ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(特別編) 2022/6/21(和訳)
ベルリン・シャリテ 感染免疫学 ライフ エリック サンダー
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ
平均新規感染者が先週5万人を超えました。夏の感染の波のはじまりです。そのような流行が夏に起こるのは、これまでは外国での話でドイツではなかったことですが、今年は対策義務が全て解除された初めての夏、ということにもなります。そのような状況下で、去年、一昨年に比べると明らかに高い感染者数を持って夏に入りました。さらに、新しいオミクロンの亜種が出てきて、BA.4 とBA.5が優勢になってきていますが、それがどのような影響を及ぼすのか。この点に関しては、この間、チーゼック先生にお話を伺ったところです。今日は免疫学と感染学の視点から見ていきたく思います。 良いニュースがないか、というとそうではなくて、先日、ミュンヘンから新しく発表された論文によると、致死率が0、1%になった、とのこと。これは、ワクチンが出る前には4、5%だったことを考えると大きな進歩です。とはいっても、これだけがウィルスが払うべき通貨ではありません。後遺症も大変重要な問題です。キーワードはLong Covidです。さらに、今後のワクチンがどうなっていくのか。ハイブリッド免疫とは何か。STIKOの子供のワクチンの推奨と安全性についても取り上げたく思います。今日は、感染免疫学の専門家であり、ワクチン研究者、ベルリン・シャリテで感染免疫科と呼吸器科の研究をされています、ライフ エリック サンダー先生にお話しを伺います。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。
発生指数が高かった時と比べると病院の状況は落ち着いていますが、夏の感染の波への心配はされていますか?
心配、という点ではそこまではしていませんが、注意深くアンテナは常にはっています。シャリテでも同様です。感染者が増加するにつれて、シャリテでもスタッフの感染が増えてきていますから、他の分野にも影響はあるでしょう。ここ2年の間、夏の発生指数は大変低く、2桁のレベルでパンデミックなどもう存在しないかのような落ち着いた状態だったのですが、それに比べると、今の数は大変高いです。これは、BA.5が増えた、ということにも関係がありますが、私たちのクリニックでも、また重度の肺炎で入院するケースが増えてきています。ですから、今年の夏は落ち着くことはないだろう、と思っています。医療が逼迫する、ということはないでしょうが、去年、一昨年のような落ち着いた状態にはなりませんから、
細心の注意を払う必要はあります。
BA.5、このオミクロンの亜種に罹る人は多くなってきていて、それはワクチン接種者も同様です。ハイブリッド免疫、というのがキーワードです。 ワクチン接種の後に感染、そして完全に回復した状態のことを言いますが、このポッドキャストでもこのハイブリッド免疫には特に耐久性がある、というお話をしたかと思うのですが、感染しないに越したことはありませんが、それでも感染してしまった場合に後遺症なく回復した際には安定した免疫ができる、と。これがいままでの知見でした。ワクチンと感染のコンビネーションによって免疫応答の幅が広がりメリットをもたらす、ということでしたが、これは基本的にオミクロン亜種でも言えることなのでしょうか?
基本的には、このワクチンと感染というコンビネーションによる免疫状態からは、若干強く、広範囲における免疫応答を測ることができていて、もしくは少なくとも、大変安定している、と言えます。これはすでに早い段階でわかっていたことで、例えば、ニューヨークでワクチン接種が開始された時点で血清陽性反応、つまり抗体を持っていた人たち、それ以前に感染経験があるひとたちがワクチン接種をした後に、大変高く安定した抗体価がみとめられることは、フローリアン・クラマーの研究チームで確認されています。これは、オミクロンでも同じようなことが観察できますが、ケルンのフローリアン・クライン研究チームと共同でおこなった研究では、2回の接種では、オミクロン、、あの時にはBA.1でしたが、、オミクロンに対する中和抗体価は十分ではありませんでしたが、その前に感染し、ワクチン接種をした場合には、オミクロンに対する中和抗体価が高く安定していて、これは3回の接種でも似たような数値でした。この感染とワクチン、というコンビネーションが比較的強く、安定した免疫応答をつくる、ということは間違いではありません。そうではあるのですが、勿論言っておかなければいけないことは、現在は、様々なコンビネーションの種類が存在する、ということです。初期に感染した場合もあれば、デルタの時に感染した人もいるでしょうし、ワクチン接種までの期間もまちまちです。これらのケースをごちゃまぜにして、ハイブリット免疫だ、としてしまうと、大変不均一なデータがでますからもう少しきちんとみていく必要があります。例えば、ブレイクスルー感染の時間的間隔を調べた研究もあり、つまり、ワクチン接種の後に感染したケースです。一番最後のワクチン接種からどのくらい経っているか、というのが、抗体応答、高い抗体価を生成するためには大変重要ですが、これだけ多くの変異株があるとそれらを一緒にするわけにはいかず、様々なシチュエーションを様々なコホートでみていかなければいけないのです。
間隔、とおっしゃっていましたが、間隔が空けば、免疫応答が、良くなる、もしくは悪くなる、、のでしょうか?
例をあげると、2回目の接種の直後に感染した場合、、感染者数からみるとそのようなケースはたくさんあったはずですが、、そのようにアルファに2回目の接種後に感染した場合には、ほとんど抗体価の増加はみられませんでした。それに対して、接種後、3ヶ月で感染した場合には、明確な抗体の増加がみられ、抗体応答の拡大があります。つまり、免疫システムが成熟する時間をとることができた、ということです。ワクチン接種の後には成熟プロセスがあり、その後で感染したり、ある一定の期間をおいて再度ワクチン接種をすると、成熟したB細胞が誘導され、そこからまた別のB細胞にも影響を与えることによって、ウィルスの別の部分に対応することができるようになるのです。
もう一度、もう少し詳しくハイブリッド免疫をみていきたく思うのですが、先ほど、先生の研究では、BA.1での調査を行なった、ということでした。BA.4 とBA.5が出てきたのは最近ですから仕方がないことですが、これらが現れたことによって、また新たにカードを切る必要がでてきました。つまり、ワクチン接種をしていても、今年の初めに感染した人たちは多分BA.1、なかにはBA.2での感染だったと思うのです。そのような人たちは、今、「BA.4とBA.5ではどうなのだろう」ということを知りたいと思うのですが、オミクロン感染をした人たちの再感染するリスク、もう一度有症状の疾患経過のリスクはありますか?感染後には粘膜抗体ができているはずですが、免疫学的にみてどのような展開になると思われますか?
そうですね。BA.4とBA.5、他の変異株でもそうですが、これらは抗体が結合する部分を変化させる変異を遂げました。つまり、さらに強い免疫回避の性質を持っている、ということです。これは、南アフリカでも観察されていたことですが、BA.1での感染では、BA.4とBA.5感染を防ぐことはできませんが、ワクチンとオミクロン感染からの抗体価は悪くありません。抗体をサロゲートマーカーとしてみた場合、ここでは明らかな増加が認められますが、これが果たして感染から守るレベルであるのか、という点では疑問です。抗体価が悪くない、といっても、例えばBA.1や他の変異株に対する中和抗体価に比べるとかなり低いので、再感染のリスクはあります。これはエンデミックのコロナウィルスでもみられる現象です。免疫は常に少なくなっていき、ある程度の時間が過ぎればまた感染する可能性がある。ここで重要なのは、疾患の重度はどの程度なのか、というところですが、この点に関しては、免疫システムには中和抗体をはじめとする様々な武器がありますから、メモリー細胞なども迅速に発動させることができますし、T細胞もあるので、重症化を防ぐ、という面では十分な保護効果がある、とみられます。
感染から時間が経てばたつほど、ということですね。時間が経てば、抗体、特に粘膜の抗体はどんどん少なくなっていきますが、免疫応答は成熟し、広範囲での保護をつくる、と。そのようにまとめることができますか?
