卒業生インタビュー(武井さん)
1年を終えて、ひと言感想をお願いします。
楽しかったです!
島食の寺子屋に入塾を決めた頃のことを教えてください。
武井:
大学生で就活をしている時に色々考え直して、管理栄養士になるかって考えていたんですけど、自分が作る方が楽しいかなって思い始めて。
料理系の道に進むんだったら、料理店で働く前に経験を積みたいなと思って、島食の寺子屋に入塾しました。
恒光:
料亭で働く選択肢とかもあったとは聞いていたけど、それでも島食の寺子屋を選んだのはなぜ?
武井:
決め手は料理だけじゃないってところです。島暮らしとかにも興味があったので、自分が求めているものが一番多かった学校でしたね。料理と暮らしと、料理以外の体験も。都会みたいに、自分であちこち行って、頼みにいかなくてもできるというのが魅力的でした。
恒光:
新卒として入塾してよかったなと思うことある?
武井:
自分的には、なにも知らないから大学生の延長みたいな感覚で。
学びに来ているから、寺子屋での一年を終えたら社会に出て仕事を頑張ろうみたいな感じでした。
良い点とまでは言わないかもしれないけど、他の人からは「若いからこれから色んなものになれるよ」って言ってもらえるし確かにそうだなって思うので。社会人になって何年か経ってから来るよりかは、新卒のタイミングで来て良かったなとは思います。
恒光:
入塾方法は「島で働きながら2年間で授業料を支払う制度」での入塾。
卒業後は島に残るという制約があったけど、在学中はどう感じていた?
武井:
人との関わりのなかで、本当に色んな人が海士町にはいて。
最初の頃は、堅苦しく「この場所でちゃんと働かなきゃ」って気持ちが強かったんですけど、島食の寺子屋以外で色んな仕事をしている人がいがいるのを見て、「仕事をして生きていくって、普通に暮らしをしていく感覚でやっていけばいいのかな」って。
恒光:
卒業後の4月からは、海士町で唯一のホテル「Ento」で働くことが決まったけど、どんな場所?
武井:
かちっと決められたものは、人に関しても料理に関してもなくて、まだまだ幅がききそうなイメージです。
メインが日本料理じゃないから、どこがどう活きるかというのは、働いてみないとわからない部分がありますけど。日本料理以外も学ぶ気持ちでいこうと思います。
その先は、自分がどういう料理が好きでどういう料理の道に進みたいのかっていうのが決まっていないので、Entoに入って興味をもつものが見つけられたらなと思います。
島食の寺子屋を他の人に説明するとしたら、どういう風に説明しますか?
包丁の研ぎ方を含めて、一から教えてもらえる料理学校というのと、生徒と先生だけで運営する離島キッチン海士での実践もある。
他の人が調理の場に入っていないというのがやりやすいと思います。
実践といえども、その場で質問ができるし。実践だけど、お客様の前に立つと料理屋さんという感じなんだけど、厨房の中に戻れば授業みたいな感じで、自分的にはやりやすい場所でした。
あとは、料理以外の経験。田植えとか、漁師さんに船に乗せてもらうとか、そういう経験ができて本当によかったです。
生産者の顔が見えるってなにが良いと思いますか?
生産者の人たちは、例えばですけど魚のことであれば、鞍谷先生より漁師さんの方が詳しかったりするじゃないですか。生産者の人と関わることでしか得られない知識とかがあるのは間違いないと思います。
手放しに楽しかったことは?
季節のイベントとか。それこそ、かまくらづくりとか、流し素麺とか。あとクルージングに行かせてもらったりとか。
壁にぶちあたったことは?
武井:
正直なところ料理のことで壁を感じることはなかったです。できなかったら練習したし。出汁巻きは生徒の中で一番できると思います(笑)
恒光:
井の中の蛙にならないでね(笑)
1年の中で料理はどんなものでしたか?
海士町には遊ぶところもそんなに無いから、休日となったらみんなでご飯つくって食べるとか、飲み会に連れて行ってもらうとか、生活の中心に料理があるというか。
お腹を満たすだけとかじゃなくて、コミュニケーションとか人を繋ぐ中心に料理があるって思うようになりました。料理を中心に1年が周っていたなと感じます。
恒光への質問があれば、どうぞ。
武井:
生徒が殆ど関わったこともない人にも、卒業制作のお弁当を渡したりするのは、今までの寺子屋とこれからの寺子屋の為にっていうのはあるんですか?
