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一件のLINEが運んでくれた、小さな奇跡と再会と。

渡英前のある日、一件のLINEが届いた。

普段は見ない宛先からだった。誰だ……? アイコンに見覚えもない。名前を見る。とても珍しい名前だった。もしかして……!

『久しぶり! ロンドン来るんだって!? インスタで見た!
実はわたし、今アムス(アムステルダムの略称)に住んでてさ。ちょっと前はロンドン住んでてん。よくロンドンに遊びに行ってるから、会おう!』

差出人は、高校時代の友だちだった。

彼女とは地元の駅が近く、いつも乗る電車が一緒だったこともあり、駅で会っては、毎日のように一緒に高校まで歩いていっていた。駅に着くと、ついつい姿を探してしまっていたっけ。

もう、しばらく会っていなかった。最後に会ったのは、たしか7年ほど前。東京の居酒屋で。もう1人仲がよかった子と3人で、卒業してから初めて乾杯をした。

「うわー、みんなでお酒飲めるなんてすごー!」

3人でテンションが上がった。たわいもない話をしていたら、あっという間に時間が過ぎていた。

それからコロナがあったこともあり、パッタリと連絡が途絶えてしまっていた。なにをしているんだろうか。ときどき顔を思い出すことはあったけど、連絡をすることはなかった。

大人になると、こうだよな。「会いたい」と心で思っていても、その腰は意外に重い。なにかきっかけがなければ、会う約束にはなかなか辿り着けないもんだ。気付けば5年、10年会っていない! なんてこともザラにある。

会いたかった。
でも、会おうとしていなかった。

そんな友だちの、典型的な例だったと思う。

思えば、「春からロンドンに行きます」という報告をしてから、いろんな人が連絡をくれた。

ロンドンに行くという決断は、今まで守ってきたものを一部「捨てる」という決断にも似ていた。だからこそ不安だらけだったが、終わりは始まりとはよく言ったもので、いろんな形のご縁を、「ロンドン」が繋いでくれたなとも思っている。

"高校時代の友だちと、ロンドンで会える。"

これまた、ロンドンが繋いでくれた、とても大きなご縁だ。

当日わたしたちは、トッテナムコートロード駅で待ち合わせをした。ここは世界最大規模の博物館である、大英博物館の最寄駅でも知られている。ロンドンの中心街に位置する駅だ。

大阪の片田舎の駅で落ち合っていたわたしたちが、まさかロンドンの中心で会う日が来るなんてな。

待ち合わせ場所に向かう。
少し先に、彼女の姿が見えた。
パチリと、目が合った。

「わああ! 久しぶりー!!!」

ニカっと笑う彼女の笑顔は、高校時代のままだった。

聞きたいことが、山ほどある。なぜロンドンに住んでいたのか。今は何をしているのか。あれもこれも。溢れそうになる質問をグッと堪えながら、わたしたちは街を歩き始めた。高校に向かう道を歩いていた時と同じように、肩を並べて。

『エモい』という言葉はきっと、こういう時に使う。

「ここの日本スーパー、めっちゃ安くていいで!」

まずは、オススメの日本スーパーに案内してもらうことになった。ロンドンには、日本スーパーがたくさんあるが、どこも高い。そんな中、他に比べると良心的な値段の商品を多く取り揃えているのが、ここなのだそうだ。

中に入ってみると、日本酒がズラーっ。お味噌がズラーっ。こんなにもたくさんのお味噌が並んでいるお店、初めてみた! まさか、酎ハイも売っているじゃないか! ロンドンで酎ハイが売ってるの、初めてみたんだけど!

