ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(36) 2020/4/28(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

2020/4/28

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ドイツがマスクをする。これが、今週から誰もが実感した社会に起こった変化でしょう。 感染状態を把握し、パンデミックを抑え込むためのトレーシングアプリの開発も進められていますが、まだまだ課題も多いようです。 対策の緩和へ向けて、メリット、デメリットの裏付けをするために研究調査も引き続き続けられているところです。 完治した人については何がわかっているのでしょうか。 治療薬は? ワクチンの開発はどこまで進んでいるのか。 子どもについては。今日も、ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏にお話を伺います。聞き手は、コリーナ・ヘニッヒです。

今日のニュースでは、病院側が、そろそろコロナの集中治療病床を他の病気の患者のために空けていく方針を検討しはじめている、とありました。 先週、ベルリンのシャリテ内ではCovid-19の重症患者数は徐々に増えている、とおっしゃっていましたが、周りを見た際に、どのくらい現実的な事だとお考えでしょうか。

勿論、私の周りは大変大きな病院ですから、大きな病院ではたくさんの手術が予定されているものです。 そして、病院は、企業です。企業としては、利益をださなければいけない。病院の経営も利益で成り立っている、ということを忘れてはいけません。 なので、Covid-19のためにいままで病床を確保し続けてきたけれど、R値も1以下になった今、、、因みに、先ほど、また1に戻った、と言う発表があったので注意深く観察していかなければいけませんが、、、それでも、感染者数は明らかに減ってきていて、医療の負担、という面では危機感を持たなければいけないところからは脱した、という認識から、集中治療病床をまた他の病気の治療に使えるようにする、ということは非常に自然な検討だと思います。 手術にしても、予定されている手術だけではなく、事故もありますし、緊急な処置、例えばがん治療、そして、内科の救急治療も突然やってきます。 勿論、すべて、妥協案ではあります。 経験から、このくらいの病床は空けても大丈夫、という判断はできますが、もし、また疫学的な変化が起こったら対応しなければいけません。 しかし、病院ではいままでに多くのことに適応し、集中治療病床の拡大をはじめ、組織内での規制の改善も大幅にされたので臨機応変な対応が可能です。 今、これだけの病床を空けたとしても、常にまた(新型コロナのために)必要になる、と考える必要があるでしょう。そして、この可能性は大きいと思われます。

大きく討論されているのは、感染者数が減少している今、これから何を具体的にあすればよいのか。というところですが、子供が大きなテーマです。 政治家も、そして、勿論家族にとっても興味があるところですが、何か子供達について新しくわかったことはあるのでしょうか? 保育施設の再開には、感染性など、周りの感染への子供の影響を理解する必要がありますが

そうですね、今週、重要な政治的な議論がされましたが、これは必要でした。 今、科学的に説明するのがとても困難な状態です。少しまとめてみたいと思いますが、、、、エピデミックが中国ではじまった時点での論文はあまりないのですが、そこでは、子供達はほとんど症状がない、とあります。子供の患者はいないのです。 はじめの方のポッドキャストで、武漢の小児科病院への入院数から予測した、未確認幼児感染者の論文をとりあげたりして、、、子供については何度もお話ししてきました。他の、家族内での接触に関する論文では、かなり詳しく調査されています。 誰が一番初めに感染したのか。そして、その次に誰が感染したのか。最終的には、約15%ほどしか、家庭内では感染しませんでした。しかも、感染者が家族内にいるので、気をつけるように、という注意と疫学的な指示があった環境で、です。

対策下、ということですね

そうです。そのような状態でも、15%です。他の家族の平均値をとっても、子供の感染率は、成人と同じです。 何も特別な点はないのです。 これは、重要なパラメーターです。どのくらいの頻度で子供が感染するのか。症状があっても無症状でも。 もうひとつの重要なパラメーターは、どのくらい感染性があるのか。 もらうだけではなく、周りにうつしますので。

