抱えていた秘密は確かにマイノリティだけど、それは本質ではない。寧ろ誰にでも起こり得る問題だ【荊棘の道は何処へ】
3年間我々が待ちわびたその瞬間は、絶望としか言いようがない結末だった
※この記事にはイベント「荊棘の道は何処へ」のネタバレを含みます。
10/11、12:00。界隈を震撼させたバナーイラストと共に、そのイベントはやってきた。
前回のまふゆバナーイベント「灯を手繰りよせて」のラストシーン、絵名が瑞希のクラスを覗きに行く……という不穏な幕切れから3ヶ月。
遂にこの時が訪れてしまったのか……
表情を見ただけで良くない結末を迎えたのは明白であり、どうストーリーが展開されるのか、怖さはありつつも気になって仕方なかった。
ざわつきが収まらないまま迎えたイベント開始日。
なんと瑞希の待機ボイスが変わっていたのである。
明らかにいつもより気合が入っている。
一体どれだけの覚悟を決めれば耐えられるのだろう……と不安になりつつも、結末を見届けるため私はストーリーを読み進めた。
以下は今回のストーリーを読んだ所感、考察、提言を乱雑に書き記した何かである。所々お見苦しい箇所があるかと思うがどうかご理解いただきたい。
本題の前に
この記事を読んでいる方は存じ上げていることだろうが、万が一知らない方がいてはいけないので、まずは今回取り上げる「25時、ナイトコードで。」(通称ニーゴ)というユニットについて説明……したいところだが、ぶっちゃけその辺は先駆者が丁寧に説明してくださっているので、詳しくは以下の記事をご覧いただきたい。
取りあえず、今回のイベントにおける前提知識として
・ニーゴには4人のメンバーが所属しており、それぞれが問題を抱えている
・その中でも、今回の主人公である「暁山瑞希」は、ニーゴにだけ明かしていない秘密を抱えているが、その秘密を打ち明けるかどうか悩み続けている
・それでも過去に1度伝えようとしたことがあったが、メンバーの1人
「東雲絵名」からの「瑞希が秘密を話してもいいと思えるまで待ち続ける」という言葉に甘えたまま、話さないという逃げの選択肢を取り続けている
これだけ抑えておけばとりあえず問題はないです。
本編
私自身の感想を述べる前に、ストーリーの流れを記しておきたいと思う。
もう1度言っておくがここからは真の意味でネタバレの宝庫なので、まだストーリーを読んでいないという方は是非自分の目で確かめてきてほしい。
文化祭を目前に控えた日、瑞希は自らの問題に向き合う。
絵名が文化祭に参加するかもしれないことを知った瑞希は、この機会に絵名に今まで告げられずにいた秘密を打ち明ける決意をする。
しかし、いざ話すためにメッセージを送るという行動をしようとしても、決心が揺らいでしまい中々送れずにいた。
そんな瑞希に声を掛けたのは、誰もいないセカイのMEIKOとKAITO、それから旧知の仲である神代類。
MEIKOは「どんな結末になったとしても見届ける」、KAITOは「自分自身を救う道を選ぶ必要がある」、類は「瑞希の心が守られることを願う」と三者三様ではあるものの、瑞希のことを気にかけているのは同じ。
それらの言葉に背中を押された瑞希は、文化祭前日、遂に後夜祭の時に話がしたいと絵名に伝えることができた。明日が今のニーゴのままでいられる最後の1日になるかもしれないという覚悟をして。
そうして迎えた文化祭当日。最後になるかもしれない時間を噛み締めるように、ニーゴ4人で出し物巡りをする。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、後夜祭の時間に。
瑞希は絵名を連れて、瑞希にとっての大切な場所ーーー屋上へ向かう。
だが、ここでトラブルが。
クラスメイトの怪我の対処のため、先に屋上へ行っててほしいと伝えて去ってしまった瑞希。残された絵名は1人、屋上で待っていると……
招かれざる客がやってきてしまった。
運の悪いことに絵名は目をつけられてしまい、話しかけられてしまう。
そしてーーー
「暁山瑞希は男である」と、遠回しに言いふらしてしまった
そして更に間が悪いことに……
瑞希はその瞬間を目撃してしまった。
絵名に秘密を打ち明けたい。
……その願いは、想像したくもない最悪の形で実現してしまったのである。
屋上から逃げた先で、瑞希は絵名に溢れ出る想いを吐露する。
それは絵名に対する呪詛の言葉や、秘密を暴露された男子への怒りではなく、謝罪。
