2023.10.5 黒の舟唄

小学生の子どもたちが寝て、静かなリビングで本を読んでいた。長女はソファに座り、自分のスマホでYouTubeを見ている。時折りスマホから彼女のお気に入りのVtuberの声と彼女の笑い声が聞こえる。お風呂からは長男の鼻唄が聞こえてきて、本を読む手が止まった。中学生になり声が低くなってきた長男の歌声はどことなく父の低い声を思い出させた。

男と女の間には深くて暗い川がある
誰も渡れぬ川なれどエンヤコラ今夜も舟を出す
Row&Row Row&Row 振り返るなRowRow

小さな頃、お風呂で父がよく歌っていた。歌の名前も知らず、歌詞の内容もわからいまま一緒に歌ったことを思い出す。父は頭に濡れたタオルを乗せて、お風呂で気持ちよさそうに歌う父はご機嫌で、わたしは一緒にお風呂に入る度に歌ってくれとせがんだ。
いつだったかラジオからこの曲が流れてきてびっくりしたことがある。桑田佳祐がカバーしていた<黒の舟唄>という曲だとはじめて知った。

長男の鼻唄が止んだ。風呂から出てきたようだ。
最近は父が歌うのを見たことがないのは母が嫌がるのかもしれない。男と女の間に流れる深くて暗い川を父は今も感じているような気がした。

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