感染をさせる側、としてですね。

そうですね。現在の状態を疫学的な調査をもとに判断するのは難しいです。困難な点は、1つめに、接触制限というシチュエーションのなかで、つまり、学校が閉鎖されているなか、基本的に外で感染する可能性は絶たれている。ということは、家庭内だけの感染です。 そこで、誰が家庭にウィルスを持ってきているのか? 子供なのか? それとも父親?母親? たぶんこれは、家から外出する年齢層であると考えます。それと同時に、一番感染が多い年齢層に属する人たちでしょう。ドイツをはじめヨーロッパでは、エピデミックの初期には、若い成人層の感染者が多かったのです。 30〜45歳くらいです。

行動範囲が広い層ですね

そうです。職業的に活発な成人です。ドイツを特定するとスキーをする成人でしたが。 このような大人が家庭に運んでいることは明確です。子供ではなく。感染経路の調査をすると、興味深いことに、子供はそのような経路の最後に位置するからです。

これは、例えば、これからまた学校が始まったりすると、、、変わってくるのでしょうか。 子供が持つ接触機会が増えますよね。

勿論そうでしょう。全く変わるとおもいます。先ほども言いましたが、子供の感染も成人と変わりませんので。 しかし、まだ多くの答えが出ていません。これは、現在の議論のための素材の一つでしかないのです。  もう一つの議論点は、もっと、感染者間の感染順番を調査しなければいけない、ということ。誰が誰に感染させたのか。 そこをみると、子供は、感染をさせる側、ということがあまりない。 このデータを、オランダ国立公衆衛生環境研究所がまとめています。とても興味深いものです。 オランダの研究者がエビデンスを集めていて、研究所のHPで公開されてますのでみることができますが、例えば、家庭内や他の感染ケースの分析では、誰が初めに感染したのか。そして、次に誰が感染したのか。家庭内の確率の平均値は、15%ですが、年齢別にはどうなのか。 そのグラフが興味深く、感染の接触が、子供よりも大人のほうが多いのです。というより、子供では全くありませんでした。 勿論、このような疫学的な統計調査では、数字の検証が出来ないことと、どこまで信頼できる数値なのか、という判断が難しいです。実際に、子供の調査数も少ないですし。 これは、どのような研究においてもその傾向があります。 統計調査でも、論文でも、常に子供の情報が少ない。どうしてなのか? 今の状態を想像してみてください。 あなたは、検査会場、もしくは病院に行くとします。 子供を一緒に連れて行きますか? 連れていかないでしょう。子供は症状がないですし、第一に、感染の危険がある場所に自分の子供は連れて行きません。感染から守りたいので。 子供をつれていかないので、データもほとんどないのです。ここが足りません。ここでの分析は、通常の疫学的な分析方法ではありません。 必要なのは、子供の喉にどのくらいのウィルスがあるのか。濃度はどうか。

はじめの頃には、他の感染症の場合と同じように、子供の喉には大量のウィルスがいるかもしれない、という予測がされていましたよね。

そうです。インフルエンザもそうですし、他の風邪でもそうなので。 子供は免疫的に未熟ですから、ウィルスが簡単に増殖します。 インフルエンザや風邪の場合に、子供と大人の喉のウィルスを調べて比較すると、、ファクターは1万です。つまり、子供は、大人の1万倍ののウィルスを喉に持っているのです。 しかし、このような調査を今回の感染症ではまだされていません。子供からは感染しない、ということを証明したいならば、このような調査をしなければいけないのです。 保育施設を再開したいのであれば、子供から放出されるウィルスが、大人と同じなのか、違うのか。 そこをはっきりさせなければいけないのです。 そのためには、2つ方法があります。1つめは、子供から感染する人数の疫学的な調査。これは、保育施設内で調査できるでしょう。しかし、今、保育施設は閉まっています。 家庭内での調査も、、、今現在、接触制限という非常事態ですから、子供も他との接触はありません。 ということで、今のところ、答えることができないのです。 2つ目は、直接、子供の喉のウィルスを調べる方法です。保育施設を再開するには、子供の喉のウィルスが、大人よりも少ないことを証明するしかないのですが、残念ながら、ラボの検査データ内の子供の率もとても低い。ここで集められるものは、病院に入院した子供のサンプルが大半で、保健所が調査のために集めたものが少しあるくらいです。 はじめの頃は、そのような調査は検査のキャパにまだ余裕があったのでおこなわれていましたが、今は難しいです。しかし、ロックダウンが解除されたら、またこの方向での調査をするべきでしょう。 もう一つの可能性は、、、大きなラボであったら、一握り以上の子供のサンプルはありますので、絶対量としては足りなくても、そのなかでの調査をすることは可能です。それを今、私たちのラボでやっているところです。どのような結果がでるのか、期待されますが、結果が出次第、すぐに発表します。これからの対策の決断基準となるデータですから、これによって議論が進むことを願います。 多分、明後日のポッドキャストで、もうお話できると思います。