そうですね。これはある意味、競争です。集団での免疫がつくられていくにつれて、ウィルスは変化していきます。ウィルスにとっては免疫応答を回避する、ということはメリットなわけで、それによって新しい感染対象を獲得することができるのです。ですから、これから再感染は増えます。しかし、このような繰り返し行われる抗原との接触、特に様々な変異株と行われる接触は、さらなる免疫応答の幅を広げることに繋がり、それが保護効果、重症化を防ぐ効果を強化すると考えます。
これに関する論文が先日発表されましたのでこれを取り上げたく思うのですが、これは、ソーシャルメディア、特にツイッターでかなり拡散されたものです。科学的な視点からもかなりの反響がありました。この論文は、ロンドンのインペリアルカレッジのもので、サイエンスに掲載されました。大雑把にいうと、ファーストコンタクト、ウィルスの特定の変異株であったり、ワクチンであったり、そのような一番初めに接触した種類が免疫システムに刻み込まれ、その後の別の変異株にはあまりよく対応することができなくなる、というものです。学習できない、とも言えるでしょうか。抗原原罪と呼ばれるものですが、この論文では、様々なコンビネーションと順番でウィルスとの接触と変異株とワクチンが調査されていて、つまり、ワクチン接種者、様々の順番での感染回復者の、抗体、T細胞とB細胞の状態が調べられました。最終的に、その結果から、ハイブリッド免疫、というもの自体へ疑問が投げかけられています。先生は、この説を推している派、ではないのですよね?
そうですね。この論文自身は大変興味深いものです。適したコホートが選ばれていますし、私たちの研究でも似たようなコホートを選び、シャリテでも行いました。シャリテのスタッフは長期に渡って調査対象になっていて血液検査が定期的に行われますが、ワクチン接種の前に採血、1回目のワクチン接種後、2回目、3回目の接種後に検査が行われました。そのなかには、様々なタイミングで感染した人も含まれます。職業柄、接触がありますので。このように様々なコンビネーションでの比較が可能なのですが、ロンドンでも同じように行われています。まだ全く感染していない場合、3回の接種を行なった場合、この場合はバイオンテック/ファイザーワクチンによるものですが、、初期の段階で感染して、その後に3回ワクチン接種をした場合。ワクチン接種をしてから、アルファ株に感染した場合。そして、デルタに感染した場合。この場合は、2回の接種後での感染です。ここでもうすでに条件がかなり不均一であることがわかります。ワクチンの接種タイミングも、感染とワクチンの間隔もそれぞれ違いますし、ワクチン接種の前に感染した場合もあれば、接種と接種の間に感染した場合もあります。さらに、最後にオミクロンに感染した場合もありますから、これらの全ての免疫的なパラメーターを調査しなければいけなく、ここではかなり正確に行われています。例えば、様々な変異株に対する中和抗体です。つまり、血清のなかの抗体が、どの程度アルファ、ベータ、デルタ、オミクロンを中和することができるのか。ここでまずみえてきたのは、先ほどのハイブリッド免疫です。3回接種してまだ感染していない場合の中和抗体は、初めの頃に感染しその後にワクチン接種をした場合よりも少なかったのです。これは、例えばニューヨークからのデータとも一致します。これもたしか、抗原原罪の定義でまとめられたものだったと思います。これは、以前から危惧されていたこと、つまり、一番初めの接触、例えば、ワクチンのスパイク抗体、、野生型のゲノムシークエンスからつくられたものですが、、これが免疫システムに刻み込まれ、ワクチンを接種するたびにこの記憶だけが強化されますから、このスパイクタンパク質だけに特化した免疫応答がつくられる。そうなると、免疫応答の幅はどんどん狭くなり、この野生型スパイクタンパク質だけにフォーカスすることになりますが、幸いにもそうではない、ということが、フローリアン・クラインの研究チームの研究からわかっています。つまり、この3回目のワクチンによって、オミクロンを中和する抗体ができていた。3回続けて野生型抗原スパイクが接種されたにも関わらず、です。さらに、新しい別のスパイクタンパク質の部分に結合する抗体がつくられていて、それによって中和力もアップしています。これは、抗原原罪説、つまり、一番初めに与えられた記憶のみが免疫のトリガーとなる、柔軟性に欠け拡大することがない、という説に反します。いまのところ、この説が正しい、という傾向は幸いのところみあたりません。
しかし、どうしてこの論文では違う結果がでているのでしょうか?
この研究は、様々なところからみていく必要があります。まず、一つ目には、論理オタク的には、、細部においてもう少し丁寧な分析がされているべきだと思ってしまいます。しかし、全体的にみれば、大変興味深いコホートであることは間違いありません。この論文の魅力は、そのような異なるコンビネーションをシステム化して比較しているところでしょう。とはいっても、結果は初めの段階で出ているのです。 ワクチンと感染の両方を経験すれば、免疫的に未熟な状況、もしくは1回のワクチン接種後に比べると、平均的に抗体価レベルはあがります。ワクチン接種を繰り替えし行うことによってハイブリッド免疫を収得することは可能です。フランスで勃発した議論、、ソーシャルメディアでも炎上していた論点は、論文の後半部分です。ここでは、大変小さな集団を比較対象にしているのですが、このグループは、初期に感染し、その後で3回のワクチン接種をして、オミクロンに感染した人たちです。ここでの抗体価レベルを測ったところ、ワクチン接種の前に感染しなかった人たち、3回接種の後でオミクロンに感染した人たちよりも低かった。つまり、比較は、4回ウィルスとの接触ケース対5回の接触、ということになりますが、ここで抗体価が、3回接種後にオミクロン感染した場合よりも若干低かった。これを、抗原原罪の証拠である、としていて、この一番初めのウィルス接触が免疫システムに刻み込まれて、完全に柔軟性を失い反応することができなくなっている、と。しかし、対象グループの規模をみてみると、大変小さいのです。4人とか、6人の治験者、4つの検体と6つの検体、など、その規模の比較です。対数スケール使ってこのような分析をしたことがある人はわかると思いますが、このような大きなブレが出た場合にはそこからは結果は導き出せません。それが4つ、6つの検体であればなおさらです。特にこの部分、この現象が説明されている部分での矛盾点があり、例えば、初めのデータです。 ここでは、このハイブリッド免疫と3回接種の間の差がみられません。そこからも、このような小規模のグループからは明確な違いを出すことは大変難しい、ということがわかります。ここで、本題にもどりますが、どちらにしても、様々な変異株が存在し、そこを配慮していく必要があります。それと、いつ感染したのか、ワクチン接種からの間隔と、症状も重要ですし、ウィルス量も関係があります。最近出た日本のプレプリントでも、抗体の量は、かなり感染時のウィルス量と相互する、とあります。広範囲の抗体応答も、いつ感染したのか、で変わってきます。後だったのか、先だったのか。そのような情報が、全く抜けていますし、4人、6人というような規模の治験者からのデータで判断するのは困難です。大変興味深い結果ですし、丁寧にまとめられていますから、悪く言うつもりはありませんが、それでも、このような小規模のデータから、大きな知見に導く、つまり、「これが、抗原原罪の証拠である」とするのは困難であり、私はそうは思いません。
オミクロンの感染による免疫応答が別の亜種にどう対応するのか、という点ではどうなのでしょうか?
