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大人の寺小屋 余白 「三石温士 フランス料理」

大人の寺小屋 余白 は、日本文化の本質を学ぶ大人のための寺小屋です。宗教と美術について学ぶ「天」、環境と食について学ぶ「地」、私たち人間を動物から分化する文化について学ぶ「人」、3つの観点から体系的に学ぶカリキュラムが設計されています。大人とこれから大人になる人が、自分やそれを取り巻く世界について理解するための入門編の講座になります。大人の寺小屋は会員制の学校です。ご入会についての手順はこちらのHPをご参照ください。授業の詳しい内容や先のスケジュールなどは入会後に配信されます。この連載は、受講生による講座体験談をお届けいたします。今回は三石温士さんによる「フランス料理」です。ぜひ高読ください。


長野にある佐久市から料理人の三石温士さんにお越しいただいて、フランス料理を振る舞っていただく贅沢な会。実りある講座が続いてお腹が空腹を知らせる頃、青い夕空を背景にしながらまっさらなカトラリーが並べられていく。その様子はどこか学びに励む私たちを讃えてくれているみたいだ。ひとつの机を取り囲んで会話に新たな蕾を付けていると、黄金色に透き通ったワインとともに宝石のような料理が目の前に届く。

佐久穂産の信州サーモン柑橘マリネは、心地の良い酸味が鼻を通す中、紅く輝くサーモンと自然豊かな素材の味わいが舌を楽しませる。小諸で採れたほうれん草のフランは、優しい口溶けで身体を温かく包み込みながら、添えられた天龍すっぽんの旨みが心を沸き立たせた。玉葱とアスパラ、カルボナーラの共演は、口の中でさらなる高みを目指そうとするし、フィナーレに登場した信州アルプス牛のランプは、一口噛むごとに重厚な肉厚に幸福を感じ、絶妙に絡み合う杏のチャツネとともに喉に溶けていく。

三石さんのフランス料理は、美味しいだけに留まらない色彩豊かな生命力と、端正な姿勢を崩さない歴とした佇まいを放っているように感じる。それはまるで野に咲く花のようでいて、自然に備えている素材固有の魅力を存分に引き立たせようとする料理人の姿勢があってこそ成り立つものだと思う。本場のフランスで実戦経験を積まれた後、日本に帰国されてからは、店を持たないシェフとしてご活躍されながら、生まれ故郷である佐久市で畑を耕してハーブや食用花を栽培しているという。会話の盛り上がりがいつしか満開を迎える頃、デザートに食べた白桃のコンポートは、今日一日の疲れを甘くほっぺに癒してくれた。

料理人:三石温士

東京のフランス料理レストランを経て単身渡仏。フランスの地方で働いたのちパリのビストロ「ラミ・ジャン」「ジャディス」をはじめ数々の名店で腕を奮う。当時フランスにおいて日本人唯一の2ツ星「Passage53」では2ツ星獲得に大きく貢献した。帰国後は、生まれ故郷である佐久で畑を耕し自らの手でハーブや食用花を栽培しながら、あえて店を持たないシェフとして軽井沢の別荘などに集まる多くの美食家達をうならせている。そのこだわりは吟味した地元信州の良い食材を手に入れ、決して手を加え過ぎず丁寧に調理する。また、ソムリエの経験やフランス・ブルゴーニュで働いた経験を活かしたワインとのバランスを考えた料理に定評がある。

文:谷口雄基
撮影:中村心音

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