンによって形成された抗体は確かにオミクロンに対してはあまりよく効きませんが、それ以外にも私たちにはT細胞というものがあり、これが特に感染から2週間目に大変重要な役割をするのです。T細胞は感染した細胞をみつけそれを調整しますから、この機能はオミクロンに対しても大変効果的です。

感染をしていないのに、ワクチンによって Long-Covid症候群になってしまった、というケースも効きます。フランケ先生、そのような患者はよくいるのでしょうか?

クリスティアーナ・フランケ そうですね。去年の秋頃から増えています。神経性の症状がワクチン接種後に起こっている、というものですが、ここでもPost Covid、つまり感染後の後遺症と同様にしっかりと検査をする必要があります。症状をみながら診断しますが、病理的なメカニズム的に関係性があるのかどうか、という点が重要です。まだまだデータは十分ではありません。今のシチュエーションは、2020年の夏に「感染してから数週間も経つのにまだ具合が悪い」というケースが出始めた時と似ていて、今は「ワクチンを接種してからずっと症状がでている。かかりつけ医にいっても、専門医にいっても原因ははっきりしない。それでも、具合は悪いことは確かだし、症状もある」というケースで診療を受けることが多くなっています。私たちのPost-Covid外来は、それに対応するべく拡大されました。神経症状全般の受け入れが可能です。一番多い症状はなにか、というと、集中力の低下、頭痛、めまい、などです。他にも、末梢神経系の症状があるケース、つまり、感覚障害、しびれ、手足の不快感、場合によってはそれ以外の部位で症状が出ることもあります。この場合にも、別の自己免疫疾患の可能性も考えなければいけなく、例えば、ギラン・バレー症候群、これはワクチン後遺症のひとつではありますが、全ての人がギラン・バレー症候群である、ということではありませんし、多発性神経炎、この神経の炎症の原因が何であるのか。この感覚障害を引き起こしているものは何であるか、というところをみていく必要があります。

どのくらいの割合でおこるのでしょうか?

クリスティアーナ・フランケ  今の時点でははっきりとした数はでていません。データがまだ十分でないのは、今やっとそのようなケースがまとめられてきたからです。基本的には、家庭医、小児科など全ての診療医はパウル・エルリッヒ研究所にそのようなケースを届け出することができますが、ここでの特定もいまのところあまりよくできませんし、正確な統計も出せない、というのが現状です。

つまり、まだ背景にあるメカニズムがよくわかっていない、ということでしょうか?

クリスティアーナ・フランケ 仮説はありますし、どのような病理生理学的なメカニズムで起こっているのか、という見当はついているものの、まだしっかりとしたデータがあがってきていません。

カルメン・シャイベンボーゲン ファイザーのリポートに、副反応の報告ケースをまとめたものがあります。ここにはすでに40000ケースが報告されていて、様々な副反応がありますが、これは勿論、患者、もしくは医師が報告した内容ですから、それからシステム的に診療されていかなければいけません。私もかなりの患者をみてきましたが、原因は様々です。例えば、私の患者のなかに、伝染性単核球症を患った経験があるケースがありました。これはエプスタイン・バーウイルスによる重度の感染症です。EBVウィルスに若年時に感染してしまうと重度の感染疾患に繋がることがあり、後遺症として慢性疲労症候群になることがあるのです。可能性としては、ワクチン、、特にmRNAワクチンは大変効果が高いワクチンですから免疫機能も活性化され、その際にEBVウィルスも同時に再活性化してしまう。その結果、EBV再活性化によって自己免疫反応が起こり、このような症状の原因になる、というもので、EBV自体の研究ではそのような現象がある、ということはわかっています。このウィルスは大変大きなウィルスで、EBV自身のタンパク質は人体のタンパク質との共通点を数多く持っています。ウィルスに対する高度な免疫反応が起こった場合には、勿論、このような合併症が起こる可能性はあります。つまり、自己抗体が自分の身体に反応してこのような病像を誘発する、というものです。

反ワクチン派の人たちの論拠ともなっていることですね。それについてはどうお考えですか?リスクが高いので、ハイリスク患者だけのワクチン接種の方が良い。全員は打たなくても良い、ということでしょうか?ワクチンそのものの意味を問うものでしょうか?