自分が秘密を打ち明けたところでニーゴから拒絶されるとは思っておらず、寧ろ今まで通り接してくれると確信している。それでも、何事もなかったかのように話してくれるその「優しさ」が、瑞希にとってはどうしようもないほど苦痛であるのだと。
そう言い残して立ち去ってしまった瑞希に、何も言葉をかけてあげられなかった絵名はひとり、後悔の念に苛まれてしまうのだった。
自業自得だな……逃げて、逃げて、逃げ続けて……
いっそ誰かが話してくれって、思ってたんだから……
願い通りになったじゃないか。
あーあ。……消えたいな
所感
あまりにも救われなさすぎる。
正直のところ、「ボクのあしあと キミのゆくさき」で瑞希が秘密を話してもいいと思えるまで待ち続けると絵名と約束してから約3年間(ストーリー上では約1年間?)一切の進展がないまま、現状に甘んじるという停滞を続けていた時点で、遅かれ早かれこういう展開にはなるのではないかと予想はできたが……いざ実際に起こってしまうとやはり辛いものがある。
今回、秘密が暴かれる原因となった男子生徒の言動だが、このような行為はアウティングと呼ばれて世間的にはタブーとされているため、(本人的には軽率にちょっかいを掛けただけのつもりであろうが)許されるべき行動ではないのは確かである。
ただ一方で、彼はこのような弁明もしている。
そう、瑞希は別に隠しているわけではないのである。
クラスメイトには後々面倒にならないよう事前に説明しているし、学校で親しい杏や類も、瑞希が抱えている事情は把握している。
そもそも学校内では瑞希の秘密は度々噂になっているほど周知の事実として扱われており、長い付き合いかつ神高生の絵名が知らない……というのが寧ろ異端な状況なのである。
こんな結末を生んでしまった直接的な原因は男子生徒にあるのだろうが、
根本的には今までニーゴに対してだけ秘密をひた隠し、現状維持の関係を望んで伝えるという眼前の行動から逃げ続けた、他でもない瑞希に問題がある……というのが私の所感である。
(とはいえ彼の言動はあまりにもデリカシーに欠けていると思うが。初対面の女性に向かって「君も男だったりする?」はあまりにも失礼すぎる)
瑞希が抱えている、本質的な問題
ただし、瑞希に同情できないというわけではない。
身体的性別が男なのにも関わらず、女物を好んでいるがために身体の性別不一致に悩んでいる……という、所謂トランスジェンダーというマイノリティな問題では決して片づけることができないからである。
(瑞希のことをトランスジェンダー呼ばわりしていいのかはまた別問題である。本人の性自認がどちらであるかは明確に言及がなされていないため)
本人の口から言及された通りだが、瑞希が真に恐れていたのは、
秘密を明かすことによって少なからず関係が変わってしまうこと。
瑞希は勘が鋭く、他人が思っていることや感情を察知することが得意である。
だから本人が無意識のうちに配慮するような言動を取ってしまっても、瑞希にはそれが分かってしまう。
秘密を明かしたところで次の日も、またその次の日も、普段と同じように接してくれる。
そう、思わせてくれるのが分かってしまう。
その優しさを感じてしまうのが、どうしようもなく怖くて耐えられない。
皆さんもきっと、どこかで感じたことがあるのではないだろうか。
本当は伝えたいことがあるのに、伝えてしまった後の相手の変化が怖くて自分の中に押し留めている。
しかも1度伝えてしまったら最後、伝える前の時間には決して戻れない。
それでも現状を脱却するために勇気を出して伝えて、相手が仮にそれを受け入れてくれたとしても、微妙な変化があると気になってしまう。
自分が伝えたことによって相手にそうさせてしまっているのだと気づいて、こうなるなら伝えなければよかった、と自己嫌悪に陥ってしまう。
その結果、ギクシャクして関係がこじれてしまう。
人間関係を築く上で多くの人がぶち当たる壁なのではないかと、私は思う。少なくとも、私はそういう経験があるので、一概にも瑞希に全責任があると断言することはできないのである。
(これについては、また機会があったら記事にしてみようと思います)
カミングアウトされる側も……
瑞希が負った心の傷がどうしてもフィーチャーされがちだが、絵名もまた、どうしようもない傷を負ったひとりである。
瑞希が話してくれるその時まで待つと決心して、今まで1度たりとも言及することなく待ち続けて、やっとの思いで瑞希と話ができる機会を得て、どんなことを打ち明けられたとしても受け入れる気概を見せていたのに、