この論文からどの点の答えをみつけるのは難しいです。詳しいことはわかるまでにはもう少し時間が必要だと思います。というのも、まずは、BA.5に感染する前に別のタイプで感染していた人をみつけなければいけません。その後での比較がうまくいくことを願いますが、オミクロンに感染した人には、別のオミクロンに対する中和力は備わっている、ということは言えると思います。そして、別の変異株に対しても同様で、ここにはいわゆる交差中和効果がある、と。これは、ミュンヘンの研究や別の研究からも、どのようにこの交差中和が発動するのか、というところはわかってはいるものの、勿論、ウィルスはこの抗体が接続する部分を変化させ続けるわけで、ここが競争であって、ウィルス側だけのメリットでもあるわけです。それでも、十分な免疫閾値がある、と言えますから、引き続き重症化から守る効果はあると思われます。
T細胞応答も広範囲である、とみてよいのでしょうか?正しく理解したならば、この論文ではスパイクのS1タンパク質をメインに調査されているようですが、例えば、これに関しては、シンガポールの専門家がツイッターで「感染時には、別のタンパク質の細胞応答が起きる」と言っていました。一部の視点からしかみていない、と。
T細胞応答の分析は、抗体の測定よりもずっと複雑です。抗体の場合は、根本的には血清検体があって、調べたいウィルス、もしくはそのタンパク質があれば、ペトリシャーレのなかに両方入れて測定すればよいのです。どのくらい良く抗体が結合するのか、ということですね。T細胞の場合には、血液から細胞を抽出しますが、より良いT細胞は血液のなかではなくて、別のところにあり、そもそもどのT細胞がコロナウィルスに反応するのか、それを活性化させてどの細胞が発動するかどうか、という点をみていく必要があります。そのためには様々な技術的な条件が揃っている必要で、様々な方法で調べることができますが、例えば、タンパク質そのものをとる、、この著者が選んだ方法ですが、、そのほかにも、ペプチドをタンパク質から取りT細胞を活性化させる、という方法、、T細胞は小さな断片しか認識しませんので、、そのような方法もあります。小さな断片を認識し多様性がある、という性質から、ウィルスにとってはT細胞応答を突破することはかなり困難であり、ウィルス的にはそこまで大きなメリットはない、と思われます。というのも、感染そのものは抗体によってブロックされるからです。 この点に関しては、シンガポールの専門家が指摘していることは正しいです。感染時には、ウィルスのあらゆるタンパク質が生成され、タンパク質に対するものだけではなく、スパイクタンパク質に対するものもT細胞はつくりますから、この部分の比較がこの論文内では行われています。しかし、選択された分析方法では、タンパク質がそのまま使用されていて、多くの場合に使われる方法は、いわゆるペプチドプール、と呼ばれるものですが、ここでは、大量のペプチドの断片を用意します。根本的には、私たちのT細胞応答はかなり良い状態がキープできている、と言えます。ワクチン接種をした人たちで、つまり、野生型スパイクと接触した場合、このBA.1のスパイクから採ったペプチドプールの反応をみると、、大変良い南アフリカの研究があるのですが、、私たちが出したデータもほとんど似たようなものです、、ここでの反応はほとんど削減されていません。同じようなことは、ウィルスの別のタンパク質に対しても言える、と思います。つまり、ここでなんらかの障害があるか、という点では私的にはまだはっきりとしたことは言えない、という見方です。
まとめると、、免疫システムというものはそもそも複雑なものであり、簡単に「こうすれば、こうなる」というような方程式をつくることはできない、と。特に、時間、というファクターを配慮しなければいけません。免疫応答になんらかの影響と傾向があってもおかしくありませんが、どちらにしても成熟していくうちにどんどん改善されていくものでもある、ということです。もう一度T細胞ですが、、よく、何度も感染すると、重要なT細胞自体がダメージをうけてしまうのではないか、、という心配の声を聞きます。これに関する研究はあり、3月にネイチャーに掲載されたものですが、たしか中国からのものだった、と思います。そのような可能性はあるのでしょうか?
まず、これはネイチャーには掲載されていません。ネイチャーは大きな出版複合企業ですが、これが載ったのは違う専門誌です。ネイチャーほどのレベルではない、そこまで内容、特に最新性とクオリティーに対する高い要求がない、と言えるでしょうか。掲載されたジャーナルで論文の内容をジャッジするべきではない、ということはわかっていますが、それでも、様々なレベルの論文が一緒にされてしまう、ということは頻繁におこってしまっています。この論文はただ掲載された、というだけですが、、それとは関係なく、これは慎重に判断していくべきことではあります。大きな議論に発展しましたので、私もこの論文は知っていますし、今は、ソーシャルメディアでもすぐに拡散されてしまう時代なので。ここでの主張は、HIVウィルスのようだ、というもので、ヘルパーT細胞のなかに入りこみ破壊することによって、免疫を低下させ、治療をしないと死に至ることもありますが、コロナウィルスではそのようなことはあり得ません。全くそれを裏付けするものもありません。この論文では、急性感染の際にT細胞のなかにもウィルス由来のタンパク質がみつかる、と。ある特定の細胞株を培養し、、これはかなりT細胞とはかけ離れてしまっていますが、、そこに高濃度のウィルスを加えると、全体の数パーセントの割合で活性化さたT細胞内にウィルスがみつかります。これは言ってみれば、人工的な環境での話です。そのような環境下では死ぬT細胞もいるでしょう。それは別のウィルスででも同じことです。このような培養細胞での実験でウィルスとT細胞を一緒に閉じ込めれば、、ウィルスの量も大量にすれば、、死ぬ細胞も出るでしょうし、ウィルスも細胞に感染する際に使う受容体を使わなくてもよいわけです。ですから、この研究に関しては疑問が感じます。動物実験、例えば、ハムスターでの実験でT細胞にダメージが起きる、というデータはあります。重度の急性感染の際にはそもそも、多くのリンパ球が死にますし、ほかの細胞も大量に死ぬのです。私は、死滅するT細胞がある、ということがそこまで重要なことである、とは考えていなくて、そこから免疫障害につながるとは思いません。心配することはないでしょう。これは、HIVとは全く異なり、比較もできないことです。
ワクチンについても全く触れられていませんよね。ワクチンからの影響というものはあるのでしょうか?
ワクチンは勿論細胞を刺激しますから、ワクチンによる保護効果がある場合には、この論文にあるような現象はかなり削減されるものと思われます。とにかく、このウィルスは様々な細胞のなかにはりこみますし、Sars-CoV-2が様々な臓器にダメージを与えることはわかっていることです。神経細胞へのダメージが、長期に渡る後遺症を引き起こすことも確かですが、はっきりとしたメカニズムはまだわかっていません。ここでの否定はしませんし、多くの臓器にダメージ与える、ということも明らかです。しかし、T細胞が感染し、免疫障害が引き起こされるか、という点ではそうではない、と思います。
長期に渡るダメージと臓器障害は、社会的にも大変重要なテーマです。ワクチンによってリスクが大幅に削減される、ということは明らかですが、先日、キングス・カレッジ・ロンドンからのデータではオミクロンのファクターが配慮されています。つまり、これは実際の感染、リアルな疫学的データで、ラボのデータではない、ということです。ここでは、ワクチン接種者にとってのシチュエーションはどうなのか、オミクロンに感染した場合とデルタで感染した場合にはどうか、というところが調査されていますが、年齢と接種回数によってリスクがかなり違う、ということですよね?
