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なぜ事業計画は下振れするのか

てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。

会計上の見積りには、事業計画が登場するものがいろいろあります。
繰延税金資産の回収可能性、固定資産の減損、非上場株式の評価、買収時の取得原価の配分。
また、会計上の見積りではないですが、継続企業の前提にも出てきます。

事業計画の上振れと下振れ

企業買収の成功確率は3割前後と言われます。
何をもって「成功」とするかは難しいですが、半分以上は当初期待した結果を達成できていない、と言えます。
買収以外でも、事業計画が達成できないことは珍しくない、どころか、達成できない方が多いようです。

計画は予想なので、実績がぴったり一致しないことは当然。
しかし、世の中の事業計画が適切に立案されていれば、実績が上回る(上振れする)ことも下回る(下振れする)ことも同じくらいあって、平均すると事業計画近くになることが多いはず。
でも、実態はそうではありません。

なぜ、事業計画は下振れするのでしょうか? 要因はいろいろ考えられますが、次の二つにまとめられます。

  • 計画時に想定できないことが発生した

  • 事業計画そのものに問題がある

計画時に想定できないことが発生した

想定できないことは計画に織り込みようがありません。しかし、事業計画に大きく影響するようなことは、そんなに起こっているのでしょうか?
また、下振れする要因になることばかりなのでしょうか?
日経新聞による2022年の重大ニュースを手がかりに考えてみましょう。

① 物価高・利上げ、世界経済に影 コロナ後の回復腰折れ
② 習近平氏3期目、「1極」体制が完成 台湾統一「公約」に
③ 円相場、32年ぶり150円台 日本経済の弱さ反映か
④ 米中間選挙、上下院ねじれ 縛られたバイデン政権
⑤ SNS、公共と利に揺れる 米Twitterをマスク氏が買収
⑥ 大谷翔平・高木美帆・藤井聡太 「全能」に挑んだ者たち
「プーチンの戦争」泥沼に 核の脅し、世界秩序動揺
⑧ 岸田首相の政権運営、崩れた力学 安倍元首相撃たれ死亡

「激動の2022年、重大ニュースで振り返る」より見出しを抽出
日経電子版、2022年12月31日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL285790Y2A221C2000000/
※太字と①~⑧の番号はてりたまが追加

同じニュースでも、企業によってプラスの影響が出る場合と、マイナスの場合があります。
プラスマイナスをネットして、日本経済に総じてプラスの影響をもたらすものと、マイナスの影響をもたらすものに勝手に分類してみると…

ネットでプラスの影響をもたらすもの

⑤ SNS、公共と利に揺れる 米Twitterをマスク氏が買収
⑥ 大谷翔平・高木美帆・藤井聡太 「全能」に挑んだ者たち

大谷選手らの活躍は、イベントやグッズが売れたり、みんなのモチベーションが上がったりする若干の効果はありますが、マイナスはなさそうです。
Twitterはこじつけで、Twitter社を退職したエンジニアが各社に散って活躍すれば、プラスかもしれない、という判断。まあ、ネットはゼロに近いでしょう。

それではマイナスの影響をもたらすものは…

① 物価高・利上げ、世界経済に影 コロナ後の回復腰折れ
② 習近平氏3期目、「1極」体制が完成 台湾統一「公約」に
③ 円相場、32年ぶり150円台 日本経済の弱さ反映か
④ 米中間選挙、上下院ねじれ 縛られたバイデン政権
「プーチンの戦争」泥沼に 核の脅し、世界秩序動揺
⑧ 岸田首相の政権運営、崩れた力学 安倍元首相撃たれ死亡

残り全部。
もちろん業界によってはプラスに働きます。戦争に端を発した原油高により資源関連産業が好調だったり、戦闘地域への武器供給や防衛力強化のために軍需産業が活況を呈しています。
また、円安は国内で製造している輸出企業には追い風です。
しかし日本に資源はなく、軍需産業も限定的。輸出よりも内需関連企業が実は多いことを考えると、全体としてはマイナスと言えそうです。

もっとも、ニュースはネガティブなものが多くなりがちなところは、割り引いて考えないといけません。
ただ、私自身の記憶をさかのぼっても、想定外にもうかってしかたなかった、ということは限られた業界で短期間にしかありません。

話を事業計画に戻すと、想定外のことはマイナスの影響をもたらすことが多く、下振れの要因になるようです。

事業計画そのものに問題がある

あとはテンポよくいきましょう。

事業計画に「問題がある」とはゆゆしき事態ですが、そもそも事業計画を作るには、情報も労力も、企画力も調整力も必要で、しかもさまざまな関係者の思惑が働くため、きわめて難易度の高い仕事です。

背伸びしすぎた事業計画を作っている

事業計画を作る目的はいろいろありますが、一つには社内にはっぱをかけて、潜在的な能力を最大限引き出し、今の延長ではたどりつけない高みを目指そう、という意図も入っています。
がんばれば手が届きそうな、ぎりぎりのところに設定するのがよい、などと言われますが、このさじかげんはなかなか難しい。
意気込んで高い目標を設定してしまうと、たどり着けずに下振れすることになります。

実態よりもよく見せたい、という意図

「夏休みの宿題、ちゃんとやってるの?」と親に聞かれて「うるさいな、やってるよ!」と答える。始業式が近づいて絶対間に合わないと分かっていても、無理だとは言いたくない。前日からがんばるが、午前3時になって降参。

皆さんは宿題はちゃんとやっていたかもしれませんが、うまくいっていないことは確定する直前まで認めたくないのが人情。
事業計画でも、負けを認めたくない、数少ない可能性にすがりたい、と思うのが普通です。
そうすると、プラスの要因は大きく取り込み、マイナスの要因は見ないようにして、実現可能性の低い計画が仕上がってしまいます。

そもそもまじめに作っていない

事業計画の策定は一大イベントです。社内のあらゆる部門を巻き込んで、何ヶ月もかけて作ります。

もし社内で事業計画のニーズがなく、投資家など社外に向けた説明でも必要ないのに、会計上の要請だけで作らないといけなくなったらどうなるでしょうか?
本来、会計や決算は全社的に重要なはずですが、これを「経理マター」と認識している多くの会社では、経理部門のためにそんなことやってられるか、ということになります。
経理の皆さんは、仕方なく、他部門にできるだけ迷惑をかけないように、手元にある情報で事業計画を作ります。

当の事業部門は、経理が作った事業計画に何の責任もありません。事業計画の存在を知らないことすらあって、平気で下振れします。

おわりに

事業計画の見込みが外れる理由として、次の二つを説明してきました。

  • 計画時に想定できないことが発生した

  • 事業計画そのものに問題がある

不幸なことに、現実にはどちらも下振れする方に働きます。

いろいろ難しいことは分かったところで、では会社としてどうすればよいか?
長くなったので、別の回に譲ります。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのコメントや、Twitter(@teritamadozo)などでご意見をいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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