映画『生きててよかった』鑑賞日記
予告編を見て気になっていた映画『生きててよかった』を鑑賞してきましたので感想を。
感想を語る上で、結末はもちろん言いませんが多少のネタバレがありますのでご容赦下さい🙏
あらすじ
駆け引きを知らずがむしゃらに打ち込むそのスタイルから人気を博したプロボクサーの楠木創太は終にドクターストップがかかり引退を余儀なくされる。
その後職を斡旋してもらい働くも上手くいかず、社会に上手く溶け込めず世の厳しさ、何も出来ないことを痛感すると同時に創太は「自分にはボクシングしかないのだ」という思いを抱き燻る。
そうしている内に創太の前にファンだと名乗る一人の男が現れ賭博が行われている違法な地下闘技場で闘わないか、と誘う……
ボクシングしか知らない創太は強者と拳を重ね、血に塗れそこで何を見出すのか。
予告編を見たとき感じたのは『ロッキー』とか『レスラー』とかあの類かと思い、実際あの手の映画は好きなのであらすじとテーマを知ったとき「これはもしや和製レスラーになるやも!?しかも公開されるのはマニアックな映画館ばかり。
これはもしや映画ファンの間で伝説と語り継がれるような作品になるかもしれない」と大きな期待を寄せていたのですが正直なことを言うとうーむちょっといまいちだなというのが素直な感想。
まず話が進み回想シーンで明らかになったのが創太と幸子そして友達の健児が幼馴染だったということ。「いや幼馴染設定にするには(木幡さん申し訳ありません)創太あまりにおっさんすぎやしない? 幸子さん若すぎない?」というもの。
鍛えに鍛え鋼と化した木幡さんの肉体は中年男性のそれではないけれど、顔つきは普通のイケメンのおじさんなので、何というかそこでリアリティが感じられなかったのは残念なところ。お相手となるのは貫禄のある年を重ねた女優さんをキャスティングするべきではと。
また創太は無敗のチャンピオンではなく(記憶が確かならボクサー一本の方はプロになってもチャンピオンの座につくなどしなければ経済的にかなり苦しいと聞いたことはあります)かといってタレントやインフルエンサー等の類でもなく、そして幸子は幸子で平凡なパートの主婦といった感じなのに家が快適で広く綺麗過ぎるのです。明らかに豊かな暮らしぶりなのが分かりそこでもまたリアリティのなさを感じてしまう。
コロナ禍から始まる昨今の不景気を反映させたり、トタンのボロ家に住まわせろ、なんてことは言わないけれど、もう少し部屋からただよう悲壮さ、貧しさというものを演出して欲しかったのも確か。そこから生まれる必死さ、貧しい中一歩一歩前に進んでいく様はそれだけでもドラマチックなものになり、登場人物はより人間らしくなり、観客は共感できるというもの。
そして創太は実社会においてもっとダメージを負って欲しかった。あの描写ではあまりに足りなさすぎるし、ボクシングしか知らない創太の真っ直ぐ過ぎるが故の愚鈍さも描けていない。
もっとボロボロになるからこそボクシングへの執着=生への執着、は増幅し観客は共感出来る。「創太、そうだよなどんなにボロボロでもあんたにはボクシングしかねえよな」と。
話が進むにつれて栁さん演じる地下闘技場の主催者・新堂から闘いの誘いを受けるがそこで創太はいきなり木っ端な相手にぼろ負けする始末。
ハンデを背負っていたとはいえ元プロ、そこはやはり”圧勝”とはいかずも勝って欲しかった。そうすれば「俺は勝てた、けどこれで本当にいいのか? 俺が求めていたのはこんな反社の連中に乗せられることだったのか?」という葛藤が生まれシンプルなシナリオに新たな構造が組み込まれ複雑かつ味わい深いものになったろうにとも思ったもの。
またシナリオを書く上で制約があったか、あるいは撮影上の都合かは判断がつかないがあまりに感情がぶつりぶつりと途切れており、シーンを単なる”出来事”で繋げてしまっているため個々の魅力的な登場人物の感情の流れが整っておらず、とっ散らかっているなとも感じてしまった。特に創太の友人の健児の感情の流れは少し不明な点が多々見受けられたのでシナリオをもっともっともっと練り込んで欲しかった。
健児というキャラクターは創太との対比のように最初は思われ、そこでぶつかりあい葛藤が生まれ強烈なドラマが生まれるやもと期待したがそういうわけでもなくどこか消化不良。
いっそのこと健児のキャラ設定は、「俳優以外で成功を掴み取ったが、それは全くもって不本意なもので家族のためにもと自分に言い聞かせて我慢して働く。でも本当は俳優をやりたくて仕方がない!その執着、渇望が、フラフラになり死ぬことさえも厭わず勝利を求める創太を見て蘇り再び俳優の道へと戻り這い上がっていく男」というのでもよかったかもしれない。
こういったシンプルかつ強烈なサクセスストーリーは普遍的であり、老若男女問わず燃えるもの。だからこそシナリオを練れば練るほど、深みを増したのになと。
ただ大筋としてはある種のサクセスストーリーかつシンプルなものなので見やすく、また格闘シーンはど素人である自分にも分かるくらい壮絶なもので並大抵の努力では撮れないリアルかつ素晴らしいものでした。
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