そういうことです。これは最新のデータですが、観察は初期の頃から勿論されていて、常に比較が試みられてきました。Long Covidシンドローム、つまり、急性コロナウィルス感染の後遺症は、とても多様なので比較することも大変困難です。調査することが容易ではないのはラボ値などで測ったり、レントゲンなどで判断したりできない。陽性なのか陰性なのか、ということがはっきりしないからです。そこが常に問題点でした。多くの場合は、アプリなど症状に関するアンケート調査をしたりして、重度の倦怠感がある、とか、体力の低下や別の症状があるかどうか調べるしかありませんでした。このあたりの背景的シグナルを調整するのが難しく、いままで様々な研究があり、良いものあります。去年、イスラエルから出た論文、、オミクロン前、ですが、そこではワクチンはかなりLong-Covid症候群への予防効果がある、とあります。特に慢性疲労、などの方面で、です。しかし、別の調査では、ブレイクスルー感染の可能性があり、削減は大体半分で、ある、とありますから、実際のところ、ワクチンの後遺症に対する保護効果がどの程度であるのか、ということははっきりしないのです。しかし、安定した応答がつくられる、ということは、抗体が中和し無差別に別の臓器へダメージを与えることを阻止する、ということでもありますので、それによって後遺症を防ぐことができる、ということになると思います。自己抗体反応が出るケースに関しても、免疫応答がスパイクに向いていればそちらのほうにおされますので、そのような反応も起こりにくくなる、と考えられ、これはデータが十分ある、ということではないものの、私が考える説明です。最新の論文では、オミクロンとデルタを後遺症の面で比較しています。オミクロンの場合には急性疾患時にもウィルス量が少ないことがわかっていて、それによって後遺症への影響も少ないのですが、この論文から読み取れることは、ワクチンからも比較的よい効果が期待される、ということです。
オミクロンに関しては良いニュースですね。悪いニュースとしては、BA.4とBA.5免疫回避が様々な研究で検証されてきている、ということです。良いニュースとしては、免疫回避はあるものの、効果があるモノクロナール抗体がある、ということ。予防としてだけではなく、治療薬としても使えるものがあり、BA.4とBA.5に効果がでています。Evusheldというのがアストラゼネカの最新治療薬です。これは少なくとも2つの治験でBA.4とBA.5への効果が検証されているようです。
そうですね。抗体はかなりの種類があり、これらの抗体は、基本的には感染から回復した患者から分離されたものですが、一部では、SARS-CoV-1ウィルスに感染した人から分子生物学的方法でこのような抗体治療薬がつくられてもいます。いままでにかなりの種類の抗体があったのですが、この免疫回避変異株が出たことによって、多くの抗体が効かなくなってしまいました。例としては、BA.2は、比較的BA.4とBA.5と似ていますが、多くの治療薬で問題が出ています。先ほど、Evusheldがでましたが、これは商品名であって、ここでは2つの抗体がコンビネーションされています。チキサゲビマブとシルガビマブです。これらも抗体ですが、特にシルガビマブにおいては、中和試験でBA.2、そしてBA.4とBA.5を中和できる、ということが確認されています。その反面で、BA.1にはあまり効果がありません。BA.1はもうすでに優勢ではありませんが、ここからも、抗体1種類ではウィルスの進化に対応していくことは難しい、ということがわかると思います。アメリカの治療薬にいままで発見されているオミクロン株すべてを中和するものもありますが、これが使えるようになるがいつになるか、というところでしょうか。
今の状況、つまり、3回、4回の接種後、特に重度の基礎疾患をもつ場合に必要になってくるのでしょうか?それとも、高齢者全般、、そこでも基礎疾患はある人が多いとは思いますが、特定の疾患、ということではなく、でしょうか?
今現時点では、モノクロナール抗体は、免疫応答が十分ではない場合に使用します。勿論、これはかなりざっくりとした言い方ですが、とにかく免疫応答が不十分であるとされる患者には必要な治療薬です。これは先天性の免疫障害であったり、臓器移植によって免疫を抑圧する薬を服用していたり、という場合、さらに自己免疫疾患などでは、モノクロナール抗体によってB細胞を補給することができます。このような場合は、自らはB細胞を持っていませんので。さらに、ワクチン応答もかなり悪い、ということもわかっていますから、初期の段階で抗体を体内に入れることでワクチン応答の替わりとするものです。ものEvusheld医療薬は、予防としての効果もありますし、実際にそのために開発され治験が行われたものです。数ヶ月間服用することによって中和抗体価を徐々にあげていくことが可能でそれによって保護効果が得られます。これは今後も使われる薬です。免疫老化、というテーマについてですが、、つまり、年齢が上がるにつれて単純に免疫システムの柔軟性と力がなくなってく。ここでもモノクロナール抗体が使えます。最後のワクチン接種からしばらく経ってしまっている場合や、超高齢者で持病もあったりする場合には、もう一度中和抗体を接種することは効果があります。多くの場合には、直接抗ウィルス効果がある成分とコンビネーションし、錠剤や点滴で与えられます。
これはよく耳にすることなのですが、、若い人の場合はワクチンを打っていても数週間治らないケースも多いのに対して、高齢者で4回接種した人たち、、80歳以上では、、疾患経過が若い人たちよりも軽度である、と。データをみたことはありませんので、これは単なる偏った印象なのかもしれませんが、、
よく耳にすること、というものはあります。私も聞いたことがありますが、超高齢者の場合には大事をとって入院させることがあり、、やはりいくつかの基礎疾患を抱えている場合が多いので、、そのような場合にも、幸いなことに最近では比較的早く退院できています。ワクチン接種をしていれば、ですが。症状として認識するものは、根本的には元々の免疫システムの反応で、こちらのほうが少し活性が高いのです。私たちもシャリテで試験をしましたが、子供と成人の比較です。そのなかには保護者も含まれます。そこでわかったことは、子供のほうがこのもともとの免疫システムが発動するのがはやい、ということです。ここではいわゆるインターフェロンがつくられ、ウィルスをかなり早い段階で抑えることができます。しかし、その一方でこのインターフェロンが出来すぎると、、例えば若い世代でなどですが、その場合には、この疾患感覚、風邪の場合に感じる症状が起きてきます。これが、高齢者ではあまり症状が出ない理由である可能性があります。しかし、その一方でまた肺炎が出始めていますから、これからはまた少し高齢者に気をつけていかなければいけないところです。特に基礎疾患がある場合には、初期の段階で抗ウィルス治療をする必要があります。
ここでもまた重症化の防止、ということになりますね。Stikoは、70歳以上の2回目のブースター接種を推奨しています。連邦保健相は、この推奨対象をさらに拡大したい、という意向を示しています。対応していないワクチンを打っても、重症化は予防するかもしれませんが、抗体が数週間、1ヶ月後に減少してしまう、となれば意味のあることなのでしょうか?そしてドイツで若年層には消極的な理由はなんでしょうか?