カルメン・シャイベンボーゲン そんなことはありません。ワクチン接種後にこのような症状が出る、ということは、自然感染をしても似たような症状、もしくはもっと重度の症状が出ていた可能性のほうが高いからです。ワクチンによる免疫の反応は、自然感染よりもずっと少なく活性化の期間も短い、とされていますし、特定のリスクを持つ人たちにそのような病態が出る、ということはわかっています。その人たち、というのは、女性や自己免疫疾患を患った経験がある人たち、自分自身、もしくはそのような人が家族にいる、という場合です。このような場合には免疫不全、という問題を抱えています。このような人たちは、ワクチンの接種後にも症状が残る場合が多いでしょうが、勿論、これもまだ仮説にすぎません。さらなる研究をする必要はありますが、推奨されるのは、勿論ワクチン接種、のほうです。まだはっきりとした数は出ていませんが、多分、ワクチン接種後になんらかの症状が出る、というリスクは、感染後にPost-Covid症候群になるリスクを明らかに下回ると思われます。後遺症のリスクは、10人に1人の割合ですから。承認治験から、副反応に関するデータはかなり集まっていますし、長期に渡るワクチン反応は頻度としてはかなり低い、ということも明らかです。勿論、ワクチン接種者の全体の規模が大きいために数的には必然的に多くなるのは当然です。

クリスティアーナ・フランケ  私たちは完全にワクチン推進の立場から、後遺症で相談に来られる方々に推奨するものです。まだ未接種の場合には、接種することは全く問題なく安全である、とお伝えしています。

これは治療法とも関係があることだと思うのですが、LongやPost-Covidの症状が感染症の後遺症なのか、ワクチンの後遺症なのかでそのあたりは変わってくるのでしょうか?

カルメン・シャイベンボーゲン 現時点では、まずは疾患を症状に合わせて治療していく、という方法がとられています。つまり、不眠であったり、そのような障害の治療です。痛みがあればその治療をしますし、治療可能な欠乏症があるかどうか。このような症状にあわせた治療、という面では発症のきっかけによる違いはありません。そうではなくて、これこれこのような主症状がある。それに対してどの治療が一番効果があるのか。治療法についていう場合に重要なのは、原因の追求です。何を治療するべきなのか。免疫機能の治療なのか。それとも、どちらかといえば炎症を止めることが大切なのか。自己抗体に対する治療薬が必要なのか。血行の改善をするべきなのか。つまり、現時点でのPost-Covid症候群の治療、というものは症状の治療です。目的は、分子的な原因を治療し、最終的に疾患を完治させる。長いケースではもう2年もの間苦しんでいる人を治す、ということです。

クリスティアーナ・フランケ まずは、できるだけ明確に臨床的な分類分けをし、診断をし、症状が治療可能なものであるか、という判断をします。私たちはかなりはやくから、心療内科との連携診療を行っていますが、これは通常であれば、まずは身体症状から検査をしていき、後の段階で医薬品以外の治療法のサポートをお願いするものです。そこの時間を無駄にしないためにも、今は平行して診療を行うのが好ましいと思われます。これは、別に原因の治療ができないから、ということではなくて、診断の初期の段階から患者にとってもメリットがあることだと考えるからです。心療内科にはPost-Covidのグループがあり、治療コンセプトの説明や、同じように悩んでいる患者同士の交流などが可能です。それと並行して、原因部分の治療、例えば、免疫関係であれば、そちらを、症状別であればそれにあった治療方法、心療内科での治療も行うことができますので。

