ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(20) 2020/3/24(和訳)
話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 アンニャ・マルティーニ
2020/3/24
—————————————————
遂に、イギリスも、です。 ジョンソン英首相が昨晩、テレビを通して3週間の外出制限命令を発表しました。 フランスは、外出制限を更に厳しくし、オランダも6月まで集会禁止を延長しました。 イタリアに続き、スペインでも医療が崩壊しようとしています。 これらが昨日までのニュースです。 今日も、ベルリンシャリテのウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン先生にお話しを伺います。 聞き手はアンニャ・マルティーニです。
今日は、少し目を周りの国々に向けようと思います。 まずは、英国です。はじめは、厳しい対策を避け、緩和策を持って新型コロナウィルスの拡大を抑制する方針でしたが、それを方向転換しました。 今から3週間、自宅待機が余儀なくされています。 許可されているのは、買い物と通院、それと、出勤のみです。 これは、正しい決断だったのでしょうか。
これは、他の国と同じように、政治的判断、です。 そして、この政治的判断は、今、何もせずに無駄にした時間は取り戻せない、という決断ですから、正しいでしょう。 もし、後になって、、、やはり2週間程はやく決断してしまった、という結果が出るのであれば、それはその時に、修正していけばいい話です。 対策方針の修正はデータの分析と共に定期的に行われなければいけなく、改善されていくべきです。 そうする事よって対策の細部も具体化されますし、随時の判断の目安になります。 そのようにドイツでもしています。 ドイツをはじめ、このような(外出制限)対策がとられたヨーロッパ諸国の目的は、兎に角時間を無駄にしない、ということであって、このように政治も敏速に決断出来ている事は評価できるでしょう。 私のような学者が、科学的な根拠を持ってしても、外出禁止、などという厳しい対策は打ち出せませんから。 しかも、科学的根拠は、、、いまのところありませんし。 イギリスでは、シュミレートモデルを使って、学者チームがかなり積極的に政府に助言をおこなっていますが、そこでも学者間で意見の対立もあったはずです。 はじめに、イギリス政府が打ち出していた緩和策も、このシュミレートモデルを基にしていたはずで、巷で言われているのような、まずは国民を感染させて集団免疫をつけていこう、というような対策だったとは到底考えられません。 拡大を阻止せずに集団免疫をつくろう、という対策が学者チームの計画だったはずがないと考えるからです。 そうではなくて、私が行間を読む限り、、、イギリスが危惧していた点は、シュミレートモデルの分析から、まだ(対策を打つには)早すぎるのではないか、というところだったと思うのです。 効果のある時間の投資が出来ないのではないか、と。 3週間ロックダウンさせて、結局、何も変わらなかったじゃないか、と、対策の解除をした途端に、感染が爆発する。 そのような、間違った判断と、効果のない時間の投資を避けたかったのではないかと思います。 しかし、今となっては、イギリスの政治家も学者も、感染の真の勢いを実感し、他の国と同様に、まずは何が何でもブレーキをかけなければいけない、と理解したのでしょう。 厳しい対策の長期間の実行は困難ですし、 細部の修正はそれからでも間に合いますから。
急ブレーキをかけたのは、他の国も同じで、死者数が220人を超えたスペインも厳しい外出禁止令を出しています。 イタリアは隔離開始から3週間目を迎えましたが、死者数の増えていない事で少し安堵してもよいでしょうか。 このような数から、何が読み取れますか。 信憑性はどうでしょうか。
イタリアの数値で、(データとして)使う事が出来ないのは、、、総感染者数です。 検査体制が整っていないからだと思いますが。 しかし、死者数はでています。 平均的に、発病してから、、、死に至るまで3週間かかります。 いや、正確に言うと、感染してから、、ですね。 そこから、 3週間かかりますので、、、完全隔離が始まったのが3週間前ですから、その成果が今みえてきた、ということです。 このように、残念ながら、状況の把握には3週間かかるのです。 それをそれよりもはやく判断するには、徹底したデータ収集が必要です。 ドイツに戻りましょう。 ヴィーラー氏(ロベルト・コッホ感染研)が、昨日、はじめて、感染者数が前日までよりも増えなかった、と発表しました。 ドイツは発見がはやかったのと、検査体制が整っていたこともあって、かなり現実的な感染者数の把握ができているでしょう。 