野生型コロナウィルスをベースとしたワクチンがここまでの効果を発揮している、ということは大変ラッキーなことなのです。今、出てきたオミクロン亜種に対してでも、です。ワクチン接種を繰り返すたびに、メリットはあります。ただ、接種と接種の間に感染しやすい状態、有症状感染のリスクがある、というところが問題です。これに関してはイスラエルの大変良い研究があるのですが、4回目の接種をした後には、また感染と有症状での罹患リスクが大幅に削減される、というデータがでています。しかし、重症化を防ぐ、という面では3回目の接種後にすでに高いレベルでありますから、特に若い人の場合には4回目の接種のメリット、というものはあまり期待できないのです。3回目の接種プラス、基礎免疫に追加される、という面で、です。ですから、ここでの判断は、黒か白か、という以前のようなものとが異なる、と言えます。そして、高齢者のほうが重症化するリスクが大変高い、ということもわかっています。オミクロンを調査したポルトガルからのデータによると、80歳以上の高齢者でワクチン接種を行っていない場合、大変高い致死率、ほぼ10%である、とあります。香港のデータも似たようなものです。つまり、ウィルスが弱毒化している、という意味は、私たちが感染したり、ワクチンを打ったりすることによって免疫をつけてきている、ということです。つまり、ウィルス自体は未だに重症化させるポテンシャルを持っているわけで、保護効果が薄くなると、特に高齢者の場合には大きなリスクがあります。ですから、追加のワクチンは明確なリスク、つまり新しい感染流行時などにするべきだ、という考え方です。2つ目の現象としては、これはラウタバッハ保健相がよく引き合いにすることでもありますが、それによって全体の感染状況に影響を与える、というものです。これはイスラエルでもみられたことですが、例えば、デルタの流行時に早い段階でブースター接種をはじめました。あの時には3回目のワクチンでしたが、それによってデルタの波を抑え込むことができたのです。かなり効果的なものでしたので、似たような効果を感染流行時の初めにブースター接種によって得られる、と。今の場合には、4回目のワクチンです。そうすれば、全体への影響が期待され、感染者数も削減される、と。勿論、重症患者数も減りますし、入院率も下がります。この点はよく考えていくべきところだと思います。ここには2つのポイントがあって、一つ目には、個人的に重症化するリスクはどの程度なのか。高齢で、基礎疾患もあれば、、60歳以上、70歳以上である、などですが、これは大変人によって変わることです。どのような基礎疾患があるのか、どのようなリスクなのか。理想的な保護効果、という面を考えた末での4回目の接種だと思います。感染者数も上がっていますので。全体的に考えた場合には、広範囲で接種を勧める場合にはどのようなメリットがあるのか。4回目の接種のタイミングはいつか?これに関しては、秋の前が適しているのではないか、と思われてます。ここには2つの異なる視点があって、それは、社会全体、私たち全体に出来ること、感染は可能な限り抑え、病欠の数を最小限にし、休業を削減する、ということです。今から夏にかけて実行した場合、もしかしたら効果はもうすでに10月で終わってしまうかもしれません。ですから、新しい感染流行が始まり、また社会全体に大きな負担をかけるリスクがあるならば、、計画的に実行されたワクチンキャンペーンは全体での大きなメリットがあります。勿論、個人レベルでのメリットもあることは言うまでもなく、重要なインフラの確保、という面でもリスクの削減ができるでしょう。そのような理由からも、キャンペーンは重要です。ですが、しっかりみていくべきなのは、感染状況はどうか。どの変異株なのか。どのようにキャンペーンを推奨し実行していくのか、という点です。
ここも、なかなか両立が難しいところですよね。まずは、個人レベルで、です。イスラエルからの4回目のワクチンの効果に対するデータの結果は悪くありませんが、ここでは、接種後の4週間での効果しか調査されていません。高齢者のなかには、3月に2回目のブースター接種をした人もいるでしょうから、「また抗体がかなり減少しているのであれば、感染者が増えている今、また接種しなければいけないのではないか」と考えている人も多いと思うのです。4回目の接種の効果が少し長く保つ、というデータはあるのでしょうか?
一番重要なのは、3回目で、それは、その前の接種から少し時間が置かれてから接種することによってワクチン応答の幅が広がるからで、それによって長く持続する効果が期待されます。4回目の接種に関しては、それをもう少し強化する、と言えます。もう効果が少なくなっているのではないか、、という心配をする気持ちはわかります。このイスラエルからのデータは一見素晴らしいですが、ここでの問題は、28日間しか観察されていない、というところです。「どうして、そんなに短い間しか調査しなかったんだ」と思われるかもしれませんが、この短期間でこれだけのデータを出した、ということはかなり評価されるべきところです。これは保険機関のデータから効果を割りだした本当に複雑な疫学的な試験であって、もっと長くすればよかった、という批判は少しお門違いかな、と思います。かなりの速さで分析しデータをだしていますし、私もこのチームと何度か話していますが、、大変良い関係を築いていますので、、彼らの情報処理速度は驚くべきものです。さて、先ほどの点に戻りますが、、抗体は確かに少なくなっていきます。追加で得た効果もなくなっていきます。これ自体は驚くべきことではありません。またそこまでの効果を得たいのであれば、ワクチン接種が必要になるでしょう。ここでの問いは、国民全体がワクチン接種をしつづける、というのを目的として良いのかどうか。私はそうは思っていなくて、私はハイリスクに関しては、感染状況が悪くなってリスクが上がればワクチン接種によるブースターは必要だと思っています。そして、近々、別のワクチンが使えるようになって状況の改善につながることを願います。
その点の質問もさせていただきたいのですが、、その前に、何度もワクチンを繰り返し接種した場合に、、この場合には、2回、3回ではなくて、もっと頻繁に、という意味ですが、、そこで免疫システムの飽和状態が起こる、という説を唱えている専門家もいます。つまり、抗体がある時点で新しく活性化したり、新しくつくられる、ということがされなくなってしまう、というものです。これは、高齢者にもう一度ブースターをする、という際に重要な点になるでしょうか?
勿論です。免疫学的な視点から、その点の考察をすることは重要です。動物実験からのデータもあります。繰り返し抗原との接触が起こった場合に、免疫応答にパターンが生まれ、、これはメモリー細胞の成熟度が増すからなのですが、、活性化されて抗体を吐き出します。これらはその前のワクチンと同じ設計データからつくられますが、これ自体は悪いことではない、と私は考えています。というのも、遅くとも3回目の接種時に幅広い抗体応答ができていて、それによって、広範囲での変異株に対応し中和することが可能になるのです。これは若干、抗原原罪の方向にも行く話なのですが、これはもうすでに免疫学的な専門分野での議論レベルです。このイスラエルのデータでは、4回目のワクチンの効果が期待される、とあり、重症化が防がれ、死亡ケースが減少し、罹患する人も減る、と。ここで、免疫学的にみて、デメリットはあるかどうか、免疫システムのメカニズム的にどうか、という考察をすることはできます。しかし、まずは信頼のできるデータ、何百万人というワクチン接種から出されたデータをベースに考えていくべきだと思いますし、それが、追加の接種によって保護効果が増す、というのであれば、それを信頼すべきです。最終的にはこのデータをもとに考えていくべきであって、ここでなんらかの支障、抗体が変化した変異株に対応できない、、などということがあるとは考えられません。そのリスクはないと考えます。なんらかの方向性や傾向がでてくる、という可能性はあるかもしれません。しかし、ここで一番重要なのは、保護効果ですから、その効果は4回目の接種後には明確にみられます。
変化した変異株、というのがキーワードですが、これは国民全体での2回目のブースターにも関係があることです。先ほどのポイントは、ラウタバッハ保健相も挙げていた点で、「オミクロンに対応していないいままでのワクチンを感染流行を抑え込む目的を使う際の効果はどれだけ期待できるか」というところです。対応ワクチンのデータは、まずはモデルナから出されていますが、とりあえず、行われたのは記者会見だけで、詳細は発表されていません。これは、オミクロンBA.1と、デルタに対応しているものですが、BA.4とBA.5へは対応していません。進化についていけていない、ということでしょうか?そして、対応ワクチンはそこまで感染を抑え込む効果はないのでしょうか?