恒光:
自分なりに思っているのは、崎地区の定置網とかはめちゃくちゃお世話になっているけど、だからといって、感謝の気持ちを伝えるうえで、お世話になった人たちの間で感謝の意に大小はなくて。1回しか現場で出会ってないような人たちであっても、その人がいたからこそできた体験があるし。どれひとつ欠けてはいけないもので、そんな沢山の大小のもので島食の寺子屋が成り立っていると思う。だから、1回でも寺子屋の授業でお世話になったと思うのであれば、お弁当を渡すことにしている。
武井:
そういう私たちには見えていないところまであったなとは思っていて。
今のでようやくなぜか分かりました。
恒光:
生徒のみんなが、本当の意味で分かっていないことといえば、恐らく仕入れの大変さのところかな。
離島キッチン海士の夜会席が連日続いている時に、生徒達は昼過ぎまでゆっくり休めていたけど、鞍谷先生はその日の新鮮な魚をお造里用に仕入れる為に、前の日が夜遅かろうがなんだろうが、毎朝必ず定置網の漁港に顔を出していたし。
そういう風にずっと顔を出す人に対しては、定置網の漁師の方々から信頼も得ていっているんだろうし。いざ、この類の魚がどうしても欲しい!って時に、たまに遊び半分で魚を買いに来る人よりも、毎日顔出している人の方に魚は優先してもらえるだろうって思う。
昼に学校に来て、魚が準備されている状態は、料理学校としては当たり前のサービスかもしれないけど、そこまでには「仕入れ」っていうすごい大事な要素があって。魚が校舎にあるのが当たり前になっているのは仕入れをする人がいるからって、感じてほしい。
武井:
もう一つ質問で。
島食の寺子屋を卒業した人に対して、どのようになっていってほしいとか、今後の島食の寺子屋をどうしていきたいとかありますか?
恒光:
卒業生に対しては、これは願いでしかないんだけど、まずはどんな形でもいいから料理を続けてくれたら嬉しいなと思う。料理への関わり方は色々ある世の中だし、厨房の中でばりばりやるだけが料理人の姿ではない時代なのかな。
でも、1期生の松﨑さんが就職先でのインタビューですごい嬉しいことを言ってくれて。たしか「この時期になると島はこんな風景とか食材があったことを思い出す」みたいな言葉だったと思うんだけど。それって、恒光が心の中で大事にしていることで。
特に生徒に「風景を覚えて欲しい」とか言っているわけじゃないのに、偶然というか大事にしていることを在学中に言葉にしなくても共有できていたのが嬉しい。「こういう風に思いなさい」と押し付けても、生徒達はオウム返しのように同じことを言ってしまって、でもそれは自分の言葉ではないんだろうし。
もうひとつの質問に答えると。島食の寺子屋のゴールとか目標に関して。
これは自分の性格によるものなのかもしれないけど、とてつもなく高い目標を先に掲げてしまうよりかは、目の前のことをしっかりやっていくということがまず第一にあって。今年度でいうと、秋の茗荷を逃してしまったことが、とても小さいことかもしれないけど、島食の寺子屋の生徒には見て食べてもらいたかったものだし、やるべきことを逃してしまいたくはない。
それに、やるべきことを着々とやっていれば、目標を掲げていなくても物事は結果として目標に近づいてきてくれるというか。今年度から始まった給食センターの魚介加工の授業も、島食の寺子屋の活動を見て向こうからオファーが来るようになったり。定置網でも「魚をたくさん買ってくれるようになったね」って声をかけられるようになったりとか。それも結果としては地産地消に繋がっているんだろうし。
最後にこれから島食の寺子屋に入塾する生徒たちにひと言。
私は島食の寺子屋に入って、入ってきた当初よりは技術が身に付いていますし、ここでしか出来たい経験もさせてもらって。本当に楽しいことばっかりだったんです、本当に。
今後の生徒の方々に対しては、みんな同じことをやらなくていいんだって思います。ひとつのことに興味をもって、それに突っ走る人に置いていかれそうで焦る時もあるけど。
でも、それぞれ今まで生きてきたなかで価値観も違うし、卒業後の進路とか見ても全く違うので、周りと比べるよりかは自分のやりたいこととか、寺子屋だけじゃなくて海士町との繋がりというところは、それぞれが持っていったらいいんじゃないかなと思います。そんな感じで楽しく過ごしてもらえればと思います!
一年間お疲れ様でした!
(収録 2023年2月13日@離島キッチン海士)