ふるさとの味
久しぶりに寺子屋に登校すると、校舎の前の畑で春菊が芽を出していた。寒さでどうせ間に合わないと思いながらも、昨年の11月末にダメ元で蒔いた種が、どうやら寒い冬を越して発芽したらしい。季節は春である。
寺子屋の冬休み期間は横須賀のとある農園にお世話になった。畑仕事を手伝ったり賄いを作ったり、普段の授業とやっていることはあまり変わらなかったような気もする。
滞在中、何箇所かの有機農園から野菜を分けていただき、自分で調理して食べてみたのだが、同じ種類の野菜でも海士町で日頃食べていた野菜とは違う雰囲気の味がした。寺子屋に入学する前は茨城県のつくば市にいたけれど、そこはそこでまた違う味だったような気がする。どうやらその土地その土地で固有の野菜の味があるらしい。
横須賀での滞在中は、釣りが趣味の知り合いから魚も分けていただいた。横須賀のある三浦半島は東京湾と相模湾に挟まれた立地にあるが、知り合い曰くこの二箇所の海では全く魚の味が違うらしい。東京湾は大規模な工業地帯と繋がっているため、プランクトンが異常に多く、魚がよく肥えて罪な味になるらしい。ちなみにその方は海士町のある山陰の海のあたりは水がとても綺麗なため上品な味がするはずと言っていた。これが上品な味かどうかは分からないけれど、私は海士町で食べる魚の味が一番好きだ、一年近く食べてきてそう思うようになった。
横須賀から海士町に戻り、久しぶりに海士町の食材で料理をすると、この一年間で料理し、食べてきた香りが、味がする。違いを説明するのは難しいけれど、でもやっぱり他とは違う。馴染みの味が増えると自分のふるさととも言える場所が増えたようでなんだか嬉しい。この島で永く暮らしている方々の日々の営みを見せていただく度に、たった一年間で島を離れてしまう身の自分ではとても島の住民になれたとは言えないと、つくづく感じるこの頃だけれども、きっと島を離れても懐かしく感じられると思う。
(文:島食の寺子屋生徒 岩崎)