まだデータが出揃っていませんのでわからないことも多いです。まずはその点を言っておきます。わかっていることは、モデルナが会見で出していた抗体データですが、ここでは若干のメリットの増加がみられます。例えば、中和抗体価が少し強化され増えています。先ほどのご指摘通り、これはBA.1へ対応したものですが、それでも、BA.1のほうが野生型に比べるとずっと今の変異株に近いわけです。とはいっても、臨床発展プログラム的には、ウィルスの進化を追いかけていく、という形になることは仕方がないことでしょう。対処方法としては対応の速度をはやくするしかないですし、後は承認プロセスを短くすること。「これは根本的には同じで、ただ一部を変化させたものである」と見做せば、抗体治療薬においてはかなりはやく承認がおりるようになっていますから、時間の節約はできます。しかし最終的に戻ってくるところは、、いままでのワクチンにもかなり大きなメリットが引き続きあり、BA.1に対応したワクチンはそれに少しメリットがプラスされた。しかし、私はこれはゲームチェンジャー、と呼べるだけのものではない、とみています。つまり、対応ワクチンを打ったら、100%感染を防止できるとか、そのようなものではなくて、少し保護範囲が広くなった、ということなのです。特に、抗体応答がそもそも弱かった人たちには朗報でしょう。これからは、承認プロセスを簡易化してさらなる対応ワクチンを迅速に開発、場合によってはいくつかの変異株に対応するものが使えるようになることを願います。
承認過程の壁はやはり開発にも影響を与えるものなのでしょうか?インフルエンザワクチンでは毎年新しい承認プロセスを通らなくても良いですよね。バイオンテックはワクチンのアップデートを5月にする、と告知していたものの、今は何の音沙汰がありません。素人的には、どうしてそこまで長くかかるのか、、と思ってしまいますが、、
一番の問題は、かなりの量の臨床データを提出しなければいけない、というところにあるようです。インフルエンザワクチンのようにアナログなやり方、プロトタイプのワクチンをつくればはやく承認まで行き着けるのかもしれません。mRNAの技術ではコンピューターでものすごい速さでつくることが可能です。別のmRNAをつくることがでくるわけですが、ワクチン反応や、稀に出る副反応は、どちらかといえば、この分子、周りを包んでいる分子によるもので、塩基配列そのものによるものではありません。そもそも、極一部しか変えないので、血清学的にみて、、つまり、結成のなかにより強く結合する抗体があれば、「こちらのワクチンのほうが適している。臨床データを集めるために、リアルワールドエビデンスデータを待とう」と。
先ほど、もう少しで別のワクチンが出てくるであろう、と仰いました。もっと効果があり、広い範囲でメリットをもたらすもの、ということですが、期待されるのは、鼻スプレー型のワクチンです。これは生ワクチン、ということになりますが、変化させた生きたウィルスでのものです。最新の発表では、ベルリンの分子医学研究所、マックス・デルブリュックセンターのものですが、ここでは、ハムスターでのデータで、人間でのものではありませんが、かなり良い結果が出ているようです。遺伝子操作されたウィルス、これは感染させることはできるものの、増殖があまりできなく、粘膜により効果的に働きかけるものです。この、粘膜免疫にかなり期待がされている、ということですが、、
これは素晴らしい研究です。マックス・デルブリュックセンターMDCのチームだけではなくて、ベルリン自由大学でも行われました。ここの獣医学部も大変素晴らしい研究をしていて、ウィルス学とシャリテのチームも参加しています。ここでされたことは、コロナウィルスを非最適化した、ということです。ゲノムの大変多くの部分を変化させて、病毒の性質を全て取り除き、複製をあまりしないようにするのです。動物が感染しても、そこまで病気になることはありませんが、気道への感染はします。例えば、それはハムスターも同じです。それによって、大変良い免疫応答が起こり、全身だけではなく気道自身で起こるために、そのウィルスと大変似た、普通の病毒性があるウィルスに対しての保護効果がうまれる、ということです。とはいっても、これはまだ開発途上である、と言えるでしょう。これからワクチンまでさらに開発されていかなければいけません。今あるデータは動物実験によるものですし、小動物のものであって、人間では実際にどうなのか、というところとはかなりかけ離れています。とはいっても、この結果はかなり期待が持てるもので、このような気道から接種するワクチンができれば、かなり大きな保護効果が得られ、それは重症化を防ぐだけではなくて、感染からの保護効果もあるからです。この間、中国の研究グループからの発表もありました。ここでは、いくつかの不活化ワクチンでの試験が行われ、つまり、コロナウィルスを化学的に殺し、補助成分とともに接種する、というものですが、そのような方法では抗体価があまり高く得られない、ということがわかっていますから、どのようにブースターをしていくのか、ということはかなり前から課題でした。そのブースター戦略の興味深い例が発表されています。ここではいわゆるベクターワクチン、Ad5アデノウィルスが使われています。これはドイツでは使用されていませんが、アジア諸国では認められているものです。これを2回のワクチン接種を終えている治験者に吸入法で与えました。その後で測ったワクチン反応は大変高いものでしたが、残念ながらここでは血清中、及び血液中の応答しか計測されておらず、免疫では検査されていません。しかし、粘膜でも大変強い免疫応答がある、と思われ、というのも、吸引型ですれば、明らかに少ないワクチン量で大変強い免疫応答が全体的に得られる、という結果がでているからです。ですから、この方法は効果があるものだと、思います。例えば、別のベクターワクチンや、生ワクチンや先程のベルリンで開発されたものを、鼻スプレーや吸引型で使ったならば、注射しなくても良い、という点でもメリットがあります。さらに、ワクチン用量もずっと少なくて済むわけで、それによって感染、暴露防止効果が得られるということになれば、例えば、ハイリスク患者などは、感染状況が悪くなってきたタイミングで定期的に鼻からのワクチン、、鼻スプレーなどによる方法でアップデートしていけることも考えれます。このコンセプトには大きな期待が持てる、と言えると思います。
これは直接免疫にワクチンが行き渡る、ということですから、ワクチンである、ということには代わりはありません。生ワクチンは、通常であればハイリスクには適していませんよね?
典型的な生ワクチン、例えば、流行性耳下腺炎や麻疹なども生ワクチンですが、これらは免疫障害がある場合や妊娠中には接種はできません。弱くなったウィルスが増殖してしまうリスクがあり、そこから罹患し重度の疾患につながる可能性があるからです。健康な場合にしか使えない、という制限が生ワクチンにはあります。それでも、経験上、生ワクチンの効果は大変長期間にわたって高いものである、ということはわかっています。言っておくべきことは、残念ながらいままでにコロナウィルスに感染してしまった人も多いと思うのですが、これは見方を変えると生ワクチンと同じだと言える、と思っていて、つまり、生きたウィルスと接触する、という点で、です。とはいっても、このワクチンもコロナウィルスである以上、一生効果が続く、ということではない、ということもわかっていることです。生ワクチンであっても、生涯効果が続くものではないですが、ワクチンの方法にはメリットがあると思われますし、一生効果が続かないのは、粘膜の抗体応答自身があまり長く続かないものである、と言うところとも関係があります。粘膜は、常に環境や新しい病原体に対応していかなければいけない部位であるために、それは必然なのです。コロナウィルスとの接触がしばらくなければ、粘膜での抗体応答はまた抑えられます。そして、1年後に再度コロナウィルスが循環したら効果が薄まっているために感染のリスクが残念ながらまた上がる、ということになりますが、呼吸器系の病原体においてはこれは珍しいことではありません。
ということは、感染するたびに粘膜免疫が強化されていって、結果、感染拡大にブレーキをかけることができる、というのは非現実的だ、ということなのでしょうか?