瑞希が本当に伝えたかったことが本人の口から明かされることはなく、完全な部外者から思いもよらぬ形で事実を知ってしまい、その場面をよりにもよって当の瑞希に見られてしまい、その後の瑞希の告白に対して何も言うことができず、瑞希に向き合うことすらできなかった。
あまりにも、心情を察するに余りある状況なのである。
事故があったとはいえ瑞希のカミングアウトを受け止めきれなかったこと、瑞希に対して何も声を掛けることができなかったこと……きっと、悔いても悔いきれない事だろう。
だから絵名は瑞希が去った後、ただひたすらに自分を責めた。
「私は、なんで……」
この後に続く言葉は一体何だったのだろうか。
なぜ、何も言い返せなかったのだろう。
なぜ、今まで気づけなかったのだろう。
なぜ、あんな顔をしてしまったのだろう。
私は、なぜ私なのだろう
そんな意味が、込められていたのではないだろうか。
今後の展望を予想
1度ヒビが入ってしまった傷は、完全に修復することはできない。
それこそ、新品に取り換えない限りは。
瑞希が望んでいた、このまま何も変わらずに関係が続いてほしいという願いは、この時点で永遠に果たされることはなくなった。
実際に、イベントストーリーの8話を読み終えると、瑞希は現実世界に現れず、誰もいないセカイの湖にひとり閉じ籠ってしまう。
手の込んでいることに……他の誰かが湖に現れた場合、瑞希は湖からも姿をくらましてしまう。
そんなことが起こっているとは知らず、文化祭の思い出に浸る奏とまふゆ。
セカイのミクとリンはあやとりの練習の約束をし、
MEIKOとKAITOも、いつも通り我関せずの態度で接している。
瑞希と絵名の間に起こった異変は、誰にも知られていないのである。
アフターライブも(時間が極端に短かったので察してはいたが)あっさり片づけられてしまい、未解決のまま問題は次回に持ち越しとなってしまった。
投げやりになってしまった瑞希が誰とも関わらずにセカイに引き籠る状況は、今後のことを考えると非常によろしくない。
なんせ、プロジェクトセカイ COLORFUL LIVE 4th - Unison -(通称セカライ)の開催が12月と迫っているのである。
そのため、現実的な都合を考えても11月までに一旦の収拾を図ることは容易に想像できる。
(ストーリー上の山場だったビビバスのRAD WEEKEND超えイベントが箱限になったことを考えると、瑞希問題に終止符が打たれるかもしれない次回ニーゴ箱イベントは限定になる可能性もありそう)
今まで瑞希の問題に対しては一貫して絵名が向き合っていたことから、次回のニーゴ箱イベントは絵名がバナーになることが予想されるが、
結局のところ、問題解決のためには瑞希自身が変わることが必須である。
絵名が何を言ったところで、優しさを感じてしまうのが嫌だと言っているうちは、どんな言葉も瑞希に届くことはないだろう。寧ろ、表立って行動を起こすことは瑞希に感づかれる可能性があり、状況がより悪化しかねない。
瑞希の考え方を変えるには、やはりセカイのバーチャルシンガーのサポートが必要だろう。
そもそもセカイに常時引き籠っている時点で、話ができる人が限られているので消去法的な選択肢ではあるのだが……
特に、初期から瑞希のことを気にかけていたMEIKOの重要性は高いように思う。1歩下がった所からずっと見守り続けてきたからこそ、瑞希の支えになれるのではないか……そう信じてやまない。
今回、MEIKOが星4PUされなかったのは、次回のイベントでPUさせるために温存したからではないか、と私は考えている。(ニーゴMEIKOはただでさえシークレットディスタンスから3年半以上星4が出ていないのに、今回も出なかったのは何かしらの理由があるはずなので)
あとは、やはり絵名の存在は重要になってくるだろう。
今は自分の無力感に打ちひしがれているだろうが、彼女は何度絶望を前にしてもそれを反骨心に変えて立ち上がることができる、強い女性である。
加えて、絵名は他人のことを想い、寄り添うことができる人間である。
絵名なら、きっと……瑞希を救うことができる。
私はそう、願っている。
最後に、個人的に見てみたい展開を挙げて本記事を締めたいと思う。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。