カルメン・シャイベンボーゲン その他に重要なのは、運動耐容能低下の症状をよく調べることです。実際に、軽い負担の際でも障害があるようであれば、いわゆるPacingと呼ばれる治療コンセプトを用います。これは、現時点で可能なことは何か。どの程度の負荷がかけられるのか。負荷のかけ過ぎを回避するにはどのようにするべきなのか。負荷の度合いは人それぞれですから、容易ではないことは当然ですが、できる限りの改善方法をみつけていくようにしていきます。それに関する、パンフレットもありますし、日記をつける、という方法もありますし、心拍計で観察する、という方法もあります。これは、運動耐容能低下の治療において大変重要なコンセプトです。というのも、特に疾患の初期には、なんとかして日常生活を送ろうと過度の負担をかけてしまい、クラッシュしたり、状態が悪化してしまうものだからです。このPacingに則った治療は初期の段階では特に重要です。残念なことに、この分野に詳しい医師の数は決して多くなく、慢性疲労、というと、まずは運動をすすめられたりします。以前よりもっと悪化した状態でリパビリから戻ってくるケースも少なくないのです。ですから、そのためにも リーフレットを用意していますし、シャリテのホームページにもPost-Covidネットワークがあります。シャリテの慢性疲労外来ーのサイトにも載っていますし、Pacingのリーフレットもあります。

疲労や息切れの治療方法にはどのようなものがあるのでしょうか?

カルメン・シャイベンボーゲン 息切れには大変効果気的な治療法があります。若年層で息切れがある場合には、まずは肺機能を測りますが、大体の場合にはそこには問題はありません。つまり、肺の問題ではない、ということです。臓器的なものではなくて、主観的な呼吸困難であることがわかります。考えられる可能性としては、筋肉が弱っている、というもので、弱っている筋肉は脳に「酸素がもっと必要だ」と指令を出しますから、そこから呼吸の増加に繋がるのです。呼吸が速くなると、身体のプロセスが混乱しますし、結果、筋肉に酸化ストレスが加わり疲労も増加してしまいます。これは呼吸テクニックによって改善することができ、そのためのプログラムもありますから、比較的早い段階ではじめることができます。私たちのシャリテは、オンラインでの講習もやっていて、呼吸テクニックを学ぶことも可能です。これはこのような障害を持つより多くの人たちに有益な方法だと思います。疲労の治療は簡単ではありません。治療が容易にできないのは、疲労の原因が一つではないからです。疲労を持つ患者に対してまずしなければいけない質問が幾つかありますが、そのなかの一つが、運動耐容能低下とPacingです。先程、それに関してはとりあげました。他には、睡眠に関しての質問です。つまり、ちゃんと眠れているかどうか。というのも、この疾患の特徴として、疲れているのにも関わらず眠れない、というものがあり、ここにも大変効果がある治療法があります。睡眠障害は行動療法などによって治療可能なものです。例えば、リラックスの方法であったり、途中で目が覚めてしまったとしてもまた眠りにつくことができるように導いたり、場合によっては薬を使うこともあるでしょう。典型的な睡眠薬の他にも、睡眠を誘導する薬はありますし、長期の服用も可能なものもあります。疲労が血流障害、脳や筋肉への血行が低下しているところからきている場合には、例えば、循環機能の改善や、水分補給、足を高くしたり、、長時間立ち仕事があるのであれば弾性ストッキングなども効果的でしょう。ラボでの検査も大変重要です。鉄分欠乏症やビタミン欠乏がある場合がありますし、葉酸欠乏も頻繁にあります。この点の改善がされれば疲労症状もかなり改善される場合も多いです。しかし、残念ながら1年半、2年、と治療を続けても十分な改善がみられないケースも多いのです。原因の治療、これが本当に重要なところで、そのためにはいままであけてきたようなメカニズムをすべて使っていくべきです。炎症、自己免疫疾患、血流障害、これらは全て疲労の原因となり得ることです。ここを治療することで、最終的に疲労をコントロールしていく、ということになります。

フランケ先生、神経性症状ではどうでしょうか?そのような治療方法がありますか?

