ちいさなものがたり
チイサナモノ達はいつも家族と共に仲良く暮らしていた。
それぞれがそれぞれで在るために行動する、それがシンプルなルール。口伝でもなんでもない、誰もが源から知っていること。
食べ物もたくさんあった。
生きていく為の恵みはそこかしこにあったし、寝床は温かかった。いつもとなりに家族がいて、ぬくもりを感じていたからだ。
チイサナモノ達にとって十分すぎる環境があった。 これ以上欲しいものなんてなかった。 欲する以上の恵みが元々あったから。
だけど、時々チイサナモノ達の中からいなくなるモノがいることを、いくつかのチイサナモノ達は気づいていた。
はじめは誰もそのことを口にださなかった。
それでも、あまりに仲間のチイサナモノ達がいなくなるのでだんだんと、そして何かが弾けるように、悲しみや恐れがチイサナモノ達のあいだを駆け巡り始めた。もうこれ以上黙ってはいられないと、若いチイサナモノが叫んだ。
しかし長く生きているチイサナモノが、
それはどうしようもないことなのだと諭した。
この世にはオオキナモノ達というモノどもがいて、我々チイサナモノ達を時々、さらっていってしまうのだと。 そのようなおおきな存在に対して、あまりに非力な我々は立ち向かうことなどできないと。
一体そのオオキナモノとは何なんだと、若いチイサナモノが言った。
長く生きているモノがいうには、はるか昔、我々がまだモリというところで他のチイサナモノ達と共に暮らしていた時代、どこからか現れたモノだと。
オオキナモノ達は本当に恐ろしい存在で、気まぐれに大切ないのち達を貪っている。なにしろオオキナモノ達同士でも争い合っているくらいなのだから…。
若いチイサナモノは信じられないと、
この世界の真実に対してそうぽつりと呟いた。
只こうして、ひっそりと家族や仲間達と和やかに暮らしているだけだというのに。しかも同じモノ同士でいのちを奪い合っているだなんて。其れ程の理由が一体どこに存在しているのだろう。一体どうすれば…どうすれば……
若いチイサナモノは気がつくと走りだしていた。
真実を知った今、そうするしかなかった。そして、それまで決して行かなかったところへ向かっていた。光で満ちた世界へ。
そこはチイサナモノ達の世界で、行くことを禁じられていた場所だった。
ときおりチイサナモノ達が迷い込んでしまう場所。彼らは2度と帰ってくることはなかった。今までそこに何があるのかなんて、深く考えたことはなかった。けれど今なら思い至る。 そこにオオキナモノ達がいるのだと。
若いチイサナモノは歩みをはやめた。
仲間のことを想うと、今までで一番強くなったような気がした。
そして若いチイサナモノが光の向こうに見たものは……。
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---レストランで働いていた私は
毎日のように、洗い場で皿を洗っていた。
視界の片隅にうつる、
黒くて小さなカサカサした某生き物を眺めながら。