子供の年齢はどうでしょうか? 9学年と10学年は学校に行けることになっていますが。

高学年に関しては、大人と変わらないであろうと思われます。想定内でしょう。接触制限でいろんなことを学びましたから。ここでの行動制限などは、、大人と同じです。 しかし、年齢が低くなるにつれて、難しくなって行きます。 小さな子供に、1、5mの間隔を常にとってるようには、、言えません。

言うことはできますが、、ききませんよね。

そうです。また根本的なところに戻りますが、、、子供はウィルスを多く放出するのか。もし、子供が大人と同じ量のウィルスを持っているのであれば、許可は難しくなってくるでしょう。保育施設では、、密室内で長時間の濃厚接触ですから。やはり、まずはデータを待ってから、ということになります。そして、もし、大人と同じだ、という結果になれば、、、、再開することは不可能でしょう。

データ、とは、シャリテでの調査だけではなく、論文なども、ですよね

勿論です。他のラボの研究結果も必要です。今、この状況、ロックダウン下で、疫学的な研究をまとめるのが大変困難な状況では、このような方法でみていくのも必要です。ウィルスの量を検査するだけ、というのは少し足りないのではないか、と思うかもしれませんが、まだ、それすらもしていないわけですから、、、まずはここからはじめるしかないのです。 様々な年齢層の子供のウィルス濃度です。 他にも考えられるのは、、、保育施設の再開の際に懸念されることは、子供達の距離です。そして、無症状なために、感染している子供の見分けがつかない、ということ。 わからないので自宅隔離にすることができません。 そこで、考えられることは、、、子供は無症状なために、咳をすることもありません。 咳でウィルスが放出されることは少ない。そして、身体が小さいので、肺容量も小さい。そのために、出てくる息の少なく、同時にウィルスの放出も少ない。

その反対に、子供の方が、顔をさわったりする回数が多いですよね。小さい子供だと、口とか鼻とか

自分だけではなく、親とかも触りますね。このシチュエーションは、、、基本的に困難です。 私も現実離れしているわけではなくて、保育施設がいつか再開しなければいけないことの重要性は十分理解しています。シングルマザーや、共働きのグループのためにもとても重要なことです。解決策をみつけなければいけません。託児を可能にするために、政治も動いていますが、やはり、そこから家にウィルスを持っていく可能性を考えると、、、父兄に、「お子様はウィルスを家に持ってかえるかもしれません。 常にリスクがある、と認識してください。 症状が出始めたら検査をし、自宅待機してください。」などの注意書きを渡すのも必要かもしれません。

おじいちゃんおばあちゃんに会いに行かないように、なども

おじいちゃんおばあちゃんだけではなく、高齢者には会ってはいけません。 代理おばあちゃん(高齢者のベビーシッター)と、緊急託児サービスを一緒に利用してはいけません。これから、具体的な詳細を決めた規則が必要だと思うのです。これは、私の個人的な、ウィルス学的な見解としてではなく、本当に個人的な意見としてですが、速攻に、少なくとも緊急時の託児の可能性をもっとつくらなければいけない、と思うのです。 あらゆる年齢層の子供達のウィルス濃度をみたり、など、全てのパラメーターをみなければいけません。 小学生の年齢になれば、これから、休憩は全て中庭でとること、などの説明を理解できるようになります。 時間差で休憩時間をとる、常に4分1くらいの生徒が中庭にいるようにする、など。 このくらいの年齢は新しいルールも考えることができるでしょう。 しかし、そのためにも、ウィルス濃度は把握していなければいけないのです。

