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時雨月のいろは

校舎への坂道をあがる度、ふわりと風にのって金木犀の甘い香りが鼻をくすぐる。金木犀はその香り高さから、千里先まで届く香りという”千里香”という別名があるそう。
たった1週間たらずの短い開花でも、十分すぎるくらい秋の香りを楽しませてもらった。
金木犀だけじゃない。山からは栗、銀杏、早生みかん、真菰竹、零余子、薩摩芋、南瓜、秋茄子。
海からは赤羽や室鯵、九絵の脂たっぷりの身が美味しくなってきた。
離島キッチンやお弁当の中の景色も秋をうつして、色鮮やかになっていき心が踊る。

▷初めましての真菰竹 エリンギみたいな食感と筍みたいな風味
▷隠岐神社の銀杏 くさい匂いも金木犀がかき消してくれた
▷朝いちばんの崎みかんは疲れた体に沁みた

◯「秋の夜長に日本酒語らNight」

 寺子屋での学びのかたわら、接客をもっと経験したいと思いアルバイトをさせていただいている”きくらげちゃかぽん”のイベントでお料理を作らせていただいた。

▷日本酒好きが持ち寄ったお酒が盛揃い

 日本酒が大好きな店主さんと寺子屋のさやかちゃんにお誘いいただいたこの会。
人生で初めて、お品書き、仕入れ、料理、提供までを自分たちだけで考えた。
日本酒にあうメニュー、海士の秋をつめこんだ島食、日本酒好きが料理を囲んでお話する心地いい空間を作る。
その三つを目指して、準備をした時間はとっても大変だったけど、わくわくしてやりがいのある時間だった。
迎えた当日。大雨の中、自転車できてくれた方や、「この会を楽しみに今日頑張ったの」と言ってくださる方もいて、喜んでいただきたいという気持ちが高まった。

◯お品書き

ーつきだしー
 蜜柑和え 若布 胡瓜
 白和え さつま芋
 アラメ煮 アラメ 人参 ピーマン 
 焼き茄子 蜜柑田楽
 出汁巻卵

ー揚げ物ー
 天麩羅
  里芋 茄子 南瓜 
     亀田豆腐スパイス揚げ餃子

ー蒸物ー
  真薯 コチ 椎茸 銀杏 南瓜

ー酢の物ー
 南蛮漬け

ー焼物ー
 山椒照り焼き ヤズ 銀杏 大蒜

ー本膳ー
 零余子ご飯
 味噌汁 アカモク ラデッシュ
 香の物 コリンキー 胡瓜 昆布

ー水菓子ー
 栗きんとん 
 金木犀寒天 

 日本酒は持ち寄りで、お気に入りのマイ日本酒とマイおちょこを片手に肴をつまみながら盛り上がっているのを厨房で聞きながら次の料理を準備する。
お料理を運ぶと、お料理への感想や質問が飛び交う。
お客さまのほくほくした表情と照れくさくなるくらいの「美味しい」、「幸せ」「ありがとう」という言葉で満腹になるような時間だった。
特に零余子ご飯が大好評で、おかわりコールが止まらずぺろりとなくなってしまった。

▷零余子
自然薯のハートの葉っぱが目印  ご飯と炊き込むと、お芋のほくほくした食感がとっても美味しい

 零余子ってどこで取れるの?と聞かれ、ハントした零余子の見つけ方を伝授させていただいたり、
「茄子田楽の茄子がとろとろで美味しい」と感想を聞くと、すかさず「秋茄子は種が付き初めて身がかたくなるけど、焼き茄子にすると美味しく食べられるんですよ」と、同じ茄子でも季節によって姿と美味しい食べ方が変わることをお伝えしたり。
離島キッチンでお迎えしているより、少ない人数のアットホームな環境だったので、お客さまといろんな会話を楽しませていただいた。

 イベントでお料理提供を通して感じたことと、今の自分の課題がリンクするところがあった。
山や海の生き物のいのちをいただくこと、その生き物を私たちのもとへ耕してくれる生産者の方へのリスペクトの気持ち、その食材がどんな自然下で今どのような姿をしているかをよく知ること、その持ち味を生かしてどう手を加えたらいいかを考えるのが料理で、料理人の仕事だと思う。

 こんなに食材が身近にあるのに、忙しい実践の中でその意識をいつも持てているだろうか。
料理して終わりではなく、それをお客さまにお届けする時に何を伝えたいのかという目的を持てているだろうか。

▷離島キッチンでの八寸の盛り付け

 食材を冷蔵庫でだめにしてしまったり、不安だからと出汁を取り過ぎたり、切り損じや半端な切れ端がたくさん出てしまったり。いつでも替えがあるわけではない。替えがあるからといってぞんざいに食材を扱ってはいけない。「無駄にしない」という意識があれば、改善できるポイントはいくらでもあるはず。

 そう思うと、私は食材への感謝が薄れてきていたように感じる。言葉でいくら「感謝している」、「いただきます」、「ごちそうさま」と言っても、本当の意味で感謝している人は行動に現れると思う。

 ちゃかぽんでのイベントが終わった後、1人のお客さまからお手紙をいただいた。
「すてきなお料理をありがとう」という言葉と、最後の留椀(お味噌汁のこと)について感じたことを言葉にしてくださっていた。
味噌の味が濃いと感じたこと、彩りはきれいだが具材が多く感じたこと、お食事の最後にいただくお味噌汁はほっと一息つけるようなやさしい味が好みだと丁寧な字と言葉で書かれていた。

 お酒を飲みすすめていくにつれて濃い味付けにしていっていたので、少し濃くても大丈夫と判断してしまったが、お客さまはお食事の最後にどのようなお味噌汁を飲みたいのか、想像することができず、本当に申し訳ないという気持ちと、このような形で伝えてくださったことがとてもありがたく、勉強になった。

 最後まで美味しく召し上がっていただくにはどうしたらいいかと心を配ること。
寺子屋での実践でもいかしたい。

 来月は11月3日に8年ぶりの「崎だんじり祭り」で120このお弁当の仕出しがある。
今までにない数のお弁当で作り始めは4時半かな?それでも間に合うかな?とどきどきしている。
緊張はあるけど、だんじりの練習に参加したり、お花の飾り作りを手伝わせていただく中で、私たちが住む崎地区の大きなお祭りに貢献できるのが嬉しく、楽しみにしている。
お弁当作りを楽しみながら全力でやり遂げたいと思う。

▷崎だんじりのお花の飾り

(文:島食の寺子屋生徒 前田)