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伊勢型紙、伝統の行方
白子ってご存知だろうか、食べるやつじゃないよ。
“しろこ”と読む。
三重県鈴鹿市にある白子。
近鉄名古屋から1時間ほどで着くそこは、昔ながらの日本家屋があちこち見られる「伊勢型紙」の地。駅から出てそんな街並みを眺めながら少し歩いたところにあるテラコヤさんへお邪魔してきた。
伊勢型紙とは、友禅、ゆかた、小紋などの柄や文様を着物の生地を染めるのに用いる型紙のこと。千有余年の歴史を誇る伝統的工芸品だという。テラコヤさんは、そんな伊勢型紙を広く知ってもらうと共に、後継者育成を目的としてオープンされた修行型ゲストハウスである。
伊勢型紙は、先に述べたように着物など反物を染めるためのものであり、主に
突き彫り、引き彫り、道具彫り、錐彫り
の4つの技法で作られる。
伊勢型紙は50cm四方の地紙と呼ばれる紙に小刀を当て彫っていくのだが、この地紙がまず大したものなのだ。美濃和紙を縦横3枚重ねにし、柿渋を塗る。そして専用の室で燻す。柿渋スモークを何度か繰り返した後、3~5年程度寝かせる。紙の時点で既に果てしない。
伊勢型紙は着物やてぬぐいの染めに用いられるため、大柄から細かな柄など実に種類豊富で美しい。特に目を見張るのは細かな柄が彫られた型紙。
細かッ 超絶技巧ッ
反物にのせていく柄というのはリピートなので、この型紙を何度もずらしながら染め上げていく。もちろん人の手で。その時何が重要かと言うと、型紙の柄合わせ。1ミリでもずれたら反物として仕上がる際に大きくずれ込む。そのため柄の配置ミスは許されない。慎重に慎重を重ねて型紙が彫られたのち、また慎重に染め上げられて反物が完成する。果てしない。
伝統工芸とかそういう類のものは本当に道のりが長く、技と時間が詰まっている。まさに職人の成せる技。
そんな伊勢型紙は、着物需要の低下などで仕事が減り、高齢化が進む中でも、テラコヤさんのように新しいアプローチで伝統工芸を学べる環境だったり、ダブルワーク的に修行をする環境が出てきている。
白子駅から程近いところにある伊勢型紙資料館を覗くと、修行中の方が型紙を彫っていた。
伊勢型紙資料館、これまた風情ある日本家屋であった。その一室での様子。働きながら、休日や平日の空き時間にコツコツと腕を磨いているという修行5年目のこの方。
「美しいものを作り上げたい」
との言葉を静かな和室で呟かれ、とてもグッと来た。と同時に、美しさ、つまり、より精巧な柄を彫り上げるということに対しての疑問を感じた。職人技は極めて緻密で正確で美しい。然しながら、現代は技術革新のおかげでレーザーカッターなるものも現れている。きっとそのような機械も、さながら超絶技巧の型紙を彫ることはもちろん、そもそも型紙など作らずとも反物に緻密な柄をプリントすることだって可能であるだろう。
それなのに、伝統工芸である伊勢型紙が、伊勢型紙に関わる職人たちが、消えないでほしいと思う気持ちは一体何なのだろう。
お弟子を指導する伊勢型紙の職人さんは、
「いつかこんなものづくりも失くなってしまうだろう、それは仕方ないことだ。」
と仰っていた。それでもやはり、職人さんは指導を続けるだろうし、修行中の方たちもいつかは職人となるのだろう。
手を使い、時間を使うものづくりは今の時代にとっては古い方法だ。だがそれでも、手を使い、時間を使うのは何故か?という質問は野暮だと言いたい。
日本の伝統を失いたくないという想いだけで、言葉に出来ない理由を胸に、伝統を守り伝えていくことにはきっと必ず大きな意味があるのではないだろうか。