「よい監査調書」とは?―監査調書 成熟度モデル試案【監査ガチ勢向け】
「よい調書」の条件を5段階で整理してみました。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。
監査調書は「よい」か「よくない」かの二つに分けられるものではなく、「完璧」から「まったくダメ」の間に無数の段階があると思います。
それを5段階に整理し、運用評価手続や実証手続の調書を念頭に置いて成熟度モデルっぽく作りました。
【成熟度1】自称「完了している」調書
作成者本人が完了していると考えている調書。
まだまだ問題はあっても、未完了からは格段の進歩です。
成熟度1のチェックポイントは一つだけ。
作成者本人は、完了していると考えているか
監査現場の進捗を管理したり、人の調書をレビューする立場になると、「調書を完了させてくれること」の尊さを痛感します。
【成熟度2】形式面で問題のない調書
予備知識のない人が広い心でざっと読んだときに、特に引っかかるところのない調書です。
次のようなチェックポイントをクリアしていれば、成熟度2は合格。
実施した手続は一応完了しているか(チェックマークやコメントの漏れがないか)
調書の目的と結論が記載されているか
誤字、脱字、不要な情報がないか
文章が途中で終わっているようなことはなく、日本語として成立しているか
数値のリファレンスは適切に行われているか
【成熟度3】計画された手続が完了している調書
成熟度2で、実施しようとした手続は完了しているのですが、そもそも監査計画で想定されている手続や実施方法ではないかもしれません。
成熟度3のチェックポイントは、次のようになります。
計画された手続が対象としている勘定科目(及びその内訳)、アサーションがカバーされているか
計画された手続実施上の重要性が正しく適用されているか
計画されたリスクの大きさに整合した手続が実施されているか
サンプリングや分析的実証手続は、監基報や監査マニュアルに基づいて実施されているか
企業作成情報の正確性、網羅性を確かめる手続が実施されているか
【成熟度4 】論点が網羅され、かつ十分な深度で検討されている調書
成熟度3は、書いてあることは大丈夫、というレベル。
書いていないことは大丈夫か? と問いかけることが成熟度4では求められます。
検討するべき論点に漏れがないか
すべての重要な事実が考慮されているか
すべての重要な基準(会計基準、監査の基準)が検討されているか
すべての重要な企業作成情報について正確性、網羅性が確かめられているか
また、手続や調書の記述の深度についてもチェックポイントがあります。
この調書で対応するべきリスクに的確に対応できているか
結論に至る論理構成に矛盾や飛躍はないか
重要な事実や監査判断は、十分かつ適切な監査証拠によりサポートされているか
リスクへの対応も論理構成も、成熟度3である程度は対応されているはず。
しかし、より厳密な検討が必要となります。
【成熟度5】あらゆる批判に耐える調書
上席者のレビュー、審査、検査、ひょっとして裁判。
監査調書は何度も批判の目にさらされるものです。
成熟度5のレベルで合格と言える調書のチェックポイントは一つだけ。
いかなる批判を受けても、監査の基準に準拠していると雄弁に主張できているか
結果で評価されるのが真のプロフェッショナル。
「○○はやったから、いいでしょ?」でとおる世界ではありません。
おわりに
すべての調書が成熟度5に至る必要はなく、調書の重要度によってメリハリをつけてよいと思います。
ただし、末端の調書であっても、成熟度3は達成している必要があります。
すべての調書作成者が高い成熟度を目指し、調書をレビューする人がさらに高いレベルに引き上げることを目指す、という全員の努力で、監査全体の水準を高くすることができます。
そのための参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。
てりたま