その正確さは、(感染者数に対しての)低い死亡率にも現れていると思いますが、そのような体制が整っているからこそ、社会的距離対策などの効果がはっきりと数としてみえてくるのはないかと思います。 死亡者数ではなくて、感染者数にそれが反映はされるはずなのです。 平均的な潜伏期間は5日程です。という事は、対策の効果は、潜伏期間の5日に数日プラスした期間内に数としてでる。 潜伏期間後に発症して診断され、感染者にカウントされるまでに、、、もう数日かかるかもしれませんが、、、大体この約10日以内に、新しい感染者数が減少するかどうか。 これは、勿論、現実的な感染者数の把握が出来ていることが前提ですが、私はドイツではその把握が出来ている、と理解していますし、ヴィーラー氏と同じように、近日中に良い知らせが発表される事に期待します。 とはいっても、この状態が少なくとも数日間持続しなければ、対策の効果である、とは言えませんのでもう少し待つしかありませんが。
この対策については、 州の足並みがそろわなかったり、対応が遅い、など、かなりの批判も上がっていましたが、効果が出てきてる、とみても良いのですね。
そう思いますし、そう願います。
もう少し、(世界を)みてみましょう。 見本となる国は、台湾や韓国ですが、このような国々から何か学べる事はありますか。
これらの国では、、、莫大な人員配置を持って、ケース追跡が行われています。 一人一人のコンタクトなどを、、、
携帯情報なども、ですね
そうです、GPSなどの位置確認システム、、既にプライバシー問題になるレベルですので、ドイツでは大問題になるでしょうが、、、そのような追跡を、かなりの人員を導入して行っているのです。 追跡チームが発足されて、感染者の接触をしらべ、どこで誰が誰と接触したか、そして、感染者は隔離されて、監視されます。 このような方法は、ドイツではプライバシーの点で不可能でしょう。 ですので、、、、ここから何かを学ぶことが出来るか、、、、と言われると、、、厳しいですね。 あとは、、、気をつけなければいけない点は、、、長い間、韓国が封じ込めに成功しているような印象を与えていましたが、、はじめの感染の発端が、一箇所の大きなイベントだった、という事を忘れてはなりません。 新興宗教の集会で集団感染がおきて、1000人くらいの規模での、、、何がどうおこったのか詳しい事は知りませんが、その1件の感染源だったので、その追跡をする事は容易でした。 出席者名簿もありましたし、誰が参加していたかも明確です。 しかし、もうこのケースは終息しました。 これが、韓国の感染カーブを一時的に下げた要因です。 しかし、今、韓国からの報告では、別々な感染があらゆるところで発生していて、、、勿論、中国に近いこともあって、そのような、小さな感染が全国各地で広がっている状態なので、これからまた感染者は増えるであろうと思われます。 今までの、一点に集中したものではなく、広範囲での感染ですので、、これは韓国でもすべてを調査するのは難しいでしょう。 それでも、韓国の感染経路追跡の為の調査員確保は莫大で、そのような事はドイツではできません。
人員確保の問題は、、、医療分野でもおこっています。 多くの医療機関が、防染服、防染対策、なども必要だが、、医療従事者の事も考えて欲しい、と悲鳴をあげています。 検査のサンプルの取り方のビデオでの指導や、、もう少し、過激な方法だと、若い医療スタッフをコントロール感染させて免疫をつくり、スタッフの確保に活かす、という案もでているようです。 そのようなSOSの声が聞こえますが、どのようにお考えでしょうか。
私のところに届くなかにも、、、医師からのメールが多数あります。 防染対策、マスクなどについては、何度もお話ししていますが、、、ヨーロッパ全体で不足している状態です。 1月に大量のマスクを援助として中国に送りましたが、今、こちらでも不足しています。 そういう背景もあって、一般人が公共の場でマスクをするのであれば、手作りを、という発案がでているのです。 診療所は勿論のこと、病院でも在庫が減っています。 もう在庫がない、という病院もありますが、全ての病院がその状態ではありませんし、在庫管理とも関係があるでしょう。 ドイツの保健省が早い段階で手を打ちましたので、もう少しで状況は改善されるとは思います。