キーワードは、屋外、ですが、ウィルス学者的な、そして個人的な見解をあわせて考えた場合、、、多くのことを屋外に移動する、ということはどうでしょうか。保育施設もそうですが、小学校も

たぶん、それが解決策のような気がします。 ここでも取り上げたことがありますが、香港とシンガポールの研究で、エアロゾル感染についてです。 武漢から、エアロゾルの新しい論文がネイシャー紙に掲載されました。ここでも、エアロゾル感染はあるだろう、という結果がでています。 待合室のような、密集した空間からは、空気中から数値がでるレベルのエアロゾル濃度が計測されます。このことから、放出されたエアロゾルは、空気の流れのない空間では、一定時間空気中に留まっている。ですので、季節を有効に使ってに屋外に出ることはとても良いことです。 エアロゾル粒子は、外では風に飛び、一気に濃度が薄まります。 日常生活に戻るために、子供達のために考えられることは、公園の解放です。公園は、保育施設のように大勢の人数は集まりません。混み合っている時間帯だと、20人くらい集まることはあるかもしれませんが、距離は保てるでしょう。 1時間、同じ空間にいるのではありませんし、公園に距離を保ちながら15分くらい、です。そして、空気が常に流れている環境です。 勿論、公園では、直接的な接触や、顔を触る、ということはあるでしょう。 これは注意をしてみてあげる必要はあります。接触感染、つまり、子供の手にウィルスがついて、そのまま滑り台の手すりを触ってしまう。このようなことがおこらない、という保証はありません。しかし、対策を緩和する、ということは、リスクが高くなることを意味するのです。 どちらにしても残存リスクはつきまとうわけなので、公園を解放するのは、副次的な被害を緩和する、という面でも必要な対策だと思うのです。公園にいけないことができない、市内の小さなマンションに住んでいる家族などにとっては、特に。

キーワード、接触感染、残存リスクが、子供についてのテーマの最終的視点ですね。 先生方からの質問では、5、6年生からはマスクを着用できるでしょうか。 子供達は、ちょっとしたことで、防止対策を忘れて、マスクをとったりつけたり、忘れてきたり、そこら辺に投げたり、、、しそうですよね。 リスクが大きすぎますか? 距離をとって外に出る、という方が直感的に安全でしょうか。

直感的には、距離と屋外のほうが、飛沫感染とエアロゾル感染の防止よりも重要だと感じます。2つのシチュエーションで考えると、 1つめは、1クラス20人で、一人分あけるなどの距離をおく。全員がマスクをしている。これが1つ目のシナリオ。 もうひとつは、同じクラスで、窓を開放、大きな扇風機で常に外に向かって風を送る。クラスのドアも開いていて、常に空気が動いている状態。私の直感では、2つめのシナリオのほうが良いと感じます。

今日は、比較的、実生活的な内容です。 さて、リスナーから質問が殺到したのは、、、WHOが、完治したCovid-19患者へ発行される抗体パス、チリがその計画をたてているようですが、そのことについての警告をだしました。これは、通行証のようなもので、これを持っていれば制限なく行動できます。ここでの質問は、免疫はできる、とドロステン教授は言っていたけれど、現在の研究ではどこまでそれがわかっているのか。そして、完治した後に本当に免疫ができるのか? 少し免疫があるだけなのか? そして短期間のものなのか、ということですが

今でも、免疫ができると判断しています。2年後か、もしかしたら、もう少し後で段々消えてくかもしれませんし、完治からもうすでに2ヶ月後に抗体が減ってきているケースもなかにはありますが。 抗体は、免疫を確認する相関にすぎないのです。 抗体だけが免疫をつくるわけではありません。エライザテストや抗体検査も免疫を証明するものではありませんが、ここで陽性になる人は、(Covid-19が)完治した、ということです。勿論、偽陽性などの確率についてはここでもお話しましたが、、、、そのようなことがおこらなければ、、感染症が完治した、という証明です。勿論、完璧な免疫ではないかもしれませんし、全く感染しない、という保証もありません。もっとも、完治してすぐはまた感染することはありませんが、1年半後、2〜3年後にはまた感染する可能性はあります。
これは、他の風邪コロナウィルスと同じです。この新型コロナが特別だ、とは思いません。 かかっても、重症になることはないでしょう。これは重要な点です。前まで、私にとってとても危険だったウィルスは、もうそこまで危険ではなくなったのです。風邪のような症状でしょう。 喉の部分の感染で終わり、肺まではいかないでしょう。そして、ウィルスの放出もそこまで多くはありません。 体内でのウィルス増殖もそこまでしないので感染性も高くはありません。

少しは、、ありますよね?