そうとも言えないと思います。個人レベルではなくて国民全体で見ていく必要があります。これからも感染流行は起こりますが、常に同じ段階である、ということはありえません。今後は、国民全体の免疫レベルが下がって穴があく、ということではなくて、シンクロしていかなくなる、ということです。つまり、個人個人のワクチン接種状況や感染経験値にはかなり違いがある状態になるのですが、それでも、感染をする度に粘膜にはいくつかのメモリー細胞が残り、改善もされていく、と思われます。確かに、感染はしてしまかもしれません。それでも、疾患経過の度合いはどんどん軽症になっていき、放出されるウィルス量も少なくなるのではないか、と思われます。私は粘膜免疫は強くなっていく、とは思うのですが、ウィルスが消滅することはありませんし、感染流行もなくなることは絶対にありません。そうなる、というのは確かに非現実的ですね。
鼻スプレーワクチンですが、、先ほどベルリンで開発されているものが市場に出るまではまだかかる、ということでした。どのくらいかかる、と思われますか?1年半、とかでしょうか?
私はもうちょっとかかるのではないか、と思っています。このような研究、特に大学研究分野のものは大変長くかかる可能性があるものだからです。多分、すでにワクチンを製造する企業のパートナーは確保しているでしょうけれど、臨床試験など、さまざまな条件をクリアしないと製造できませんので、まだまだ数年かかるのではないかと思います。他にもかなり期待が持てる方法があるのですが、それは、今あるワクチンを改造し、鼻スプレーとして使う、というものです。これが解決法になる可能性はあります。秋に大きな感染流行が起こった際に、特定の高齢者症にこのような鼻スプレーを支給できたなら、、医療関係者ではなく各自が使うことができたなら、、約3ヶ月の保護効果があることになりますから、感染拡大を抑えることができます。これは私が個人的に感じていることであり、直感的にお話していることではあります。しかし、私は、このような対策、、常に接触制限であったり、そのような厳しい対策を取らずとも効果がある対策が必要だと思います。ただ、まだ臨床試験も終わっていませんので、今年の秋には役に立ちません。
先生の経験からも、mRNAワクチンを違う方法で使う、という可能性はゼロではない、と。例えば、免疫障害がある人たちに使える可能性はある、ということでしょうか?
私は、例えば、このベクターワクチンはかなり効果的に使えるものだと思っています。中国のデータもありますし、このウィルスは鼻や喉に感染が可能なものですが、そこから増殖するこはありません。ベクターワクチンも効果があるワクチンです。大変稀に免疫血栓症が起こることがありますが、それは接種の後に起こったことです。鼻粘膜へ少量で使用した場合には、大変良い保護効果がでるはずだ、と思っています。これはこの方向で考えてみるべきコンセプトです。もしかしたら、別のワクチンが鼻スプレーで開発されているかもしれません。mRNAワクチンに関しては、まだ研究の余地があり、例えば、どのようなもので包むのか、粘膜に侵入するために必要な方法を考えなければいけませんから、ベクターワクチンのほうが適しているのかもしれません。どちらにしても、こちらのほうが全く新しいワクチンをゼロから開発するよりもずっと近道であることは確かです。
スパイクタンパク質に限定されない、というところもメリットかもしれませんよね。この部分は変異しやすい部分ですし。
そうとも言えますが、その反対に、スパイクタンパク質が単純にアキレス腱的弱点である、ということもわかっていることです。この部分に抗体が効果的に結合できた場合には感染を阻止することができるからです。別のタンパク質をブロックした場合には、罹患につながることを防げるかもしれませんが、感染自体を防ぐことは難しいです。これは、スパイクタンパク質が根本的に鍵穴にはいる鍵であるからなのですが、その間にはまるものが必要なわけです。ですから、効果的なワクチン、感染を阻止し、ウィルスの放出を防ぐことのできるワクチンを開発するのであれば、やはり、スパイクをターゲットにするのが正しいです。
もう一度、ハイブリッド免疫に戻りたく思うのですが、というのも、これは子供のワクチンにも関わってくることだからです。Stikoの推奨は、現時点で基礎疾患を持たない12歳以下の子供も対象になっています。これは保護者的にも朗報だと思うのですが、正直なところ素人的には、この推奨を完全に詳細まで理解するのは困難なところもあります。Stikoは推奨のなかでも、明確にハイブリッド免疫を前提にしていて、つまり、疾患経歴がない場合には1回の接種が推奨されています。論拠としては、多くの子供が感染をすでに経験しているために、まだ感染経験がない子供も1回の接種後に感染すれば、ハイブリッド免疫を得るだろう、ということのようです。しかし、この1回の接種、というのは製造元の承認治験ではないはずです。子供の場合、1回の接種でどのくらいの効果があるものなのでしょうか?疾患時のリスクが完全にないわけではありませんので、免疫学的にみるとどうですか?
この点は勿論議論において意見がわかれているところでもあります。スカンジナビア諸国のように、子供は自然な免疫を獲得すべきである、つまり、感染するべきだ、という考え方もありますが、私は少し違う意見です。まず、言っておかなければいけないことは、このウィルスが幸いにも、幼児が重症化することがほとんどなく、重度の後遺症、例えばPIMSなどの炎症シンドロームやLong-Covidの頻度も少ない、ということです。これは、本当にラッキーなことであって、総感染者数から考えても、もしそうでなかったとしたら大惨事になっていたところです。まずこれが一つ。もう一つには、先ほども仰っていたように、リスクがゼロなわけではなく、一定数存在する、ということです。感染者数が多くなればなるほど、子供の疾患ケースも増えますし、後遺症のケースの増えます。それが現実です。アメリカから子供の安全性に関するデータが入ってくるは早かったのですが、例外的なところ、、ここにStikoは重点を置いている、と思いますが、、心筋炎であったり、心膜炎であったり、それが特に若い男性、男児に起こる可能性がある、という点です。ここは注意が必要なところでもあり、この稀な合併症が子供ではどうなのか、というところで慎重な判断がされたわけです。勿論、子供の心筋炎や心膜炎のケースは大変稀です。若い男性の場合よりもさらに稀ですが、これは思春期との関連性がある、とみられています。私は、この決断は、慎重な姿勢と子供のリスクが大変低い、という間での妥協であった、と思います。「わずかなリスクはあってもワクチンから得られる効果は高い」「ドイツでも5歳以上のワクチン推奨が出たことは喜ばしいことだ」ということですが、この1回の接種のみ、というのは、私は少し疑問に思っていて、データは2回の接種のものですし、そのように承認治験では行われたわけです。ですから、これは少し珍しいケースのように思います。他の国では、心筋炎のリスクを下げるために1回の接種にしているところもあります。2回目の接種時でのリスクが高い、という理由です。どちらにしても妥協、ということなのでしょう。私は、承認された通りに使用するのが良い、と思っていて、このようなワクチン推奨、というものは、推奨、という点で、やはりワクチンが承認された条件、2回の接種、というところを配慮すべきです。そして、そのようにして問題ない、と思われますが、Stikoもかなり熟慮した上の判断だったことでしょう。現時点での推奨はそのようになっています。
二回の接種も可能ではあります。Stikoもその前に保護者の判断に委ねる、という推奨を出していましたので、医師に相談の上、感染経験がない子供でもmRNAワクチンを2回接種することは可能です。今後、子供用のブースターワクチンが出てくる、ということは考えられますか?12歳以上では、3回の接種でワクチン接種が完了することになっていますが。
Stikoの推奨が出る前でも、2回の接種は可能でしたし、今後も問題はありません。根本的に、絶対に推奨に従って行われるべき、ということもありません。Stikoの推奨はエビデンスをベースにしたもので、基本的には医師や患者や保護者にとって大変良いガイドラインとなるものですが、医薬品の承認、というものはまた別な話ですから、2回の接種に関しては問題はない、と考えます。ブースター、ですが、その点に関しても似たようなものだと思います。成人では、ブースターが必要である、ということが明らかになりました。勿論、成人のほうが重症化するリスクが高いですので、3回の接種でその削減をしているわけですが、子供の場合はどうなのか。リスクの削減がされる、とされても、そもそものリスクが子供の場合には大変低いわけで、そのような面でみても、子供は2回の接種をすれば大変効果的にリスクの削減を行うことができる、と考えられます。残念ながら、勿論、かなりの子供たちがもうすでに感染を経験していて、2回接種をすれば、3回抗原接触をすることになるわけです。順番と間隔にもよりますが、いつかブースター接種の推奨がでることも大いに考えられるところではあります。
アメリカでは、生後6ヶ月からのワクチンキャンペーンが始まるようです。FDAからワクチンの承認がおりています。製造元はワクチンの安全性を引き続き調査していますが、製造会社の治験以外で行われたドイツの治験、これは7800件のオフレーベルケースでのものですが、それによると、他のワクチンと比較しても、幼児のデータはかなり良いものだ、と言えるでしょうか?