さて、質問には、違う事も含まれていました。 医療スタッフの限界と過労、そして、勿論、スタッフの感染リスク、もし、自宅隔離になったらスタッフの確保はどうするのか、、、、など、、、そのような不安から、スタッフをコントロール感染させたらどうか。 若い人だったら、軽症で済むだろう。 そのような事を、考えるのかもしれませんが、、、、これは、ありえません。 わざと感染させる、、なんど。 若いから、大丈夫、などという保証はどこにもないですし、若くてもリスクがある人は沢山います。 しかも、最近メディアでも報道されていますが、とても健康な人達、スポーツ選手とか、、、普通なら、スポーツ選手は、全く問題なく完治するように思うでしょうが、、、そのような人たちが、集中治療をうけるまで重症化してしまっている。 死亡ケースすらあります。 私達は、どんなことがあっても、死亡するような状態を挑発してはならないのです。 そこにどんな理由があったとしても。 道徳的に考えても、です。 そのような事を考える際には、一回ではなく、二回、三回、よく考えて欲しい。 コントロールされていようがいまいが、感染によっておこるリスクについて。 今、膨大なエネルギーをワクチンの開発に注いでいる反面で、国民の一部を強制的に感染させる、という意味をもう一度考えてもらいたい。 その人たちの権利はどこにいったのですか。 若い集団を感染させる際にその人たちに聞くのでしょうか。 ちょっと、感染してみない? と。 そんなリスキーな事は出来ません。 そんな簡単なことではありません。 様々な対策で、感染速度を減速する事に全力を傾けている時に、一部の人間が、感染を率先し加速させるようなことをしたら、、、、、、 全てが水の泡になり、医療は崩壊します。
それよりも、別の方法を考えることにしましょう。 対策の方向性の調整です。 若い人達を感染させる、のではなくて、ハイリスク者の保護、高齢者と、若い世代ののリスク患者の保護です。 来週から、公共保健機関が、さらなる対策を打ち出すことになっています。 それと同時に、他の対策を、、、、そうですね、緩める、というか、改善する。 社会的にも経済的にもまた通常に動くように、対策の調整をする事が必要です。 どことどこのネジを締めるか、、、、そのネジのひとつが、学校です。 学校全体ではなくても、一学年だけ再開する、とか。 そのような事は考えれなければいけない事ですが、、、集団を感染させる、、、など、もってのほかです。
小さな病院や診療所の為に、、、危機対策班のようなチームをつくって、移動ラボを派遣したり、防染対策、備品管理、オーガナイズ、ストレス対処法、、、などを、国境なき医師団の協力などを得て、全国の医療従事者にサポートをする。 セミナー、防染服の着用の仕方、検査の仕方、、、など、の指導をする、このような事は考えられますか?
そうですね、、、、勿論、そのような事は考えられると思いますが、、、私の専門以外の事ですし、学術的な分野ではないので、、、 でも、そのようなチームのサポートは想像できます。 その他に、考えられることは、、、これは学術的な分野のサポートですが、近々、抗原テストが販売されます。 これによって、診断の負担が軽くなるでしょう。 そして、これは、考えられる、、、というより、はっきりわかっていることですが、、、抗体テストも広範囲で使えるようになりますので、それを使って、誰がもう既に感染して免疫ができているか、という検査もスムーズにできるようになります。 それによって、多くの人が、免疫持っている、もしくは、感染しにくい状態にあることが確認できます。
また、ドイツのデータ状況、に戻りますが、、、、この数は、モデル計算によってだされています。 何がどのようにどれだけになるのか、という予測です。 今後は何が必要になっていきますか。 学術的な研究結果でしょうか。 更なるデータの収集でしょうか。 何が、次のステップでしょうか。
昨日の発表でも指摘されていましたが、もうすでに、現在の段階で、予測されていた感染増加率よりも、下回る感染者数がカウントされています。 この誤差はとても良い兆しです。 今後もう少し様子をみて、この数値の差を基に、新しくモデル計算をしていく事になると思います。 数学者とシュミレートチームが、このデータを使って数値を出していきます。
どうして、そのような数値が必要なのでしょうか。 今後、いままでのように沢山の検査をしなくなっても、その数値は計算できるものなのでしょうか。
今現在の検査数と感染者数は、安定した基盤として使えると思います。 その基盤を基に、これからそこ変化していくデータを加えてきます。 2、3週間の時差で死者数は今後も出るでしょう。 もう一度、思い出して頂きたいのは、現在実践されている対策を持ってしても、、死者はでるであろう、ということ。 この数も考慮しての、重症者の把握は、医療機関のキャパを見極めるにも大変重要なポイントです。
このような、感染病のシュミレートモデルは、現状把握だけではなく、いつ、医療の限界が来るのか、それを予測する為にもあります。 その為には、また別なデータ、病床数や、呼吸器の数、などが必要です。 これから、、、、学術的な答えが必要になるでしょう。 今、どの辺りにいるのか。 どこを修正する必要があるのか。 対策はこのままでいいのか。 どこか緩めても大丈夫なところあるか。 これは、純粋な学術的な視点だけで判断できるものではなくて、対策が社会的、経済的なダメージをもたらすものだという理解は学者もしています。 この双方バランスを、、うまくとっていかなければいけないのです。
