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閉店を待つレストランに、立てた誓い。
先日、レストランに食事をしに行きました。
駅から徒歩20秒ほど、とても便利な場所にあるレストラン。外にはテラス席もあって、夏はここでビールなんて飲めたら最高だ。
一歩店内に入ると、そこには200名以上が入れるほどの、大きなダイニングが広がっている。テーブルとイスがところ狭しと並んでいて、活気あふれる厨房からは、威勢のいい声が飛び交っていた。
見慣れた景色。
歩き慣れた場所。
聞き慣れた音。
そう、そこはわたしが事務所を退所してフリーランスになった約11年前、バイトをしていたレストラン。
あと数ヶ月で閉店してしまうとの噂を聞きつけ、「行っておかなければ!」と使命感にかられたわたしは、食事をしに訪れたのです。
メニューも、スタッフも、制服も。当時とはガラリと変わっていた。でも見える景色、雰囲気だけは、当時とまったく変わっていませんでした。
「懐かしい〜」
と、思いながら席についた途端、それもう鮮明に、”あの日の記憶” が蘇ってきたのでした。
バックヤードで大号泣した、あの日。
働き始めて、数ヶ月が経過したころ。
忙しさMAXの平日ランチタイムが終わり、ゆったりとした時間が流れていたカフェタイムに、2人の男性が来店されたんです。
「いらっしゃいませー」
交互に休憩をとっている時間帯だったので、スタッフの数も少ない。お待たせしてはいけないと、そう言いながら、入り口へ急ぎ足で向かったことを覚えています。
するとその男性2人はわたしの姿を見るなり、目を丸々とさせながら、こう問いかけてきたんです。
「なにしてんの!!?」
そう。2人は、わたしの知り合いでした。
しかも、最近まで所属していた事務所の方々だったんです。1人は、海外にも同行してくれたことがあるマネージャーさん。そしてもう1人は、一緒にレッスンを受けたりしていた、俳優さん。
当時、事務所をクビになったという挫折から立ち上がれていなかったことに加え、明るい未来が描けず、不安に押しつぶされそうになっていたわたしにとって、事務所の方とお会いするということは、とんでもない破壊力があったんです。
フリーランスになったとき、とにかくお金がありませんでした。来月を生きていくお金さえなかった。だから生活費を稼ごうと、必死にバイトをしていたんです。週6日くらいフルタイムで働いていたかな。
でも彼は、芸能の仕事をして、マネージャーさんとランチに来ていたわけで。
「ついこの間まで、一緒にレッスンを受けていたなのになあ……」
彼は、芸能人。わたしは、レストランの店員。突きつけられた現実の刃は想像以上に鋭く、見事なまでに、わたしの急所をついてきました。
驚きながらも、戸惑いを隠せない2人の表情を、今でも忘れられません。
今思えば、向こうからしても、たまたまランチしに入ったお店でわたしが働いていたら、普通にびっくりしますよね。それなのに、「バカにされてんじゃないか?」とか、勝手に考えてしまったりもして……(汗)
相手を気遣える余裕なんてなく、自分のことでいっぱいいっぱいだったのでした。
「なにしてんの?」
「いやちょっと、バイトしてて」
「そうなんだ」
「仕事?」
「うん、ちょっとこの近くでイベントがあってさ」
何気ない会話を交わしたのち、お席へご案内。メニューをお渡しし、オーダーを受ける。それまでに何度もやっていた接客です。
でもなんだか、たったそれだけのことができなくて……
盛大に、オーダーミスをしてしまったのです(汗) パスタを間違えて入力。オーダーとまったく違うパスタが出来上がってしまいました。
丁重に謝罪をすることに。すると2人は、笑って許してくれました。店員としては、ありがたかった。でもその気遣いがまた、わたし自身にはキツくって……
パスタを平らげ、「またね」と言葉を残してお店を去っていく2人の背中を見届けたあと、わたしは1人バックヤードに駆け込み、大号泣したのでした。
閉店を待つレストランに、立てた誓い。
あはは。
そんな日もあったな。懐かしい!!
いつか笑い飛ばせる日が来るなんて、当時は想像すらできなかった。でも、来ましたね。
昔は、彼の人生や置かれている環境が、うらやましくしか思えなかった。でも今は、自分が生きてきた人生にもほんの少し、誇りを持てているのかもしれません。よかった、わたしにもそう思える日が来て。
わたしにしかできなかった経験を、しっかり抱きしめ生きていこう。わたしにしか描けない未来を、着実に進んでいこう。
閉店を待つレストランに、ささやかな誓いを立てたのでした。
ちなみに、わたしの人生に興味を持ってくださった方は、是非とも初回コラムをお読みください。人生の変遷を、等身大の言葉で書きました。
▷初回コラムはこちら
https://note.com/teradayuki/n/n278834138eae