その通りです。大変良いデータです。特に、別の子供のVPDと比較するべきであって、、というのも、これらの感染疾患は幼い頃に予防し、重度の疾患を阻止することが重要だからです。別の疾患の疾患負荷をみてみて、定期的に予防接種をする疾患、、風疹、水疱瘡や脳炎などで勿論死亡ケースが稀なのは、予防接種をしているからです。子供での致死ケースと重度の疾患ケースは比較的高く、リスクベネフィットの観点からも、このような疾患の予防接種は死亡と疾患を防ぐためにも必要だと言えます。
バイオンテックのmRNAワクチンでの接種後に、なんらかの副反応が出たケースはありますが、これは直接的なワクチンの関連性が明らかにはされていませんね。
ワクチン接種による合併症などはまた別な話で、ワクチン接種と時間的な関係性がある疾患を、それがワクチンによるものだ、ということを明らかにする、もしくは、全くワクチンとは無関係である、という検証をすることは大変困難なのです。そのような点をはっきりさせるには、かなりの大きさのデータベースが必要になります。そこで統計的なシグナルをみつけること、つまり、どのような疾患がどのような年代で頻繁にみられるのか。心筋炎を例にとっても、どのくらいのケースが通常あるか。そして、ワクチン接種者における数はどの程度か。その数が十分にあればシグナルとしてみえてくるわけです。免疫性血小板減少症に関しても、ワクチン接種との関連性はかなり早い段階で統計シグナルがみえていました。子供のワクチンにおいてはそのようなシグナルを確認するにはまだ比較的早いです。
しかし、一般的にみて、、これは子供に特化したことではありませんが、パウル・エルリッヒ研究所の報告をみてみても、ここ数ヶ月では成人においてもワクチンの接種後に目立った障害は出ていません。全体的にみて、Covid-19ワクチンに関しては、副作用はかなり調査された、といえるのでしょうか?他のVPD疾患と比べても、ということですが。
Covid-19ワクチンは、幸いなことに大変良い部類に入ります。ワクチンは、稀に副作用を引き起こしますが、それはどのような薬でも同様で、特に静脈注射ではそうです。そういう面ではワクチンの副作用や合併症に繋がる確率は大変低いです。それもそのはずで、予防接種というものは基本的に健康な人にされるものだからですが、特にCovid-19ワクチンはワクチンのなかでもかなり安全性が高いものだと言えます。幸いなことに、さまざまな国の異なるシステムにおいての安全性に関する分析データがあります。イスラエルの論文を例に出したく思うのですが、これは保険会社のデータをベースにしているもので、ワクチンの接種と同じ期間内でどのような疾患が出たのか、という関連性を調査してしています。それをワクチン接種をしていないグループと比較しています。ここで、明らかな心筋炎のシグナルがみられたのです。その他には少し帯状疱疹がありましたが、他の合併症のシグナルはみられていません。興味深いのは、その期間内にCovid-19に罹患した人たちとの比較です。そこではこのような合併症が全てあり、ワクチン接種後よりも明確で強いシグナルがある。これは疾患によって発生したものです。ですから、このように高い効果があるワクチンが存在する、効果的に重症化と死亡から防ぐことができる、ということは大変ラッキーなことですし、その上これだけの安全なものである、ということも忘れてはいけません。アメリカではまた別のシステムで別の論文がありますが、似たような結果が出ていることは本当にホッとする事実です。これによって、心からこのワクチンの安全性と効果を勧めることができるからです。
もう一つお聞きしたいことがあるのですが、、別の疾患のワクチンと比べるとCovid-19ワクチンはかなり良いワクチンだと言うことですが、どのワクチンがあまり良くない、と言えるのでしょうか?
例えば、昔の天然痘ワクチンなどは全世界で全員に接種されましたが、かなりの頻度で合併症が起こっていて、ケロイドから脳炎など、、かなり厄介なものも多くあったのです。別の生ワクチンでも、特に免疫が低下している人の場合には重度の疾患経過に至る場合もありますが、最近のワクチンでは根本的にそれに比べて安全なものです。豚インフルエンザのワクチンでは、免疫に先天性の障害があった場合にナルコレプシー、、過眠症ですね、そのような疾患を引き起こしたケースがありました。このように合併症は常に起こる可能性はある、と言っておく必要はあると思います。障害が出たり、疾患になったりする人は実際にいますので、これは軽くみては決してならないことですし、しっかりと診断されなければいけないことでもあります。そして、勿論、合併症によってはその治療がなされなければいけません。例えば、心筋炎や他の頻度の低い合併症においては、それぞれの専門分野の専門医、つまり、循環器内科や神経内科における治療になりますし、これらの問題を無視するわけにはいきませんが、「これらの合併症は大変稀なものであり、問題を軽視するものではない」と明確にすることも重要であると同時に、「合併症などない」というような発言も慎むべきです。「合併症など、全て気のせいだ」と言う人もいますが、それは間違いです。
透明性のあるコミュニケーションは重要です。今の政治的な方向性は、「対策をまた取り入れて秋に備えよう」というものの真逆です。秋にまたワクチンキャンペーンをする必要が出てくる、とお考えですか?
私は、また秋にワクチンが重要になる、と考えます。それに関しては、先ほどお話しましたが、ポイントを絞ったワクチンキャンペーンには効果があり、感染拡大を抑え込むことも可能です。これからみていくべきことは、秋にはどの変異株が循環しているのか。専門家会議でも、さまざまなシナリオを出してみましたが、そのなかにはもちろん、大変な問題が起こる、というバージョンもあります。それと同時に、感染者数は高くても疾患程度がかなり低くなる可能性もあり、そういう状況のなかでは果たして新しいワクチンが必要となってくるのか。そのような問いも出てくるわけです。しかし、そうは言っても、新しいイニシアチブは必要になると思われますし、多くの人がワクチンからのベネフィットを得るだろうと。勿論、新しいワクチンも完全な保護を保証するものではない、ということは言うまでもありません。その一方で、3回の接種を終え、健全な免疫システムを持っていれば、かなりの確率で重症化や死を免れるでしょう。しかし、秋にまた別の対策とワクチンが重症になってくる、ということも確かなことです。
今日はお時間をいただきありがとうございました。