使える学術的な数値は、、でますか
もう数字は出ています。 公表されている数字をみると、予測とは違う動きをしていますから、今後また新しい数値がでるでしょう。 しかし、変化した数値を使ったシュミレート計算ができるようになるには、、もう少し待たなければいけません。
2週間、3週間、、、、2ヶ月、くらいでしょうか
イースター辺りには、でるのではないでしょうか。
データベースのテーマでもうひとつ、これは、香港の論文ですが、、、いつから、感染力があるのか。 どのようなないようなのでしょうか。
この論文は、プレプリントサーバで発表されたものですが、、、、通常であれば、論文原稿の査読には数週間、数ヶ月かかり、査読されても出版社から訂正の依頼が来たり、と、出版までに何ヶ月もかかってしまうものなのですが、今の(パンデミック)状況では、そんな時間はないので、通常の査読をせずに、学術論文は書かれたままの状態でプレプリントサーバに発表される事になっています。 それを定期的に目を通しますが、何せ査読審査をされていない内容なので、玉石混交です。 いくつかの原稿は、査読検査を通らない内容ですが、自由時間をつかって、これらのなかから、査読審査を通るレベルのものだけを取り出しています。 その内容を、この場でも紹介したりしていますが、、、、 今回の論文も、有名な香港のシュミレートチームの研究内容で、、、2つのことを平行して調べてた内容です。 この感染病では、いつの段階で、伝染し始まるのか。 症状が出始める前なのか、症状が出始めた最中なのか、症状が出てからなのか。 これは、とても重要なことで、昔のSarsウィルスをうまく抑える事ができたのは、症状が出てしばらく経ってから感染力ができたからです。
わかりやすかった、という事ですね
そうです。 私が数週間前にプレプリントとして発表した論文のなかにも書いてありますが、、、因みに、これはま未だに正式には学術雑誌で発表されていません。どの位(発表までに)時間がかかるか、おわかりだと思います、、、ここでも、ウィルスが喉でかなり初期の段階で増幅していることが確認されています。 本当の初期段階、発症1日目、2日目の段階でのウィルス量がピークで、それから毎日減少していきました。 これと同じ現象が香港のチームが、広東省、香港の近くの街ですが、94名の患者を調査した際にでていて、勿論、向こうのほうが遥かに調査数が多いですが、、、そこでも、ウィルス量が症状発現1日目から減少していったので、ピークはその前にあるはずだ、という見方をしているのです。
大変興味深いのは、誰が誰に感染させたか、というのが明確になっているケース77件で、相手が感染するまでに何日かかったか。 第一感染者側の発症時と、感染させられた第二次感染者側の発症時の差、 これを、serial interval(症状発現時のずれ) と言いますが、それを調査したのです。 それは、5,2日から5,8日、と計算されています。 それを、その前に調査した潜伏期間の平均値、5,2日、と比較すると、、 興味深いことに、症状発現時のずれと、潜伏期間がほとんど一致するのです。 この意味は、平均的な感染者が、感染してから症状がでるのを待っている期間中に相手に感染させている。これは、周りへの感染は症状発現時よりも早い段階ではじまっている、と言えるのです。 平均な感染者は、症状発現時に感染力持ち、そして、一部の感染者は症状が出て少し経ってから、そして、残念ながらその他は症状が出る前に感染力がある、ということですので、、、これを、予測的に合わせて割ると、、、、平均値は、症状がでる半日前に感染力がある、ということになりますが、これも、感染学的に計算しなおして、実際の観測データなどとあわせてみると、症状が出る2日〜3日前には感染力が十分な量のウィルスが増幅されているだろう、という事になります。 Area under the curve(ROC曲線下面積) でいうと、44% 、 感染ケースの44%が、症状がまだ出ていない状態でおこっているだろう、という結論です。
ということは、社会距離対策は、正しい防止策である、ということですね。
そうです。 そして、もし、普通に生活していたならば、、、症状が出始めてからすぐにをしたとしても、、、もうすでに誰かに感染した可能性は高い、ということなのです。 通常の状態では、感染を防ぐことはできないわけですから、社会的距離対策なくして、症状が出ている感染者のみを隔離していく方法のみではこの感染は食い止められません。
今日もどうもありがとうございました。 また明日よろしくお願いいたします。
ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン
https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/