クリスティアーナ・フランケ ここでも症状に合わせた治療です。例えば、慢性緊張型頭痛の場合には、予防的な観点からの緊張型頭痛を抑える薬を使ったり、感覚障害の薬もありますから、まずは症状へのアプローチとさらなる診断で別のところの問題がないかどうか、というところを調べていきます。例えば、免疫の問題がある場合には、免疫を調整する治療も必要になってきますので、コルチゾンや免疫グロブリンなどの投与が考えられますが、これもケースバイケースです。まだ確かな研究データがない、というところで、先程も言ったようにこの分野での研究を進めることは大変重要です。このような患者を医薬品を使った治験の被験対象とする場合、プラセボとの比較試験をする場合には、厳密な検査が重要となりますし、なんといっても、このテーマはとても複雑で大変困難な領域である、ということは明らかです。

完治するチャンス、というものはどのくらいだと思われますか?

カルメン・シャイベンボーゲン ここでも、どのようなPost-Covid経過であるのか、というところで分けて考えるべきだと思います。フランスの最新の論文があるのですが、ここでの境界線は2ヶ月目、です。ここでは、2ヶ月語にもまだ症状があるのであれば、12ヶ月経ってもまだ症状が持続しているリスクが残念ながらある、としています。私たちのPost-Covid-疲労研究の被験者をみてみても、ME/CFSの病像が完全にある場合、1年半、2年経っても疾患重度的にはほとんど変化がない、という状況です。症状をある程度コントロールしたり、日常生活を送れるように工夫したり、とそのような改善はあるものの、仕事に復帰できる状態からは程遠く、障害を抱えて生活を強いられている人が大多数です。ME/CFSではない場合には、幸いなことにそれよりも良い状況の人が多いです。このようなケースでは症状に対応した治療での改善も期待されます。とはいっても、今、長い場合には2年も続く疾患ですから、特に若い患者に使える治療薬が必要なのです。これは、今私たちも1日もはやく改善されるように努めているところで、やはり、治療薬を使っての治験、承認済みの治療薬を使っての臨床治験が必然です。全く新しい治療薬を開発するのは無理です。初めからやるとすれば何年もかかりますし、そこからその成分が承認されるまでにまた数年かかります。そのようなことをするよりも、今必要なのはすでに承認されている薬の応用です。フランケ先生も先程仰っていたように、免疫グロブリンであるとか、そのようなもので自己免疫疾患の治療は行えます。ただ、免疫グロブリンは誰にでも使える、というものではありません。自己抗体の治療においては別の方法もあります。免疫吸着、というのがそれで、これはME/CFS患者にももうすでに試験のなかで使用しましたので、多くのケースに効果がある、ということはわかっています。免疫吸着の大きな利点は、この技術によってはまずは自己抗体が洗浄される、ということです。ここで効果がある場合には、それをベースとして薬での治療、という次のステップに移行することができますから、それによって長期間、そして繰り返しの治療が可能になります。薬の例としては、自己抗体をつくるB細胞をブロックするものがあります。ここでも今必要なのは臨床試験で、一刻も早く統一された内容で、患者の定義と、バイオメーカープログラム、治療方法を検証し、承認に導くこと。それによって8から12ヶ月以内に、効果がある治療薬を特定し、承認されることを目標にしています。

クリスティアーナ・フランケ シャイベンボーゲン先生が仰っておるように、これは本当に重要なところで、それに向かって日々精進しているところです。他の疾患を参考にしたり、そこから応用していきながらPost Covidの治療における臨床試験をしていかなければいけませんが、現時点では、個人ケースにあわせた治療の試みで、検査でも勿論探したものの検証しかできません。何を探せば良いのか、というところがわからなければ検査もできませんから、大変困難です。決めてとなる科学データがでないうちは、仕方のないことではあるのですが、それでも慎重にやっていく必要はあります。免疫吸着、酸素療法、アフェレーシス療法などの治療法があるものの、まだまだ科学データが十分ではないので、全てのPost Covid-19患者に使える、というものではないのです。ケース別の治療をしていく際には特に慎重に進めていく必要は必要で、厳重な検査も必然です。鍵となると思われるのは、療法の病理学的な適応性をみつけていくことによって、よりあった療法を選んでいけることだと思います。。

これから数ヶ月、数年の間どのようなことが起こり得ると思われますか?発生指数がずっと1000台をキープしていましたから、実際に数十万人ものLong Covid 、Post Covid患者が出てくる可能性は大ですし、慢性疾患もあるでしょう。10%の頻度だ、と先程もおっしゃっていましたし、これから社会的にどのような影響が起こってくる、と思われますか?