勿論です。白と黒の結果ではありませんから。しかし、このグレーの結果が疫学ではとても重要なのです。 ですので、今、完治してた患者は、免疫がある、と判断して良いと思います。 しかし、WHOが批判したのは、この部分ではないと思うのです。 というのも、WHOの推奨は高いレベルに位置するので、詳細までには至りません。 方向と思考の方向性を示すだけです。 短縮された意見なためにそれが意図するところが明確に伝わらないこともありますが、どうして、WHOが、そのような警告をするのか、ということを考えなければいけません。 単純に、抗体検査で陽性反応がでたからといって、免疫ができているとはかぎらないのだから、そのような証明を発行してはならない。ということではなく、ここには、違う思索背景があるように思うのです。 まず、免疫がある、と思っても、そうではない、こともあること。これは確かにあります。 誤結果がでたり、です。なのに、自分は免疫があるから、、という理由で不注意に行動するようになる。この理由は正しいでしょう。 しかし、もう一つの影響は、社会的なものです。そのような証明書が発行されるようになったら、この証明書があることのみを雇用条件にする、という企業もでてくるかもしれない。 また、保険会社が、新型コロナの集中治療にはお金がかかるから、抗体証明書を持っているひとにだけ良いコンディションの契約を用意する、などなど。 このような社会的スティグマの影響です。証明書を持っている人が自慢をはじめ、持っていない人は誕生パーティに招待されないかもしれない。 そのようなことはあってはなりません。社会は崩壊します。私は、WHOが警告する真の理由はここにあるとみています。

シャリテでは、新型コロナの感染の際のメカニズム、オートファジーについて研究がされています。 これは、細胞が細胞の一部を分解することですが、侵入したタンパク質や細菌、ウィルスなどでも同じことがおこります。このプロセスが新型コロナ感染の際にブロックされる。どのようなことがおこるのでしょうか。

オートファジーはとても複雑なテーマですので、詳細まではここではお話できませんが、基礎的な研究を行なった結果、とても興味深い結果がでました。 そうですね、オートファジーは、生体高分子が分解される細胞のプロセスで、分子が悪くなったら代謝されるわけです。ここでオートファゴソームがつくられます。これは、細胞内の分解コンパートメントですが、小さな気泡が膜で覆われている、と想像してください。その他にも種類はあって、それはリソソーム、と呼ばれるものです。これは、消化小胞で、細胞はこれを栄養素や代謝のために使います。分解するのですね。 リソソームが自分の細胞の一部を消化して、オートファゴソームと融合した場合、そこで、別のコンパートメントが発生します。この細胞内の成分が入っている小さな小胞の鎖がオートファジーの原理です。これは、細胞の自食作用です。 そのオートファジーを速める作用をする部分と、抑える部分というものがあって、それがオートファジーの鎖の一番前にある分子で、Beclin-1と言いますが、ここからオートファジーはスタートします。そして、細胞内には、このBeclin-1を分解する他の成分もあり、ここでも鎖が形成されますが、ここにSars-Cov-2ウィルスが侵入する。 これは、その前に公表された論文、マーセル・ミュラーの研究チームと、ボン大学病院のニルス・ガッセンのチームの研究ですが、ここは、分子精神医学の分野です。これは、精神科で行われた細胞の新陳代謝の研究ですが、このような基礎研究では薬効の視点からみれば、患者の種類は関係ありません。ここですでに、MERSコロナウィルスが、オートファジーを妨害し、この細胞内の変化によってウィルスの病原性が大変高くなる。 それと同じことを、Sars-Cov-2ウィルスがすることを私たちの研究でわかったのです。 このウィルスも、オートファジーの機能を妨害して細胞内に侵入し、ウィルスの都合のいいようにバランスを変えていく。 ここで、興味深いのは、オートファジーに干渉する医薬品があって、その成分は、ニクロサミド、というのですが、これは、昔のサナダ虫の薬です。これが、Skib-2と呼ばれる分子をブロックしますが、このSkib-2はBeclin-1の上の位置に属するバケツリレーメンバーで、ニクロサミドは、この結果、Beclin-1を安定させ、Beclin-1はオートファジーを強化することができる。 つまり、ウィルスが、オートファジーを阻止し、ニクロサミドが、またこれを修正する、ということです。