「ええ、ここめっちゃええな!」
「せやろ? アムスにも日本スーパーあるんやけど高くて。だからここに来たかってん」

これはいいお店を紹介してもらった。高揚感を感じながら、それぞれ好きなものを見回っていた。その時だった。1人の女性が、わたしに声をかけてきたのだ。

「……Excuse me. Are you Japanese ?」
「Yes, I'm Japanese.」
「Oh, nice ! Can I ask you ?」

とても上品な見た目の女性だった。その女性はお茶売り場の前で、煎茶のパックを一つ手に持ちながら、わたしに話しかけてきた。

「I wanna buy a Japanese tea. Which one is it ?
……コレデアッテル? トモダチニプレゼントシタクテ サガシテルンダケド。 オシエテクレナイカシラ?」

うん。鮮明に英語を聞き取ることはできなかったから、とても英語では書けない。が、多分こんなことを言っていたと思う。

Japanese tea……

あとからわかった話だが、その女性は「抹茶」を探していたらしい。それを理解できていなかったわたし。めっちゃ種類あるけど、どの日本茶がほしいんだろう?

「What kind of Japanese tea do you want?」

あなたが持っているのは、煎茶。他にも、ほうじ茶とか、緑茶とか、いろいろ種類があるんだよねと、説明をしようと試みた。

「uh… I'm looking for Japanese tea…」

……いや、本当に申し訳ない! 聞いた相手がわたしとは、完全にハズレくじをひかせてしまいました。しかし、こちらも必死です。つたない英語で、煎茶やほうじ茶の違いを説明しようとした。
すると悲しいかな、どんどんと食い違っていく私たちの思い(汗)

あああ…… 全然伝わらん、どうしよう……

そう悩んでいた私のもとに、友だちがやってきた。

「どしたん?」
「この人、Japanese teaを探してるみたいなんやけど」

それを聞いた彼女は、「抹茶ちゃう?」と言い、見つけた抹茶を手に、女性に英語で説明をし始めたのだ。

「これがあなたの探している、Japanese teaだと思うよ。」

さらに続ける。どうやって飲んだらいいのか。どんな道具を使えばいいのか。そして最終的に彼女は、お抹茶の近くに置いてあった、茶筌(ちゃせん)をすすめたのだった。お抹茶を立てるためのアレですね。これと一緒にプレゼントすると、喜んでくれると思うよと、付け加えて。

めちゃめちゃ正直な話、決してとても流暢な英語とは言えないかもしれない。しかし、しっかりとはっきりと、そして相手に伝わる言葉を選んで、彼女は英語ですべてを説明したのだった。

「Thank you very much!!!」

女性はとてもうれしそうに、お会計に向かっていった。

「海外の人って、茶筌めっちゃ喜ぶねん。ここ数日で、3人ぐらいにすすめた気がするわ〜(笑)」

そう笑う彼女の姿が、とても逞しく見えた。
そして私たちが過ごしてきた時間は、とても膨大だったのだと気づかされる。いくら昔と変わらない笑顔だったとしても、わたしたちは出会ってから、それぞれに20年弱もの時間を過ごしてきたのだなあ。

海外に移り住み、英語を話せるようになって、さらには海外の人に茶筌をすすめられるようにまで、自分なりのアイデンティティを築いているのだから。

それからわたしたちは、ブリティッシュパブに向かった。

ロンドンと言えば、パブでしょう! 彼女もビールが大好きらしい。それは気が合いますね。お互いに好みのビールを買い、席に着いた。

「うわー、ロンドンで一緒にビール飲めるなんてすごー!」

一緒に飲んだビールは、たまらなくおいしかった。

それから夜まで一緒にいた。一緒にヨーロッパに旅行に行けたらいいねなんて話もしながら。そして、ロンドンの中心地からわたしたちは、それぞれの場所に帰っていったのだった。

同じ高校に通っていた時は、なんとなく、同じような人生を生きているような気になっていた。同じ校舎で、同じ授業を受け、生活をともにしていたわけだから。しかし当たり前だけど、その時からわたしたちは、まったく違う人生を生きていたんだよな。

まったく違う人生を歩み、まったく違う決断を積み重ね続けきてもなお、わたしたちは一緒にビールを飲むことができる。

次は、近い将来に会える気がする。久しぶりではないけれど、その時に酌み交わすビールもまた、美味しいんだろうな。

ほな、また。

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