カルメン・シャイベンボーゲン フランスの論文を参考にするならば、、このデータは私たちのデータを裏付けするものでもあるのですが、、若年層が長期に渡る後遺症に悩まされている、ということです。この研究での平均年齢層は30代から50代。これがメインの年齢層ですから、この働き盛りの世代が仕事ができなくなって家族を養えなくなる。これは大変大きな問題です。治療費だけではなくて、他の社会保障関係費も膨れ上がり、医療システム的にも社会保障システム的にも大変大きな負担がかかっていて、それは今度も増加すると思われます。今後も、Post Covid患者が増え続けます。それは私たちのPost Covidネットワークでも観察されることです。通常の日常生活を送るのが困難になってしまったケースもたくさんありますし、診療の予約をとるにも数ヶ月待たなければいけない、という状態が続いています。さらに、いまのところそこまで治療の効果が出ている、とは言えなく、このジレンマから一刻もはやく抜け出さなければいけません。まずは、構造から改善していくべきで、患者にはまずきちんとした診断と今後のプランを明確に提供していく必要があります。勿論、ここで言っておかなければいけないことは、イレギュラーなケースの場合には、それにあわせて柔軟に非標準的な治療、治療薬の使用も視野にも入れていくべきだ、ということ。それに関しては、かなり良いコンセプトがつくられています。免疫の暴走などを抑える薬、などですね。必要な治療薬としては、自己抗体に対するもの、血流を改善させるものですが、これらは別の疾患ではもうすでに承認済みの薬です。これらを臨床試験によって、明確な定義分けをする。どの患者が、どのように治療されるのか。そのためのバイオマーカーのプログラムを現在進行中です。最終的には、このような治療方法を持ってしても、全員を完治させるのは難しいとは思います。ここまで統一性がない病像では困難なことです。しかし、それも臨床試験から学べることです。ここから、効果があった患者のケースをバイオマーカーで確認できるようになります。治療の前の状態の把握と、治療後の変化。これをベースに、比較的はやく適した治療薬をみつけることができるであろうと、私は確信しています。そのためにも、サポートは必要なのです。政治的なサポート、単純に支援金です。臨床試験をするには高額な資金が必要になります。医薬品業界はいまのところそこまで積極的ではありません。業界的には、あまりにも多様で、疾患メカニズムも細部まで分類できていない、というところなのでしょうが、それでも臨床試験をしないわけにはいきませんし、何年も研究しているような時間もありません。研究の一部がこの臨床試験、という位置付けにするべきだと私は思うのです。コネがある人たち、費用を負担できる人たちだけが良い治療を受けることができる、という状態から脱出しなければいけませんし、きちんと記録がとられていないばっかりに、何がどう効果があったのか、誰に効果があったのか、というのがうやむやになってしまっては意味がありません。この臨床試験は、この悪順から脱出するチャンスだ、と私はみています。それをしないと、これから数年間、同じように緊急事態を堂々回りすることになります。

フランケ先生、何か他にもありますか?社会がなんとか持ち堪えるためには、、なにが必要なのでしょうか?

クリスティアーナ・フランケ 政治が頑張ってくれないと困りますし、Post Covid-19治療の臨床試験をサポートする研究機関も同様です。シェイベンボーゲン先生の研究チームをサポートするべく、私たちも病理生理学面で研究を続けますし、患者の治療の改善も図っていきます。

今日はお時間をいただきありがとうございました。



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