ゴミ処理作業を促すのですね。

その通りです。ウィルスがして欲しくない作業です。もう一つ成分があって、MK-2206というものですが、これは、Akt-1阻害剤で、シグナル伝達カスケードでもあります。この成分は、乳がん治療に使われますので、がん研究の分野です。また他の成分は、細胞代謝のほうですが、スペルミジンという、これもオートファジーを誘発しますが、効果がある濃度を医薬品で達成するのは難しい、と考えられます。ですので、ニクロサミドのほうに集中することにしました。どこででも手に入る医薬品ですが、ドイツでは、もう市場にはありません。 たぶん、もっと効果のあるサナダ虫の薬ができたからだと思うのですが、どうして市場から消えたのか、詳しいことはわかりません。 しかし、多くの国ではまだ使われています。 このような、もうすでに許可が降りてる薬での効果が認められることはとても希望が持てることです。試そうとした時にもすぐに使えますし、副作用もない、ということもわかっています。 これを使って今、試験をしようと考えています。 成分の濃度も効果のある域であることもわかりました。 どういうことかと言うと、ラボで効果がありそうな成分をみつけたとしても、そのくらいの量だと効果があるか、ということも調べなければいけないのです。そこから、この濃度を経口、または経静脈投与で得ることはできるのか。 許可されている薬品には、このような治験結果のデータが表になっていますから、そこで確認することができます。ニクロサミドはその点はクリアしています。結果にいきますが、錠剤として服用して得られる濃度で確認したところ、ウィルスの増殖が阻止されました。良い感触ですので、これから治験の申請をして、試験をはじめる準備をしたいと思っています。

どの段階で使われることになりますか? 他の薬のデメリットは、かなりの初期の段階、軽症段階でないと効果がない、ということでしたが。ここではどうなのでしょうか。

ここでも同じです。 この薬品は、ラボでもわかっているように、ウィルスの増殖を阻止するものですが、攻撃するところは、直接ウィルスではなく、細胞内です。ここの大きなメリットは、このような細胞に働く抗ウィルス成分に対しては、ウィスル変異はそんなに速くはおこらないからです。細胞に働く成分だったとしても、やはり、早い段階で使われなければいけません。 感染段階のウィルス段階、ウィルスの増殖が症状を悪化させている1週間目に、です。免疫システムが炎症を起こしている2〜3週間目ではなく。これも、臨床的な妥協案です。 重症患者は、勿論、感染は進行していますから、様々な薬を試して治してあげたい、と思うでしょう。その反対に、初期の軽症者は症状が軽いのです。無症状で自覚がないか、軽症か。この試験には、徹底した診断が必要ですが、そのような1週間目の軽症患者が毎日検診に協力してくれるかどうか。データをとるためには、症状の経過だけではなくウィルスの濃度の変化を追わなければいけません。 重症患者の場合は、判断基準が違います。 重症患者は理解があり、治療への意欲もあります。副作用の可能性があっても、薬の使用を任意するでしょう。効果を期待していますし、何と言っても(入院していますから)毎日の検査、排痰内のウィルス濃度をPCRで検査したり、、できるのです。採血もさせてくれるでしょうし、、、このような、医学的ではなく基準、治験に必要な協力体制です。

最後に、、、このポッドキャストの収録をはじめる前に、どのようなテーマにするか、どの論文を取り上げるか、などという打ち合わせをしますが、以前、この研究の話題の打ち合わせの際に、消極的な印象をうけました。研究はもうすでにプレプリントで公開されているのに関わらず、、なぜですか?

私は、このポッドキャストの内容がかなり広範囲でひろまっていくのを知っていますから、まだ査読の段階の論文が、拡散されて騒がれる、などして、査読に余計な影響を与えたくない、というのが、一つ。 しかし、この論文は、もう先週の段階で公に発表されています。 もう一つは、ここで話題にしていることに、あまりにも大きな期待が寄せられてしまうことが多々ある、ということ。 またこの後も、この成分が欲しい!手に入れたい!というメールが何百もくるでしょう。この早とちりは危険です。 まだ、本当に効くかどうかなど、わからないのです。まずは、小さな志願者グループでテストしなければいけませんし、その許可すらまだおりていません。倫理会、規制当局にからも許可も必要です。その過程がまだです。成分の在庫はありますが、試験のために十分な供給が必要なので、人々が薬局に殺到して購入し、家にストックしはじめたら、、、そのために試験で必要な分がなくなってしまう、などということは、絶対におこってはいけないことです。このような悪い影響がないともかぎらないのです。 
他には、試験のための薬を投与される患者には、別の薬は使えません。 もしかしたら、もっと良い薬がでてくるかもしれない。 しかし、患者が、私は今、ニクロサミドを飲んでいるんですが、、と医者に伝えたら、じゃあ、他の薬は使えませんね。となるのです。 これが臨床試験です。 
ここではっきり言っておきますが、、、私に、ニクロサミドをもらえるかどうか、というメールは送ってこないでください。 そして、薬局にも家庭医のところにもニクロサミドをもらいにいかないでください。これは、データが出揃ってから、です。

重要なのは、まだ研究段階で患者への使用はまだ先だ、ということですね。 リスナーの多くは、先生の(他の場での)インタビューも読んでします。 たくさんの心配のメールが届いているのですが、、、、英国のザ・ガーディアン紙でのインタビュー内で、殺害予告をうけた、とおっしゃっていました。ヘイトメールについては、ここでもお話いただいたことはありますが、、、それでも、(ポッドキャストを)続ける、という意志はどこからくるのでしょうか。

ドイツは、とても早い段階で検査体制が整っていた、というところで、大変大きなメリットがあったと思うのです。他の国のように、死者が出始めてから感染に気がついたのではなくて、検査の結果で、国内にウィルスが入ってきていることを発見できたのです。 そして、今、国民が一丸となって協力体制をもって対策を実行してきています。 その結果、死者数が少ない、という大変良い状態をキープできているのです。 私は、、これ自体、とても、贅沢な悩みだと思うのです。 集中治療病床を他の治療のために空けていく、などということを検討する、ということは。 他の国では全く別の問題を抱えています。 すでに大きなことを阻止してきた、ということが理解されないことは残念なことであり、大きな憤りを感じます。他の国のようになった可能性だって十分あるのですから。
ドイツでは、あまり英語でのニュースは読まれないので、あまり知られていないかもしれませんが、ドイツは世界から隔離されていません。 ジェレミー・フェラーという、世界での有数の感染学者がいるのですが、ウェルカム・トラストの代表者でもあって、以前は感染学の教授として教鞭をとっていた方です。 彼が、ツァイト紙にとても素晴らしいドイツ語のインタビューを載せているのですが、そこで、言っているのは、段々、国がどのような対策をしなければいけないか、というのがわかっていきた。 R値、罹患率は、1、ではなく、かなり1以下の低い数値にしなければいけない。その他のことは、韓国とドイツを参考にすれば良い、と。これが、ドイツへのメッセージです。 そして、英語圏の国々、アメリカやイギリスに向けてへ、です。 ドイツがどうやって克服してきたのか、ということを知りたい、そこから学びたい、という国は大変多いのです。 ここには、2つあるでしょう。早い段階で確保されていた広範囲における分析検査体制。そして、政治、そして国民の科学への信頼です。 今、ここで諦めるわけにはいかないのです。 これが、私が続ける理由です。

今日はこの辺りにしたいと思います。お時間をいただきありがとうございました。またよろしくお願いいたします。


ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/




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